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第九話 ハーヴイ村の積極的防衛

 戦争とは、ある日突然起きるものではない。

 たとえ数十人ほどの行軍であっても、それなりの準備が必要だ。


 この世界では贅沢になってしまったが、誰だって旅をするならある程度は荷物をまとめるだろう。

 まあ、「現地で全部買えばいいや」って、コンビニかスーパーにでも行くような装備で旅行に行く友人も昔はいたけど。ここでは金なんてほとんど役に立たない。

 酒なんかは重さの割に交換レートがいいかもしれないが……。


 何にしても俺たちの場合、寝床も自分たちで用意しないといけないし、食料も持って行かねばならない。

 鍋がないと雪を溶かせないから持っていく。鍋を使うにも薪がいるから斧やチェーンソーも必要……そんな感じでどんどん荷物が増える。

 さらに、戦争をする以上は弾薬がいるし、包帯も必要。タブレットタイプの鎮痛剤等々……。


 先ず普通の常備薬、今回のこれはアセチルサリチル酸だな。前世ならバ●ァリンといえば通じるだろう。

 あとは芥子カス。消しゴムのカスじゃなく、阿片アヘンの元になる白い液を乾燥させたもの。

 本来は違法なんだが、法律が機能していない世界では、安価な鎮痛剤として手に入りやすいというわけだ。仕方ないね。


「さてお前ら! 出発だ!!」


 号令とともに、俺たちは歩き始める。スノーモービルは荷物で山積みなので、乗る余地などない。

 その間、スノーモービル組は荷を目的近くの野営地に先回りして下ろし、ピストン輸送を繰り返すらしい。


「カイ」

「どうした?」


 マスクで顔はほとんど見えないが、声と服装でソフィアだとわかる。


「本当に戦うのね」

「ああ。長い長い、いつ終わるかもわからない戦だ。これがただの一時的な治安悪化で済むか、世の地獄が始まるか……」


 おそらくは後者かもしれない。

 オスト村は人口100人ほどの村。郵便もなく、自家発電のわずかな電力だけ。上下水道もない。

 このハーヴィ村だって、場合によっちゃ電気すらないかもしれない。

 そういう辺境で行政や科学が行き届かず、政治や経済も孤立している。教育不足と経済的停滞がもたらすものは大きい。


「犯罪者なんて、いきなり湧いてくるわけじゃない。この規模で集団化するかはともかく、似たようなことは繰り返されるだろうな」

「私たちだって飢えたら、狩られる立場になるのかな……?」

「飢えて犯罪に走るなら、そうなるだろう」


 捕らえた敵も、死体も、皆やせ衰えていた。栄養不足なのは誰の目にも明らか。

 それでも彼らは助けを求めず、略奪に走った。そこが一番気になる。帰ったら事情をちゃんと聞かないとな。

 俺も戦争ムードに呑まれてたけと思う、ちょっと反省だ。

 にしてもソフィアも考え込むように黙り込んでしまったし、何か明るい事でも言っておかないと場が持たないな...。


「そうならないように、敵を始末してさっさと帰るさ。俺としては、こんなとこで戦うより、ソフィアと仲良くしてたいんでな」

「わかった。それが終わったら二人で泊まりがけの狩りに行こうよ。きっと楽しいよ」


 そりゃあ、楽しそうだ。


 ――――――――


 たどり着いた野営地は、敵の野営地から林を挟んで2.5kmほど離れているらしい。

 もう夕暮れ。寒いが、火を焚けない。敵に見つかるかもしれないからだ、存外煙は遠くから見える。

 忙しなく準備が進む中、背嚢を下ろして身軽になり、夜襲に備える。


 俺はカリブーの干し肉をかじりながら銃の掃除。

 さらに持ってきた2本のナイフの1本をダクトテープで銃に巻きつけ、即席の銃剣にした。

 本当は喇叭でも吹きたいがそんなものあるわけない。

