第十五話 遠出
極夜の宴会より約1ヶ月、年を越し極夜も過ぎて昼間の時間がある程度の時間になってきた頃。
ソフィアと二人でちょっとした息抜きがてら泊まりがけで狩りに出掛ける準備をしていた。
しかし、泊まりがけの狩りなんて久しぶりだと思う。去年はしなかったから……ほぼ一年ぶりか。
まとめてある荷物を橇に載せていく。最低限の食糧にテントに四本の骨組みとなる木。
帆布に、暖炉に改造した切ったドラム缶といろいろ載せておく。
「カイの銃はどうする? 持っておく?」
「いや、後ろに入れといてくれ。俺はこいつを持ってるしな」
そう言ってホルスターをポンと叩いて見せた。
「分かった、一番上に縛っておくね」
ソフィアは自分の水平二連は背負っておくようだ。
「よし、こんなもんかな」
最後に倉庫の暖炉で溶かしていた雪の中に砂糖を入れる。
その金属製の水筒に入れておく。後はコートの中に入れておけば多分凍らないはず。
まぁ、凝固点を下げる為に砂糖を入れたのは気休めで、本命は休憩時に飲む水を甘い水にして気分を良くすることだ。
「ほら、ソフィアも水筒」
そう言って呼ぶとソフィアが水筒を投げてきたのでキャッチ。
水筒の中にあったかい砂糖水を放り込んで蓋を閉めてやる。
残ったのはもったいないし飲んどくか……。
砂糖が少し少なかったか、何か微妙だが、まぁいいか。
「さて、行くかな」
暖炉の火を消して、10Lジェリカンとソフィアの水筒を持って倉庫を出た。
「ほら水筒、一応帰りの燃料」
ガス欠とか泣けるからな。
「ありがとう、それは橇の前の方に置いといて」
ジェリカンを橇の前の方のテント達の下に置いておく。
道はそれ程荒れてないはずだけど、かなり厳重に縛ってあった。
スノーモービルのエンジンを回して軽く暖機運動をさせてやる。
その間に最終チェックだ。
「荷物はちゃんと縛ってあるな」
紐を触ってみるが適度に張っていて良い感じだ。
「大丈夫」
「双方の牽引装置に問題は無いな」
目視確認で大丈夫そうだ。
「見た感じ大丈夫そう」
「天気は良いな」
雲一つ無い空だ。
「綺麗に晴れてるね」
そう二人でクロスチェックをしていると、雪を踏みしめる音がして来た。
「カイ、そろそろ行くんでしょ」
来たのはサーラ姉さんとアマリットだった。
「あぁ、ヘルミはへそを曲げてるか」
一緒に行きたい行きたいとダダをこねていたのだが、おかんに説き伏せられてからいじけている。
「おにぃが構ってあげたら機嫌も直ると思うよ」
まぁな、だが何時まで家に居るわけでもないしなぁ。
「そうかもしれんが、俺だってずっと居てやれる訳でも無いし、ヘルミにも精神的自立を頑張ってほしいな」
「荒療治になりそうね。でも女の子らしい刺繍とかお料理を覚える良い機会になると思うわ」
「そう願うよ」
ダンス微妙、刺繍料理ダメでは貰い手が無いし、流石にな。
何にしても話していたら短い昼の間にたどり着けないし、早く出るとしよう。
「俺達は行くよ。ヘルミにはちゃんと料理ぐらいは出来るようになっておくように、でも言っておいてくれ」
「分かった。ソフィア、カイを頼んだわ。大丈夫大丈夫と言って無理はするし働き過ぎるから」
「分かってます、カイの大丈夫はあんまり信用してません」
そういって笑い合う二人。そこまで信用が無いだろうか?
