1日目朝
突然、扉からガツンという音が聴こえた。
要が驚いて飛び起きると、棚の上の金時計は6時ちょうどを指していた。
…鍵が開いたんだ!
要は、急いで布団をめくると、寝間着の短パンとTシャツのままで扉へ走った。
そこを開くと、他の部屋の扉も開いて、皆が顔を覗かせているのが見える。
要の部屋の目の前は階段なので、向かい側の部屋というのが無い。
部屋は、階段を上がって向かって右から11、12と16まで並んでいて、17は11の向かい側の部屋、18は12の向かい側、階段を挟んで15の前が19、16の前が20という風に並んでいた。
更に上に向かうための階段はあったが、そこには鉄製の柵のような扉があって、上には行けなかった。
隣りの部屋から出て来た、忠司が言った。
「昨夜人狼の襲撃があったはずだ。誰か居なくなっている人は居るか?まだ出て来ていない人は部屋を訪ねてくれないか。」
言われて、要はハッとした。
そういえば、洋子が出て来ていない。
要は、トントンと扉をノックした。
「姉ちゃん?」
忠司が、言った。
「失礼かもしれないが、いきなり開けないと中には多分聞こえてないぞ。ここは物凄く防音が効いているんだ。」
言われてみたらそうだった。
要は、兄弟の気安さで洋子の扉をいきなり開いた。
「姉ちゃん?」
洋子が、びっくりしたような顔で振り返った。
「え、要?なに、こんなに早くから。」
あれ、普通だ。
要は、思った。
もしかしたら襲撃とかで、ここに居ないかもしれないと少し構えていたのだ。
要は、ホッとして言った。
「昨日人狼の襲撃があるはずだろ?だから、居なくなってる人が居ないか見てるんだ。みんな廊下に出て来てる。」
洋子は、驚いた顔をした。
「マジで?ごめん、出るよ。みんな居るの?」
要は、首を振った。
「分からない。」
あちこち寝ている人も居たようだったが、手分けして中から引っ張り出して、廊下に集まる。
忠司が、数を数えた。
「…10。全員居るな。ってことは二階かな?」
要は、頷いた。
「二階を見て来ます?」
忠司は、頷き返した。
「行こう。みんなで確認した方が良いだろう。」
まだ眠そうで文句を言いたそうな人も居たが、ここには元々遊びに来たのではない。
全員が、忠司に従って二階へと降りて行った。
二階の廊下では、同じように全員廊下に出ているようだった。
彰の、振り返った。
「忠司。良かった、呼びに行くべきかと話していたところだ。こちらは誰も欠けていない。そちらは?」
要が、え!と答えた。
「三階も誰も居なくなってませんよ。これってどういうことでしょう。襲撃無しなんですか?」
博正が腕を組んで言った。
「それはないだろ。必ず襲撃先を入力しろってルールブックに書いてあった。そうでなければ人狼が消される。誰も居なくなってないってことは、人狼は襲撃先を入力したが、それが通らなかったってことだ。つまり、狩人の護衛成功か、狐噛みなんじゃねぇの?」
忠司も、頷いた。
「この村は案外に襲撃を通すのは難しいのだ。20人居るが、そのうちの二人は狩人に守られ、二人は狐。そして自分達4人以外というわけだから、残りの12人からしか噛めない。多いように思うかもだが、日が経つに連れてますます噛めなくなって来る。最初は4分の1が人狼陣営とはと、少し勝ち目がないような気がしていたが、狩人が二人居ることでバランスが取れているんだろう。」
彰は、頷いた。
「…とりあえず、共有者だな。話し合わねばならないだろう。指示してくれ。」
やっぱりか。
要は、来たと思ったが、グッと唇を引き締めて言った。
「オレ。オレが共有者。相方には潜伏してもらうつもりです。」
彰が、眉を上げた。
「君か。他に対抗は居ないな?」誰も出ない。彰は続けた。「最年少で村をまとめるのは骨が折れるだろうが、これからは必ず要に従うんだ。今、唯一村が味方だと分かる人物だ。他は人外かもしれず、誘導されるかもしれない。分かったな。」
全員が、頷く。
博正は、言った。
「で、どうする?とりあえず話し合いだが、昨日の護衛先が気になるな。狩人が要にだけ話に行くってのはどうだ?で、護衛先を聞いておく。会議の時に要に発表してもらう。」
