第三話 寒波
木こりの日から数日が経ち、今日は家の倉庫で昨日狩った狼の後処理をしていた。
毛皮はなめさないと使えないし、ここ最近使い倒したスノーモービルも整備しなきゃいけない。
倉庫のドラム缶ストーブに火を入れて、最低限の暖をとりながら地道な作業だ。
ついでにドラム缶ストーブの上に鍋を置いて雪を溶かしている。一息入れるための準備みたいなものだ。
皮をなめしてるのはサーラねぇさんで、俺は半分ガヤみたいなもんだな。
整備といっても定期点検でエンジンオイルを補充したり油をさしたりするのがメインの軽い定期点検に毛が生えたようなもので、前世ピンクナンバーの定期メンテをしていた人間ならそれ程難しくないと思う、少なくとも俺には難しくない。
少しだけバイクをバラしてスパークプラグを確認。
エンジンストップスクリューでアイドリング回転数を調整しろと書いてあるがするまでも無く1230rpmのようだ。
えーっと、次はスロットルレバーの遊びの調整が……2mm? 多分それ以上ある気もするけど、5mmはないだろうしヨシ!!
こんな感じに時々、現場猫になりながら整備?をしてる訳だが別に暇だからしている訳ではない。
定期点検の基準の1000kmを走ったから整備している訳だ、ほぼ1ヶ月で1000kmだぞ、俺はどんだけ走ってんだって思う。
そんな感じに軽く整備を終わらして、沸かしたお湯で入れた茶を飲みながら外を眺めていると、サヤカさんの商店のタチャンカが前を走っていった。
別にマキシム機関銃が載っているわけでも、Maska-1(※1)ヘルメットをかぶってDP(※2)を持って踊っているわけでもない。
ただ大きくて衝撃吸収用の板バネが付いていて、なんとなく機関銃馬車っぽいと思ったから、俺が勝手にそう呼んでるだけだ。
まあ、そう呼んでいるうちに地味に通り名が広まったらしいけど。
「ねぇさん、タチャンカが帰ってきたみたいだぞ」
またしばらくはサヤカさんの顔を見る機会も減るな。
ぶっちゃけサヤカさんより店主のロバートさんのほうが気前はいいんだけどな。
男と女、どっちの店員がいいかと聞かれれば、そりゃ女って答えるだろう。
「お野菜が入ってたら良いわね、ちょうど整備出来たんでしょ?」
「出来てるけど?買い物に行くの?」
「そう、ちょっとお金取ってくるから準備してて」
歩いて行きゃ良いじゃんと思うけど、試運転代わりには良いか。
エンジンを回して大丈夫そうなのを確認しているとサーラねぇさんがちゃんとしたコートを着込んで戻って来た。
「はい、これカイの財布ね」
家計の財布だけじゃなくて俺の財布とコートまで...ん?
「え?俺も行くの?」
「当たり前でしょ?ほらコレを着て」
なにが当たり前なのか教えて欲しい、一人でも行ける歳じゃん。
そうは思うがついて来いと言われたら、行くのも吝かではない。
「は~、分かったよ橇は引いてくか?」
「要らない、そんなに沢山買わないと思うから」
なら良いかとそのままスノーモービルにまたがって、サーラねぇさんが後ろに乗った。
「カイって結構筋肉付いてるよね」
「そりゃまぁ、フィジカルが無いと何も出来ないし自然とな」
前世ではバイクを持っては居たが姉を乗せて二尻とかした事無かったな。
別に仲か悪かった訳でも無いが...環境とか文化によってその辺結構変わるよな。
何だか当然と言われればそう何だろうけど、不思議と言うか...何とも変な感じがする。
そんな事を感じながらエンジンを回して倉庫からゆっくりと出る。
「朝よりずっと天気が悪いわね」
「あぁ、荒れそうだ」
空には分厚い雲が積み重なっており、今にも降り出しそうだ。
心無しか少し何時もより風が冷たい気がするし、コレは早く済ませた方が良さそうだ。
少し速度を上げて商店に急ぐとサヤカさんと旦那のロバートさんが頑張って、急いで荷下ろしをしていた。
