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大鬼の襲撃

 私たちは、あれから一時間くらい森を歩いています。


 木は生きているように動くし、動物たちは見たことのない不思議な生き物ばかりです。


 今から五分ほど前には、ペガサスの様に翼の生えた犬?が私の前に飛んできて、お腹を撫でさせてくれました。とても可愛くて、癒されました。


 森の事も小鬼の事も、私自身のこれからの事も考えても分からないことばかりです。


 でも、それでも考えてしまうのはハヅキさんの事です。


 夢中でキッキの事ばかり考えていた私が、今はハヅキさんの事ばかり考えています。 

 

 今の私にとって、美少女と言えばハヅキさんの事なのです。


 つまり、推し変です。「超」神推しです。

 

 でも、ハヅキさんは不思議な森の精霊さんです。


 ジジ様に会い、この森を出て家に帰ることが出来た後、私はまたハヅキさんに会いに来ることが出来るのでしょうか?

 

 ハヅキさんの不思議スマホは、不思議すぎて連絡の取り方がわかりません。

 自分のスマホで一緒に写真を撮ることも出来ませんでした。


 これから私の推し活はどうなるのでしょうか……。


「――はなちゃん、もうすぐ着くよ」


 一人で考え込んでいると、ハヅキさんが声をかけてくれました。

 

 私たちが歩く先に、一際大きな木が立っているのが見えます。


「あれが、結界樹だよ」


 ジジ様がいる場所ですね。


「もうすぐ家に帰れるよ」

「……はい、そうですね」


 もうすぐハヅキさんとお別れするのかと思うと、少し足が重い気がします。


「――キュ!! キュ!!」 

 

 突然、頭の上でミナモが強く鳴きました。


「敵が来るのかい?」

 

 ババ様の言葉に緊張が走ります。不穏です。


「……」


 チョウさんが無言でミナモをジッと見つめます。 


「キュー!」

「……!」

「キュ、キュ、キュ!!」

「……!!」


 ミナモが何かを訴えています。


 チョウさんは「分かった」というように片手をあげると、森の奥を睨みながら手で「下がれ」と私たちに指示を出します。

 

 私は指示に従い、チョウさんから少し離れます。

 

 しばらくすると、木をなぎ倒すような大きな音が森の奥から聞こえてきました。

 その音が徐々にこちらへ近づいてきます。


「大丈夫だよ!」

「は、はい」


 ハヅキさんの声に応えます。


 ハヅキさんは、優しく微笑んでいます。

 私が怖くないようにと振舞ってくれているのがわかりました。


「ハ、ハヅキさんは、私のてん――」

「後にしな」


 ババ様に怒られました。……自重します。


「キュ!!」

「来たようだね」


 ――――!? 


 木をなぎ倒しながら、森の中から現れたのは大きな「鬼」です。 

 見上げるほどの巨大な鬼が、何人もの小鬼を引き連れています。   

 

 大鬼(仮)は小鬼たちと同じ赤茶色の肌で、額から大きな二本の角が生えていて、丸太の様に太い腕で大きなこん棒を肩に担いでいます。


 目の前で仁王立ちのチョウさんを一瞬見た後、大鬼は怖い目で私を見下ろします。


「オイッ」

 

 大鬼が私を指さしました。

 

「それを置いていけ!」

 

 それ?  


 状況の分かっていない私の代わりに、ババ様が対応してくれます。


「これは、まず長の所へ持って行く」


 これ?


「ダメダ、オレ達が食う!!」


 食う? わ、私を!?


「このすいかは、お前の物ではない!」


 え、すいか? 


 ……私は自分の手元を見ます。そこにあるのはお祖父ちゃんの小玉すいかです。

 山本さんに届けるために預かっているだけなので、正確には私のすいかではありません。


「あ、あの、すいか、あげますよ」


 お祖父ちゃんが「今年は出来がいい」と言っていたので、多分とても美味しいと思いますよ。


「花華、待ちな!」


 ババ様に止められました。


「え? 大丈夫ですよ。お祖父ちゃんに謝らなくちゃいけないけど……」


 もらったお小遣いを返して、なんとか言い訳を考えます。


「……花華、ここはアタシの言う通りにしてくれないかい」


 少し困ったようにババ様が私を見ます。

 

 その目はとても優しいです。ババ様のことは信用しています。


 でも、すいか一つで収まるならそうしたいです。

 ずっと私を睨んでいる大鬼がとても怖いから……。

 

「はなちゃん……」


 ハヅキさんが心配そうに私の背中に手を置きました。


「ハヅキさんは、どうしたらいいと思いますか?」

「え、えっと……」


 ハヅキさんは少し考えた後、私の目をまっすぐに見ました。


「わたしはババ様を信じてほしい!」

「わかりました。じゃあそうします」


 ハヅキさんが言うならそうします。


「ふざけるな!!」


 大鬼が激怒しながらこん棒を振り下ろします。


「チョウ!!」


 ババ様が叫びます。


 振り下ろされたこん棒を、チョウさんが片手で受け止めました。


 大鬼が両腕に力を込めて、こん棒を押し込もうとしますがチョウさんは全く動きません。

 その背中からは、真っ白な湯気が立ち上っています。


 大鬼は一歩下がると、バットスイングのようにこん棒を振りぬきます。

 チョウさんはそれを回し蹴りではじき返しました。


「グアァァアア!!」

「……」

「ズアァァァ!!」

「……」


 雄たけびを上げながら振り回す大鬼のこん棒を、チョウさんはクールにいなし続けています。


「スゴい!」

「チョウくんかっこいい!!」


 素敵です、チョウさん!! 


