ゲームの終わり
彰が、答えた。
「…それで終わるのなら、そのように。が、その後はどうなるのだね?」
声は答えた。
『これは社会実験でした。人は命が懸かった場面でどのように反応するのか。ですが、追放された彼らが本当に死んでいないのを気取られていたので、正確なデータは取れませんでした。』と、間を置いて、続けた。『No.11は追放されます。』
「え」
久美子の横に居た妙が声を上げると、久美子はその場にグニャリと倒れた。
「ああ、久美子さん!」
妙が、叫ぶ。
声は続けた。
『この村にもう狼も狐も生き残っていません。村人陣営の勝利です。』
あまり、嬉しくない。
倫子は、涙を浮かべて言った。
「要は?洋子は、みんな早くなんとかしてあげて!実験だったなら良いでしょう?!早く!」
声は答えた。
『他の人達はすぐにそちらへ降りて行きますが、今追放されたNo.11とNo.14No.15は時間が必要です。リビングで、しばらくお待ちください。』
声は、そのまま途切れた。
「みんなすぐに降りて来るの…?」
倫子が、戸惑った顔で言う。
ステファンが、言った。
「とりあえず、久美子さんを部屋に運んで私達はリビングで待とう。指示通りにするしかない。」
生き残っていた彰、健、妙、倫子はステファンに頷くと、皆で協力して久美子を部屋へと運び、共にリビングへと降りて行ったのだった。
リビングに降りてすぐに、真司がリビングへと駆け込んで来た。
「みんな、よくやったな!終わったぞ。」
その後ろから、ぞろぞろと確かに倒れて死んでいた面々が、入って来ている。
博正が、言った。
「上手く行くと思ったのによ。彰のせいだぞ、あそこは妙さん吊りで最終日までだろうが。」
彰は、言った。
「なんだ、見ていたのか。要が私を信じると決めたのだ。仕方がないだろうが。君の考えそうな事は分かる。」
雄吾が言った。
「オレが悪い。初日吊られて何もできなかった。護衛も彰さんで成功してたしもう、踏んだり蹴ったりだったからな。」
博正が、頭を掻いた。
「オレがこいつが一番怖いからって、初日に退場させようとしたのがまずかったんだよ。確かに護衛が入るわな。発言強そうだもんよ。それからは彰どころじゃなかったし、放置してたら狩人とか言うし。勝ち目なんかなかったよ。」
倫子が、言った。
「洋子!」
洋子は、倫子の手を握った。
「あのね、みんなで上で見てたみたいなの。私、今朝目が覚めて、みんな居たから驚いた。全部上から見えてたのよ?要さんの部屋に入ってからは、廊下の画像しか見えなかったけど、扉を開け放してたから、声は漏れてたから。何を話してるのか、全部聴こえてたわ。」
莉子が、頷いて言った。
「みんなね、上で普通に過ごしていたの。登れなかった四階あるでしょ?そこで。四階はまた違った部屋割で、リビングみたいな大きな部屋が階段の真ん前にあって、その隣りに別にキッチンもあるの。それで、居室が7つあってベッドがそれぞれ3台あるから、適当に分かれて寝ていたわ。廊下で騒いではいけないと言われていて、三階に気配を感じても上から叫ぶ事もできなかった。ルールを破ったら永遠に追放だって声が言うんだもの。」
四階への階段は、扉つきのバリケードがあって入れなかった。
その先に、全員元気に生きていたのだ。
「誰か見た?こんな実験をさせていた、誰か。」
倫子が言うと、洋子は首を振った。
「ううん、誰も。基本的に聞き慣れたあの声が、モニターから指示して来るの。時間はこっちと同じで、10時には部屋に入ってなきゃいけなかったしね。」
浩平が言った。
「降りて行くようにって言われて、階段を降りて来たらバリケードと扉が開いてた。やっとみんなに会えると思った。オレ、初日に襲撃されて最初一人だったんだ。目が冷めたら、腕輪から四階での過ごし方とか一方的に話してさ。それで恐る恐る部屋を出たら、雄吾も居た。なんでも、吊られたとかで。」
雄吾は頷いた。