うーん、会社勤め時代に比べたらそんなに無理なんぞしてないよな、うん。
つまり大丈夫、QED証明終了だな。
「そんなに無理するつもりはないさ」
そう言うと二人で顔を合わせて肩をすくめられた。
「まぁ、頼りにはなる弟だからお願いね」
「はい、分かっています」
このタイミングで逃げないと小言が止まらなさそうだな。
「それじゃぁ、行くか」
「うん、行って来ます」
「「いってらっしゃい」」
姉と妹に見送られながら俺達は、真っ白の大地に鉄の馬を走らせる。
俺の他にも村人達が通った轍は雪に消えてしまっているが、あまりにも見慣れた風景。
今はもうそこに見えない轍も自然と分かる。見えなくとも分かる安全な道。
久しぶりの慣らし運転には丁度いい。
バイクにせよ、スノーモービルにせよ、乗り物とは良いモノだ。
この相棒どこへだって行ける気がする。
前世、目的地も決めず、ただひたすらに気分の赴くままに道の行くままに走った日々を思い出し、懐かしい気分になる。
今は道無き道、雪上を駆ける。
さて、今日の目的地は遥か東方だ。感覚も取り戻せてきた、気合いを入れて行こう。
――――――――
ひたすらに東方に向かっていれば、凍結した目的のユレーマ川にたどり着いた。後はこの川をひたすらに遡上するだけだ。
確か途中に小さな集落があったな。
結構走ったし、一度適度な所で休憩をするか。
凍結した川の上から少し離れてた所にスノーモービルを止めて、立ち上がって周囲を見てみる。
「あの集落を探してるの?」
「あぁ、何せこの辺はあんまりランドマークが無いからな。後、出来れば近況も聞きたい」
村が安全かの情報収集は欠かすつもりは無い。
「多分もう少し先じゃない?」
「そうだな、煙が見えないし多分もう少し先だろう」
座って再び走り始めるが、やはり地上はガタガタだな。
もう一度川の上に戻って走るが、こっちは平らで走りやすい。
この季節ならまず割れる事なんて無いし、安心して走れるというものだな。
またしばらく走って止まって辺りを見渡すが、煙りが……。
「見えないね」
そうなのだ、全く煙りなどを含めて見えないのだ。
「通り過ぎちまったのか……」
この時期に偶々何らかの事情で火を焚いていなかったら、小さな家々を見つけるのは難しい。
如何なる理由にせよ見つけられんモノはしゃーない。
「進むしかないか」
そう気を取り直して目的の狩り場に向かうが、やはりこの辺はどことも離れているからか動物が多い。
こんなに寒いってのに、鹿の群が歩いているのが遠目に見えたし、これは良さそうだ。
「止まって止まって」
ソフィアに肩を叩かれて止まると、即座に降りて川岸の藪の方にゆっくりと歩きながら、ショットガンに赤色の弾、バックショットを装填した。
何かと思って俺もソフィアの視線の先を良く見てみれば雷鳥の群れだ。
俺もマーチンを取り出して近寄る。
ソフィアがそっと銃を構えた。距離にして30m程か。雷鳥達は気にせず、ハイマツを何やらつついている。
いつもはヤナギ科のウィーロなんかをつついてるイメージなんだが。
ダン
まず二匹を、いや一匹は半矢だが飛べなくてもがいている。
ダン
飛び始めたばかりで速度がのっていない一匹を撃ち落とした。
「ナイスショット!」
そう褒めるまでもなく、ソフィアは嬉しそうに口元をほころばせていた。
「これでご飯が決まったね!」
すごく嬉しそうだ。
「そうだな、何にせよ先にあいつを仕留めてしまおう」
俺は半矢で死に損なって苦しんでいる雷鳥を捕まえた。
捕まえてしまえば後は銃もナイフも必要ない。
ゴギ
頭を掴んで軽く振ってやれば、脊髄がポキッと折れてそれで済む。
「胸肉だけ貰っていこ」
慣れた手付きで羽をある程度むしって、すぐにナイフを入れ始めた。
鳥や兎などの後処理はやはりソフィアの方が経験豊富だからか素早いな。負けてられんな。
「分かった。二人だしな」
俺もある程度羽をむしってから胸にナイフを入れ、残った羽ごと皮をざっと剥ぎ取ってしまう。
鳥の総排出腔辺りから内臓を素手で抜き出して捨ててしまう。これが一番汚れるんだよなぁ。
「芽やら枝やらばっかりだな。そっちも変わらんか?」
見た感じ、ヤナギ系の木の芽に、地衣類か。今年の餌場が自ずと察せられるな。
「うん、同じかな。ここにも去年居たし、多分去年と同じ餌場だと思う」
「それは重畳。カリブーも旨いが、たまにはさっぱりした鶏肉も食べたくなるんだよね」
前世の唐揚げが恋しくなるぜ。醤油は作ったことは無いが……いや豆科は土地を肥やしてくれるが植物ホルモンが問題になるか。
「期待に添えるよう、お姉さんがおいしく料理してあげましょう」
フフンと胸を張るが“お姉さん”というが21日違いだからほぼ差は無いと思うんだが……まぁお姉さんぶりたいんだろうし、あえて突っ込むのも野暮かな。
「期待しておこう」
何にしてもばらさないと食えないしな。さっさと肋骨を割ってしまって、中から胸肉を抜き出してやる。
「ささみと胸肉と後は砂ずり(砂嚢)ぐらいか?」
「うん、少し待ってね」
手早くソフィアが二匹目を肉にしている間にも、俺は改めて周辺を見渡す。
木々が生い茂る寒冷地。この極端に寒い土地でも、これだけ森が広がっているのは驚きだな。
周りに獲物は見えないな、残念。
「お待たせ。これで明日の朝食のお肉までは心配いらないね」
「幸先が良いのは良いことだ。さぁ行こう」
俺達は再び目的の野営場所に向かい始めた。
更新は不定期になりますので、気長に待っていただけると幸いです。
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