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第十四話 慎ましやかな戦勝と帰還祭り

 冬で蓄えにあまり余裕が有るとは言えない。

 だからと言って祭りをしないかと言えば別の話しだ。

 みんなで食料を持ち寄って、酒を集めて、わいわいと騒ぐ。

 娯楽の少ない辺境でも数少ない娯楽だ。

 俺の家はカリブーの肉を提供した、言わずもがな俺の仕留めた奴だ。

 みんな少しだけ着飾っている、女性陣はこの寒い時期だけどスカートを履いている。

 俺も普段の野暮ったい服から仕立ての良い、女性陣の服程ではないが結構刺繍の入れられた服に着替えた。

 普段の地味な茶色やカーキ色、黒色と言った服か雪に紛れる為の白のギリーだが、俺は好んでいるんだが、今日ばかりは白色のシャツに明るい赤色のカーディガン、黒色のズボンに綺麗な川ブーツ。

 カーディガンにも刺繍が入れられており、民族服のようだ……てか普通に一種の民族服か。

 村が出来て100年ぐらいらしいが、工業製品と言う画一化された商品があまり普及しておらず、自作して刺繡を入れたりしている訳だしな

「じゃーん!」

 そう言って出てきたアマリットとそれについて着たヘルミは二人とも赤と青の二色が組み合わせられたケープを羽織って、ケープからはフリンジ(※1)が沢山垂れている。

 二人とも刺繍の入れられた白のブラウスに青のベスト、ウールスカートと白の刺繍のされた前掛けだ。

 その腰巻きから白色の前掛けを垂らしていて、正直に二人とも可愛い。

「お~」

 パチパチと拍手をするとアマリットがくるんと軽く回って全体を見せてから軽く俺に向かってカーテシーをして見せた。

「えっと、こう……かな?」

 アマリットの真似をしてヘルミもくるんと回ってカーテシーをしてみせたが少しぎこちなかった。

「大体出来てると思うけど少し動きが固いかな?」

「ヘルミは練習不足」

 それもあるが、普通に年齢による差も少しあると思うよ、子供の一歳二歳ってかなりの壁がある。

「む~」

 しかし、練習不足の自覚はあるらしい、俺と一緒に本なんて読んでるからだぞ。

「カイ、どう?変じゃない??」

 今度はサーラねぇさんだよ、兄貴はさっさと行っちまったし。

「良いんじゃないか?」

 ねぇさんは、赤のベスト白のブラウス、黒色のリネン製のスカート、白の前掛けだ。

 スカートの黒色が目立ちすぎず色彩のバランスが取られていて、相変わらず良いセンスをしている。

 刺繍された花柄とて、立体的で柄としての花よりも美しく、添えられるように刺繍された葉も同様に立体的で、非常に手が込んでいる。

「そう?なら良かった」

「何度も大丈夫だって言ったでしょ?」

 着飾ったお母さんも来てみんな揃ったようだ。

「そうだけどやっぱり男の子の目線からも確認して欲しいし」

 心配症だなぁ、あのツインテールのよくわからないウシャンカ?を作った女の言葉とは思えん。

「俺としては、相変わらず刺繍が凝ってるなぁ、と思うぐらいで特段編には思わないから大丈夫だ」

 ねぇさんは良かったと胸をなでおろしているが、基本的に服のセンスが良いんだから気にしなくていいと思う。

「私としては凝り過ぎかなぁとも少し思うけどね、一目見たらサーラが作ったって分かるもの」

 母さんの言わんとする事は分からんでもない、何せこの立体的な花柄などは芸術的と言っても良いぐらいだしな、一村娘の服としては少し派手ではないか?と言われれば否定はしにくい。

