夕方の会議と投票
要が頑固に言う事を聞かないので、彰とステファンは諦めて、だったら妙を吊って明日から考えたら良いのではと提案したのだが、それでは最悪狼を先に吊ってしまって狐勝ちになると拗ねてしまった。
信じてくれたのはいいが、要がそんな風なので彰は困ってしまい、6時に皆が集まった時に、要が話し始める前に先に口を開いた。
「…今夜は、私を吊ってはと要に提案している。」皆が、驚いた顔をするのに、彰は続けた。「なぜなら、要が考え直して妙さん真を決め打って、陽介を呪殺できるか、それとも狼なのかと色を見させようとしているのだ。私達が考えたところ、妙さん真が濃厚だと思ったのだが、村目線ではそれなら健は真狩人だろう。私か陽介に狐か狼が居るという事になるので、私を吊って陽介を占わせたら、それで狩人の懸念はなくなる。陽介が白で生きていたなら真、呪殺できたら狐、久美子さんが狼だ。陽介で黒が出たら久美子さんが狐なので先に吊る。仮に妙さんが襲撃されていたなら、占われたはずの者が生きているなら狼か真、追放されていたなら狐と判断できるだろう。そんなわけで、私は妙さん真を決め打つと言うなら、私を吊るのが一番村にとっての安定進行だと思っている。どちらにしろ、縄は足りる。ここは吊り順を間違えないことが重要で、そのために妙さんを残そうとしているのだ。」
要が、慌てて言った。
「だから!オレは彰さんだけは絶対に真だと思っているので、偽かもしれない健と陽介、主に陽介を吊るならワンチャンあっても彰さん吊りは絶対にありえません!だからオレを吊ったらと言ったのに、彰さんはそんな風に言うから!」
ステファンが、ハアとため息をついた。
「まあ、彰は狩人なのだから、まだ村人を守ることができるわけで、いくら先に狼を吊ってしまったらいけないとは言って、わざわざ吊る位置ではないと私も思う。どう考えても3人居る狩人の中で、破綻せず尚且つ変な行動もしていないのが彰なのだから、残そうという要の気持ちは分かる。」ホッとしているような要を見て、ステファンは釘を刺した。「だが、君を吊るのもまたおかしな話だ。君は共有者なのだ。ならば私から吊ればいいだろうが。もし、妙さんが偽なら私、倫子さん、洋子さんの辺りに人外が集まっているのだろう?いくら決め打つとはいえ、まさかのためにここから吊っておけばいいではないか。皆で私に入れたらいい。」
倫子と洋子が、顔を見合わせる。
倫子が、ため息をついた。
「…仕方ないわね。だったら私から吊る?いいわよ、それでも。勝てるんでしょ?妙さんが真だろうなって今は思っているから、別にそれでもいいわ。妙さんに呪殺を出してもらわないといけないもんね。だいたいステファンさんが自分から吊っていいって言い出した時点で、絶対人外じゃないと思った。私は白なのになんだか洋子には疑われてるし、寝て待ってる方が良いような気がするのよね。」
洋子は、言った。
「違うわ!別に、めっちゃ怪しいと言ってるわけじゃなくて…コロコロ変わるなって思っただけなの!でも…倫子がそう言うなら、私からにする?生きてても私は生産性がないし、倫子なら少しは意見を村に落とせるじゃない。寝てられるなら、そっちの方が楽かも。毎日ハラハラして、疲れてるし。」
それはオレもなんだよ。
要は思いながら、ため息をついた。
「そこ3人共が自分で良いって言うことからもう、白いんだよね。村人だろうって思ってるのに、オレにはごめんだけど吊られてくれって言いづらい。でも彰さんは一番真だと思ってる狩人だし、だからもう自分で良いかって思ったんだ。じゃあ…とりあえず、妙さんは今夜陽介を占って。それで呪殺が出たら、次の日久美子さんだ。」
久美子は、首を振った。
