5日目の投票
部屋の外へと出た真司は、扉を閉めて小声で言った。
「要は、覚えてるんだ。でも、思い出そうとしたらあんな感じに。」
彰が、歩き出しながら言った。
「…恐らく、今の要の意識が前の要の意識を感じて、自分が自分でなくなるような気がして抵抗するんだろう。同じ時間とはいえ、新しい時間を生きているのだ。もし、今の要がそれを拒絶するなら、無理に思い出させるのは酷な気がして来た。このまま様子を見よう。まだ子供だし、受け入れられないこともある。それは要の選択なのだ。我々が決められることではない。」
ステファンは、黙って聞いている。
真司は、急いで彰について歩きながら、言った。
「でも!こんなことまでしたのは、要のためじゃなかったのか。」
彰は、チラと真司を見た。
「ここは廊下だぞ。個室ではない。」
個室にはカメラはないが、廊下にはある。
真司は、グッと黙った。
「…どうせ、みんな無くなるんだ。」
彰は、頷いた。
「確かにその通りだ。が、今はゲームに集中しよう。最後まで完遂せねばな。」
彰は、さっさと階段を降りて行く。
ステファンが、言った。
「…彰がしたいようにさせよう。あいつだって嫁に会いたくて死にそうだと言っていたのに頑張っているのだ。結婚以来、こんなに顔を見ないのは初めてらしいな。とにかく、成り行きに任せよう。」
真司は頷き、階段を降りて行くステファンを見送った。
そして大きくため息をつくと、自分の部屋へと向かったのだった。
ぐっすりと、眠るというより気を失っていた要は、ヤバいと起き上がった。
もう、夕方の会議の時間だ。
そんなにも眠ってしまっていた自分に驚いて急いで階段を駆け下りると、リビングにはもう、皆が揃っていた。
固い表情で、皆緊張しているように見える。
「ごめん、めっちゃ寝てしまってた。」
要が謝ると、彰が答えた。
「まだ6時半になったばかりだ。気にすることはない。」
真司が、言った。
「ああ、みんなに今説明しといたぞ。今日は真由さん吊り確定じゃなくて、妙さん真だと思うなら真由さんに、博正真だと思うなら妙さんに投票するように言った。」
だから緊張気味な顔をしていたのか。
要は頷いて、言った。
「不公平だという声があって。でも、オレとしてはもし妙さんが偽でも狂信者で色が見えない事もあるし、真の可能性もまだあるから、できたら情報吊りで真由さんを吊ってほしいと思ってる。」
真由が、言った。
「…もう…部屋に帰って良く考えたけど、仕方ないかと思って来てる。信じられる結果を出せるのが真司さんだけなんだし、自分の白を証明するにはそれしかないんでしょう。仮に妙さんを吊っても、どうせ明日も私が疑われ続けるのかなって思うと、ステファンさんが言うように、吊られるしかないのかなって。だから、もういいよ。」
妙が、言った。
「私目線では真由さんが黒だから、そこを吊ってくれたら私が真占い師なんだって分かってもらえるから、真由さんを吊って欲しいわ。でも…真司さんが襲撃されたら、私はきっと分からないって理由で吊られるんでしょうね。でも、明日の結果を残して追放されたいの。まあ…私に護衛が入らないなら、私が襲撃されてしまうのかも知れないけどね。」
要は、答えた。
「もちろん、今夜もし真由さんが吊られたら3人居る狩人の一人は妙さんに振り分けるよ。真だったら今夜絶対妙さんを噛みたいだろうしね。その後は護衛が入ってしまうし。」
真司が、苦笑した。
「狩人のロシアンルーレットだな。要か、オレか、妙さん。狼が当てて来られるかってところだ。」
笑い事じゃないけど。
真由が、言った。
「そんな、真司さんだけは絶対に守ってくれないと困る!吊られ損になってしまうわ!しっかり考えて欲しい。笑い事じゃないと思う。」
同感だ。
要は、それを聞いて何やら少し、真由が気の毒になった。
もし妙が偽なら、真由は村人でそれが村感情に聴こえたのだ。
困っていると、モニターがパッとついた。
『投票10分前です。』
今夜も始まる。
要は、息を飲んでモニターを見上げたのだった。
1 神原 彰→6
2 多田 勝喜→6
3 牧野 妙→6
4 安村 倫子→3
6 増田 真由→3
7 大井 真司→6
9 藤井 健→6
11 塚本 久美子→3
12 立原 洋子→3
14 立原 要→6
15 青木 陽介→3
あ、結構割れた…?!
要は、緊張してモニターを見つめた。
思っていた以上に、妙に入れている人が多いのだ。
全部が人外のはずはないので、真由が狼なのか村人なのか、その投票ではわからない。
どちらにしろ、明日の真司の出す色で、何かが分かりそうだった。
『No.6は追放されます。』
良かった、真由さんだ…!
