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すいか争奪戦

 みんなの視線が私に集まります。


「ハヅキさんは食べなくていいと思う」

『なんでよ!?』

「だって、『森の支配者』なんて似合わないもん」

「はなちゃん……」


 私はハヅキさんファーストなのです。


「花華もそう言うなら、やっぱりボクが――」

『ダメよ! これはハヅキが食べるのよ!』


 ホムラさんは食い下がり、サイカちゃんも譲りません。


「ボクが食べるんだ! よこせ!」

『嫌よ!』


 二人の語気が荒くなってきました。


「邪魔するな!!」


 ホムラさんが叫ぶと、その足元から炎が立ち上がり、彼を包み込みます。

 そして燃え盛る炎は、ホムラさんを頭の上にのせて大鹿に姿を変えました。

 

「そのすいかは、ボクの物だぁ!」


 ――――!!


 大鹿が私たちにに向けて炎を吹き付けました。 


「きゃぁ!!」

『ちょっと、あんた何するのよ!』


 炎は見えない壁にぶつかり、横へ広がっていきます。


「お前、何のつもりだい!!」


 ババ様は怒り心頭です。当然ですね。


「ボクはそのすいかを食べて、霊樹の森の王になるんだ!」


 大鹿の角の周りにいくつもの火の玉が現れました。


「いけぇっ!」


 ホムラさんの号令で、一斉に襲い掛かってきた火の玉は、私に届く前に弾けて消えてしまいました。


「はなちゃん、大丈夫?」

「はい。サイカちゃんが守ってくれたの?」

『そうよ。でも、ずっとはもたないわよ』


 その時、ジジ様が声を上げました。


「ホムラ! いい加減にせえ!!」

 

 ジジ様の声に応えるように、館の壁や床、天井から根っこや枝が伸びると、大鹿に巻き付いて、その動きを止めます。 


「邪魔ですよ!」


 次の瞬間、大鹿は炎に包まれ、根っこも枝も一瞬で燃え尽きてしまいました。


「なっ!!」

「木が炎に勝てるワケがないじゃないですか」


 木の焼ける匂いの中で、ホムラさんが勝ち誇るように言ったその時。立ち込める煙を切り裂くように,レーザービームが大鹿の額に命中しました。


「何をするんだ!」


 ホムラさんが睨む先、煙の中から姿を見せたのは……


「銀ちゃん!」


 銀ちゃんさんはコチラを向くと、一つ頷きました。

 

『あなた、ものすごく強いんでしょ、あんな奴やっつけちゃってよ!』

「ソレハ無理ダ。結界ノ中デハ、今ノ攻撃ガ限界ダ。ココハ私ニ任セテ、一旦結界ノ外二逃ゲロ」


 大きな瞳が、私たちに優しく微笑むように見えた次の瞬間、その視線はホムラさんに向けられ、とても厳しいモノに変わりました。


「チョウ、任セテモイイナ?」


 銀ちゃんさんはホムラさんを睨みつけたまま言いました。


「…………!」


 チョウさんがサムズアップで答えます。 


『じゃあ、行くわよ』


 サイカちゃんが言うと同時に、床に並べられたすいかが宙に浮きました。


「ダメだ! 逃がさない!」

 

 大鹿の火の玉が、私たちに襲い掛かります。


「――――!」

「チョウさん!!」


 見えない壁の外にいたチョウさんに、火の玉が直撃してしまいました。

 体中から煙をあげて、チョウさんはその場に崩れ落ちます。


「チョウくん!!」


 ハヅキさんの声に応えるように、チョウさんの手が小さく動いて、「行け」と言うように出口を指さしました。


「ハヅキ、花華、行くよ!」


 ババ様が言いました。


「で、でもチョウくんが……」


 ――チョウさんが死んじゃう。


 私たちがそう思ったその時。ジジ様が目をつむり、手を伸ばしました。

 すると、床に倒れこむチョウさんの周りに色とりどりの花が咲いて、彼の体を柔らかい光が包み込みます。


「大丈夫、ジジイが付いてる。チョウは死なないよ」 


 少し安心した次の瞬間、頭の上のミナモが鳴きました。


「キュッ、キュッ!!」


 危険を知らせてくれる時の鳴き方です。


「キュー、キュー、キュッ!!」

「……結界の外に、鬼どもが集まっているらしい」


 逃げ場が無くなってしまったみたいです。

 

 途方に暮れていると、サイカちゃんが口を開きました。


『スイカ、食べちゃえばいいのよ』

「で、でもわたし……」


 口ごもるハヅキさんです。 


 彼女自身が戸惑っているのに無理強いする必要があるのでしようか?