 ただ俺はその凝り症を好む人種だからな、好ましく思う。

「俺は綺麗で良いと思うけどなぁ」

 何より俺も凝り性だからな、人の事をどうこう言えぬ……。

 俺が凝るのは服装じゃなくて橇とかだけどな、今世は暇すぎてそう言う工作が楽しくてたまらん、無駄に橇に彫刻を彫ったりする。

 橇の手すりに部分に滑り止めの溝を彫ろうと思って、削り始めたらなんか幾何学模様を描いてたりするんだよね。

「でしょ?」

 とにかくも集会所に向かうとみんな普段はしない"おしゃれ"をしたり、酒樽を橇に載せていたり……はしゃいでるなぁ。

 まぁ、俺もばらして干したり燻製にしたりした肉を持って来ているんだがな。

「カイ!やっぱりカイのところは肉なんだな」

 そう言って後ろかは話しかけて来たバルは、まだ少し腕を庇っているようだ。

「おう、調子はどうだ?あまり無理をするなよ」

「時々痛むよ、ただこのくらいなら大丈夫」

 なら良かったと言うべきかな、見た感じ腕も動いているようだしな。

「それは何よりだ、どうだ?この燻製肉を一袋持って見るか?」

 そう冗談で言う。

「それは勘弁して下さい」

「そうだな、それでコレとは仲良く出来てるか?」

 そう言って小指を出せば嘆息された。

「難しいです、二人みたいに仲良く出来たら良いけど……はぁ……」

 自由恋愛にせよ、政略にせよ悩みは耐えぬか。

「結局人は人、如何なる経緯でも結局上手くいくとは限らんよな」

 自由恋愛とて倦怠感があるし、人の関わりとはある種の化学反応なのだろう。

 ダメな時はダメ。

「女の子は難しいです」

 まぁな、俺も時々ソフィアの事が分からんくなる。

「外から見て二人は相性は良さそうに見えるんだがな」

「みんなそう言うけど分からないよ……」

 それにこいつの相手のまだ相手のニーナは11だし、今の風評はそれ程当てにもならんだろう。

「上手いこと立ち回るんだな、この時の四年差と言うアドバンテージを最大限に活用して、頼りになる男!みたいな先入観を持って貰えたら万々歳って感じで頑張れば良いのさ」

「怪我して帰って来た時点で何とも言えないよ……」

「大丈夫だって、それは名誉の負傷、敵によるモノだって誰しもが知ってる、皆その敵に立ち向かった勇気を讃えど非難はしないさ」

 非難するような弩阿呆が居たら、俺か共に戦った者達がそいつを撃ち殺してもやる。

 銃後に居た奴らに負傷し後送された奴を非難する資格なぞ無いし、何よりも認めない。

 そんな話しをしていたらもう集会所だな。

「やっと来たのね」

 そう言って来たのは、白のブラウスに赤のウールスカート、黒のエプロンに刺繍。

 ソフィアも刺繍に相当気合いが入ってる、幾何学模様に花柄、サーラねぇさんを凌ぐ刺繍に感動を禁じ得ない。

「あぁ、待たせてすまないな、今日の衣装は一段と美しいな」

 綺麗と言うより美しい、この芸術に対するコメントとしてはそちらの方が正しい気がした。

「ありがと」

 顔がにやけそうになるのを別の笑顔でごまかしながら気なく、さも自然かのように手を繋いでくるソフィアが可愛い。

「やっぱり二人は熱い……」 

「まぁ、バルも頑張れ」

「ほら行くよ」

 ぐいぐい引っ張ってくるソフィア。

「わかったから、それじゃまた後でな」

「おう!」


 ――――――


 集会所ではもう皆が飲んで食べ始めていた。

「おぉ!カイじゃぁないか!!良いつまみを持って来たようだな!!」

「ラド爺さんもお元気そうで、向こうではどうでしたか?」

 俺が差し出した燻製肉の入った袋を受け取ると、中から一つ取り出して早速一つ食べた。

「良い燻製だ、儂の酒をやろう」

 そう言って俺とソフィアに杯を用意して渡してくれた。

「「ありがとうございます」」

「うむ……儂も真面目な話しは先に済ませてしまいたいで早速だがの、ハーヴイ村はダメだろう」

 相変わらずの単刀直入だが、それ故に頭が痛くなりそうだ。

「やはりですか……対応検討は?」

「限定的な難民受け入れが精々だろう、こことて余裕が有るわけでもない、先ず家が足りない、開拓出来る土地はあるが道具が無い、土地が使えるようになるには時間もかかる……」

 そう、土地とて生き物なのだ。

 前世政府の馬鹿丸出しの農林水産省のような国家統制計画をして、実行をしたとて上手くはゆかない。

 例え道具があって人的資源があっても、種籾は?肥料は?土造りは?植物ホルモンの問題は?phは?

