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その日の夜に

そうやって生徒達は気負いなく話して楽しく過ごしたが、教師達は途中から居なくなっていた。

部屋に帰っているのだろうと思っていたが、聞いたところ残りの一週間で、どうカリキュラムを組めば良いのかと話し合っているらしい。

二階三階では皆が来るので、行き来できるようになった四階で居るので、皆は指示通りに部屋に帰って休むように、と忠司から言われた。

やっぱり勉強か。

皆が、それが目的で来たにも関わらず、現実に呆然と我にかえると、後は淡々と落ち着いて過ごすことになった。


「ハリー。」彰が、言った。「どうだ?要は覚醒したか。」

ハリーは答えた。

「いえ、ジョン。もう全てが正常値なのですが、まだ目を覚ましません。他の二人は既に処理を済ませているので、後は眠らせたまま部屋に戻して来るばかりですが。」

忠司が言った。

「何も問題はないので、心配しなくても大丈夫ですよ、ジョン。今はただ眠っているだけのようです。起こしますか?」

彰は、眠る要の枕元で、首を振った。

「いや、いい。無理には起こす必要はない。まだ子供なのだ、本当ならあの薬を使いたくなかったが、まさか昨日襲撃を入れるとは思っていなかったのでね。」

ここまで残したのに。

博正は、息をついた。

「要は噛まないようにしてたんだけどな。最後の最後で久美子さんがトチ狂っちまって。まあ、精神的に無理だったんだろう。仕方ないさ。」

彰が頷くと、その声に反応したように、要が薄っすらと目を開いた。

彰が、思わず言った。

「要?!気が付いたか。」

要は、彰を見た。

そして、みるみる涙を溢れさせると、大量に流した。

「…彰さん…。」

博正が、慌ててその頭を撫でた。

「要、終わったぞ。もう大丈夫だ。みんな元気だし、何もない。お前の姉ちゃんも下に居る。心配ないから。」

要は、博正を見て頷いた。

「知ってる。」

え、と博正が驚いた顔をすると、要は言った。

「オレ…オレ、思い出して。何を言ってるんだって思うかも知れないんですけど、オレ、一回人生を終えてるんです。前も、こんな人狼ゲームで彰さんと出遭って…もう、もう会えないと思ってた。彰さんが亡くなった時、オレは立ち会えなかったんです。本当にショックで…でも、彰さんはやり切ったみたいな穏やかな顔で亡くなってて。紫貴さんと二人、一緒に荼毘に付されたのを見届けました。紫貴さんを追って、ほんの数分遅れで亡くなったんだって新が言ってた。」

思い出した…!

そこに居る全員が、そう思った。

今、ここに居るのは前回生きた記憶を持つ者達ばかりだ。

研究所には表向き、薬の治験だと言ってあるし、来ているのは記憶が蘇った者達ばかりだ。

ハリーもその一人で、今回たった一人で裏方をしてくれていた。

追放された者達を、運ぶのも一人でやったので、それは大変だっただろうが、どうやらついて来ている紫貴も手伝っていたらしい。

忠司が、言った。

「思い出したのか、要!そうだ、ここに居るみんなが、君と同じように二度目の人生を生きているんだ。思い出していない者も居るし、永久に思い出さないのかも知れない。が、オレ達は思い出したんだよ。」

要は、驚いたように身を起こした。

「…全員?彰さんも、博正もみんな?」

博正は、頷いた。

「そうだ。オレ達はもっと小さい頃に思い出してな。ジョンの家は知ってたから、会いに行ったらこいつも覚えてて。オレ達はまた人狼になって、こうして生きてるんだ。」

要は、また涙を流した。

「そうなんだ…オレ、夢に見て。ずっと感じてた違和感とか焦燥感とか、それがなんでなのか分からなくて…どこかに帰りたいって、そんな気持ちばかりで。」

彰は、言った。

「要。今回こんな事をしたのは、君に援助したかったからなのだ。君は医療の道に行きたいと、資金を稼ぐためにまずは看護師になって働こうとしていただろう。博正から聞いて、それならば私が援助しようとこんな事をした。どうする、メディカルスクールにはまだ行けないが、5年後までにあちらへ渡って、大学を出ていれば問題ない。それとも、こちらで順当に高校を出て医学部を卒業し、医師免許を取得しても良いぞ。好きに選ぶといい。金の心配はない。」

要は、答えた。

「せっかく再会したのに、また離れるのは嫌です。思い出した今、頭の中に知識はあります。こちらで大学へ通います。大検を取得します。高校に行く時間がもったいない。」

彰が、言った。

「…ならば君は今年15歳、来年しか受けられないし、大学入学も…日本では18まで待たねばならないだろう。例外的に17歳でも可能なようだが…私が手を回すか…?」

忠司が、言った。

「難しいかもしれません。ジョンが話を付けたらそれは入れるかもしれませんが、目立ってしまうでしょう。それまでは、研究所に土日に通って来させてはどうですか。それとも、もういっそ研究所の寮に入れてしまうとか。そうしたら要は余計な時間を使う必要がなくなりますし。」