「ホムラさんにあげちゃったらダメなの?」 


 私はそれでいいと思い、そう言いました。

 私はハヅキさんには自由に生きてほしいと思うのです。


『ダメ! それにはなちゃんだって、あんなヤツが森の長じゃ嫌でしょ?』


 サイカちゃんの言葉で、ホムラさんを見ます。


 炎やレーザービームが飛び交う中で、ホムラさんは叫んでいました……。


「何故ボクの邪魔をするんだ!? 森の事はキミに関係ないだろ!!」

「ハヅキヲ傷付ケルコトハ、私ガ許サナイ」

「どうしてキミはそうやって、ハヅキばかり贔屓するんだ。あの『すまほ』もボクにはくれないじゃないか!」

「ハヅキハ特別ナ娘ダ。オ前ナンカトハ、価値ガ違ウ」 

「ボ、ボクを馬鹿にするな!!!!」


 ホムラさんが怒りに任せて乱射した火の玉を、銀ちゃんさんがレーザービームで撃ち落としました。


『ホラね、あれよ?』


 …………。


『だから、はなちゃんからも言ってやって』

「ハヅキさん……」

「う、うん」

「銀ちゃんさんとは、どいう関係なんですか?」

『は?』

「え? 銀ちゃんはお友達だよ」

「……そうですか」

『何の話してるのよ!?』


 でも、銀ちゃんさんが「特別」って……。


『もういい! ハヅキ、あなたはすいかを食べるべきなのよ!』


 もう私の事は、スルーのサイカちゃんです。


『みんなの望みだって、叶うかもしれないのよ!』

「…………」

 

 ハヅキさんは迷っています。本当は「高位の精霊」や「森の支配者」になんてなりたくないハズです。

 

 ハヅキさんの顔を見ようとして目が合いました。とても優しくてキレイな目が、ジッと私の顔を見つめています。 


「……分かった。食べるよ!」

「えっ!?」


 それって、私のためですか?


「ダメです。無理しないで下さい!」

「ううん、無理してないよ」


 天使のスマイルをまっすぐに向けて、ハヅキさんは私の頬に手を当てました。


「はなちゃん、はなちゃんの事はわたしが、絶対に家に帰してあげるから!」


 ハヅキさんは、すいかの一切れを手に取ると、決意するようにそれを口へ運びます。


「あッ!! 何をしてるんだ!!」


 その様子を見たホムラさんが、怒りの声を上げました。


 炎に包まれながら突進する大鹿を、見えない壁が阻みます。

 大鹿はその角を何度も壁にぶつけ、体当たりしながら炎をまき吹き出しします。


「きゃぁ!」 


 ――――!!


 見えない壁が防いでくれました。でも炎は明らかにハヅキさんを目がけたものでした。

 

 …………。


「勝手に食べるなぁ!!」 

『はぁ? あんたこそナニ勝手な事言ってんのよ!』

「ボクはこの森の守護神なんだ! だから、森の長にはボクが一番ふさわしいんだ!!」

「お前は何を言ってるんだい!?」

『そうよ。何言ってんのよバーカ!』

「ボ、ボクは馬鹿じゃない!」


 ……………………。


『ハヅキ、こんなバカはほっといて、早く食べちゃいなさいよ』

「う、うん」

「ヤメローォォ!!」

『もう! いちいち火を吹かないで!』

「ウルサイ!! ボクが食べて、ボクが森の王になるんだ!」

『ハヅキが食べれば、あたしの夢も叶うのよ!』

「夢って、なんだよ!?」

『アンタには関係ないわ。もう、ハヅキもグズグズしないで!』

「うん、ごめん」


 …………………………………………もう、聞いていられません。


「ハヅキさん、もういいです」


 私は一切れを食べ終え、二切れ目のすいかに伸ばそうとしたハヅキさんの手を掴みました。


「はなちゃん、どうしたの?」

「もう食べなくていいです……」

『え?』 

「ハヅキさん、もういいんです」

『え? え? どういうこと?』


 目の前に浮いているすいかの中から、私はその一切れを手に取ります。


「ハヅキさん……」

「何?」

「私が食べます!」

『「「「え?」」」』

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