 種籾にすると言う事は食べる穀物が減ると言う事。

 この辺ならば蕎麦や芋だがそれらは大体20倍に増えるのだが、米なぞに比べると当然低い、エジプトの米なぞ10a辺り1tを超えると昔テレビで見た覚えがある。

 それに比して蕎麦は200kg前後の倍率しか出せない、そしてここの夏は短い。

「頭が痛いですね……そのうち会議が有るでしょうか?」

「必ずある、だからコレは俺からの宿題だ、良い解決策を考えておいてくれ」

 そう言うとラド爺さんは杯を差し出して来た、面倒な話は終わりと言う事だ。

「それでは、我々の無事と村の安寧を願って」

「「「乾杯!!」」」

 杯に注がれたウオッカは些かキツいが、いい加減慣れたモノだ。

「は~、やはり酒は良い、それにしてもお主らは昔より仲が良いの、家のリサにも見習って欲しいモノよのぉ」

 いや……あの二人は無理じゃないかなぁ、年回りが少し離れてるのもあるが、普通にエドヴァルドとリサの相性が絶望的過ぎる…。

 それとなく相性が悪いのではと伝えてみる。

「うぅむ……そう思うのじゃがな、パームの小僧などはリサを気に入っておるし、言い方は悪いがいっそ尻に敷いてしまえと思っておる」

 あぁ、下手な亭主より扱い易い夫か、リサの姉が苦労してるのを知ってるだけ、最善より安全な選択と言う訳か。

 かねてよりこの老人が反対しないのが不思議だったが、なる程合点がいった。

「でもリサちゃんは心から嫌がって居ますけど、良いのですか?」

 力無き、頼りない夫を嫌がるのもまた道理だ。

 特に安定した社会とは程遠いのだから、余計にその傾向があるだろう。

「良くはない、良くはないが……かと言って君の愛しのカイなどを奪えと言う訳にもいくまい」

 一瞬薮蛇だったと言いたげな顔をしたソフィアが俺の腕に抱きついて牽制をするように睨む。

「ダメですからね?」

「分かっておるわ、うぅぅむ……種だけでもカイにすると言うのはどうかね?」

 たね??一瞬なにを言っているのか分からなかった。

 だがおそらくは孕ませる種のはなしだろう、何故そうなった?

「どういう事です?」

 だから思わず素で聞いてしまった、多分それが良くなかったのだろう。

「分からんか、つまりはリサを孕ませるのをおぬしにしようって話しよ」

「いや、分かりますけど、何で孕ませる役だけ変えるのですか?」

 問題は頼りないとかそう言う所だと思うんだよ。

 つうか、妻と愛人?の祖父公認の不倫?とかどんだけインモラル何だよ、どん引きだよ。

「頼りない馬鹿の子供より強くて頭の良くて、良識のある人の子供の方が良いって事でしょ?考えだけは理解出来ますけど、私としては面白くありません」

 面白くありません?そう言う抗議レベルで済ませられる話しなの??

 何と言うかこの世界、いや村の価値観に未だに順応仕切れてないな、意味が分からん。

「面白く無いのは分かっておる、本当そうするならば儂からも何か差し出す故、話しだけは覚えておいてくれ」

「分かりましたけど、簡単に納得はしないですから」

 あのぉ、俺の意志はどこに行ったのでしょうか?


 ――――――――


 それからは当たり障りの無い雑談をしてラド爺さんより別れ、俺達は集会所の中心部に来ていた。

 二人でダンスを踊る為だ。

 親密なのをアピールする大事な行事だ。

 俺はソフィアの細……くは無いな引き締まった腰に手をやり音楽に合わせて踊るが、踊るのはノリと勢いだ。

 ある程度決まったステップやらはあるがアレンジしたり柔軟なモノだ。

 まぁパーティーと言う訳でもない、見苦しく無ければ言い訳だ。

 下は11歳のニーナちゃんかな?上は多分今年49歳だったかのソフィアの父親だと思う。

 まぁ、気楽なダンスで、メインは二人で仲良く話す事だな。

「極夜が終わってしばらくしたら、二人で狩りに行こうよ、前行った凍った滝こ辺りとかその先とかに行って狩りをして二人で世俗から離れてのんびりするの」

 凍った滝だって順調に進んで片道3時間以上はかかる距離何だけど?

 まぁ、あの辺はどこの村とも離れてるし森だから獲物は多そうだったけど。

 この時期なら凍った川の上を走れば楽々と遡上出来るし良いと言えば良いのだが。

「安全……なのかね?」

 本当にそれだけが気になる。

「大丈夫だよ、私もカイも戦えるしそもそもあんな辺鄙な所に人なんていないって」

 たしかに辺鄙だ、冬で無かったらどうやって行くのかも分からんレベルの弩田舎だが。

「ここから川に沿って行くなら大回りだし、確か180km以上は離れてるんだが?」

 そう、めちゃくちゃ遠い、具体的には途中で村に寄り道するぐらい遠い。

「知ってる、昔一緒に行ったしねぇ~」

 そんなんは分かってるから、二人きりになりましょうってか。

「分かったよ」


 ――――――――


 そんなこんな二人で息を合わせて踊り、更に雑談に興じるその姿は端から見れば熟達した夫妻のそれであった。

「やっぱりおにぃとソフィアねぇさんは仲が良い」

「当たり前じゃん、私達が産まれる前からずっと一緒みたいだから殆ど半身みたいなもんなんじゃない?」

 アマリットお姉ちゃんの言う通りだと思う。

 時々ソフィアねぇさんが妬いたりしてるけど何か二人で始めたら凄い連携力、二人の間に言葉は要らないんだもん。

「羨ましいなぁ」

「その気持ちは分かる」


 祭りの調べは、夜闇に溶けていく。

 夜闇は全てと抱き込み、困窮せしモノには等しく死を与えうる。

 されど惑星の治安は回復する事を知らず、愉快な調べも無情な世界に呑まれ逝く。

 世に生きる者の誰もこの先の未来を知る事は無い。



 フリンジ(※1)ふさ飾りの事、マフラーやストールの端から垂れる紐っぽい飾り。

 スギヒノキ、オラユルサナイ、グハ。

 

 更新は不定期となると思いますので、気長に待っていただけると幸いです。

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