理不尽
…13…!ってことは、忠司さんが共有者の片割れだ…!
要は思ったが、ここで忠司を見る事はできなかった。
人狼に、相方が分かってしまうからだ。
だが、この村には狩人が二人居る。
もしかしたら、二人が出てしまっても守られるかもしれなかった。
『確認が終わりましたか?』ハッとして要が顔を上げると、声は続けた。『では、役職の説明を始めます。』
全員が、モニターことは睨む。
声は続けた。
『まず、人狼です。この村には4人の人狼が居て、夜時間には話し合って襲撃先を決めます。その際、襲撃無し、自らを襲撃はできないことになっています。必ず襲撃先を選択し、誰か一人の腕輪から、テンキーで襲撃したい番号を入力して、最後に0を三回入力してください。襲撃先が決定されます。一度選択した襲撃先は、訂正することはできません。次に狂信者です。人狼陣営ですが、占われたら白という結果が出ます。人狼が誰かを知っていますが、人狼からは誰が狂信者なのかわかりません。』
皆が、黙って聞いている。
が、さっきよりは真剣な表情になっていた。
恐らく、本当にゲームをするのかどうかは別として、役職が決まったからだろう。
『次に、占い師です。占い師は、役職行使時間に占いたい人を一人、人狼か人狼ではないか知ることができます。腕輪のテンキーで占いたい人の番号を入力し、最後に0を三回入力してください。結果が表示されます。次に霊媒師です。霊媒師は、前日の夕方に追放された人が人狼か人狼ではないかを知ることができます。役職行使時間に結果が表示され、役職行使時間を過ぎると消えます。次に狩人です。狩人は、自分以外の誰かを一人だけ護衛できます。二日連続で同じ人を守ることはできません。役職行使時間に守りたい人の番号を入力し、最後に0を三回入力してください。そして、共有者。』
要は、極力無表情で注意深く聞いた。
声はスラスラと続けた。
『共有者には何の能力もありませんが、お互いに村人だと知っている役職になります。村のまとめ役として頑張ってください。』
…司会進行役みたいな…?
要は、思って聞いていた。
となると、恐らく自分が出るより忠司に出てもらった方が良いような気がする。
だが、それをどうやって知らせるかだった。
声は説明を続けた。
『それから妖狐。妖狐は人狼に襲撃されても追放されませんが、占い師に占われると溶けて消えます。つまり、追放となります。そして、最後に村人です。村人は、共有者と同じく何の能力も持ちませんが、投票能力だけはあります。しっかりと考えて、人狼や妖狐を補足し間違えずに投票するのが務めになります。』
知ってるのと同じ…。
要は、思っていた。
中学で確かに皆で遊びで人狼ゲームはしたことがあったが、しかしこんなに大人数でやるのは始めてだ。
まして、役職の数がとても多く、考える事が多そうだった。
真剣にやらないと、まずいことになりそうだった。
声はサクサクと続けた。
『次に、腕輪の機能についてお話致します。腕輪には、投票、役職行使を行う他、通信機能というものがあります。基本的にその機能は使えないようになっていますが、夜の9時から10時、つまりは村役職行使の時間帯だけ共有者、妖狐に解放され、仲間同士の間だけ通話することができます。10時になりますと、強制的に終了します。通話の仕方は、相手先の番号を入力し、最後に0を三回入力してエンターキーを押す事です。応答はエンターキーを押す事でできます。終了時はエンターキーで終えます。他の番号からはどこにも通信できませんのでお気を付けください。』
良かった、忠司さんと話せる。
要は、内心ホッとした。
そして、驚いた…自分はもう、ゲームをしようとしている。
だが、この状況では彰といえども言いなりになるしかなさそうだった。
みんなだんまりなので、声はまた続けた。