「ハヅキ! 花華!」


 華麗に戦うチョウさんに見とれていた私たちの間に、ババ様の声が響きます。


「「ギギギギッ」」


 五人の小鬼が、チョウさんと大鬼の戦いを避けるように、遠巻きに私たちへ近づいてきていました。    


 ――ピンチです。


 思わず後ずさりすると、大きな木に背中が当たりました。逃げ場はありません。


「……!!」


 チョウさんが私たちのピンチに気付いてくれました。


「行かせない!!」


 大鬼がチョウさんを両腕で抱え込みます。

 チョウさんは必死に抵抗しますが、なかなか抜け出せません。


 小鬼たちが、こちらに手を伸ばしながら迫って来ています。 


「はなちゃん!」


 ハヅキさんが私と小鬼たちの間に立ちはだかります。


「ドケ、三日月の小娘! 殺すぞ!!」


 ――――!!

 

 大鬼の「殺す」の言葉に私は思わず、ハヅキさんの一歩前に出ます。


「ダメ!!」


 ――すいかなんて、もうどうでもいい。ハヅキさんに酷いことしないで!!


「ギギッ」


 小鬼の手がお祖父ちゃんのすいかにふれました。


「キュー!!」

「「「「「キュ! キュ! キュー!!」」」」

 

 私の頭の上でミナモが大きな声で鳴くと、森の中から大勢のミナモが一斉に飛び出して、小鬼たちにおそいかかります。


「キュー!」

「キュ、キュ!」

「キュッ! キュッ!!」


 ミナモは小鬼の顔に飛びかかり奮闘していますが、愛くるしい小動物のミナモでは小鬼には勝てません。


 ミナモが次々と振り払われ、小鬼が再び手を伸ばそうとしたその時、私の背後の木から何本もの蔓が生き物のようにうごめきだしました。


 蔓はそれぞれが意思を持つように小鬼たちを捉えていき、小鬼たちはアッという間に蔓に縛り上げられてしまいました。

  

「ナッ!?」

「……!!」


 突然の状況に唖然とする大鬼の腕を振り払い、チョウさんが右ストレートを打ち込みました。


「ガアァッッ……」


 チョウさんの右腕が大鬼のお腹にめり込んでいます。とても痛そうです。


「――――」


 大鬼は白目をむいて膝から崩れ落ちました。チョウさんのKO勝ちです。

 


 ……大鬼は全く動きません。もう安心です。


「館が近くて助かったねえ」


 ピンチが去ってホっとしていると、ババ様が言いました。


「どういう事ですか?」

「さっきの蔓はジジイの仕業なのさ」

 

 私たちを助けてくれた蔓は、今も小鬼たちをしっかりと拘束してくれています。


「ジジ様が助けてくれたんですか?」

「ジジ様はこの森の長だから、森の木たちはジジ様の言うこと聞くんだよ」

「ジジイが近くにいればだけどね」


 なるほど。そういう事だったんですね。


「ジジ様は命の恩人ですね」

「そうだね」


 私の頭に手を置いて、にっこり笑うハヅキさんです。


「チョウさんもありがとうございました」

「……」


 チョウさんは「気にするな」という感じで、小さく手を振りました。


「それからミナモもね」

「「「キュ、キュ」」」


 ミナモはうれしそうです。


「また面倒くさいやつが来ないうちに行こうか、目的地はすぐそこだ」

「そうだね、はなちゃん行こう」

「はい」


 私たちはまた歩き出します。


 少し行くと目の前に半透明な光の幕のようなものが現れました。

 よく見ると、その幕は結界樹をドーム状に覆っているのが分かります。

 

「この中に入っちゃえばもう安心だよ」


 ハヅキさんの言葉で、私は幕の向こう側に目をやりました。


「あれが、結界樹の館だよ」


 そこには大樹と一体化した屋敷があります。


「さっさと入るよ」


 ババ様に促されて、光のドームに足を踏み入れます。


「えっ!?」 


 ドームの中入ったその瞬間、そこに漂っていた光の玉が一斉に私の手元のすいかに吸い込まれていきました。


 …………。

  

 今、お祖父ちゃんのすいかが、何故だか眩しく光っています。

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