 笛もない。だから結局、声を張り上げるしかないわけだな、今度ホイッスルでも売っていたら買っておくか。


 そこで夜闇を待つが、暇というわけではない。テントも張らないと。


「おい、テントを建てるぞ!」


 みんなを促し、8人がかりで分厚い布を骨組みに支えて円錐形のテントを立てる。

 中には食料箱などを運び込んでおかないと傷む。ひたすら忙しい。


 雪をかき出し、テントの中には火の入れられていない簡易ストーブ、そして木箱が並ぶ。

 外はもう日が暮れ、夜の闇が広がっている。

 中を照らすためランタンに火を入れ、木箱の上に2、3個置けばいくらか明るい。


「さて、最後の確認だ。もし嫌なら、ここで下りていい。誰も責めないし、責めさせない。ここから先は命の危険が増すが……ついてくるか?」


 そう言うと、ソフィアを含めた仲間が互いに視線を交わす。


「カイは……いいの?」

 ソフィアがまっすぐ問いかける。

「死ぬ覚悟くらいはしてるさ。死にたいわけじゃないが、死んでしまったら仕方ない。逆に聞くけど、ソフィアはどうなんだ?」

「カイが死なないならいい。死んだら後を追うだけだから……」


 笑いながら言ってるわけでなく、目がちっとも笑ってない。怖いぞ。


「じゃあ死なないようにがんばるしかねえな。ここで死ぬなんてつまらんし。……みんなはどうだ?」


 レオが「今さら怖気づくのはダサいし……」などと言い、リサは「ボルトンじいちゃんの仇取らないとね」と続く。

 最年長のアレンも「ここでやらんと、あの賊どもが他の村を食い荒らして俺たちの故郷に来る。それを防ぐ」と意気込んだ。

 誰しも「行くしかない」という雰囲気。


「下がらないなら、ここより先は死地に向かう強者だ。今から臆するやつは卑怯者の(そし)りを免れないぞ。いいな?」


 わざと演技じみた口調で問いかけると、みんな真面目な顔でうなずく。


「「おう!(はい!)」」


「諸君の高い士気を誇りに思う。帰らぬ者が出るかもしれんが、恐れるな。敵に立ち向かえ。銃口を相手に向け、刃を突き立てろ! 俺たちの共同体は、諸君の勇気と行動を必要としている! さあ強者たちよ。愛する者を守るために戦おう。未来は我々の手にかかってるぞ!!」


「「おおーー!!」」


 ——皇国の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ……的なノリか。

 何とか演説がうまくいったらしい。

 中二病めいた熱さも、言葉の言い回しもこの状況では存外、役に立つのかもしれない。


 ――――――――


 私はソフィア・マキネン。農家の末娘で、普段は.22LR(ロングライフル)やショットガンで害獣や害鳥を狩っている。

 カイが行くなら、とついてきたけど、ひたすら歩きづめでしんどい……。

 本当はカイと二人で散歩するくらいなら楽しいかもしれないけど、これは戦うための行軍だ。


 カイを先頭に進むけど、思ったより足音がして、これで奇襲になるのかな?

 うちの仲間は全員、白い服の簡易迷彩を着ているが、ハーヴィ村の人たちは服装バラバラ。真っ黒やカーキ色の人もいる。

 しかも、拳銃やショットガンを持ってる人が先頭にいるらしいけど、中にはフォーク(藁を突き刺す農具)で参加してる人も……。大丈夫かな。


 不安を抱えながらも黙々と進む。

 一度だけ休憩があったけど、誰もほとんどしゃべらず、私はカイの様子を見てた。

 怖いくらいに真顔。ちょっと眉間にしわを寄せているように見える。緊張してるかもしれないけど、手足は震えてない。

 私は手の震えが止まらないのに……。


 敵地が近くなると、皆少し散開して前進。遠くに光が見える。あそこが敵の野営地?