「襲撃された人と吊られた人は、次の日の朝まとめて連れて来られてたよな。それで、そこからは腕輪が何も言わないから、オレ達があちこち説明してさ。だからオレ達、日がな一日みんなの動きをモニターで見て話してるしかなかった。退屈だったけど、カードゲームとかあったから、人数増えて来たら一緒にやったりしてたよな。」
気楽にやっていたのだ。
健が、不貞腐れたように言った。
「なんだよ、必死に頑張ってたのに。お前ら遊んでただけかよ。」
真由が、言った。
「でもね、退屈だったよ?カードゲームも飽きて来るし。雄吾さんは狼だから仲間だったけど、狐の位置とか分からなかったからね。上からだとリビングとキッチンと廊下で話してる事しか分からないから、要さんとか部屋で話してたら何も分からないし。どうなるんだろうってハラハラしてた。とりあえず死なないのは分かっていたけど、でもゲームが終わったらどうなるか全く分からなかったものね。帰してくれるのかな…?こんなことバレたらいけないから、みんなここに閉じ込められるんじゃないかって、不安だったの。」
しかし、モニターの声がそれに答えるように言った。
「…ここから、残りの一週間は好きに過ごして頂いて、それから迎えの船で皆さん帰る事ができます。お疲れ様でした、明日の朝には残りの3人も合流致しますので、本日はご自由にお過ごしください。ただ、本日までは夜10時に施錠されますので、必ずお部屋にお戻りください。」
帰れるのか…?
皆が不安そうにしている中、モニターの画面は消えた。
本当にそれを信じて良いのか、まだ戸惑う一同だったが、不思議と彰もステファンも、真司も博正も何も言うことはなかった。
浩平が、言った。
「オレ、何の役にも立たなかったけど、ゲームの振り返りしたい!狼とか影でどんな風に考えてたのか、話してくれないか?」
博正が、苦笑した。
「仕方ねぇなあ。じゃあソファにでも座れや。ここで立ち話も疲れるだろ。」と、彰を見た。「お前は?」
彰は、息をついた。
「君の考えることぐらい予想はつくがね。どうせ最初の動きから見ても、私とステファンを敵対させようとか考えていたのではないのか。私に白を打っていたから、やたらとステファンを疑うようなことを言って。」
博正は、ソファにどっかりと座りながら、笑った。
「なんだパレてたか。お前らがうまいことやり合ってくれねぇかなあって思ったのに、ほんとお前らって冷静だよなあ。」
ステファンが、言った。
「冷静というか、聞いていたら分かるではないか。それにしても、身内切りを指示してた君が、よく真由さんに白を打ったものだ。疑われるのが分かっていただろうに。」
博正は、顔をしかめた。
「まあ…初日に雄吾を失ってたしな。真由さんは次に危なかったし、真を取ってたみたいだからいけるかと思ったのに。案外偽っぽく見られて。」
真由が下を向いている。
敦が言った。
「だからあの日別の指定先の真司さんに白を打っておけっていったのに。真由さんはあれだけ疑われたら無理だろって。真司さんだったら霊媒師だったんだから、怪しまれる事はなかった。せっかく真取れてたのに。」
真由が、ますます下を向く。
博正は、苦笑した。
「ま、オレが見捨てられなかったんだ。まさか雄吾黒を見てるのに、そこに入れてる敦まで吊り先に入れられるとは思ってなかったからな。久美子さんには可哀想な事をしたと思ってる。妙さんに黒を打たれて、たった一人残されたんだからな。戻って来たら、労ってやりたいよ。」
倫子が、ため息をついた。
「それより要だわ。あの子、最年少でここまで村を引っ張り続けたのよ。信じる人を間違えなかったから、今日ゲームは終わったわ。あの子こそ、労ってあげたい。」
洋子が、フフと笑った。
「要は完璧な子なの。私の大事な弟なんだもの。私は最初から、あの子の言う通りなら大丈夫だと思っていたわ。」
そんな事を話しながら、皆はそれぞれの立場での、話をした。
それを聞きながら、彰は庭を眺めていた。




