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第十七話 遊牧民的生活 弐

 誰かの柔らかな手つきで撫でられて目が覚めた。そっと頬に触れてくる柔らかく、温かい手だろうか。

 何とも穏やかな気配だ。

「んん??」

 起きようと目を開けば直ぐそこに何かがあって、唇に柔らかなモノが触れた。

「ん??」

 脳みそが活動的を始めて接吻かと理解するのに数秒を要した。

「おはよ、寝坊助さん」

「うん、おはよう~、眠い」

 実際眠くて気分的には寝直したい。

「ほら起きて」

 仕方ない、起きようと身体を起こせば寒さで目が覚めた。

「服は……あれ?」

 置いてたはずの俺の服が消えていて、昨夜どっかに飛んでったのかと周りを探す。

「ジャーン」

 そう言うソフィアを見ると、ソフィアが俺の服を着ていた。

「あぁ……ソフィアが着てるのな、俺にソフィアの服を着ろ……パンツすら無いんだけど?」

「私が履いてるもん」

「何か俺に丸っとソフィアの服を着ろと?無理だよ、大は小を兼ねられても小は大にはならんのよ」

「昨日は少し大きめの服を着て来たので着れる……はず!」

 はずって、もう少し情報の信頼性を上げて貰って……と言ってもしゃーないか。

「着りゃ良いんだろ」

 ソフィアの服を手に取るが、さすがに狩りに来ているだけあって色糸を殆ど使って居ない質素な最低限の刺繍しかされていない。

 一緒に畳まれていたのは外套の中に着ているカーキ色のチュラグレイカと、少しゆったりとしたトラウザーズだった。

 ただトラウザーズの膝の部分や太股などは皮が縫い付けられている、かなり実用に寄ったズボンだな。

「確かに着れん事は無いが……これ、尻がブカブカだし丈の長さが足りてない、腕回りがパツパツなんだが」

 こうボディービルダーがやるような筋肉強調ポーズをしたら服が裂けそうだ。

「その感じだと上着のチュラグレイカは普通に着れそうね、後お尻ブカブカは言わなくて良いの」

 朝から二人でイチャイチャするのも良いな、何というか……学生に戻ったような気がしてくる。

 そんなこんな朝から二人でわいわい騒ぎながら朝食を食べて、狩りに出る準備もする。

 パンツだけは返して貰えなかったから一着しか持ってきてない着替えからパンツだけ取り出して履いた意外は昨日と同じ服装になって、最後に真っ白のギリーを着る。

「さて、暖炉の火は落としたな?」

「うん、大丈夫」

 それだけ確実に出来てるなら後は何とでもなる。

「さて、久しぶりの狩りだし先ずは一回りするか」

 一回りと言うのは本当に歩いて、周りが去年と変わりがないか調べる。

「うん」

 二人で雪の積もった森を歩くが代わり映えはしないな、去年付けた目印も残っている。

「見て」

「ん??」

 そう言ってソフィアが指さした茂みには何か食い荒らされた後があった。

「コレは……兎の食われた後か?」

「うん、多分狐とかじゃないかな」

 狐に兎か、相変わらず何かしらは居るようだな。

「兎の肉は良いが狐はあんまり好きじゃないな」

 前世比較的近所の神社で狐が祀られてたし、何というか……未だに罰当たりな気が少しする。

「お肉は別にだけど皮が良く売れるから私は好き、でも畑の周りじゃ狩れないしこの辺で持って帰りたい」

 何とも微妙な気分になるな、可愛いからとかじゃなくてナチュラルに売れるからって言うのが何というか……実利的で可愛げが無い。

「畑を荒らす兎とかを狩ってくれるしな、その辺難しいよな」

 そう雑談しながら歩くのも、今日は狩るのはおまけで散策がメイン。

 河辺の林を歩いていたらようやく獣道に当たった。

「コレは古い糞だな」

 拾った糞を捨てて辺りを見渡すがカリブーの居ようはずもない。

 軽く雪を被っているし、カチカチに固まっている、半日以上は前だろうか?

