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第十話 後処理

 戦いそのものはおよそ一時間ほどで終わったと思う、時計もないから体感の話だしあまりあてにはならないかもしれない。

 それより気づけば俺は血まみれになっていた。少し寒いが、白いギリースーツと同じく血が付いた上着を脱ぎ捨てる。血は強力な感染源だからな。


 驚いたことに、捕らえた敵の中には婦女子もいた。

 戦後処理を続ける仲間をそのまま働かせ、俺は捕虜たちを“尋問”というより“詰問”する。

 彼らは意気消沈し、憤慨したり暴れたりする様子もない。これは意外だった。


 そこに並ぶ20人以上の捕虜たちは、腕を紐で縛られ、男はその辺の麻布をかぶせたり、布で目を隠したりしている。

 視界を奪われれば、人間も動物も案外暴れにくくなる。

 ただし、ほとんどは婦女子だ。しかも若く、いちばん年上でも三十前後に見える。


「ボリュシュ……捕虜が多すぎる」

 捕虜達を俺と一緒に見ていたミサさんが苦言を呈する。確かに彼らを囲っていくには食料も水も寝床も薪も要る。

「かといって、口減らしに殺すわけにもいかん」

 そりゃそうだだが当の捕虜たちは、その物騒な話に動揺している。


「はいはい、お二方。そういう話はあんまり公然としないでください、今はこいつ等に他に仲間が居ないかとか聞かないといけませんから」


 今後のやり取りを考えると、一応もう少し配慮があっていいかもしれない、威圧効果はあるだろうが暴れられると捕虜が目減りしてしまう。


「そうだな、うちの若い奴らに任せたらまた死人が出かねないが、どうするのかね?」


 確かに、既にボコボコにして殺してるもんな。


「ここは私にお任せ下さい」


 尋問に詳しい訳ではないけど、何も知識が無い訳ではない。


「それで、お前たちは何でこうなってるか分かってるんだろうな?」


 腕を撃たれ、いちおう止血されたうえで縛られ、膝立ちになっている男。その目の前で、俺はマーチンをちらつかせる。ちょっと“ヤクザ風”に聞いてみる。


「し、知らねえ! お前らが襲ってきたんだ!」


 この期に及んで、つまらん言い逃れだな。


「ほう。よく動く口だな。大人しくしゃべれば済むものを」


 腕を後ろに組みつつ、わざと彼の周りをゆっくり一周してみる。意味? ほとんどないが、雰囲気だ。


「そのよく回る舌を引っこ抜いてやってもいいが……」


 と、彼の背後で小声を落としてやると、ビクッと身を震わせた。


「……だが、それじゃ些かつまらんだろう?」


「な、何をするつもりだ!?」


 いいね、この怯えたテンプレ台詞を待ってた。


「“教育”だよ。空っぽの脳みそにも、よおくわかるようなね」


 そう言って、サボって野次馬していたレオとカイルを手招きする。


「こいつを、あそこの棒に縛ってくれ。手も足も上にして、ピンと張らせろ」


 まるで物干し竿にでも吊るすみたいな光景を、俺はぼんやり眺める。

 レオとカイルが「このつまらん意地をはる兄ちゃん」を縛りつけて二人で棒転がす。

 中吊りにしてもよかったかな、と今さら思う。


「さて、おまえらはそれを転がされないように持ってろ。おまえは、こいつを押さえとけ」


 適当にいたハーヴィ村の青年に捕虜を取り押さえて貰う。

 俺は転がっていた血まみれのタオルを取り上げ、男の顔にかぶせた。

 すぐに自分の水筒の栓を抜き、その上へトクトクとかける。ウォーターボーディング。

 言うまでもなく非人道的だが、少なくとも“非暴力”な尋問として有名だ。


「んっ!? んあっ!?」


 レオとカイルは棒を支え、もう一人が男を押さえる。ガタガタと暴れだす男を見て、俺は口角を上げる。

 笑い声は要らない。静かに“笑っているフリ”をするだけで威嚇になるからな。


「空気のありがたみがよーく分かるだろう? 動物になった気分はどうだ?」


 パチパチと拍手しつつ、のたうち回る男を眺める。

 あっという間に彼は苦しげに身をよじり出す。


