閑話 動乱の前触れ
俺はテゥーロン、この赤道近くの街トルヴェン市の郊外で果樹園を営んでいる。インテリさんの言うところの“農民”だな。
確かに、俺にゃ学がねぇ。普段使う単語を読むのと足し引きぐらいしかできねぇが、それでも果樹園の経営は回るもんだ。
第一馬鹿にしてくるおめぇらが食ってるリンゴや野菜は、誰が作ってんだって話しだ。
しかしどう言おうと実際馬鹿なのは事実だから認めるが、言われると腹が立つ。
けどよ、馬鹿な俺でも嫁さんとガキどもを食わせていける。まあそんな多少馬鹿にされたって、俺ももう若くねぇし気にしねぇってわけだ。
「おう、テゥーロン!相変わらず日に焼けて元気そうじゃあな!」
「おうよ、じいさんも腰が曲がらず矍鑠としてらっしゃる」
じいさんことボモルさんは、この市場の言わば“ドン”現場のお偉いさんだ。
「この目が黒いうちは元気だろうて。お前さんとこは今日は……リンゴと玉ネギかの?」
「そうだよ。家の氷室に、いつまでも転がしててもしょうがねぇからな」
「いいことじゃ。最近食い物の値が上がっとるから、儲かるぞ」
ほう? そいつは助かる。
ガキどももデカくなってきて、食う量も増えてきてる。
あれが欲しい、これが欲しいと煩いし金は幾らあっても良い。
「何かあったか?今年は、どっちかと言えば豊作だと聞いていたが?」
家じゃ穀物は作ってねぇから詳しくは知らんが、実りが良かったとみんな言ってた。
「うむ。最近きな臭いんだよ……例の“ぼりゅしぇぶき”とかいう連中と警察が、やけに揉めとる」
ああ、あの真っ赤な服を着てる連中か。
「オレはあんまり詳しく知らないが、酒場でケンカしたりしてるって話を耳にしたことがあるな。何でも若い活力を持て余してる連中だと聞いた」
俺も若い頃は喧嘩に賭けにいろいろやったもんだ、集まって馬鹿やるのは何時になっても変わるまい。
「そりゃただの若い連中はの……。さて、今は仕事じゃ、いつも通り向こうの事務所に行ってくれや」
ああ、そうだった。ここで雑談ばかりもしてられねぇ。
「おう、すまねぇな」
「うーい」
立ち去るじいさんの背を見ながら、俺もトラックを事務所の隣に停めていつも通り取引をした。
確かに、いつもより一割か二割ほど高値だ。みんな買い溜めしてんのかね?
そのまま市場で買い物をしたら、こっちも当然値が上がってる。
「ロン、なんだ、みんな少し高めだな? 今年は不作じゃないって聞いてたんだが?」
そう、顔見知りに聞いてみると、相手は渋い顔をした。
「最近治安が悪いんだよ。みんな買い溜めに走るもんだから、食糧がちょいと不足気味でね。お前さんなら横のつながりで安く手に入るだろう?」
横のつながり、つまりは農家同士の物々交換ってわけだ。
「まあな。だけど品揃えじゃこっちのほうが上だから、使い分けって奴さ。そんなに治安が悪いのか?」
するとロンは深い溜め息をついた。
「よくないね。赤共もそうだが、アナーキスト共も大概だ。どっちも街頭演説だけにしときゃいいのに、デモやストライキを画策して実行するから揉めるんだ」
うむ、分からんがなんか変な事をして困らしているのは分かった。
「なるほど。みんな外に出たがらなくなったから、買い溜めになるわけか……。早いとこ落ち着いて欲しいもんだな」
「ほんとそうだよ。今度、“公共安全令”とかいうのが出るらしいから、それに期待してるんだけどね」
公共安全令、か。内容は知らんが名前的にケンカ禁止ってとこか?いやいや、ガキじゃあるまいし……。
「わーた。んじゃ、また来週も出荷に来るし、今日はこの茶の葉だけ買ってくわ」
「おう、毎度あり」
この辺じゃ茶は作ってねぇし、たまには嫁さんに変わったもんでも……。
だけどまあ、しばらくは嫁さんがカリカリしそうな話題ばかりだ。はぁ、頭がいてぇよ。
出荷の軽トラを走らせながら家に帰ろうとすると、珍しく道が渋滞していた。
横を見れば歩道も混んでる。どうやら何かあったな。
事故かと思って先を見ると、黒い一団が道を塞いでる。たく、道のど真ん中で何やってんだ?
イラっとしながら前のトラックで見えないから運転席から降りてみれば、真っ黒の服を着た連中が横切っていた。
「なんだ、ありゃ?」
全員が黒い服や帽子、人によってはサングラスまでかけて行進してる。
「弾圧反対!」「自由か、死か!」「すべての権力を打倒しろ!」
あれか、例のデモ行進ってやつだな?
とにかく車に戻って、連中が過ぎるのを待つ。ほどなく道が進み始めた。
「確かに治安が悪化してる……のか?」
少なく先々週来たときは、こういう行進なんざなかったし何かしら動いているのは確かだな。
しかし、あんなので腰の重いお上もさすがに動くもんなのかね?
まあでも、お上が動くってんなら、来月あたりには落ち着いてるだろ。
ラジオを流しながら帰路を進んでいると、急に音楽が止まった。
「緊急速報をお伝えします。ただいまモール通りでデモ行進を行っていたトルヴェンアナーキスト革命連合と警察治安部隊が衝突しました」
はぁ!? 警察と一戦交えるって、正気かよ?
「警察が、違法な手続きを踏んでいない行進に対して解散を命じたところ、アナ連は投石で応戦。治安部隊が催涙弾と放水で制圧に乗り出し、同地域は混乱が広がっています。付近の方は近寄らないようご注意ください」
はぁ……これ、次に街へ来る頃には落ち着いてるのかね?
「警察よりの声明がありました。今後も、治安維持の観点からデモ行進は適切な手続きを経て日時を告知し、行うようにとのことです」
こりゃ……そう簡単に収まる話じゃねぇ気がするな。
何か、ろくでもねぇことにならなきゃいいが……。
今回は本物の閑話です、トルヴェン市はあんまり設定がまだ練り上がって無いんですけど、設定資料を書いていたら何となく話を思いついたのでノリに任せて書きました。
更新は不定期になると思いますので、気長にお待ちいただけると嬉しく思います。
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