「おーい」
「おぉ!カイじゃないか少しぶりだな」
「それより嵐が来そうですから手伝いに来ました」
何食わぬ顔で嘘を言うなって?いやいや、方針転換をしただけだ。
「そりゃぁ助かる、俺とサヤカだけだと重いもんがきつそうだったんだ」
まぁ、サヤカさんは本当に普通の女の人だからな、筋力は低いだろうな…。
荷を見れば明らかに重そうな小型モーターボート用に見えるエンジンが木箱に入れられていた。
「えっとこれは50馬力の船外機?コレはランバートルさんの所のですか?」
この辺で漁してると言えば彼の家だろう。
彼は年がら年中釣りをしているし、同じような50馬力のエンジンを付けたボートを使っている。
「そうだ、高い買いもんだからな、何とか持って上がりたいんだよ、そっち持ってくれ」
二人で板バネ付き馬車から船外機を下ろしてとりあえず店の中に入れた。
その後も一個一個急いで放り込んで一応荷は履けてタチャンカは車庫に入れてしまった。
「ふぅ~助かったよ」
「まぁ、いつももお世話になってますからね」
「ハハハ、ちゃんと適性価格での取引だからな、それで何かと買ってくか?」
「あぁ、ガンオイルが欲しいんだが」
「分かった、後こんなのを仕入れたが入るか?」
そう言って出して来たのはスタームルガーMkⅢ(※3)のような拳銃だった。
「それは?」
「マーチン4と言うステンレス製で競技・練習用の拳銃でな、中古だがあんまり使われてなかったようで綺麗なもんさ」
「弾は?」
「22LRだ、護身用には心許ないが小物を狙うには悪くないぞ」
うーん、リムド弾か...弾が安いからそもそもリロードの必要も無いのかね?
「.22LRってなんぼぐらいですか?」
「あー、店のだと500発で30キャットと5500で320キャットのを取り扱ってるな」
弾安いなぁ、今俺の使ってるのだと普通に買ったら500発で160キャットぐらいだぞ。
まぁ、手作りしてるから半値以下で買ってるけど。
「うーん、銃の値段次第かなぁ」
「120キャットだな、手伝って貰ったし仕入れ値ほぼまんまで良いぞ」
うーん、安いのか高いのか...まぁヘルミの練習兼俺のおもちゃとして買っても良いけどなぁ。
「うーん、まぁせっかくだし買おう、弾も5500のを頼むよ」
「毎度あり」
カリブーと狐一匹分ぐらいかなぁ、5500もあればしばらく弾切れはしないだろうし。
「相変わらずお金持ってるね」
「まぁ、下手したら親父より稼いでる月も有るぐらいだ、お金に変えてるかは別にしての話しだけどな」
この村の主産業は農業と牧畜だからな、ただ牧畜もここ最近始めたばかりであまり上手く行ってないらしい。
それにそれらをしてるのも全体で言えば半分ぐらいで、残りは出稼ぎ労働者として働いてたりする。
ぶっちゃけ所得は低い、だって電気も安定とは程遠い。
「この時期の新鮮な肉は売れ筋商品っちゃ売れ筋だしな、何より舌が売れるんだよ」
「先日のはあなたが食べましたけどね」
さらっと毒づかれてて面白いな。
「そう言うなよ、それに俺が焼いたら半分食ってたじゃないか」
「えぇ、当たり前です、美味しいですから」
仲良いなぁ。
ソフィアが居るし、妹も可愛いから良いけど、もう少し出会いが有っても良いと思う。
「それは良かったです、また見つけたら持ってきますね」
「おう、待ってるぞっと、コレが弾でマーチン4はコレな箱の中に入ってる、こっちのマガジンも付けておくぞ、あ~450キャットでいい」
何が割り引かれたか良く分からないが450キャットちゃんと揃えて渡した。
「毎度あり、そっちのサーラさんは?あぁ野菜ね、ちょっと待ってくれ」
篭に入れていた人参、ジャガイモ、玉葱やらを確認しているのを横に外を見てみれば雪が降り始めていた。
