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ババ様とチョウくん

「この小っちゃいお婆ちゃんは、ババ様だよ」


 ババ様の身長は小さなペットボトルくらいです。ハヅキさんの目線の高さで浮いています。 

 ババ様は和装です、着物を着ています。「日本の精霊」という感じです。

 スマホを持ってなかった頃のハヅキさんも、和装だったはずです。着物姿のハヅキさんも、きっと美少女です。


「この子は、はなちゃん!」


 ハヅキさんが私の事を紹介してくれました。


「は、はじめまして、森実花華です」  

「もりさね……」


 ババ様は私の顔をじっと見つめています。小さいのにとても貫禄があります。


「森実茂一郎という人間を知っているかい?」

「もいちろう?」


 亡くなったひいお祖父さん名前が茂一郎だったはずです


「森実茂一郎は、たぶん私のひいお祖父さんです」

「茂一郎は今はどうしてる?」

「ひいお祖父さんは5年前に亡くなりました」

「そうかい……」


 どうして精霊のお婆さんが、うちのひいお祖父さんの名前を知っているのでしょうか?


「ババ様は、どうしてはなちゃんのひいお祖父さんの事を知ってるの?」


 ハヅキさんが聞いてくれました。


「70年くらい前に時々、ここに出入りしてた人間がいただろう? あれが茂一郎さ」

「あの男の人? はなちゃんはあの人の、ひ孫なんだ」


 びっくりです。驚きの事実です。 


「…………」


 ババ様がお祖父ちゃんのすいかを見つめています。食べたいのでしょうか?


「……あんた達、これからどうするんだい?」

「ジジ様に会いに行くよ。はなちゃんの事を相談したいから」

「ならアタシも付いて行っていいかい?」

「え、別にいいけど。はなちゃんもいい?」

「は、はい。大丈夫です」


 私がそう言うと、ババ様はハヅキさんの肩の上に乗りました。ここからは三人で先へ進みます。


「こっちの世界に入って来られた人間は、茂一郎以来だね」

「そうなんですか?」

「ああ、もっと昔は何人もいたんだけどね。」

「そうだっけ?」


 ハヅキさんはよく分かってないみたいです。


「ハヅキが生まれる前は、それほど珍しい事ではなかったからね。その頃から森実家の人間は特によく来ていたね」


 私のご先祖様たちは、ここの常連だったんですね。


「あの頃は条件さえ合えば、精霊が外界に出ることも出来たんだけどね。人間の世界が変わっていくにつれて、それも難しくなっていったのさ」

「え~そうなの!? そしたら、わたしも都会まちに行けてたのに」

「それは無理な話さ。都会なんてものが、こちら側とあちら側の空気を大きく変えてしまった要因なんだから」


 空気の違いは私もなんとなく感じました。


「花華が入ったきりで出られないのも、そこらが原因だろうさ」


 そうだったんですね。少し不安になってきました。


「大丈夫。入って来られたんだから、きっと出られるよ」


 ハヅキさんが不安になった私を励ましてくれます。


「ハヅキさんは、天使ですね」

「え? 違うよ、わたしは精霊だよ」

「何の話だい」



 

 森の中をしばらく歩くと、突然視界が広がり、目の前に大きな湖が現れました。


 湖畔に咲いた一面の花たちからは、たくさんの光の粒が舞い上がっています。

 とても幻想的な景色です。


「ちょっとここで休んでいこうよ」


 ハヅキさんが私の顔を覗き込んで言いました。  

 少し歩き疲れて休憩したいと思っていた所です。

  

「ああそうだね。そうしようか」

 

 ババ様も賛成してくれました。

 二人は、私に気を使ってくれたんだと思います。


「はい。ありがとうございます」


 私がお礼を言うと、ハヅキさんはさわやかな微笑みで返してくれました。


「やっぱり、ハヅキさんは天使ですね」

「だから違うよ、精霊だよ」

「またそれかい」


「あ、チョウくんだ!!」


 ハヅキさんが指さす先に目をやると、湖の中に誰かが立っています。

 膝のあたりまで水につかって、釣りをしているようです。手に釣竿を持っています。


「おーい、チョウくーん!」 


 ハヅキさんが手を振ると、チョウくんはこちらに向かって手を振り返しました。


 左右に揺れるその手には水かきがあります。

 チョウくんは全身緑色で、口元がくちばしの様に突き出ています。

 お皿は確認できませんが、どう見ても河童です。


「あ、こ、こんにちは」


 チョウくんが私にも手を振ってくれたので、挨拶しました。

 

「あのね、チョウくんは水の精霊なんだよ」 

「ヤツはああ見えても、とても高貴な精霊なんだ。水の神と呼ばれることもある」

「チョウくんは、とっても喧嘩が強いんだよ。ほかの精霊にも負けたこと無いんだって」 


 チョウ……さんは河童じゃ無かったみたいです。とても偉くて喧嘩最強の精霊でした。


「でもチョウくんはとっても優しいから、怖くないよ」


 それなら安心ですね。


「何か釣れた?」 


 ハヅキさんが、湖の上を飛んで行ってチョウさんの魚籠を覗き込みます。


「…………」


 チョウさんが無言で、釣った魚を見せてくれました。

 自慢気に見せてくれた魚は透明で、青白く仄かに光っています。

 この魚はどうやって食べるのでしょうか?



 私はその場に腰を下ろして、湖を眺めます。


 水は透き通っていて、とても綺麗で、その上をたくさんの光の帯が飛び交っている神秘的な湖です。

 

 湖面には子猫のような、リスのような、見たことのない小動物たちが、水の上で佇んでいます。

 つぶらな瞳と目が合いました。

 私が手を振ると、しっぽが一斉に揺れます。


「この子たちの名前はね、ミナモだよ」


 ハヅキさんが私の隣に座ります。


「この子たちは、みんな同じ子なんだよ」


 同じ?


「兄弟って事ですか?」

「ううん、同じ。全員で一つ」

「なるほど、そうなんですね」


 よく分からないけど、分かった事にします。


「この子たちも精霊ですか?」

「精霊には違いないが、アタシらとは違って獣に近い存在、この森の一部と言える存在さ」

 

 ババ様が答えてくれました。


「キュ、キュ」

「ん?」


 いつの間にか一匹のミナモが私の膝の上にちょこんと座って、私の顔を見上げています。

 全く重さを感じないので、気づきませんでした。 


「キュ」 


 そっと頭をなでてみます。

 

「キュゥ」


 ミナモは気持ちよさそうに目を閉じます。癒されます。


 思わず、スマホを取り出して写真を撮ります。


「あれ?」


 スマホの画面に、写したはずのミナモが写っていません。

 これは、嫌な予感がします……。

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