不思議スマホのサイカちゃん
「え、わたし!?」
「ソウダ。私ノ分析ニヨルト、ソノ『スイカ』ノ中デ結界樹トハヅキノ『霊的エネルギー』ガ混在シテイルノダ」
「どういうこと?」
ハヅキさんは困惑しています。
「コノスイカニハ、既ニハヅキノ霊的エネルギーガ注入サレテイタノデハナイカ?」
「わたしの『えねるぎい?』なにそれ?」
ハヅキさんの霊的エネルギー……あっ!!
「あの時ですよ、ハヅキさんが不思議な力ですいかを軽くしてくれました」
「あー、あの時ね。あれがどうしたの?」
「スイカノ中デ結界樹ト、ハヅキノ霊的エネルギーガ融合シ、特殊ナ変化ヲ起コシテイル」
「つまり、どういう事なんじゃ?」
「ハヅキガ、スイカヲ摂取スルコトデ、特別ナ結果ヲモタラス可能性ガ高イ」
「「なんと!!」」
ジジ様とババ様の声がそろいました。
「ちょっと待ってよ! よくわからないけど、わたしに長なんて無理だよ!!」
ますます困惑するハヅキさんです。
「ハヅキや、誰かがすいかを食ろうたとしても、其奴が後継者足りえるとは限らんのじゃ。しかし主が食ろうてくれるなら、その見込みが高くなるという事なのじゃろう」
ジジ様の言葉に銀ちゃんさんが無言で頷きました。
「だけど、ハヅキさん自身が嫌がってるのに無理強いはダメです!」
私は断固ハヅキさんの意思を尊重します。
「でもね、ハヅキ……」
ババ様が優しく諭すように口を開きます。
「境界を安定させる事が出来れば、花華を家に帰してやることも出来るかもしれないよ」
「銀ちゃん、そうなの?」
「ハヅキガ結界樹ト繋ガルノナラ、ソノ可能性ハ高イト言エル」
「…………」
「アクマデ可能性ノ話シダ」
私の顔を見たハヅキさんが、私の頭に手をのせると嬉しそうに笑いました。
「わかった、そういう事なら引き受けるよ!」
「で、でも、ハヅキさん嫌がっていたじゃないですか。私のために――」
「だいじょうぶ!」
私の言葉を遮ると、ハヅキさんはジジ様に向かって、
「どんな結果になっても、私は長はやらない。それでもいいでしょ?」
と、言いました。
「ああ、それで構わん」
「しょうがないですね、それなら長はボクが引き受けましょう」
ホムラさんの長宣言を無視して、ババ様はハヅキさんに声を掛けます。
「ハヅキは花華の為だけを考えていれば、それでいいさ」
「うん、そうする」
満面の美少女スマイルが私に向けられました。
「誰が何と言おうと、ハヅキさんは天使です」
「え? 誰が何を言ってもわたしは精霊だよ」
「……アタシはもう何も言わないよ」
私の運命はハヅキさんに委ねられました。本望です。
「でも、こんなに大きいのどうやって食べればいいの?」
ハヅキさんが、すいかを見つめて言いました。
「私ニ任セロ」
銀ちゃんさんが床に置いたすいかに手を伸ばすと、指輪からレーザービームの様な光線が飛び出し、すいかは八等分に切り分けられました。
「なっ!? 結界の中なのに!?」
ホムラさんが声を上げました。
「私ハ特別ダ」
銀ちゃんさんはそれ以上何も言いません。ますます謎の深まる銀ちゃんさんです。
「じゃあ、食べるね」
切り分けられたすいかを一つ手に持ち、ハヅキさんはそれを口に運びます。
「おいしいですか?」
私がそう聞くと、ハヅキさんは「うん」と頷きました。
一切れを食べきり、もう一切れに手を伸ばそうとした瞬間、ハヅキさんの全身が眩しく光りました。
「「おお!」」
見覚えのある優しい光に、緑色が混ざった様なそんな光。その光はハヅキさんを飲み込んでいきます。
そして光は一度大きく広がった後、何故かハヅキさんのポケットの中に収束していきました。
「…………」
「ハヅキ、何か変わったことはあるかい?」
ババ様が尋ねます。
「えーと……」
「ハヅキさん、ポケットの中を確かめてください」
「あ、うんそうだね」
ハヅキさんはスカートの右ポケットから、不思議スマホを取り出しました。
「……はなちゃん、これ何か分かる?」
そう言って見せてくれたスマホの画面にあったのは“sAIka”と書かれた、すいかのマークのアイコンです。
「多分、アプリ……です」
前に見た時には無かったはずです。
「ここを押せばいいんだよね」
ハヅキさんが謎のアプリをタップしました。するとスマホが緑色に光りながら、ハヅキさんの手からフワリと宙に浮きあがりました。
そして緑色の光が収まると、スマホの画面に鮮やかな緑色の髪の小さな女の子が現れたのです。
『こんにちは、ハヅキ。あたしはサイカ』
――――!?
