4日目の夕方の投票
それから、莉子と久美子、洋子、真由、倫子の五人が同じような事を言い合って平行線をたどった。
言い合っていると言っても、真由はオロオロして聞かれたことに答えるだけ、洋子はみんなの意見の調整のような感じで、この二人は攻撃的にはしていなかった。
つまり主に倫子と莉子、それに久美子が言い合っていたのだ。
久美子と真由、洋子は妙偽派、莉子は妙真派、倫子がどっちつかずにどちらの意見にも肯定したり否定したりとハッキリしない。
ステファンと彰は同じ投票対象だったが、それを黙って聞いているだけだ。
この二人は妙真派なのだろうから、グレーの中でも精査は割れているようだった。
要はというと、今のところは妙偽派だった。
というのも、やはり妙の行動が怪しい。
今朝からの言動がどうしても博正を偽にしたい狼のように見えていて、その白先が気になった。
ちなみに妙の白先は、ステファン、倫子、忠司だった。
ステファンが妙を真だとする根拠は、彰と同じでその彰は博正の白、そして狩人だった。
なので、一概に自分を囲っている偽占い師を庇っているようにも見えづらい。
が、それがステファンの狙いなのかも知れなかった。
彰がもしも狂信者で敵対陣営の真占い師に白を打たれて狩人に出ているとしたら、この二人の連携も気になるところだった。
昼の会議をとりあえず終えて、要は狩人達に今夜の護衛先を告げて回った。
ついでにいろいろ他の部屋も訪ねておいてお茶を濁し、その後黙々と早めの夕ご飯を部屋で済ませた要は、夕方の会議に挑むことにした。
夕方、6時半にリビングへと集まった皆の前で、要は言った。
「今夜はグレランだから、誰が吊られるかわからない。考えたんだけど、とりあえず占い先は、必ず博正と妙さんに真占い師が居て、お互いに疑い合っていることからまずは、その相手の白先から占って欲しいと思ってる。つまり、博正はステファンか倫子、妙さんは彰さんか真由さん。だから今夜はなるべく、それ以外のグレー、久美子さん、莉子さん、姉ちゃんから選んで欲しいな。もちろん、今指定した占い先の人がどうしても怪しかったらそこに入れてくれてもいい。」
莉子が、言った。
「そんな、囲われてるなら久美子さんじゃないの?!私が指定先に入るなんておかしいわ、絶対狼に投票されるもの!」
要は、ため息をついた。
「村人ならごめんだけど、早希さんだって白だったのに吊られて行ったんだ。そこは飲んでもらわないと。グレーを詰めて、必ず勝つって約束するしかないよ。」
久美子は、言った。
「…仕方ないわ。吊られても真司さんが色を見てくれるんでしょう。案外その方が気が楽かもって思えて来た。要さんが勝ってくれるって言うなら、信じるしかないかな。」
莉子は、ホッとしたように言った。
「良かった、あなたがそう言ってくれるなら今夜は久美子さんね。私は村人だもの、生き残らないといけないし。」
要は、眉を寄せた。
「…それって、久美子さんは狼ってこと?」莉子がえ、と要を見た。「なんで断言できるの?久美子さんの色が見えてるの?それとも村人でも自分以外なら良いってこと?」
莉子は、慌てて言った。
「違うわ、私は私を村人だって知ってるから!久美子さんはわからない、でも怪しいから…」
真司が言う。
「君だって怪しいんだよ。オレと要以外はみんな怪しい。君は村人は生き残らないとと言ったのに、久美子さんの色も知らずにあっさり吊ると言ってる。それっておかしくないか。矛盾してるぞ?」
莉子は、やっとそれに気付いたのか焦りながら言った。
「違うの、本当に私は村人で!でも久美子さんのことはわからないから、吊られて良いって言うならいいかって思っただけなの!」
場の雰囲気が何やら重い。
博正が、言った。
「…まあ、この環境だ。みんな死にたかねぇ。ホントに死なないと言われても、あんなの毎日見てたら落ち着けって言う方が難しいだろ。莉子さんを責めるんじゃねぇ。精神的に追い詰められてんの。みんなな。」
確かにそうだけど…。
要は、黙り込んだ。
莉子が、涙で潤んだ目で博正を見た。
「私…あれだけあなたが偽だって言ってたのに。」
博正は、フンと鼻を鳴らした。
「別に。それとこれとは別だろ。間違う村人だって居る。だから言っただけで、オレはまだ君が白だと思ってるわけじゃねぇ。投票するかしねぇかは別問題だ。とりあえず、久美子さんより心象が下がったのは分かってるだろ?このゲームはチームプレーだから、自分本位じゃ勝てねぇしな。村感情ってやつ。ま、もう投票だから、結果はもう出るだろ。」
確かにもう10分前…。
要がそう思った時、モニターがパッとついた。
『投票10分前です。』
始まった…。
皆が、モニターを見上げて体を固くしたのが分かった。
1 神原 彰→11
2 多田 勝喜→11
3 牧野 妙→11
4 安村 倫子→20
6 増田 真由→20
7 大井 真司→20
8 田代 博正→20
9 藤井 健→20
11 塚本 久美子→20
12 立原 洋子→20
14 立原 要→20
15 青木 陽介→20
20 志田 莉子→11
…莉子さんだ…!
