第二十三話 ルーロー市にて 弐
ソフィアがウラリーン社製 .44 マグナム弾を使用するリボルバー〈ラーヌ〉を試射しているのを眺める。
ダンッ!
室内ゆえ反響する銃声とともに、弾が標的を穿ち、小気味よい金属音が返ってきた。硝煙の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「ナイスショット」
今撃ったのは五十メートル先の鉄板的だが、やや左上寄りに食い込み、薄い煙を吹き上げている。シングルアクションで部品点数の少ないラーヌは、その簡素さゆえ信頼性が高い。ただ、個人的にはシリンダーギャップが気になる。もっとも密集戦闘で乱射する銃でもないし、許容範囲だろう。
「ソフィアもたいした腕だな。教えがいがあるぜ」
「ありがとうございます。でもこの銃、反動が強くて手が痺れてきます」
「だろうな。こういうマグナムは “ローリング・ウィズ・リコイル” で反動を逃がすんだ。貸してみろ」
片手でラーヌを構え、引き金を絞る。
ダンッ!
発射と同時に腕全体を上方へに飛び上げるようにして、反動をいなす。ついでに五十メートル先の標的にもきっちり命中させた。
「こんな風に逆らわず流す。ただしリボルバー限定だぞ。自動拳銃でやると作動不良の原因になる」
「わかりました。練習してみます」
深呼吸をしてもう一度銃を手に取った。
ダンッ!
――――――――
試射が終わると、ソフィアはラーヌを購入して革のホルスターに収めた。
「ちょっと重いかな」
「まあ仕方ないさ。威力の証だ」
結局、ソフィアは予備シリンダーと手入れ道具やらも追加した。お金がそこそこまとめて飛んだが、満足そうな笑みだ。
さて、俺は期待のロマンデバイス RC-762 を借り、再び射撃レーンに立つ。ピダーセン・デバイスを連想させるが、マガジンが斜め左側に着脱する奇妙な形。右側排莢で、フロントサイトは銃本体、リアサイトはデバイス側。
「セミ・フル・セーフティか……」
まずセミで構える。思ったほど違和感はない。ピストルグリップ無しでも思ったより撃ちづらくない。
タンッ。
五十メートル先の紙的に命中。
これはむしろ無い方が何時ものフォームで撃てるからむしろいいかもしれない。
「驚くほど反動がなくて、逆に気持ち悪いですね」
「ハハハ、最初はみんなそう言う」
続けて数発。百メートルは余裕、百五十では散るがセンチネルよりは当てやすい。
タタタタタンッ。
フルオートでも暴れず、むしろ思ったよりおとなしい。
「ふぅ」
弾を撃ち切ってマガジンを外して銃本体とマガジンを射撃場の机の上に置く。
「悪くない、こいつは銃身名数をどのくらい食う?」
「普通のFMJなら二万発は保つ。ただライフル基準で考えるなら拳銃弾二発でライフル弾一発分だそうだ。後は言わずもがなエロージョン(喉部摩耗)を見たり銃身を覗き込んで溝を見たり、試射をしてみてどのくらい散るかになる」
まぁ、そんなもんだよな。
「買うか。弾六百発、マガジン十本、ポーチも頼む」
「毎度。個体差が大きいから、調子が悪けりゃ持って来い」
――――――――
そんなこんなで銃を買う為にレジに戻ってくると、ブロディ型ヘルメットが山積みされていた。錆止めオリーブ塗装がされていて"一個二十キャット"の札がかかっている。
「その鉄帽、どれほど守れるんです?」
「八百メートル離れりゃ七・六二ミリ FMJ を弾くか弾かないかって程度さ」
「つまり近距離では紙同然?」
「弾片と拳銃弾にはある程度有効だ」
「少し微妙と感じますがですが、私が一応射撃大会で当てた最大距離が1100mですから、一応9mmが防げるなら悪くは無い…………のか?」
1100mもそれも5発撃って1m*1mの的の中央やや斜め上だったからな……頭をビンポイントに狙ったりする距離じゃないしやっぱり微妙では?