「ほい、全部で156キャットだ、丁度だな、毎度あり」
サーラねぇさんの買った野菜の量は相変わらずエグいとしか言いようがない。
しかも馬鈴薯、人参、南瓜、玉葱、キャベツやらと、まるで日持ちする野菜詰め合わせセットだな。
しかも当たり前だがカット野菜などではない、南瓜なぞ五、六個見えるがコレも見慣れた光景と言えば見慣れた光景だ。
大家族、買い溜め、筋トレにならないハズが無く……。
全く、俺が持つ事を良いことにドンドン積み上げて行くのは勘弁して欲しい。
「さて、持って帰るわよ」
「サー、イエッサー」
「風が出てきてるから気をつけて帰れよ」
「はい、ねぇさん前に重いのは載せるから後ろにはねぇさんの持ってるのを縛って、俺の荷物は持っててくれ」
二人で荷物を乗せて何時もより速度を遅めで走る。
「コレはヤバそうだなぁ...」
ヤバそうと言うのはただの嵐では無いと言う事。
「コレはもうすぐにホワイトアウトになりそうね」
既に視程は500mを下回っているように見えるし、もうほぼホワイトアウト何じゃ無いだろうか?
まぁ、マジモンのホワイトアウトは視程0だからそれに比べりゃ遥かにマシ……か?
「車庫の前に強引に止まるし右の開けてくれ、俺は左を開ける」
「はい!」
止まると同時に二人で扉を開けて中にスノーモービルをつっこんでしまう。
「さむ」
「急いで家に入ろ、ほら荷物を持って!」
急いで紐を解いて荷物を抱えて車庫を出ようとし、暖炉に火が点いたままなのに気が付いて火を消しておく。
――――――――
翌日
窓の外は真っ白。完全なホワイトアウトだ。
視程ゼロ。外に出れば遭難は避けられない。
「寒いなぁ」
「今回の吹雪は冷えるね」
あぁ、何時もより多めに薪を入れてるけど寒いな。
ヘルミと一緒に外を眺めるが晴れそうにない。
こうなるとやることが無いから暇だ。
窓から離れてリビングで中古で買った教科書を暇つぶしに読む程度には暇だ。
真面目にする程でもない、何せ高校レベルならそりゃある程度復習したら思い出すし、あんまり差異はない。
三角関数(sinθ,cosθ,tanθ)とか普通に懐かしいわ。
友達とこれ何に使うねん!
言っていたら数学の先生が砲撃に使うんじゃって雑談してたのまで思い出して、少し懐かしいそして寂しい気分になったが……はぁ。
横に居たヘルミを膝の上に乗せて軽く抱きしめておく、少し温かい気がする。
これで寂しさは二割引だから、これは個人的にかなり重要、メンタルヘルスケアと言う奴だな。
「おにぃ珍しい」
「そうだな、ただ今日は呆れるほど寒いから」
「うん」
適当にごまかしたがそれに関して言及はして来ないようだ、全く良く分かってる妹だな。
はぁ...、それにしてもせっかく新しい玩具を買ったと言うのに使えないのはこう、もどかしいな。
暖炉の薪が減ってきたから放り込んでおく、今日は薪の消費が激しいだろうなぁ。
吹雪が終わったら薪割りだが...そのくらいは兄貴もしてくれるだろう。
そう信じたいな。
補足情報
(※1)Maskaヘルメットとは、ロシア軍のヘルメット、虹6のタチャンカのヘルメットやタルコフの店長ヘルメットとして有名(一部界隈)。
(※2)DPとは、Дегтярев, пехотный、DP-28又はDP-27と呼ばれるソ連の機関銃。
(※3)スタームルガーMkⅢとは、.22LR弾使用の半自動拳銃で、高精度・堅牢な設計が特徴。
このままだとSF要素がまともに出てくるのが20話ぐらいになりそうなので閑話を挟むべきか思っています、改めてプロの作家さんとはすごいと思う限りです。
更新は不定期になると思いますので、気長にお待ちいただけると嬉しく思います。
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