要は、それを見て思った。
要は疑っている妙の真を推して来る莉子を怪しいと思って入れたのだが、ほとんどの票は恐らく、博正が言ったように最後の発言の、心象が悪過ぎて流れたのだろうと思われた。
洋子に一票も入っていないのは、間に立って調整していた立ち位置が、村にとって怪しくないと印象付けられていたからだろう。
『No.20は、追放されます。』
声が、無情に告げる。
「そんな!嫌よ!」莉子が叫ぶ。「私じゃない!私は人外じゃないのに!」
その言葉を最後に、莉子はその場にグニャリと倒れた。
『No.20は追放されました。夜時間に備えてください。』
博正が、ため息をついた。
「…まあ、オレ目線じゃ正希が狐って線が濃厚だから、莉子さんは囲われ位置だし久美子さんには靖から白が出てるから、どっちにしろこの二択なら莉子さんだったけどな。洋子さんだって同じ立場だったのに、莉子さんはやり過ぎたんだよ。」
博正目線では、そうだっただろう。
だが、彰、ステファン、妙、莉子だけが、久美子に入れている事実はどう解釈したらいいのだろう。
要が考え込んでいるので、真司が言った。
「…莉子さんはオレが運んで来るよ。落ち着いたら要も上がって来い。話をしておこう。」
要は頷いたが、目はまだ投票結果を表示しているモニターにあった。
…彰さんは、狩人じゃないのか…?それともステファンに上手く転がされているのか。それとも、オレが間違っている…?
要は、内心苦悩していた。
部屋へ帰ると、もう真司が中で待っていた。
どうやら、莉子を部屋へ運んですぐに要の部屋へ来て、待っていてくれたようだった。
「…ごめんなさい。待たせてしまったかな。」
真司は、首を振った。
「別にいい。投票結果が気になるんだろ?」
要は、真司の前の椅子に座って頷く。
「そうなんです。彰さんはほんとに狩人なんでしょうか。ステファンと連携してるみたいに見えた。残りの人外は4人で、投票も4人。出来すぎですけど。」
真司は、答えた。
「オレは逆に白いと思った。というのも莉子さんが狼だったとして、最後にあれだけ村の心象を悪くしてしまったら、いくら仲間でも入れざるを得ない。少々自分の発言と食い違っても、要が投票履歴から考察すると宣言している中で村の意見に反する動きは避けようとするはずだ。特に彰なんか、適当に理由を付けて絶対に仲間を切って来る。仮に自分がラストウルフになろうがな。だが、あいつは最後まで曲げなかったし、ステファンもそうだ。ここまで来て、村の流れに逆らうのは、オレからしたら白く感じた。」
要は、それでも言った。
「今夜は彰さんが真司さん護衛なんです。ここで投票結果があからさまだったからって、彰さんを捨てて真司さんを噛んで来たらどうしよう。だって、妙さん狼なら博正真で、彰さんは狂信者でしかないわけでしょう。簡単に切り捨てられるもの。」
真司は、首を振った。
「逆にそうなったら、同じように投票してるステファンがやり玉に上がるだろう。妙さんが狼だったら、自分の主張が尽く無視された結果なわけだから、吊られる未来は見えてるはずだ。今は仮に彰狂信者でステファン狼でも、彰を切り捨てられる状況じゃない。オレは噛まれない、大丈夫だ。」
そうか。
要は、ホッとかたの力を入れる抜いた。
「…他の二人は怪しいから、彰さんだけは真だと思っていたんです。なのにあんな結果だったから。莉子さんは明らかに怪しかったですよね?それでも盤面が全てってことですか。」
真司は、苦笑した。
「あいつらならそうだろうな。あんまり何を話してたとか、そんな事はこだわりがなくて、実際に確定してどんな結果が出たか、狼がどこを襲撃してどこを襲撃しなかったのか、そんな所を見てる。確定している結果が全てなんだ。心象がどうの、そういうのは二の次なんだろう。考え方の違いだな。」
要は、何か記憶の端に引っ掛かった。
この実利主義…なんか、覚えがあるような。
「…そうですよね、彰さんはそんな人だ。」要が言うのに、真司は眉を上げる。要は遠い目で続けた。「人が何を思おうと関係ない。自分が正しくてそれを理解させるのも面倒で、説明するのを諦めて…誤解されても気にも掛けない、結果を見ろと嘲笑うような、そんな、人、で…。」
真司がますます眉を上げた。
要は、どうしてそんなことを言ったのか、分からなかった。
だが、口から次々にそんな言葉が出て来るのだ。
「…要…何か、思い出したか…?」
真司の言葉に、要はハッとした。
思い出した?
「…何をですか?オレ、彰さんのこと知ってるんですか?」
真司は、要の様子を見て、フッと肩の力を抜くと、首を振った。
「…いや。そんなような気がしただけだ。」と、立ち上がった。「また明日だな。襲撃も入るし、オレの結果も落ちる。また明日考えよう。大丈夫、オレは噛まれないよ。」
要は頷いて、混乱する頭の中が整理できないまま、真司を見送った。
明日、自分は生き残れるのだろうか。
要は、そう思っていたのだった。