「言ったろ微妙だって、つまりはそう言うこった、後お前自分が去年の射撃大会若手一位なのを忘れてねぇか?」
若手一位って言っても総合で6位だしな……素直に喜べない。
「そう言われても、ソフィアだってがんばれば800mぐらい当てられるよな?」
「狙っても頑張っても500mぐらいしか当てられないからね?」
「練習だな、今度ヘルミと一緒に狙撃の練習をしよう、結構楽しいぞ」
偶に娯楽兼狙撃大会の為の練習で撃つけど1000mまでは頑張れる。
「お嬢ちゃん、強く生きろ」
何だよその憐れみすら感じさせるソフィアに視線を送って。
「別に嫌いじゃないですよ?確かに腕も良くなりますから……」
ソフィアもソフィアで何でそんな微妙に含む所が有りそうな雰囲気。
下せぬ。
――――――――
銃砲店を出る頃には昼を回っていた。空は鈍色、低い雪雲が垂れ込めている。
カブラの冬にヴァイマル共和国を足したようなモノだろうか。
食糧危機は通り過ぎて既に飢餓に突入しているし、公的組織に頼らない武装化が始まっている。
過激派が氾濫でも起こさないといいけど。
「次はどこへ?」
「自警団をのぞきたいが危険だろうし雑貨屋だな。麻紐と釘が欲しい」
商店街は露店と常設店舗が入り交じり、鍋からは薄いキャベツスープの匂い。数年前は交易の中心だったが、今や飢餓とインフレで誰も笑わない。
雑貨屋の入口にはショットガンを下げた警備員。
「物騒になったね」
ソフィアの声が沈む。
ここは量り売り方式だ。麻紐、釘、ダクトテープ、歯ブラシ、歯磨き粉、石鹸、ロウソク、塩――必要品を袋に放り込み、勘定を済ませる。
帰りは手をつながない。荷物を分け合い、いつでも撃ち返せるようにするためだ。煉瓦家屋の窓は板で塞がれ、風が唸り、遠くで犬が吠える。
「まるで黄昏前の都市だな」
「……ここで暮らす人たちは、どうしてるんでしょう」
「死なない程度に稼ぎ、あとは暴力に頼る。そういう土地になり下がったのかな」
宿に戻ろうとした、その時――
パンッ!
パンパンッ!
乾いた銃声が三発。反射的にソフィアを庇い、マーチンを抜く。一本裏手の路地か、音の軽さは九ミリか九ミリ×十八。
「急ぐぞ」
逃げ惑う群衆に紛れ、俺たちも走る。踏みつけられた雪が滑り、転倒者の悲鳴が上がる。
タンッ!
タタタタンッ!
今度は短機関銃。警察のサイレンは聞こえない。拳銃をホルスターに戻しつつ、すぐ抜けるよう手を添え、主道を避け脇道へ。
「倉庫街を抜ける!」
ソフィアが袖を掴み、必死で走る。寒風が頬を切り、耳が麻痺するほど冷たい。
電柱の陰で息を整える。ここを抜ければ農村区画だが、宿まではまだ遠い。
「カイ、早くこの街を離れよう。危険すぎる」
「同感だ。まずは宿に戻る。装備をまとめ、夜が来る前に発とう」
雑貨をポケットに詰め両手を空ける。遠くで短銃の三連発、空に昇る黒煙。
畑ばかりの農村区画へ出ると視界は開け、粉雪が足跡を埋めていく。
「宿はあっちで合ってるよな?」
「多分。でも街は方向感覚が狂うのよね」
「太陽は西、風は北西、煙はあの塔から。つまり――こっちだ」
足を止めれば凍えるだけだ。雪を踏みしめ、宿のある郊外へ向かう。
いつ撃たれてもおかしくない街で、今日も生存競争は続く――。
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