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第一話 転生世界での狩猟生活

 雪は止んでいるが、あたり一面には広がる雪景色が白く輝き、低い太陽がほんのわずかに影を落としている。

 息を吐けばその吐息が白く濁り、やがて空に溶けていく。


 一日中、雪原を歩き回ってようやく見つけた獲物に思わず口元がほころんだものの、すぐに気持ちを引き締めて慎重に距離を詰める。


 足跡と糞を追い、ようやく辿り着いた群れは十数頭ほど。何かを食んでいて動きがない。幸い、今のところはこちらに気付いていない。

 ここよりおよそ二百五十メートルか。遠いが、一応は射程圏内。

 もう少し距離を詰めるか。


 ゆっくりと移動し百メートルを切る程度に距離を詰めた。


 銃を構えて狙うが、向かい風なのが厄介だ。飛距離が落ちる。ただ近づくにも遮蔽物がない。どうする――と考えた矢先、一匹がこちらを向いた。


 しまった、気付かれた。すぐさま息を止め、狙いを定める。


――ダン。


 7.62×54mmの弾丸が狙い違わずカリブーの胸を貫き、一瞬のうちに倒れる。

 他の群れは驚き逃げ散るが、今日はこの一頭で十分だ。


「気をつけて逃げろよ~」


 そう手を振って声をかけてやった。

 逃げていく尻を何となく見て掘ってやりたくなるが、持ち帰れない獲物に意味はない。


「さて、これでしばらく肉には困らないな」


 カチャン、とボルトを引き、一発込めて安全装置をかける。

 空薬莢を拾ってポケットに突っ込んでおく。リムレス弾は詰め直せるからな。


 歩いて仕留めたカリブーのもとへ近づくと、胸を貫通していたようだ。この寒さで凍ってしまう前に急いで解体に取りかかる。

 足を切り離し、食べない内臓は捨て、食用になる部位をすべて肉にする。

 あばら丸ごと小袋に詰め、きれいに剥いだ毛皮と頭は大きな袋へ放り込む。


「おも……」


 さすがにこれを担いで帰るのは、十八歳の体――いや、人の体にはやや酷というものだ。一度この肉を置き、スノーモービルまで戻ることにする。


 目印を立ててから三十分かけてスノーモービルまで歩き、ここまで走らせてきた。

 後ろの橇に肉を載せていき、一応紐で縛っておく。


「よし、これで妹たちも喜ぶな」


 いまいち兄たちとは折り合いが悪いが、姉貴と妹たちだけは心底家族と思える。

 もちろん他の連中も嬉しがるだろうが、妹たちが喜ぶ姿が一番だ。


 こんな狩猟生活が本当に星間国家の一部かと時々思うが、十八年生きて調べた限り、それは事実らしい。

 惑星の名はエウレカ。ハイペリオン恒星系の第三惑星で、今世の祖国の名はアールカノ帝国。


 今は帝国暦3202年、エウレカの暦では十一月。とても寒いが、慣れた。

 このクソ寒いのは単純に極点近くというのが理由らしく、白夜や極夜も存在する。


 生活は厳しいが、この生き方自体は気に入っている。

 自給自足で、土地の所有権は主張次第。真の意味で自由でアナーキーな世界だから、無政府主義者や自己責任論者なら泣いて喜ぶだろう。

 殆ど税無く、学校も警察も軍もない。権力といった強制力に縛られず、自分と家族のために働いた分だけこうやって形になる。

 書類に追われたり、申請書類と格闘したり、長時間労働で命を削るより、よほど健康的じゃないかと俺は思う。


 今日は特に運が良かったせいか、鼻歌まじりで来た道を戻り、人口百五十人ほどの開拓村へ戻ってきた。

 小さなコミュニティで、ほぼ全員の顔と名前を覚えられるレベルの社会。

 前世なら「遠くが近く、近くが遠くなった」なんて言うが、こういう社会も存外悪くない。

 やや過干渉気味でプライベートというものが希薄なのが難点だが。


 外周の家に行くと、音を聞きつけた妹のアマリットが出てきた。


「おかえり~。何が獲れたの?」


 俺はモ神……じゃなく、M3033狩猟ライフルを下ろして渡しながら言う。


「カリブーだ。よく肥えたデカいやつだ」


 脂肪たっぷりでいいエネルギー源になるだろう。命に感謝だ。