「……動物になれたねぇ。極短時間でも溺死寸前になれる、素敵な方法だ。さて、そっちの諸君は話す気になったかい? それとも海老になりたいかな?」


 そう言ってるうち、一人目が動かなくなった。そろそろ限界か。


「よし、布を外せ」


「はぁ、はぁっ……ごほっ、ごほっ……!」


 誰も何も言わない以上、もう一度やるしかないかな。


「誰も口を開かないとは、残念だな。仲間を見捨てるんだ。なら、もう一度苦しんでもらおうか?」


 わざと芝居がかった口調で、男の顔に再び布をかぶせようとすると、


「や、やめてくれ! 話す! 何でも話す! 許してくれ!!」


 男が心折れたように叫んだ。


「でもな、君ひとりの証言じゃ足りないんだよ。仲間のためにも、もう一度がんばってもらおうか」


 布をべちゃりとかぶせかけると、まるで錯乱したように暴れ出す。

 すると12歳くらいの少女が泣き叫んだ。


「や、やめてください! 何でも話しますから、もうやめてぇ!」


 うーん、言い方が悪いな。


「君、捕虜の身で命令口調はよくないぞ。立場をわきまえて言葉を選べ」


 そう言いつつ、また水筒の水をかけ始める。


「何でも話しますから、やめてください! お願いです!!」

「そうよ、私も話す! お願い、もうやめて!!」


 捕虜たちの悲鳴が増してきた。まあ、待っていた展開ではある。


「よろしい。……布を取れ」


 やれやれ、さっさと吐けば簡単だったのに。


「おまえのほうがよっぽど物騒じゃないか……」


 ボリュシュさんが呆れ顔。俺は肩をすくめる。


「非暴力で最も効果的な穏当な尋問をしただけですよ。村でやった拷問ほどの直接的暴力は与えてないですし」


「穏当……か?」


 まあ、血を流す拷問よりはマシかもしれないが、気持ちとしては複雑だろう。


「俺のジョークスキルが低いのは今に始まった話じゃないんで、気にしないでください」


 さて、誰から聞くのがいいか?


「まず、なぜこの村を襲ったのか、そこから聞こうか」


 そう言うと、若い子たちはびっくりしている。何も知らなかったのか?


「食糧を分けてもらえなかったからだ!」


 さっきのウォーターボーディングを受けた男がそう怒鳴り返す。


「当たり前だ! 余剰食糧なんか無い!! おまえらが狩り場を荒らし回るせいでカリブーの移動ルートは変わるし、川の魚は横取りするし、罠も荒らすし、こっちの身にもなれ!!」


 今度は突然ブチ切れたボリュシュさんに、男がたじろぐ。


「で、でも、飢え死にしろってのかよ!」

「そうだ! 人の命まで奪って生きあがくくらいなら、餓死しろ! それに、てめえらはろくな対価も出せずに飯を要求するなんざ虫が良すぎる!」


 お互い声を荒らげている、怒鳴りあいなんて見てても面白くないな。

 この辺は、現実的に“施し”なんてできるほど余裕がない村だから仕方ない。


「……そうかよ。はあ……。俺なんかどうせ殺されても構わねえ。だが女だけでも助けてくれないか?」


 男が弱々しく言うので、俺はボリュシュさんに視線を送る。彼は難しい顔をしている。


「命を許す、という意味なら考えないでもない。しかし、“見殺しにはするな”という話なら難しい。捕虜が22人もいるんだぞ」


 改めて数えると22。成人男性を抜けば17人。徹底的に殲滅してしまったのか、逃げたのもいるかもしれないが……。

 ミサさんは顔に不満が浮かんでいる。


「うーん、戦闘で捕虜にしたんだから“戦利品”になるのかもしれないけど……」

「まあ理屈ではそうだろうな。漁ったところで大したものは持ってないし、結果的に“こいつら”しか戦利品はない。弾代の足しにもならん」


 本当に割に合わない戦いだ、戦いとは何て非経済的な行為なんだろう。


「私の村ほうで何人かなら引き取れますけど、全員は無理ですよ……。ちょっとソフィアを呼んでいいですか?」


「おう、ベリール。カイの嫁さんを呼んでこい」


 嫁さん? どこからそんな話が出た?