要は、ホッと息をつく。
真由が、椅子に座ったままぎゅっと目を閉じた。
「お願い、必ず勝ってね…!」
覚悟があったのは本当らしい。
ブルブル震えていた真由は、一瞬で脱力して、動かなくなった。
『No.6は追放されました。夜時間に備えてください。』
追放は、終わった。
隣りの席の真司が、息をついた。
「…じゃあ、運んで来る。要は指定するとこ指定して、部屋に帰って来い。」
要は、頷いた。
「分かりました。」と、妙を見た。「妙さん、まだ君のグレーが多いよね。そこから選んで好きな所を占ってくれていいよ。もう他に占い師は居ないし。もし狐が居たら、そこを噛み合わせて来られないから、君の真が証明できるかもしれないし。」
妙は、頷いた。
「分かったわ。狐っぽい所を占えば良いわね?」
要は、頷く。
「任せるよ。」と、健と陽介を見た。「狩人には、後で護衛先を言いに行くね。」
陽介は、頷いて立ち上がった。
「じゃあ部屋に帰る。」
他の人達も、わらわらと立ち上がってはキッチンや、廊下の方へと出て行く。
要は、ため息をついて自分も部屋へと向かって足を進めたのだった。
結局、彰には要を、陽介には真司を、そして健には妙を守らせることにして、それを密かに伝えに行った。
もう、人数が減って来ているので、廊下で誰かに出くわすということも極端に少なくなっている。
今夜真由を吊って残ったのは10人、彰、ステファン、妙、倫子、洋子、真司、健、久美子、要、陽介だ。
そう言えばまだ、忠司が共有者だと明かしていない。
そもそもそれに一番言及しそうな彰とステファンが既にそれを知っていて、真司も知っている今、他にそれに気付く人が一人も残っていないようだった。
…スキル不足?
要は、首を傾げた。
妙がスキル不足だと彰が言っていた気がする。
が、みんな分かっていて言わないのかも知れない。
とはいえ、占い師である妙ならば、そこを避けたいと考えるはずなので、聞いて来てもおかしくはなかった。
それに思い当たらないところが、何やら怪しい気もして来た。
狩人達の部屋を訪ねてから、自分の部屋へと帰ると、真司が来て座っていた。
「要。指定は終わったか?」
要は、頷いた。
「占い師は呪殺を狙って勝手に占うように言ったし、狩人には彰さんにはオレ、陽介に真司さん、健に妙さんを指定して来ました。でも、オレまだ共有者を明かしてないんですよね。妙さんは、ここまで来たら盤面詰めたいだろうし、その場所を聞いてもおかしくないのに、何も言って来ないのがおかしいかなって。どう思います?」
真司は、顔をしかめた。
「どうだろうな。みんな君が、相方に言及しないから、もう居ないものだと思ってるのかも知れない。とりあえず明日だろう。妙さんが真だったら、博正が偽だ。博正真なら妙さん偽。オレが生き残って色を見るよ。陽介はまだ破綻してないし、博正に占われてる。大丈夫だろ。」
要は、頷いたが何か不安だった。
「…でも…健に妙さん守りを指定したら、オレが真司さんを守るってまた言われたんだ。それが真感情なのか偽なのか、ほんとにわからなくて。とりあえず、真司さんが決めたからって押し通したけど、また別の所を守って妙さんが噛まれるとかないよね。」
真司は、顔をしかめた。
「あいつは、またか。今度は大丈夫じゃないか?とにかくあいつは、要注意だな。もし明日破綻したら、迷わず吊りだ。二度目だからな。」
要は、頷いた。
「そこは強く言って来ましたよ。もし違う所を守ったって言ったら、即吊るって。陽介は、なんかあの自信に満ちた感じだと、妙さんが襲撃されそうな気がするけど、健で大丈夫なのかとか言ってたし。妙さんに階段で会って話したらしいんです。そしたら、思ったより村っぽいことを言ってたからとかなんとか。」
真司は、ため息をついた。
「あの二人は。しっかりしろって言いたいよ。ま、今夜はオレが噛めないなら狩人が襲撃筆頭位置だろうし、後は狼に任せて良いんじゃないか。オレは明日の結果さえ落とせたらそれでいい。」
要は、頷いた。
「そうですね。とりあえず、明日の結果待ちです。護衛成功が出てくれたら、ちょっとは気持ちがましなんですけど。」
真司は、微笑んだ。
「そうだな。今奇数進行だから一回出たぐらいじゃ縄は増えないが、多分出たらオレで、だから、陽介の真だけは確定できそうだ。」
真司は言って、要の頭をポンと叩くと、部屋を出て行った。
要は、明日こそ確実な情報が欲しいと心底思っていたのだった。




