第一六話 遊牧民的生活 壱
俺はとソフィアは目的地の森の中で開けたギャップにテントを立てる。
「立てるから広げてくれ」
「分かった」
俺がテントの骨組みとなる木を縛って、その上にテントの布を被せた。
「行くぞ」「分かった」
「1、2の3!」
二人で息を合わせてテントを建てる、一人では些か荷が重い。
「そっちが引っかかってる!」
「んん??これか?」
「それもだけど隣の!」
騒がしく二人でわいわい言いながらこう言う作業をするのは何だか楽しいな。
一人で小さなテントを立てるのは作業なんだがな、不思議なもんだ。
何とか立ち上げたテントは、一人用のと比べると大きい。
分厚い布や薄い布を重ね合わせているから重たかったが、その分断熱性は存外高い。
こんなクソ寒い川の凍っているような土地でもテントを用意して、暖炉を焚けば暖かく過ごせるんだからな、テントとは何とも偉大だ。
無事立ち上げたテントを眺めるのも悪くない。
まぁ、ここから内装を固めるのはソフィアに任せよう。
「ソフィア、俺は薪を取りに行ってくる」
「分かった、気をつけてね」
重くて頑丈な橇の上にチェーンソーを載せて、スノーモービルで枯れた木を探す。
この辺はあまり来ないからすぐに見つかった、誰も木を切ってないからだろう。
「良さそうだな」
枯れて乾いている、ただ少し大きいが切れば持ち帰れるし、大丈夫だろう。
俺はチェーンソーを使って楔型の切り込みを入れて反対側から斬る。
そうすれば思った通りの方向に倒れると言う訳だな。
バキバキドス!
「ふぅ~」
慣れたもんとは言え、倒れる瞬間は緊張する。
枝をチェーンソーで落としてやって、ある程度のサイズに切ってやってから橇に積んでいく。
やはり太いからある程度切らないと持っていけなさそうだ。
そんな薪を橇一杯に積めば二日はまず、薪に困る事はまずないだろう。
ついでに枝葉を集めて、チェーンソーで切った木くずも少し集めておく、テントの中での床に撒く、一種のカーペットの様なモノだな。
薪を持って帰ればまだソフィアがテント内の整備中だった。
「ただいま~」
「おかえり、早かったのね」
「あぁ、偶々すぐに丁度良い木が見つかったからな、まだかかりそうだし薪割りをしておくよ」
「お願い」
まだ夕焼け空だが、これはそもそも太陽の角度が低いからだ。
もう1月か、少しすればようやく暖かくなり始める時期だ。
最も闇が深くなるのは、夜明け前と言うように暖かくなる前の時期だからこそ-30℃を下回る。
そもそも冬だからクソ寒いか、クッソ寒いしか無いのだが、いい加減寒さが頭を打って欲しいものだ、で無いと暖かくならない。
それにしても動物もこんなクソ寒い環境に適応して、生きているんだから、凄いもんだよ。
物思いに耽りながら斧でひたすら薪割りをして、それをテントの近くに積んでいく。
木を切るにはチェーンソーだが、木を割るのはやはり斧だよ斧。
ガイザーもオランダ亡命後、薪割りをしてたそうだし、斧と言うのは良いモノなのだよ。
刃では薪割りを、斧頭では釘打ちを出来るし、何より動力が筋肉だからお金がかからない。
柄が折れたって新しく作れば使えるし、一度買ってしまえば多分無くさない限り、永遠に使えるのでは無かろうか?
文明の利器も便利で使い勝手が良いが、原始的な道具にも、それはそれで利点があるもんだ。
さてもう日も落ちて辺りは暗く、気温は本格的寒くなってきた。
風は冷たく、唯一露出している目の周辺に冷気が当たるが本当に寒い。
そう思いながらも薪割りを積んでいたらテントに開いている穴から煙突が生えてきた。
必要になるだろうと出入り口回りに薪を積んでいく。
「あ、やっぱり気が利くね、薪を頂戴しま~す」
何かソフィアのテンション可笑しくないか?
アレかな、キャンプとかでテンションの上がる奴、考えたらソフィアも俺も18歳だもんな、まだまだワイワイ遊ぶ歳だもんな。
「もってけ泥棒!」
何か言ってて思ったが、すんごく懐かしいフレーズだな。
トントンと割ったのを出入り口に積んでいたらソフィアの上半身だけが出てきた、壁尻の上半身側かな?