「ねえ兄さん、せめて子どもだけでも引き取りたいの。そこまで私に任せてくれない?」


 ミサさんが頼み込むが、ボリュシュさんは首を振る。


「よく考えてくれ。俺だって殺したいわけじゃない。だが家族を奪われた奴らが、こいつらを奴隷のように使うかもしれん。それが幸せか? 人として生きているといえるのか? なら、人として死んだほうがマシ、という考えもある……」


 何とも答えにくい問題だ。

 前世的な価値観でいえば“家族には責任がない”としても、この世界じゃ連座や補助犯扱いになりそうだし。

 子どもだけでも引き取れればマシだが、雪深い冬に移動させるのもリスクがある。


 そこでソフィアが小走りにやってくる。上着を脱いでいるから、少し寒そうだ。


「どうしたの、カイ?」

「迷っててな。助言が欲しい」


「ふーん。わかった」


 何やら機嫌よさげに見えるが……人を殺してもスッキリしたとか、そんなわけないよな?


「話を続けるますが。戦利品として、この村が彼らを引き取ります?」


 そう尋ねるとボリュシュさんは悩ましげに腕を組んで唸る。


「うーん。確かに人手はほしいが、監視に回す必要性があるしそれで人手がまた減るのがな」


 確かに、監視の必要はあるわな。

「そこは私が見るから」とミサさんは言うが、どうしても負担は大きい。


「でもこれじゃ、オスト村側が何も得られないだろ? 今回は弾薬や飯も融通してもらったのに、戦利品まで全部貰うなんて、悪い……」


 確かに、オスト村としても今回物資を無償提供したわけじゃない。返せる当てがあるかどうか。


「ソフィア、今回の物資は値段にしたら4万キャットくらいの値段だったっけ?」

「原価で3万7千キャットって聞いたわ」


 結構な額だ。俺の年間の稼ぎの何倍だろうか。


「金の話は後だ。戦利品をどうする?」


 正直、俺の権限でどうこう決められないが……。


「俺たちも要らないだろう。空輸するにも手間だし。何か軽くて換金しやすいモノならまだしも人間なんて貰っても持て余す」

「だよな……」


 ハーヴィ村も欲しいものはあるだろうが、結局頭が痛い話だ。


「はあ……。率直に言って、こいつらを生かしておく利益なんかあるのか? 労力しかかからん」

「ないな。あとは売り飛ばすくらいか?」

「そういえば、ここからかなり遠いウーノあたりに“人売り”があるとか聞いたが、輸送費ですぐ足が出そうだし、そもそも一応法律で奴隷は禁止だろ」


 つまり、まともに取り扱いできない厄介者というわけだ。

 このまま放り出せば、ほぼ100%凍死する。それがいちばん手軽かもしれないが、それじゃあまりに非情。

 かといって生かすにはコストがかかる。そもそも冬だから、移動すらリスクがあるしコストがかかる。春なら畑作業や開墾の手伝いをさせたりもできただろうが……。


「……どうしたらいいんだ」


 誰かが吐き捨てるように言った。吐く息が白く消えていく。

 この問題も、そうやって自然に消えてくれればいいのに。

 費用対効果や“人権”なんて、ここじゃ空虚な言葉。

 誰か手厚い行政をここに呼び出せないものか——そんなことを考えてしまう。

 万事気持ちよく解決、この世界はそんな生易しくはありません、人々は常に決断を強いられ、自責と苦悩の中で生きています。

 物語にそれを持ち込むのはどうかと思わなくもありませんが、それが私の紡ぐ物語です。

 万事綺麗に解決などしません、綺麗ごとだけではすみません、それでも主人公達が考え苦悩し日々を歩んで行く物語を私は書きたいと、そう思っています。


 更新は時折り不定期となると思いますので、気長に待っていただけると幸いです。

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