「うーん……みた感じ沢山の足跡は……西に向かってるね」

「西か……追っても良いがスノーモービルが無いしなぁ」

 帰り持ち帰るのが絶対しんどいしなぁ。

「追おうよ、私カリブーの舌が食べたい~」

 あー……もうしゃーないな。

「分かった、行こうか」

 そこからは途端に静かになった。

 口を開かず、黙々と鹿の蹄を追う。

 木々の間を抜け、時に落とし物を確かめ着々と群れに近づいて行く。

 そうして歩いていると何やら掘り返された跡が多数ある場所に出てきた。

 調べてみると雪の下に埋もれていた苔を食べていたようだな。

 その後さらに餌を求めて歩き出したか……。

 この感じは……それなりに新しそうだな。

 方位磁石を確認すると磁石は南東方向に移動しているように見える。

 磁石をポケットにしまってまた歩き始めると遡上して来た凍った川に出た、かなり歩いた気がする。

 辺りを見渡すと下流側に二頭のペアが居た、みた感じ比較的若い雄達に見える。

 今回狩るのはどっちか一匹だな……どちらもまぁまぁ太ってるように見える。

 俺はゼスチャーで待っているようにソフィアに合図するがソフィアは青色の弾、つまりスラグを手にとって振った。

 自分もその弾を使って狩りに参加したいのだろう。

 俺は首を振ってカリブーを指差して人差し指だけを立てる。

 そうすると分かったと首を縦に振ってくれた、どうやら一匹しか狩らないと言うのを分かってくれたようだ。

 でもソフィアは自分を指差してついて来いとゼスチャー……多分自分もついて行くと言う事かな。

 分かったと頷いた。

 今は距離にして500mはある、もっと近づかないとな。

 ただ相手は対岸だからな、それに川は遮蔽物がない。

 下流側に移動するがあいつ等は……雪の中の何かを食べるのに夢中で気が付いてない。

 音をたてないようにしながら対岸からの最短距離に近づいた。

 125mぐらいかな、これなら簡単だな。

 丁度さっき自分を指さしてたしソフィアに撃たせてみるか。

 ライフルを手渡し、変わりにショットガンを受け取った、本人もやる気のようだな。

 ソフィアはすぐに安全装置を外してスコープを覗き込んで。

 ダン!!

 発射までのテンポが早い。

 ヒット、だが重要部位は抜けなんだか逃げる。

 俺もショットガンを構えるがこれゼロインは50mだよな、見えねぇ。

 ダーン!

 クソ、外した。

 ガチャン

「先ずは血を見に行こう」

「うん!」

 銃を再び交換すると、ソフィアは早速弾をリロードしたので、俺も一応弾を一発だけ込めておこう。

「さて……」

 コレはなかなかの失血、肺辺りをぶち抜いたか?