どことなくハヅキさんに似たその美少女が、画面の中から話しかけてきました。
「……はなちゃん」
ハヅキさんは助けを求めるように私を見ます。
「こ、こんにちは」
困っているハヅキさんの代わりに答えます。
『あなたは、森実家のはなちゃんよね』
「は、はい、そうです。あなたは誰ですか?」
『あたしの名前はサイカ。あたしはハヅキと結果樹の霊力が合わさって生まれた精霊よ、よろしくね』
スマホの中の精霊サイカはニコッリと微笑みます。
「サイカ……ちゃんは、どうしてそんなトコロにいるの?」
『んーよく分からないわ。あたしはこの鏡の中で生まれたのよ』
「銀ちゃん、分かる?」
ハヅキさんが銀ちゃんさんを見ます。
「ソノ端末ハ、ハヅキノ霊的エネルギーヲ動力源ニシテイル」
不思議スマホの秘密が明かされました。
「それで霊体の依り代となったわけじゃな?」
「恐ラク」
なるはど、そうだったんですね。
「よく分からないけど、これではなちゃんは家に帰れるの?」
ハヅキさんんが尋ねました。
『無理ね』
「どうして!?」
『理由なんてないわ。無理だから無理、それだけよ』
…………。
『そんな事より、残りのすいかは食べないの?』
「全部食べれば、はなちゃんが帰れるの?」
『何とかなるんじゃない? だってハヅキは高位の精霊になれるのよ』
「――!! それはどういう意味ですか!?」
サイカちゃんの言葉に、ホムラさんが食いつきました。
『そのすいかは、森実家のヒトが育てたものよね?』
「はい」
ウチのお祖父ちゃんです。
『森実家のヒトたちは、霊樹の森に愛されてるの。だからそのすいかも特別なのよ』
「……たしかに、森実家の人間が育てたものが森に持ち込まれた事は、今回が初めてかもしれんのう」
ジジ様はそう言って、膝を打ちました。
私も森に歓迎されているような気はしていました。でも、
「どうして森実家なんですか?」
『理屈じゃないの、相性よ』
「それで、高位の精霊というのはなんですか?」
ホムラさんが焦れる様に聞きました。
『霊樹の森の霊力は全てハヅキが掌握することになるわ。つまり森の支配者ね』
「え……」
ハヅキさんの表情が曇りました。
「それはハヅキでなければ駄目なのかい?」
『そうねぇ。すいかの霊力は強力だから、誰が食べてもそれなりの奇跡は起こると思うわよ。でも――』
「そういう事なら、ボクが食べてもいいんじゃないですか!」
いつの間にか私の肩から降りていたホムラさんが、すいかに近づこうとしています。
『ダメよ!!』
見えない壁のようなものに、ホムラさんは弾き飛ばされました。
『このすいかは、ハヅキが食べるべきモノだわ!』
「何故ですか!?」
『だって、すいかにはハヅキの霊力が宿っているのよ。だからハヅキのモノよ!』
「すいかは、花華の物です!!」
『それならやっぱり、はなちゃんと一番仲良しのハヅキが食べるべきよ。ねぇ?』
スマホ画面の中からサイカちゃんが、私を見ます。
「私は……」