「じゃあ、しばらくはお肉祭りだね」


 ニコニコと嬉しそうな妹に癒やされていると、母も出てきた。家族の中ではまだ関係が良好な相手で助かる。


「おかえりなさい。カリブーを狩ってきたって?」


「ああ、しばらく食い扶持にはなるだろう」


 スノーモービルを指すと、母もうれしそうに目を細める。


「よかったわ、これでしばらく食費も抑えられるわ」


 うちは父母と子供六人の八人家族。親父と長男は出稼ぎに出ているが、残った六人分の食費となれば蓄えはあっても、それなりの出費はするだろうしな。


「まあ、うまく料理してくれ。毛皮は俺のだからな」


「分かってます。そこまでがめつくありません」


 失敬だと言いたいが、家計が極端に苦しいときは毛皮までも売ろうとしていたのを忘れたのかね。


「じゃあ、とにかく手伝ってくれ。こいつを干して冷凍しておこう」


 母と妹に手伝ってもらい、肉を外で干して天然の冷凍庫で保存。今日の分は家に持ち帰り、夕飯になるだろう。

 家に入るとすぐ、狩猟と解体で汚れた服を洗濯籠に投げ込み、新しい服に着替える。

 この家は基本的に自室は両親だけ。俺は家の倉庫の一角を使わせてもらっている。少し寒いが、椅子に座って銃の手入れを始めた。


 クリーニングロッドで中を掃除し、油を塗る。撃ったあとの保守作業は欠かせない。

 それから弾も自作しなきゃいけない。工場生産品なら一箱二十キャットだが、自分で作れば五キャットで済む。

 だから中古で600キャットのハンドロード装置を買ってもらったが、もう十分すぎるほど元は取ったと思う。


 毛皮や肉を売っているし兄弟の中では一番稼いでいるんじゃないかな。

 とはいえ、ガンオイルやスノーモービルの燃料、弾薬代にどんどん消えるし、出費もかさむから利益はそうでもないかもしれない。


 何にしてもそういう目立つことばかりしているから兄に嫌われるんだろうな、出る杭は打たれるってやつだ。

 俺としては「美味い肉を食ってるんだから我慢しろよ」と思うが、年齢的にもそう割り切れる話でもないのだろう。


 親父は平凡な鉱山労働者で、町に出稼ぎしている。正直、嫌いだ。酒飲みだし、無計画に子供を増やして家計を火の車にして……しかも保守的で、俺が村で目立っているのが気に入らないらしい。

 控えめに言って面倒くさい。


「カイにぃ?」


 一番下の妹ヘルミがとぼとぼ来た。こんな作業中に声をかけてくるなんて珍しい。特に大人しい子で、普段は邪魔をしないようにそっと待ってたりするのに。


「ん? どうした?」


「隣に座っていい?」


「ああ、いいぞ」


 今日は上の妹アマリットとは別行動で、一人だったのかもしれない。ヘルミは自己主張が苦手で、ためこんでしまうタイプだから、こうやって甘えてくる時に拒むわけにはいかない。


 甘えたいと寄ってくる何とも可愛い妹だ、多分少し歳が離れてるのが幸いしているのだろう。


「隣っていうより、ここに座れば?」


 太腿をポンポン叩くと、素直にちょこんと座った。追加の弾作りは中断だが別にいい。急ぎでもないし。

 ヘルミを軽く抱きしめると、ほんのり暖かいし微かにいい匂いもする。落ち着く。


「カイにぃ、疲れてる?」


 物静かな分だろうかヘルミは人の機微に聡い、感づかれたら最後隠せるわけもなく、ここは素直に答える。


「まあな。朝からずっと外だったし今日は歩きが多かったんだ」


「ごめんなさい。カイにぃは無理しちゃダメなんだから」


 そう言って離れたヘルミの頭を撫でる。


「気にすんなって」


「ダメ。カイにぃ、頑張りすぎだもん。お母さんも“働きすぎ”って言ってたよ」


 冬は稼ぎ時だからな、繁忙期と言う奴だ。


「そうだぞー。帰ってきたばかりなのに、また作業してるし」


 サーラ姉さんがパーカー姿で出てきて、ヘルミを抱っこする。ヘルミは猫か何かかな?


「サーラねぇ、やめて。下ろしてってば」


 うむ、暴れる姿は完全に猫だな。


「はいはい。もう弾くらい私が作るから、そのへんで床の染みにでもなってて」


 床のシミって...それ殺されてないか……?