 心臓の鼓動が速くなって、呼吸も荒くなっている。怖い。でも臆しちゃだめ。臆したら、カイも仲間も守れない。


 雪の上をできるだけ足音を立てずに近づく。あと50メートルもない。

 さらに20メートルまで近づくが、気付かれない? それとも敵が伏せてる?

 夜闇で視界が悪いけど、ボリュシュさんが手を上げて全員を止めた。そこから先はもう敵陣まで20メートルもないだろう。


 何人かが先行し、束ねたダイナマイトらしきものに火をつけ、敵陣へ投げ込む。

「ダン!! ドン!!」


「突撃!!」


 爆発に合わせて村の人たちが手を振り下ろして駆け出す。


「突撃にいぃぃぃ! 前へ!!」


 カイの号令で私たちも一拍遅れて走り出す。敵の目の前、たった20メートルを一気に詰めた。

 薪が積まれていたらしいものを飛び越えると、そこが敵陣。


 最初に私が見た“髭もじゃのおっさん”は、拳銃で撃たれて倒れ伏し、そのまま踏みつけられて見えなくなった。

 私も敵陣へ踊り込むと、寝ぼけた敵を迷わず撃ち殺すカイ。続けて、リサちゃんが倒れた敵をナイフで刺し、何度も何度も馬乗りになって刺しまくっている。

 動物の解体に慣れてるとはいえ、あまりに生々しい光景に一瞬恐怖を覚える。


 動揺を抑えようと銃をしっかり握り、さらに敵を探す。すると天幕から銃を持って出てきた男が……。

 目が合い銃を構えて筒先を向けて、照準器で相手のお腹を狙った。相手が銃を構えようとした瞬間、私は反射的に照準を上にずらして頭を狙って撃った。

 ためらうはずの心とは裏腹に、身体が勝手に“いつもの狩猟”をするみたいに引き金を引いたんだ。

 でもどこか冷静で、苦痛なく死ねるようにと頭に自然と照準をずらした自分に驚く。

 けど、呆然と硬直している暇もない。


「うらぁぁぁああ!!」


 雄叫びを上げる人々の波。

 立ち向かう男たちの影。その奥には逃げようとする女の人たち……。

 これが戦争……。


 もっと、もっと敵を倒さなきゃ。カイを守るため、故郷を守るため。

 震える手をぎゅっと握る。走ってきた敵を撃とうとトリガーを引く。


 カチ。


 ……不発!?

「もう知らない!!」


 私はストックの付け根を持ち、銃を鈍器として振り回す。ちょうどフライパンを構えて襲いかかろうとしてきた青年とぶつかり、勢いよく殴り倒す。

 青年が転んだところを、今度は銃身を持ちかえて殴打。

 地面でこちらと歳も変わらない顔の彼を、何度も何度もストックで殴り続ける。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 気づけば青年の顔面は潰れ、もう動かない。

 人の血で服が汚れてる。狩りで獣の血は慣れてるけど、これは違う。においが生々しくて、何ともいえない気分になる。

 でもまだ敵がいる。もっと殺さないと。


 近くでは村のおっさんが敵と取っ組み合っているのが見える。

 そのおっさんには腕章がついてるけど、敵のほうにはない。迷うことはない。

 後ろから頭を力いっぱい殴ると、怯んで倒れ込んだ敵は首を踏みつけられて絶命した。


「おお、助かったよ、嬢ちゃん」


 何を言われたか一瞬わからない。多分、血で興奮しきっていたんだろう。

「え……あ、ええ。おじさん、顔を冷やした方が……」

 おっさんの顔は腫れていたけど、こんな返ししか出ない自分が怖い。


「ハハハ。戦いが終わったらな!」


 みんな狂ってる。私も狂ってる。

 そう思いながら、さらに敵を探す。殺さなきゃ。

 正気で戦争なんてできるはずがない——そう深く感じた。

 更新は不定期となると思いますので、気長に待っていただけると幸いです。

 感想やご意見など、どうぞ気軽にコメントいただけたら助かります。

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