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扉の向こうに彼女はいる  作者: 円坂 成巳
三章 逢魔
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5 避難

「申し訳ない。ご友人の家まで追いかけてくるとは。私が甘かった」


 昨日の朝から昨晩の出来事までを一通り小野瀬さんに電話で報告した。


「解決できそうなんでしょうか。正直、わたしどうしたらいいか」


「ご実家に泊まれるのであれば、帰ったほうがよいかと。連休中に調査したいことがありますから、予定通り、連休最後の土日に高橋さんにご報告できればと思います。もし、立ち会いたいようなら氷川さんもそのときに高橋さんの家に集まってください」


「もちろん立ち会います。実家に泊まるのは大丈夫なんでしょうか。実家まで追いかけてくるかもって思うと、母や妹にも被害が及ぶのが心配なんですが」


「まず、実家に帰ることは誰にも言わないでおいてください。実家の住所も教えないで。高橋さんにはいいですけど、他の人にはだめです。高橋さんには口止めしておいてください。トネさんや米村さんには特にだめです。そうすれば実家までは来ない、来れないと思います」


 小野瀬さんと尚くんは、亜沙美さんの霊はわたしに直接ついているわけではないようなことを言っていた。とすると、第三者から、わたしの行先の情報を知って現れる可能性があるということなのだろうか。


「そうします。残った御札は持っていきますね」


「そうしなさい。解決に時間がかかってすまないね。何とか連休明けにはよい報告ができるように頑張りますよ。ご実家で、少しでも心身を回復してきてください」


「はい、期待してますからね」


「では」と小野瀬さんが電話を切ろうとすると「ごめんね」と小さな声が混じった。尚くんも隣にいたらしい。


◆◆


 バスに乗り、実家に向かう。

 どうしても、アパートの方向に意識が向いてしまったが、しばらくバスが走ると、アパートが、町が、遠ざかっていくことが実感でき、やっと一旦落ち着くことができた。

 実家で何事も起こらないとは限らないし、家族に何か被害があったらという一抹の不安はある。それでも、自分のほっとできる場所に戻ることの安心感は、代え難いものだ。

 しばらくバスに揺られ、実家の近くの駅に着くと、母が迎えに来てくれた。


「どう、元気してた?やっぱり寂しくなっちゃうんじゃないの」


「ぜんぜん大丈夫。けっこう楽しいよ。夜中までテレビ見ててもだれも文句言わないしさ」


「勉強しなとはもう言わないけど、ちゃんと単位は取ってよね」


「任せて。講義はちゃんと選んでるから」


 実家に着くと、妹が居間でこたつに足を入れて、テレビを見ながら、「おかえりー」とだるそうに出迎えた。


「お姉ちゃん、ぜんぜん変わってないじゃん。大学デビューで髪染めたらって言ったのにどうなったの。髪型も、なんか普通だし。彼氏できないよ」


「家に帰るのにいちいち手間かけないし。大学ではちゃんとしてるから」


「うそだね。地味だから、もうちょっと華やかにすればモテるのになあ」


 その日の夕飯は、ホットプレートを出して焼肉だった。何となく、うちは、めでたい時や節目の何かがあるときは、母が、焼肉か鍋かしゃぶしゃぶと決めているのだ。

 わたしの大学生活の話を中心に話が弾んだが、アパートのことも当然聞かれる。


「なかなか過ごしやすいよ。叔父さんも親切にしてくれるし、変な人もいないしね」


 そう無難に答えることしかできなかった。隠し事をしているという罪悪感が、少しだけ、心を重くする。

 その晩は、何も起こらなかった。


 連休中は平和そのもので、あれが現れる気配もなかった。

 連休の半ば、小野瀬さんからメッセージが届く。

 内容は、簡潔なものだった。

「何事も起きてはいませんか。まだ調査中ですが、いろいろとわかったことがあります。予定どおり、日曜に高橋さんの家に」

 連休が終わったらアパートに戻る。そう意識した途端、胸の奥がひやりとした。

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