彰が、言った。
「それでは要に話に行った者が狩人だと人外に透けるだろうが。そうだな…ならばこの際、全員が順番に要の部屋に行けばどうか?その上で、全ての役職は要に話す。占い師はその白先と共にな。誰が役職に出たのかわからない状態で、人外も動きづらいだろう。狼は話し合っているのだろうが、狂信者は知らないので占い師か霊媒師、どちらに出るべきなのか分からないだろう。様子を見られない状況でのCOはかなり村に有利だ。」
確かにそうかも。
要は、頷いた。
「そうですね。じゃあ、」と、腕輪を開いた。「…今6時半。7時になったら、彰さんから順番にオレの部屋に来てください。終わったら、次の人を呼んでもらう形で。それまでに、着替えて待ってます。」
彰は、頷いた。
「分かった。ではそのように。」
皆が、それぞれの部屋へと解散して行く。
要が三階へと向かう階段に足を掛けると、洋子が興奮気味に話しかけて来た。
「要、共有者?良かった、要だけは信じられるってことよね。ホッとした~。言う通りにするよ。あんたが人外だったら、勝てる気がしないもんね。」
要は、じっと洋子を見る。
洋子は、怪訝な顔をした。
「…なに?」
要は、ため息をついた。
「別に。」
姉ちゃんは人外じゃないな。
要は、直感的にそう思った。
生まれた時から一緒だから分かるが、洋子は嘘を言っていない。
何しろ単純で、分かりやすいのだ。
倫子が、言った。
「こら。洋子、要にプレッシャーだよ?あんまり要ばっかに頼らないの。昨日要も言ってたじゃん。自分でやれって。」
洋子は、倫子を見た。
「でも、彰さんが要に従えって言ってた。私はそうするつもりよ。この子が間違った所を見たことないもの。私は全部要の言う通りにするつもり。伊達に長い事兄弟やってないのよ。」
お互いに変な信頼関係だもんね。
要はまたため息をついて、足を進めた。
倫子はまだ洋子に何か言っていた。
部屋に帰ってトイレに駆け込み、顔を洗って着替えを済ませると、いきなりに扉が開いた。
「…要?10分前だが来た。良いか?」
要は、頷いた。
「どうぞ。良かった、彰さんとはいっぱい話したいと思っていたから。」
彰は、頷く。
「ならば話そう。」と、扉を閉じた。「まず始めに言う。私は狩人だ。」
要は、窓際の椅子に腰掛けようとしていたところだったので、驚いて彰を振り返った。
「え、彰さん狩人なんですか?!」
彰は、頷いて要の前に座った。
「そう。護衛先は14、要。君だ。」
要は、目を丸くして言った。
「オレ守り?なんでオレですか?」
彰は答えた。
「君はテストでも満点で頭が切れる事を皆に知られている。狼が狙うならば、頭の良い所だと思った。私が筆頭位置だと思っていたが、自分で自分を守れないしな。だが、君で護衛成功が出たかどうかは分からない。今夜は、もう一人の狩人に君を護衛させるといい。とはいえ、このやり方では狩人騙りがあってもおかしくはないし、賭けではあるがな。」
要は、ただただ頷いた。
もしかしたら、昨日襲撃されていたかも知れないのだ。
要は、言った。
「狩人がもし3人とかになったら、狩人を公表してローラーとかしなきゃなりませんか?」
彰は、首を振った。
「出ている人数を言うのは良い。だが、全員を露呈させるのは人外の思うツボだ。二人は真狩人で、人狼はその答えを喉から手が出るほど欲しいと思っているだろう。忠司が言うように、思うように襲撃が通らないからな。護衛先はとりあえず秘めておいた方が良いかも知れない。なぜなら襲撃先と被らなかった場合、狼に狐位置が分かるし、次にどこを守らせるのか推測させやすくなるからだ。場合によりけりだな。」
要は、頷いた。
「分かりました。臨機応変に対応できるようにします。」
彰は、頷いて立ち上がった。
「あまり長いと私が役職持ちだとバレる。もしくは人外で君を操作して勝とうとしているとか言い出す奴も居るだろう。私は戻る。ステファンをこちらへ寄越そう。」
要は、頷いた。
「お願いします。」
彰は、出て行った。
要は、彰が狩人で確定して欲しい、と心底思っていた。