変身美少女ハヅキ
私は、ジジ様というヒトの家に向かうために、森の小道を進んでいます。
ハヅキさんが連れて行ってくれます。今となりを歩いています。どう見ても美少女です。
「ハイ! これで平気でしょ?」
「はい、ありがとうございます」
お祖父ちゃんのすいかをハヅキさんが不思議な力で軽くしてくれました。
ハヅキさんが手を触れると、すいかが一瞬小さく光りました。すると、ふわりと軽くなったのです。
軽くなって、楽になりました。
私たちは森の奥へ進みます。やっぱり、ここは不思議な森です。
まず生えてる木が不思議です、枝が動いています。私に向かって手を振るように揺れています。
小さな光の玉が、私の周りをぐるぐると回っています。挨拶してくれているみたいです。
なんとなくですが、私は森に歓迎されている気がします。よく分かりません。分からないことばかりです。
とりあえず状況を整理しようと思います。でも一人で考えていてもどうにもなりません。
「質問してもいいですか?」
ハヅキさんに聞くしかないですね。
「いいよ、何でも聞いて」
一番知りたいことを聞きます。
「ハヅキさんは、どうしてそんなにおしゃれなんですか?」
ハヅキさんは精霊なのにまるでモデルさんみたいです。
「え、そんなことが聞きたいの?」
はい、一番知りたいことです。美少女の謎です。
「えっとね、スマホでいろいろと調べてね、都会の女の子たちが可愛かったから真似したの」
意外な展開です。
「スマホ持ってるんですか!?」
「うん、少し前に銀ちゃんがくれたんだよ」
ハヅキさんが、うれしそうにスマホを見せてくれました。宝物だそうです。
急いで自分のスマホを確かめました。やっぱり圏外です。
ハヅキさんがスマホを貸してくれました。私がさわっても反応してくれません。
「銀ちゃんのスマホは特別だから」
銀ちゃんとは何者ですか?
「銀ちゃんはね、五十年くらい前に森の外から来たんだよ」
「銀ちゃんさんも精霊さんなんですよね?」
「ん~よくわからないけど、もしかしたら違うのかもしれない。銀ちゃんって何者なんだろう?」
謎の生命体「銀ちゃん」です。
「あっ! 銀ちゃんにお願いしたら、はなちゃん帰れるかもしれない!」
「そうなんですか?」
「うん。でも銀ちゃんはいつもジジ様と一緒にいるから、やっぱり結界樹の館に行かなきゃね」
どのみち目的地は同じみたいですね。なら質問を続けます。
「ハヅキさんはネットで服を買ってるんですか?」
「え、ううん、買ってないよ。買えないし」
「そうなんですか? それなら、そのおしゃれな洋服はどこから?」
「これ? えっとね……見せた方が早いから、ちょっと見てて」
そう言って、ハヅキさんはじっと集中するように目を閉じると、体が宙に浮き上がりました。
「いくよ。見ててね」
次の瞬間、ハヅキさんの体が真っ白な光に包まれました。
とても優しい光です。すごく眩しいはずなのに目を開けていられます。
徐々に消えていく光の中に、ハヅキさんの姿が見えてきました。
「えっ!?」
目の前に現れたハヅキさんの姿は、さっきまでと全然違います。
金髪から黒髪に変わっています。そして、なぜかキッキのステージ衣装を着ています。
去年のアリーナツアーの時の衣装、私の一番のお気に入りのヤツです
「わたしはね、こうやって自由に服や髪型が変えられるんだよ」
スゴイです。ハヅキさんは、変身美少女でした。でも、今はそんなことより……。
「どうしてその衣装なんですか!?」
ハヅキさんは、キッキの事を知っているんですか?
「さっき、はなちゃんのスマホで見えたから。可愛いなって思って」
なるほど。私のスマホの画面ですか。ビックリしました。
「ヘンかなぁ?」
「全っ然ヘンじゃない!! すっごく可愛い!!」
「ホントに!? よかった!」
ハヅキさんが、うれしそうにはにかみました。楽しそうにくるくるしています。スカートがひらひら舞っています。
アイドル衣装でキラキラのハヅキさんを見つめる私の中に、ある言葉がうかんできました。
まさか私がこんなことを思うなんて、自分でも信じられません。これはハッキリさせないとダメだと思いました。
「この衣装にも変身できますか!?」
スマホに保存されていた、キッキの写真をハヅキさんに見せます。
2か月くらい前に、テレビに出ていた時の画像です。可愛かったのでスクショしました。
「ん? えっと、いいよ。ちょっと待って」
さっきと同じように、ハヅキさんが白い光に包まれます。
「――これでいいの?」
ハヅキさんは、写真の中のキッキと同じ白いワンピースを着ています。
髪型も写真と一緒で、少しウェーブがかかっています。すべてキッキとおそろいです。
どうしよう、確信しちゃいました……。
――ハヅキさんはキッキよりも可愛い!!
ちょっとショックです。私はどうしたらいいのでしょう、不思議な気分です。
「ちなみにわたしは三日月の光の精霊だよ」
私が質問しないので、自主的に教えてくれました。
「わたしからも、質問していい?」
そう言って、ハヅキさんが私の顔を覗き込んできました。
たった今世界一(私調べ)と認定された美少女の顔が、私の目の前にあります。
「は、はい、もちろん」
なんだか緊張します。とてもドキドキしています。
「はなちゃんは、普段はどんなことをしていますか?」
「え、えっと、学校に行ったり。行かなかったり……」
「行かなかったり?」
「な、なんか馴染まなくて。居心地悪くて」
去年クラスでいじめがあって。私は巻き込まれなかったけど、なんかあれ以来学校にあまり行かなくなりました。
「友達もいないので」
「ん-そうなんだ。はなちゃん、こんなに可愛いのに」
世界一の美少女(新)から「可愛い」なんて言われると、謝りたくなります。
「じゃあ、はなちゃんの、夢はなんですか?」
「夢……夢はたぶん、宇宙飛行士です」
宇宙飛行士は幼稚園のころの夢です。なので「たぶん」です。今は特に目指してはいません。
今でも宇宙への憧れはあります、でもそれだけです。
「うちゅうひこうし?」
「はい、宇宙に行くお仕事です」
ハヅキさんは宇宙飛行士を知らないみたいです。精霊なので仕方ないです。
「宇宙って空の上の?」
「はい、宇宙から地球を見てみたいと思ってました」
「はなちゃんは宇宙に行ってみたいの?」
「そうですね、ちっちゃい頃にアニメで見たんです。宇宙船が出てくるやつです」
「宇宙船……」
あれ? なんだかハヅキさんが考え込んでしまいました。
「あのね、はなちゃん、ぎ――」
「ハヅキ、その娘は誰だい?」
ハヅキさんが私に何か言おうとした時、突然知らない声が割り込んできました。
「あ、ババ様」
ハヅキさんが謎の声に答えます。ババ様? ジジ様じゃなくて?
私は周りを見回しましたが誰もいません。
ハヅキさんの時の様に地面を見渡しても、今度は誰も生えていません。
「ハヅキ、その娘は人間だろ。どうしてこんな所にいるんだい?」
「えっとね、はなちゃんはね、知らないうちに迷い込んできちゃったんだって」
私のことを聞く謎の声に、またハヅキさんが答えました。
「そうなのかい」
「うん。帰れなくなっちゃって困ってるんだよ」
……見えなかった声の主を見つけることが出来ました。
「ハ、ハヅキさん……そのヒトは?」
ハヅキさんが、手のひらサイズの小さなお婆さんと話をしています……。