「ドロボーさんのソフィアです、薪を少々貰って行きます」
名乗ったらドロボーじゃないだろうと突っ込むのは少し違うかな。
「ドロボーちゃんは後どのくらい持って行くつもりだい?」
そう訪ねると何本かの薪を持って中に戻った。
「今置いてくれた分で今夜はいけそう」
そうか、なら後はテントの中に入れていくか。
今積んだ分テントの中のソフィアに渡していく薪リレーをしていく。
「お、もう中は少し温いな」
テントの中に上半身だけ入ると思いの外暖かかった。
「暖炉に火を入れたからね」
「なら早く終わらせて温まるとしよう」
良いながらドンドン薪をテントの中に薪を積み上げていく。
「もうちょいは枝葉を集めないとな」
薪をテント内に入れ終わったら今度は床に敷くハイマツやトウヒ、モミの枝葉を集めるべく麻袋を手に取った。
「先行っといて、私もすぐ行く」
「分かった、焦らずのんびり来てくれ」
どうしようかなぁと考えて、手頃な所にまだ小さいモミの木が目に入った。
こりゃぁ、切り倒すしか無いわな。
俺はチェーンソーを持ち出して早々にモミの若木を切り倒してチェーンソーで枝葉を切り落とした。
「これ持ってくね」
「おう」
まだ枝付きのモミをソフィアが何本か抱えて持って行った。
多分中で小枝と葉の部分だけをナイフとかで切り落として寝床の辺りに敷いて、残った枝は暖炉とか出入り口周りに敷くんだろうな。
若木から粗方枝葉を落とした後、残ったしょぼい木を三等分にして転がしておく。
多分これもソフィアが出入り口周り転がしておくだろう。
どうしても雪をある程度掘り出しても残ってる雪はあるし、それで床が濡れちまうしな。
ぬかるんだりしないようにこう言う配慮が必要だ。
――――――
あの後も二本若木を倒して枝葉を集めたらいい感じになった。
床は踏み固められるまで少しワサワサするが仕方ない。
ただ暖炉周りはそれでは危ないから枝で固めている、隙間から染み出て来た泥が跳ねないようを気をつけないとな。
そしてその暖炉の隣が俺達の寝床だな、当然ダブルス。
枝葉のクッションの上に荷物にかける幌を敷いている。
寝る時は二人でウール製の掛け布団だ。
どうしてもテントだと夜は冷える何せ暖炉がちっさいし頑張っても5時間ぐらいでは無かろうか。
時々起きて燃料を補充をしたり、しなかったり。
外は日が暮れて来て暗い。
「ランタン取って」
「ほい」
燃料式のランタンを手渡しすと暖炉から火を分けて貰うようだ。
「今日は雷鳥を塩で焼いて、後は茹でたジャガイモとレーズンね」
栄養はそこまで偏って無いと……思いたいな。
「分かった」
ソフィアがご飯を作ってる間にも細々とした事を進めていく。
例えばスノーモービルに布をかけたり、天幕の隅に雪を乗せて風で捲れたりしないようにしたりする。
地味で名前の無い家事のような作業だな。
「カイ!ご飯出来たよ!!」
雑事を細々とこなしていたらソフィアに呼ばれて中に戻ると、やはり暖かいな。
「肉が焼けた良い匂いがするな」
「いい感じだと思うよ」
フライパンの上にはある程度のサイズに切り分けられた胸肉、ささみ、砂ずりが転がっていて、一つのジャガイモが茹でられてフライパンに転がっている。
食器何て無い、フライパンから直食いスタイルだ
「「いただきます」」
二人で肉となり目の前に夕食となった雷鳥に感謝を捧げて食べ始める。
「雷鳥を食べるのはかなり久しぶりだけどやっぱり美味しいな」
「カイはカリブーとか熊が専門だもんね、私も久しぶりにカリブーの舌が食べたいな」
カリブーの舌は断トツで旨い、牛タンより旨いと思うが……今世ではまだ牛タンを食べたことが無いから少し自信が無い。
「仕留められたら半分こしような」
「やった」
俺と同じでソフィアもカリブーの舌は好物だからな、期待に添えるように頑張らないとな。
「今回も狙いたいのはカリブーだしな、多分ありつけるさ」