「その顔、“このアホにできるのか?”と思ってるわね。お姉ちゃんでもそれくらいできます~。勉強と手先の器用さは別ですぅ」


「まあ、うん、そうかもな。んじゃ最初は後ろで見てるから頼む。そこの紙に分量と手順が書いてある」


 俺の冬用毛皮コートやテントなんかは母とサーラ姉さんの手作りだから、手先が器用なのは知ってるんだ。ただ要領がどうも怪しい……。


「任せて」


 やる気のようだし、ヘルミと一緒に姉の“勇姿”を眺めることにするか。


「へえ、リムレス弾なんだ」


 そりゃそうだ。リムド弾なんて.22LRくらいしかないだろう。俺もボーイスカウトでの射撃訓練に使ったし、小動物を狙うのには良いけど家に無いんだよな。


「22LRの銃は持ってないからな。うちにあるのはM3033狩猟ライフルだけだ」


 まあ、調整は済ませてあるし弾を作る作業自体は難しくないし大丈夫だろう。


「待って。調整はしてあるけど、ちゃんと規定量か確かめてね」


 粉体計量器とパウダーファンネルを使って薬莢に火薬を入れ始めたサーラ姉さんを見て、思わず声をかけた。


「あ、ごめん。えっと3.2gね。大丈夫?」


 電子天秤に表示されてる数字が"3.2"なのを俺も確認するが、大丈夫なようだ。


「あぁ、問題ない」


 ねぇさんはどんどん流れるように薬莢に火薬を詰めていく。慣れれば手際はいいもんだ。


「次は……これで弾頭を固定すればいいの?」


「そう。弾全体の長さは78mmね」


 プレス機に火薬入り薬莢を置き、弾頭を差し込んでレバーを倒す。


「そこにノギスあるから測っといて」


「77.97mm……いいわよね?」


「もちろん、そんな感じでガンガン作ってくれ」


 用が済んだと見定めたヘルミが俺の手を引く。


「サーラねぇがやってくれるから、のんびりしよう?」


 妹に連れられリビングへ行き、ソファに身を沈める。


「はぁ~……」


「しばらく父さんは帰ってこないって」


 この時期だし、無計画に子供を作ったツケを払ってもらわないと。俺自身もその“子供”だけど、感謝すべきなのか。


「まあ、冬の間は狩猟に精を出すだけだな」


 はあ、こう考えると前世ってやつはずいぶん恵まれてたんだな……。


「はぁ……」


 自分でも分かるくらい溜め息が出る。


「幸せ逃げちゃうよ」


「そうだな……」


 ソファで目を閉じればすぐ眠れそうだ。

 獲物の追跡で歩き通しだったから今日は疲れたな、もう少しスノーモービルを使えばよかったと反省だな。


-----


「おにぃ、晩ご飯だよ。起きて!」


「疲れてるなら寝かせてやれば?」


「でも晩ご飯が冷めちゃうもん」


 ヘルミとアマリットの賑やかな声で目を覚ます。


「ああ……寝てたか」


「おはよう。ご飯だよ! おにぃが仕留めたカリブーだよ!」


 飯か、しかしアマリットは今日も本当に元気だなぁ。


 下から二番目の妹のアマリットは何というか、姦しい...元気な妹だ。

 ヘルミとアマリットはあんまり仲が良くない、別に悪いわけではない...と思うけど偶に喧嘩をしているな。


「あぁ、まだ眠いが寝てる場合じゃないな。毛皮をかけてくれたのか、ありがとう」


「気にしないで。当たり前の気遣い」


 ヘルミは少しツンとした態度をとるが、その気遣いが心から嬉しい。クーデレとかツンデレとかいうんだっけか。まあ可愛いわな。頭を撫でて起き上がる。


「遅いぞ」


 長男のアイノが不満げに言う。相変わらず敵意がむき出し。


「そいつは失敬」


 こちらは慣れているので適当に受け流す。母さんは機嫌がいい。蓄えでも冬を越せなくはないが、どうせなら肉が欲しいからな。

 今日のカリブーでしばらくは肉の心配をしなくて済む。むしろ燻製だの加工だのが少し大変くらいだが、サーラねぇや母さんも手伝うし大丈夫だ。


 兄貴らは穀潰し……まあ、年齢相応。下の妹二人も基本的には穀潰しだが、十一と九の小学生に働けと言うのは酷すぎるしな。

 ヘルミは運動苦手だけど「狩猟を手伝いたい」と言ってくれるし、来年はボーイスカウトに入るらしい。個人的には頑張って欲しい。


 上の妹マリアットは元気だけど、裁縫好き。狩ってきた毛皮を帽子やらに加工するのを教わっているイメージだ。

 今使ってるウシャンカはサーラ姉さん作だけど、マリアットも手伝ったらしい。加工賃は取らないが、売るなら山分け。


 そんなことを考えながら、俺は黙々と飯を食う。この家には食卓がない。料理を並べたテーブルから各自が皿によそい、床やソファに座って食べるスタイル。わりとこの辺じゃ普通だ。


「やっぱり疲れてる?」


「ああ。中途半端に寝たぶん、しんどい」


「ご飯食べたら寝なよ。弾はちゃんと作って、半分はクリップがあったからまとめて机の上に置いといたし、銃の整備は終わってるんでしょ?」


 クリップか。一応持ってるけど、ほとんど使わない。


「ありがとう、サーラねぇさん。助かるよ」


「まあね。それで、今回の毛皮も加工しちゃっていいの?」


「ああ、頼む」


 今度は幼なじみソフィアが持ってるみたいな水平二連のショットガンを手に入れたいな、ショットガンなら鳥も狙えるようになる。

 冬の間に沢山働いて稼ぐか。

 先ず最初に、この作品を手に取って頂き感謝致します。

 星間国家の辺境惑星を舞台にしたSF物語を本日より投稿させて頂きます。

 更新は不定期となると思いますので、気長に待っていただけると幸いです。

 感想やご意見など、どうぞ気軽にコメントいただけたら助かります。

 それでは、これからよろしくお願いいたします。

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