0日目夜
要は、三階の自分の部屋へと入った。
部屋は二階に1から10まで、三階に11から20までの番号がふられたものがずらりと対面に並んでいた。
そこは、大きくて広い部屋で、入ってすぐ右に扉があって開くと、そこはバスとトイレと洗面所が一緒になったシステムバスだった。
反対側は、大きなクローゼットで、そこにはスリッパなどが設置されており、そこにスーツケースを放り込むと、奥へと足を進める。
正面には窓があり、その前には椅子が二つとテーブルが置いてあった。そして窓からは海が遠く見えた。
向かって右側には、天蓋付きの大きなベッドがある。
左側には、机のような長い棚があり、椅子があってB5ぐらいの冊子が一冊、置いてあった。
…ルールブックってこれだな。
要は思って手に取った。
中身は、最初に番号と名前がずらりと書いてある名簿があって、次のページからは先程説明されたことと、同じ事が書いてあった。
ルールは細かく、ざっと目を通しただけでそれを折り畳んでポケットに突っ込んだ。
それからスリッパに履き替えてキッチンへと向かい、黙々と食事の準備をする皆を後目に自分も冷蔵庫の中を覗いた。
しばらくは、生きて行けるだけの食材が山と詰め込んであった。
お弁当らしき物を手に取って、電子レンジはと見ると、二台あるそれは今、フル稼働だった。
順番待ちかとため息をつくと、洋子と倫子が入って来て、要を見て言った。
「ちょっと!勝手に行動しないでよ、心細いのに!一緒に行こうと思って部屋を訪ねたのよ?」
忘れてた。
要は、自分でも驚いた。
今の今までこの二人のことをすっかり忘れていたのだ。
「…ごめん。でも姉ちゃん、自分で動かないと。そもそもみんな、どの陣営になったか分からないじゃないか。敵だったらどうするんだよ、自分で考えて動くしかないんだよ。」
洋子は、ぐ、と黙る。
倫子が、言った。
「それでも友達とか兄弟同士、信じなくてどうするの?今は何も分かってないんだから、とにかく争うのはやめて。」
要は、息をついた。
「分かった。」
博正が、言った。
「こら、何があるか分からねぇんだから、食いもん取ったらさっさと部屋へ帰れ。初日は勝手も分からねぇんだぞ?オレ達だって何があるのか分からねぇし、自分の命だって守れるのか分からねぇ。自分のことは、自分で責任持ってくれにゃ。ほら、レンジ空いたぞ?要、早くしろ。」
要は、頷いて電子レンジへ向かう。
倫子と洋子は、顔を見合わせてから、仕方なく冷蔵庫へと向かった。
健が、言った。
「オレも部屋に戻ろう。どうなるか分からないけど、とりあえず食べる物はあるし何とかなりそうな気がする。きっと、脅してるだけでほんとに殺したりしないよな。」
要は、レンジをセットして健を見た。
健は、楽観的な言葉とは裏腹に、不安そうな顔をしている。
要は、頷いた。
「うん。犯罪だもんね。きっと大丈夫だよ。」
そうだとしても、こんな場所からどうやって帰るというのか。
そうは思ったが、今はパニックに陥るわけにはいかない。
健は満足したのか、温めた弁当を手に、去って行った。
要は、電子レンジの中でクルクルと回る弁当を眺めながら、じっと考え込んでいた。
倫子と洋子はまだ何か話したいようだったが、要はさっさと部屋へと帰った。
もし、どうしても話したい事があるのなら、9時までならここへ訪ねてくればいいだけだ。
だが、結局二人は要の部屋に訪ねて来ることはなかった。
午後9時になると、シンと静まり返った部屋の中に、扉の方からガツンという大きな音が聴こえて来た。
一瞬びっくりしたが、それが扉の閂が嵌まった音なのだと要は悟った。
さっきから思うが、この部屋では全く外の音が聴こえて来ない。
さっきも、お茶を取って来ておこうと慌てて扉を開いた時に、結構大きな声で話ながら歩いて来る雄吾と浩平の二人の声がいきなり聴こえて、驚いたことがあった。
恐らく、完全防音になっているのだ。
要が、風呂でも入るか、とため息をついて立ち上がったその時、いきなり腕輪がピピピと音を立てた。
「え…!」
要がびっくりして腕輪を開いて見ると、そこには着信13と表示されていた。
…そうだった…共有者同士は今夜も話しができるんだ!