「私目線じゃ、そんなの自殺行為よ!妙さんは呪殺を装うためにそこを噛んで来るわよ?結局分からないままになるわ!今夜ステファンさん、倫子さん、洋子さんから吊るのは賛成よ。その中から一番潜伏臭のする所に入れたら、狐かも知れないもの!私目線では、正希さんが狐だから洋子さんで囲いが発生していそうに思うから、今夜は洋子さんからが良いと思うわ。でも、明日私を吊るのは間違ってる!縄が無駄になるのよ?明日7人で後3縄なのに、私を吊ったら妙さんと残りの狼が吊れなくなるわ!だって、狩人には狂信者が居るのに!最終日パワープレイになってしまう!」
久美子目線では、間違っていない。
彰が、息をついた。
「…ならば私が陽介を護衛しよう。」彰が、言った。「それでも陽介が死んだら呪殺だ。健には私か要を守らせる。私は誰より真なのだろう?ならば、その真の私が必ず陽介に護衛を入れる。」
久美子は、キッと彰を睨んだ。
「あなたは狐ではないけど、狂信者かも知れないわ!確実に陽介さんを噛むために守るとか言っているのではないの?!その手には乗らない!」
要は、言った。
「じゃあ健に陽介を守らせても良いよ?とにかく妙さん真を確定させるのが目的だ。噛み合わせて来るんなら願ったりだよ。だって呪殺が出たら明日は7人じゃなくて6人になって、縄が減っちゃうところだったからね。7人なら3縄だけど、6人なら2縄になるところだった。」
久美子は、グッと詰まった。
そのことには思い至らなかったらしい。
彰は、息を付いた。
「とにかく、護衛の一つは陽介に入れておこう、要。どちらにどこを守らせるのかは君が決めたら良いだろう。もし私が襲撃されたら、私の意見がうるさかったということなので、明日は久美子さんを必ず吊ってくれ。」
要は、頷く。
そして、洋子を見た。
「姉ちゃん、必ず勝つから。オレは彰さんを信じているし、この人は嘘を言っていないと、なんか分かるんだ。だから、今夜は博正視点で狐の恐れがある姉ちゃんを吊る。妙さん真なら縄に余裕があるから、姉ちゃんが村人で今夜吊られても勝てる。どちらにもまだ可能性を残した吊り位置だから、久美子さんも妥協できる位置なんだ。だから、姉ちゃんを吊らせて。」
洋子は、頷いた。
「大丈夫。要、ほんとに頑張って来たよね。私は見てたから。要を信じてるから、私は彰さんを信じるよ。安心して。」
倫子が、涙目になって洋子を見た。
「洋子…ごめん。きっと痛みも何もないよ。大丈夫よ。一瞬だもの。」
洋子は、笑って頷いた。
「だから平気。心配ないって。」
『投票10分前です。』
モニターが着いて、カウントダウンが始まる。
要は、覚悟を決めてモニターを見上げた。
…彰さんを信じるんだ。
要は、思っていた。
彰は、そんな要をじっと観察していた。
そうして、満場一致で洋子は吊られて行った。
洋子自身の票も洋子に入り、まさに満場一致だった。
目を閉じて椅子に力なく座る洋子を、要は涙目で見て、言った。
「…運ぶの手伝ってくれますか。」
健が、立ち上がって言った。
「オレが手伝うよ。」
すると、珍しく彰も立ち上がった。
「私も手伝おう。」
驚いた要の目の前で、健と彰が両脇から洋子を支えて、そうして歩き出した。
要は、急いでリビングの扉を開いて通路を確保し、二人と共に黙り込む皆の前から離れて行った。
陽介が、後ろから追い掛けて来た。
「待てよ!要、別にオレは占われても良いが、それじゃあ占いが無駄になるんじゃないのか。そんなに彰さんは信じられるのか?」
要は、階段を上がって行く二人を後目に陽介を振り返った。
「…信じられるよ。だって、破綻してない。争ってるのは君と健なのに、健には妙さんから白が出てるし、占ってもらって狐じゃないって証明された方が良いんじゃないのか?明日生き残ってたら考えるよ。噛み合わせはない。健か彰さんに必ず守ってもらうから。それともどっちに守ってもらいたいとかある?」
陽介は、言い淀んだ。
「それは…健は嘘をついてるから、彰さんだけど。」
要は、頷いた。
「ほら。彰さんを信じてるわけじゃないか。大丈夫だよ、彰さんに君を守ってもらうから。君は…そうだな、オレを守ってくれ。じゃあね。」
要は、急いで彰と健の後を追った。
陽介は、その場に立ち尽くしてそれを見送っていた。