『では、本日です。本日夜から役職行使は始まります。初日の夜なので、占い師には白、つまり人狼ではない人の番号が自動で表示されます。狩人は、護衛先を入力できます。人狼は、夜10時から翌0時まで外出可能で、襲撃先を選択してください。その他詳しいルールはお部屋に置いてあるゲームルールブックを参照してください。こちらからの説明は以上です。』
じっと黙って聞いていた、彰が口を開いた。
「…追放とは?先程命を懸けた人狼ゲームと言ったな。まさか、本当に命を取るというのではないだろうな。」
声は、明るく答えた。
『もちろん、命を懸けていただきますので、そのままの意味です。ですが、勝利陣営の人達は必ず全員戻って来る事ができます。生き残りたいのなら、必ず勝つ必要があります。』
つまりは、本当に殺されるのだ。
それを悟った、皆がショックを受けた顔をして震え出した。
真由や久美子は涙を浮かべている。
彰が黙ったので、声は言った。
『それでは、これで説明は終わります。この度は、リアル人狼ゲームにご参加くださいまして、誠にありがとうございます。ルール違反で無駄に追放されることがないように、真剣に戦ってくださる事を期待します。部屋は、それぞれの腕輪の番号から従ってご使用ください。では、また明日の投票時間にお会いしましょう。』
ブツリ、と無遠慮にモニターは切れ、真っ暗になった。
もう我慢しきれなくなった、真由が泣きながら言った。
「こんな!こんなのって!私は勉強しに来たのよ!人狼ゲームなんかやりたくない!死にたくないの!」
それを皮切りにパニックになりそうになった場に、彰の凛とした声が響いた。
「落ち着け。」そのよく通る声に皆がシンとなる。彰は続けた。「…ここは、連中に逆らうのは危険だ。あれほど余裕があるのは、簡単に私達を殺す手段があるということだ。誰だか分からないが、私達は籠の鳥なのだよ。そもそも迎えの船は2週間後まで来ない。ここは絶海の孤島だ。何とかして2週間後まで生き残り、帰るためにはあちらが決めたルールとやらに従って、やり過ごすよりないのだ。何より、勝てば戻って来られると言った。つまりは、恐らく仮死状態にさせられるのだろうと思われる。負ければ殺されるかもしれないが、その時には何か対策を考えられているかもしれない。とにかく、今はパニックになっている場合ではない。あの様子では、ゲームができない状態だと判断されても殺される可能性がある。何としても、2週間後までは生き残らねばならないのだ。ここは、言う通りにしよう。今は情報が少な過ぎる。」
言われて、皆が固唾を呑んだ。
真由ですら、泣く事で殺されるかもと思ったのか、嗚咽を押さえて口をつぐむ。
久美子が、言った。
「でも…今夜から襲撃があるって。狩人が二人も居るとはいえ、守り切れますか?」
要が、頷いた。
「連続護衛無しって言ってた。」皆が要を見る。要は続けた。「でも二人居るなら、一回護衛成功が出たらそこを交互に守り続けたら良いもの。占い師を一人でも真置きできたら、そこも守り続けて狼が特定できる。狩人は共有者にだけ正体を打ち明けて、共有者に護衛指定してもらって進めたらいい。どっちかの狩人が噛まれない限り、このレギュレーションはかなり村人有利だ。」
しかし、博正が言った。
「だが、狼陣営は5人だぞ?そのバランスを取るために狂信者なんだと思う。最初から人狼が誰だか知ってるんでぇ。狂人だったら分からないところだけどな。その上、妖狐も居る。護衛成功が出たのか狐噛みなのか、そこの判断も難しいぞ?」
確かにそうだ。
要は、黙った。
彰は、言った。
「狼からは狂信者が分からないので、もしかしたら今夜の襲撃がそこに入る可能性がある。とりあえず、もしかしたらを考えて、それぞれ自分の陣営のために戦うしかない。今の時点で、私自身ゲームが終わった後のことまで想像がつかないのだ。」と、チラと暖炉の上の金時計を見た。「…今は夜7時。各々一旦部屋へと入って、食事をして夜時間に備えよう。ルールとやらに従って行動するのだ。」
皆が頷いて、椅子からノロノロと立ち上がった。
着いた時のウキウキした雰囲気は、消し飛んでいた。