要は、急いでエンターキーを押した。
『もしもし?要?』
忠司の声がする。
要は、見えないのを承知で頷いた。
「忠司さん。忘れてた、通話できるって言ってたっけ。」
忠司の声は答えた。
『そう。明日からの事を話し合っておかないとと思ってね。とはいえ、今夜から襲撃が入るから、まだ出ていない今は狩人の護衛が入るかどうかは賭けだ。明日から、どっちかが出てどっちかが潜伏することになる。出た方は護衛が入るだろうが、常に襲撃と隣り合わせだし、村を取りまとめていかねばならない。出ない方は聞いていれば良いだけだ。襲撃の心配はそこまで高くはないが、その分護衛が入らないのでランダムに狙われたら襲撃される。どうする?君はどちらがいい?』
要は、顔をしかめた。
この村を取りまとめて行くには、どう考えても忠司の方が説得力がある気がする。
それに、どちらが残った方が良いかと言われたら、恐らく忠司だろう。
が、初日は恐らくグレー詰め、つまりは色のついていない所から選んで吊ることになるはずだった。
潜伏する方は、きちんと意見を出して行かねばならないが、あまりにも切れる意見をすると襲撃される恐れがあった。
どちらも、リスクは高かった。
要は、答えた。
「オレ…村を取りまとめて行くのって難しいと思うんです。でも、グレーで残る方が難しい。それに、オレが出た方が、相方が忠司さんだと皆思わないでしょう。だって、もし忠司さんだったらそっちが出るって思うだろうから。だから、オレが出ます。指示してください。」
忠司は、頷いたようだった。
『よし。オレもその方が良いと思う。彰さんはかなり頭の切れる人だから、もし人狼だったらオレでもやり込められてしまうかもしれないが、そうでない事を祈ろう。』
要は、顔をしかめた。
「あの人、めっちゃ人を説得するオーラみたいなのありますよね。でも、今夜襲撃される筆頭位置じゃないかな、もし人狼でなければ。みんな、あの人はやりそうだって思ってると思うし。それに、番号が選びやすいでしょう。1番ですからね。初日の夜には格好の襲撃位置だ。」
忠司は、ククと笑った。
『君がそう思うということは、人狼もそう思うだろうが、狩人だってそう思うんだ。狩人は二人居る。どちらが一人がそう考えたら、恐らく彰さんほ守られる。もちろん、人狼がどこかから情報を得て役職者らしい一位置を見つけていたら、この限りではないがね。』
要は、眉を寄せた。
「…それって、友達同士が打ち明けあってたりしたらって事ですか?」
忠司は、答えた。
『そうだ。みんな不安だし、普通に考えたら危ないことだが、そうは思わないかもしれない。お互いに村人だと言い合って、安心しているとかありそうだしな。もちろん、人狼や妖狐は決して明かさないと思うがね。』
…洋子と倫子が、まさにそれだった。
あの二人なら、やっていそうだ。
それを、要にも求めて話したいと言っていたのかもしれない。
要は、頷いて言った。
「…とにかく、明日の襲撃次第ですよね。明日はグレー詰めで良いと思います?」
忠司は、言った。
『霊媒師も二人居るし、余程騙りがおおくない限りそれで良いだろう。とはいえ、村の意見を聞くのが一番だ。こちらが何を言っても押し付けると納得せずに票が割れる恐れがある。心して行こう。』
要は頷いて、忠司との通信を切った。
人狼は、どこを襲撃しようとしているのだろうか。
自分でないことを祈っていた。