要は、言った。

「可能ですか?だったらそうしたい。親には上手く理由を考えて言います。」

彰は、答えた。

「私が所長だからなんでもできるが、さすがに君は若すぎるし研究所に入れるには実績がなさ過ぎるので、皆に怪訝な顔をさせるだろう。それならば、今は私は家族で研究所近くの家で住んでいるのだ。多くの部屋があるので、博正や真司も時々寝泊まりしている。そこに住めばどうか?」

真司が頷く。

「大学に行くようになったら、オレが送り迎えしてやろう。さすがにヘリは出せないからな。とりあえず、親には今回の合宿で優秀だったから、奨学金で大検目指して寮暮らしをするようになったとかなんとか言って、引っ越して来たらどうだ?ずっと勉強を見てくれるから、医学部入学まで金が掛からない最善の方法だとか言って。」

ステファンが、顔をしかめた。

「こちらのことはよく分からないが、それでは親は頷かないのではないか?手元を離すのだぞ。一度見に来たいとか言うのではないのか。」

彰が言う。

「だったら下界にマンションを用意する。私が持ってる物件で、空いているのがあるから、そこに住んでいる事にしたら良いのだ。近くの予備校に在籍していることにしたらいい。親が訪ねて来る時だけそこへ下りたら良いではないか。すぐに手配できる。」

要は、勝手に回りで話が進んで行くのに、目を白黒させていたが、頷いた。

「ではそれで。あの、よろしくお願いします。」

博正が、笑って言った。

「良かった良かった、お前に思い出させようとわざわざこんな事をした甲斐があったよ。ま、今夜にはクリスとハリーが全員の記憶処理をしちまうから、みんななんにも覚えちゃいねぇがな。」

要は、あ、と口を押さえた。

「そうだ、ゲーム!終わったんですよね。誰が狼でした?」

真司が笑って答えた。

「そうか、知らないよな。お前が襲撃されてラストウルフは久美子さん。狼は他に雄吾、敦、真由さんで、狂信者は博正だった。ちなみに狐は靖と陽介、占い師は妙さんと正希。霊媒師はオレと浩平、狩人はジョンと健だったよ。」

…だったら、久美子さんは陽介を噛まないといけなかったのに。

要は、思った。

だが、久美子も追い詰められて混乱していたのだろう。

要は、息を付いた。

「…そうですか。あの時は何も知らなくて必死だったけど、最初から彰さんを信じて言う通りにしてたら勝てたのにって、思ってしまいます。」

彰は、ククと笑った。

「私はなぜか信用されないからな。こればっかりは仕方がない。」

彰が、若いのに何やら晩年の彰と感じが一緒だ。

そう言えば、紫貴がどうのと…。

「あ、そう言えば彰さん!紫貴さんともう結婚したんですか?あの重箱のお弁当、紫貴さんの手料理でしょう。」

彰は、フフンと笑った。

「もちろん、私は思い出してすぐに紫貴を探した。そこからアメリカに行っている間もずっと交流して、最後には紫貴も思い出してくれたので結婚したのだ。子供は5人居る。桃乃、宗太、穂波、新、葵だ。」

穂波…!

要は、身を乗り出した。

「今回は、穂波は彰さんの娘なんですか?今、何歳…?」

穂波は覚えているだろうか。

要の意図を察して、彰は答えた。

「…穂波は私の娘だ。顔立ちは前回と似てはいるが、それより私にそっくりでね。今、9歳で、今年10歳になる。まだ何も思い出してはいない。」

オレより5歳歳下…。

要は、頷いた。

だったら、思い出したらきっとまた一緒に居てくれる。

だが、思い出さなくても、もしかしたら…。

博正が、苦笑した。

「今回は骨が折れるぞ?要。何しろ穂波はこいつにべったりでめっちゃファザコンだ。こいつの弟の樹に憧れて、医師になるって言ってる。お前に振り向かせるのは至難の技だ。こんなのに対抗できると思うか?大変だぞ?」

真司が言った。

「こら。脅すな。穂波は社交的なだけだ。お前にもめっちゃ懐いてるじゃないか。よく遊んでやってるくせに。」

博正は、苦笑した。

「あいつはなんか最近オレによって来て大変なんでぇ。泊まったら部屋で一緒に寝るって聞かねぇし。それと言うのもジョンが紫貴と二人で寝るからって絶対子供を寝室に入れねぇからだ。全く。」

博正に懐いてるって…?

「え、博正まさか、穂波狙ってるの?!」

年齢差は8歳。

有り得ない年の差ではない。

「おい!何言ってる!オレはロリコンじゃねぇ!勘弁してくれよ、ジョンにそっくりの女なんか嫁にしねぇよ!」

だが、穂波が好きになったら分からない。

要は、何やら悶々としたのだった。

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