クマが沢山出てきても持ってきた弾の殆どが150グレンのSP弾だしな、些か心もとない。
熊相手なら200グレンは無いと骨とかに当たったら抜けんし、半矢はかえって危険だし避けたい。
「楽しみ」
ニコニコと機嫌の良いソフィアとジャガイモを半分こして、鶏肉を食べる。
個人的には塩だけで味付けしてるから味気ない気がせんでも無い。
まぁ、外で食べる飯なんぞこんなもんだろうな。
そんな感じで飯を食べながら雑談に興じる、雑談と言うのもこの世界での数少ない娯楽の一つだな。
「それで、自分の得物の腕は鈍ってないみたいだな」
この前はライフルを握ったりしていたし、そもそもソフィアは畑周辺の害獣駆除系の半農狩人だからな、俺も忙しい時期は家の畑を手伝うがあくまでも手伝いだし。
「去年はやたらと鳥もそうだけど兎とか栗鼠とかが出たからね、おかげで今年の蓄えは兎肉が沢山」
何かそれおかんもぼやいてたな。
「なら来年はおかんにマーチンを貸さないとな」
「そこからヘルミちゃんが更にマーチンを借りて狩りをしそうね」
あぁ……その光景が目に浮かぶようだな……。
「確かに……兄としてはこうもう少し女の子らしいと言うか、血にまみれる狩りなぞより他の事に性を出して欲しいと思うよ」
ただでさえ村は男手不足なのに、まぁ外に出るならやりようもあるかな。
「私もあんまり人の事は言えないけどソフィアちゃんはもう少し刺繍とか頑張った方が良いとは思う」
そう何だよなぁ……年の差を考えてもヘルミとアマリットの差はあまりにも目立つ。
多分年齢的に考えれば極端に下手くそでは無いはず何だがなぁ。
「でもまぁ……そうやって比較されて頑張っても頑張っても"もっと頑張れ姉を見習え"と言われるのも不憫でならんのよな」
女の仕事だから男の俺が口も手も出せんが……、不憫で仕方がない。
「それで甘やかして、寝物語に狩りでの話し何かを聞かせたんでしょう?ヘルミちゃんが狩りとかに傾注して刺繍とかに苦手にするのも道理何じゃない?」
アレ……もしかしてだけど俺の責任だった?
「それは……否定出来んな、どうやら自決する必要があるようですね」
そっとマーチンに手を伸ばそうとしたら叩き落とされた。
「自分で蒔いた種何だからヘルミちゃんの面倒ぐらい見なさい」
「面倒ぐらいちゃんと見るけど、どうやって面倒をみたものか……ヘルミの婿の世話まで見れる気がせんぞ」
「……カイなら大丈夫よ」
妙な無言が気にはなるが、気にしたら負けか。
「は~、妹の面倒ぐらい兄として見たいと思うが……正直頭が痛い話しだな」
「婿さんか……ヘルミちゃんは別に気難しい訳じゃないし、性格も落ち着いてて大人しいから何とかなるんじゃない」
そうだな、夏になったらボーイスカウトにも行くし、もしかしたら恋人とか見つけてくるかもしれんな。
「よし、明日は寝ようか」
「うん」
暖炉に新しい薪を何本か入れてから二人で今夜の寝床に座り込んだ。
寝床の左右にはライフルとショットガンが置かれているからかなり物騒だが、熊とかに襲われるかもしれんからな。
「スラグの方が良いかな?」
「バックショットはさすがに熊には効かないだろう?それにもしもの時にテントの被害がデカくなるから勘弁してくれ」
「……スラグ高いのよね」
そうおしゃべりしながらも服を脱いでしまう。
意外かもしれないが裸の方が二人で寝るのなら暖かいんだよ。
それに若い男女、二人きり、何も起きないはずもなく……。
「はい、色気も何も無い話は終わり」
そう言って頬にキスをした。
「もう、不意打ちも嫌いじゃないけど……」
冬の夜は長い、楽しむのも仲を深めるのもコレからだな。
更新は不定期になります、気長に待っていただけると幸いです。
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