不思議スマホで撮影会
スマホのカメラでミナモを撮ったのに、何故かミナモが写っていません。
…………。
「あの、ハヅキさん写真撮ってもいいですか?」
「うん、よく分からないけどいいよ」
私はハヅキさんに肩を寄せて、シャッターを切ります。
「やっぱり……」
写真に写っているのは、緊張して笑顔のぎこちない私だけです。
世界一の美少女を写真に収めることが出来ませんでした。とても残念な気分です。
「それ、わたしのでも出来る?」
「え、はい多分出来ると思いますよ」
私はカメラの使い方を教えます。ハヅキさんの不思議スマホでも、問題なく教えられました。
ハヅキさんが、不思議スマホを構えて私に顔を寄せます。
「じゃあ撮るね」
「は、は、はい」
ハヅキさんはシャッターを切ると、すぐに写真を確認します。
「……よかった、うまく撮れてる」
ハヅキさんが撮った写真には、真っ赤な顔の私と一緒に、ハヅキさんも肩の上のババ様もちゃんと写っています。
「はなちゃん、これ撮って!」
上機嫌のハヅキさんはそう言うと、真っ白な光に包まれました。
光が消えて現れたのは、キッキの衣装を着たハヅキさんです。
「へへ、さっきのヤツだよ」
ハヅキさんがはにかんでいます。とてもかわいいです。でも……。
「私はハヅキさんのスマホ、使えません」
「あっそうだった」
私としても無念です。
「いろんな服に着替えていっぱい撮って欲しかったのに」
「それなら、動画にしませんか」
ハヅキさんに説明して、不思議スマホを動画に切り替えた後で、私が預かります。
スマホを向けるだけなら、私にもできます。
「どう? ちゃんと撮れてる?」
「はい、撮れてると思います」
不思議スマホの画面では、キラキラ美少女が空中から手を振っています。
「よーし。どんどんいくよ!」
ハヅキさんが次々と違う衣装や髪型に変わっていきます。
変身美少女ファッションショーが始まりました。
なんでしょうか、この楽しい時間は。
「二人は相性がいいんだねえ」
いつの間にか私の肩の上にいたババ様が言いました。
「相性ですか?」
「ああ、人間と精霊とは思えないほど仲がいいじゃないか」
スマホから目を外し、ハヅキさんを見ると目が合いました。
満面の笑顔のハヅキさんが、私に向かって手を振っています。
私とハヅキさん……。
「――――キュッ!!」
突然、私の膝の上でくつろいでいたミナモが、向きを変えて強く鳴きました。
その視線の方へ振り向くと、木と木の間に人影が見えます。
人影はよく見ると、額から角の様な物が生えていて、そして赤茶色の肌をしています。
鬼に見える何かが、私の事を睨んでいます。
「ちっ、面倒くさい奴らに見つかったね」
ババ様がそう言って、渋い顔をします。
「何? どうしたの?」
ハヅキさんが、ババ様を見ます。
ババ様は、鬼(仮)を睨みつけたまま、なにも何も言いません。
なんだか不穏な空気です。
私は不安になって、ハヅキさんの腕をつかみます。
「はなちゃんも、どうしたの?」
「え、えっと――」
「ハヅキ、花華、先を急ぐよ!」
ババ様が強い口調で言いました。
「ねえ、どうしたの? なにがあったの?」
「小鬼たちに見つかった」
ハヅキさんの質問にババ様が応えます。
「見つかっちゃだめなの?」
「ああ、花華が狙われるかもしれない」
「「えっ!?」」
狙われるってなんですか!?
「どうしてはなちゃんを狙うの!?」
「それは……」
ババ様がまたお祖父ちゃんのスイカを見た気がしました。
「……話は後だ、まずはジジイの所へ急ごう!」
ジジイとはジジ様のことですね。
「チョウ、悪いけれどお前さんも一緒に来てくれないかい?」
ババ様の言葉に、チョウさんが右手を上げて小さく頷きました。
「すまないね、チョウがいてくれるなら安心だ」
喧嘩最強ですもんね。
「花華も行けるかい?」
「はい、大丈夫です」
あんまり休憩できなかったけど、緊急事態なので仕方がないです。
「じゃあ、行こうか。二人ともチョウのそばを離れるんじゃないよ」
「うん、分かった」
「は、はい」
私たちはジジ様のもとへ急ぐことになりました。
私とハヅキさん、ババ様にチョウさんを加えた四人で、ジジ様のいる、結界樹の館という場所へ急ぎます。
「はなちゃん!!」
ふいに、ハヅキさんが私の前に立ちました。
「平気?」
私よりも背の高いハヅキさんが少しかがんで、目線を合わせてくれます。
「私が狙われていると聞いて、不安です……」
正直、怖いです。
「はなちゃんには、わたしが付いてるよ!!」
ハヅキさんは私の手をギュッと握って、まっすぐに私の目を見つめています。
「あ、あの、あぁぁぁ、あの」
か、顔が近いです。
「はなちゃん……」
狼狽える私を見て、ハヅキさんは表情を曇らせます。
「そうだよね、怖いよね」
違います。見つめられて恥ずかしくなっただけです。
「はなちゃんの事は、わたしが守ってあげるから!!」
ハヅキさんの手にグッと力がこもります。
「ハヅキさんは、どこまでも天使ですね」
「違うよ、わたしはずっと精霊だよ」
「だから何の話だい」
なんだか少し元気が出ました。
「キュ、キュ」
頭の上から、かわいい鳴き声がします。ミナモです。
小鬼の事を教えてくれた子が、私の頭の上に乗っています。
「きっと、はなちゃんの事が心配なんだよ」
ハヅキさんが言いました。
ババ様の説明によると、「ミナモ」というのは種名ではなく個体名。ミナモは森中にたくさんいて、その全員で感覚や情報を共有しているそうです。
つまり、「全員で一つ」のミナモです。
「何かあれば、その子がすぐに教えてくれるさ」
ババ様が言いました。
「キュ!」
私の頭の上でミナモが鳴きます。「まかせとけ!」と言っているみたいです。
森中にたくさんの目があるミナモは、最強の見張り役だと思います。
「じゃあ行こうか」
ババ様の号令で歩き出します。ミナモも一緒です。
私の事を睨んでいた小鬼は、今はいません。
先を急ぐことになった私たちは、湖の畔を抜けて、チョウさんが先頭になり森を進んでいきます。