「うーん、血に空気が混じってるように見えるが直ぐに凍ってしまうし分からん」

「大丈夫?狩れてる?半矢じゃない?」

 メッチャ心配しているが、大丈夫だろう。

「あぁ、多分すぐその辺で死んでると思うから血を追おう」

 冷静に血と足跡を追うとやはりカリブーが横たわっていた。

「死んでるね」

「多分な、一応銃でつついてみ」

 ショットガンでツンツンしても反応が無いし死んでいるだろう。

「死んでるね」

 ソフィアはしゃがんで優しく倒れたカリブーを撫でた。

「あなたが私達に与えてくれた命に感謝します、どうか安らかに」

 この辺ソフィアはちゃんとしてるよな、俺なんて狩れたヤッタゼ!みたいな反応しか出来んと言うのに……コレが育ちと言う奴かな。

「久しぶりに大物を狩った感想は?」

「最っっっ高!」

「なら良かった、それじゃぁバラそうか」

「うん」


 ――――――――


 二人でバラせばやはり早いモノだが、ソフィアは皮を剥ぐのが下手くそだなぁ……。

 まぁ、なめす時に綺麗に肉やら脂肪の破片は落とせば良いか。

「カリブーの舌!厚切りさん!」

 何の歌だよ……テンションが高い事は良いかもしれんが。

「にしても脂が乗ってて旨そうだ」

「うん、それにこれだけあったら二人で食べきれないね!それで、このカリブーのチンタマってどうするの?」

 止めてくれ、同じ雄として切り取られたチンタマを見るとナニとは言わんが縮み上がる。

「まぁ、食べられるらしいよ、我が親愛なる姉曰わく美味しいらしい」

 美味しいらしいが食べたいとは思わない。

「食べたこと無いの?」

「食べたくない」

 そう言うとふーんといかにも、そう?私興味無いですけど?みたいな顔をするが分かっているからな。

「絶対俺の前に出すなよ」

「え~つまんない」

 何がつまんないだ、お前は女子高生か。

「出したら断交だ断交、しばらく口なんか聞いてやらん」

「分かった、分かったから、出さないし捨てて行こ」

 そう言ってあっさりとチンタマを置いて行くモツの山に投げ捨てた。

「何かそれはそれでもったいない気がするが……料理されて並べられるよりマシだな」


 ――――――――

 

 二人で肉をえっちらほっちら持って帰るか、やはり前世の女の子に比べてソフィアは遥かに頑丈で逞しい。

 何十キロかの肉を袋に入れて両手で持って、さらに銃も背負っていたと言うのに元気にピンピンしている。

「ふぅ~、さすがに少し疲れたな」

 とは言え俺も肉類山ほどを抱えて帰って来たのを考えれば、男も相応に逞しいもの何だろう。

「でもまだ日は出てるよ」

 確かに、日暮れまでかからなかったしそれは朗報だろうな。

「今日食べる分以外は凍らせるか」

「うん、今日は舌とモモ肉一本ね!!」

 全く、そう言わずとも分かっている。

「焦がしたりするなよ」

「分かってますぅ、焦がしたり何て絶対しません」

 プリプリと機嫌よく怒りながら今日のおかずの元をかっさらっていった。

 全く器用な奴だな。

「さて、男の仕事をするとしようか」

 切った木はそのままでは使えない、ならばどうするのか?

 当然割る訳だな。

 血に汚れた白色のギリーを脱いで薪を置いては割って行く。

 今日の内に明日の燃料をちゃんと用意せんとな、もし吹雪いた時とかに困るし出来れば数日分は用意したいな。

 そんな事を考えながら黙々と薪を割り続ける。

 さて今日は久々のカリブーの舌、楽しみだ。

 そう夕食に想いを馳せながら仕事をしていたら風が出てきた。

 空を見上げれば朝より分厚い雲が流れていた。

「こりゃ不味いな」

「ソフィア、天気が悪くなりそうだ!」

 機嫌良くカリブーの脚から肉を家の暖炉で焼けるサイズに切っていたソフィアには悪いが野営中の吹雪はかなり深刻だからな。

「え!?」

 肉を切り分ける手を止めてソフィアは外に出てきて空を見上げた。

「嫌な天気……」

 そりゃそうだろうな。

「とりあえずテントを追加の紐で固定するぞ、後スノーモービルの覆いも縛り付けよう」

「分かった」

 二人でテントに紐を回して杭を打ち込んでいく。

 テントの周りの余った布部分にも雪を追加で乗せて重りにしておく。

「コレで大丈夫だろ」

「なら、私は戻るね?」

「おう」

 さて……俺は山ほど薪を切って家の中に放り込むとするかね。

 ご飯の前の運動と洒落込むかねぇ。

 更新は不定期ですので、気長に待っていただけると幸いです。

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