3日目の投票と夜
6時半になり、キッチンに居た全員がリビングへと出ると、その他の人達がもう、椅子に座って待っていた。
敦、陽介、真由、健、靖、莉子、久美子の7人だ。
要は、急いでホワイトボードの横に立ち、言った。
「遂に3日目の投票です。ええっと、今16人で、今夜は敦を吊ることに決まってます。敦、何か言いおくことある?」
敦は、答えた。
「もう言ったよ。ここに居る人達にも、話はした。他は昼間に聞いただろ。オレはオレを黒だと決め付けて来る博正と、黒を打った靖が偽だと思ってる。だからその白先に、狼が囲われていると思う。」
要は、ため息をついた。
「分かった。じゃあ狩人にはオレが個人的にもう、護衛先を言ってあるから、今夜こそは絶対にそこを守って欲しい。破綻したら即吊り。健はだから、もうボーダーラインに立ってる。他が破綻しなければ、健は偽決め打ちで、良い時に吊る。今はまだ他の狩人が重要なので、吊らないだけだ。」
健は、緊張気味に頷いた。
「オレは真狩人だよ。だから今夜こそはきちんと言われた所を守る。」
要は頷いて、占い師を見た。
「それから今夜は占い師同士の相互占いなんだけど、時間があるからもう指定先を言っておくね。二人を組にしてそこをお互い占って欲しいんだ。まず、妙さんは靖、靖は妙さん。」
妙が、言った。
「私は博正さんが気になるから、博正さんが良かったんだけどな。」
要は、え、と妙を見た。
「博正を占いたいの?」
妙は、答えた。
「占い師には狼と狐だと思ってるんだ。だから、昨日襲撃されなかった博正さんが狼なのか狐なのかって気になってて。相方だったら一番良いけど、あれだけ呪殺を出すって言ってて陽介さんは溶けなかったし、噛まれなかったのが狼の黒塗りの策略なのかそれとも狼だからなのか、噛めない狐だからなのかって考えたの。だからよ。」
博正は、言った。
「オレを占って白が出ても狂信者なのか相方なのか分からねぇのに。オレ目線じゃ誰がホントに怪しいのか全く分からねぇから、要に指定された通りでいいと思ってた。」
正希も、頷いた。
「オレも。誰を占いたいかって聞かれたらそのほうが焦るなって。博正をピンポイントに指定したいなんて、なんか狼同士か狐同士で作戦練って来たように聴こえるけどな。」
妙は、慌てて言った。
「え、違うわ!純粋にそう思ったからだけよ!」
要は、ため息をついた。
「もう良いよ、とにかく指定した所を占って。妙さんは靖で、靖は妙さん。」と、博正を見た。「で、博正は正希で正希は博正。」
二人は、頷いた。
「分かった。」
靖が、言った。
「妙さん占いは良いかな。なんか気になってたんだよね。あんまり考察伸びてないみたいなのに、今みたいに占いたい所はハッキリしてたり、矛盾してるもんな。敦のこと庇ってたし。」
久美子も、頷く。
「そうよね、私も思ったかも。」
相変わらず久美子は靖寄りの意見だなあ。
要はまたため息をついた。
「じゃあ、もう良いかな。そろそろ投票時間に近付いて来てる。何か意見があったら今のうちに話しておいて。」
すると、敦が言った。
「…オレ、重いから。」え、と皆が驚いた顔をすると、敦は続けた。「運ぶ時気を付けてくれ。それから、必ず勝ってくれよ。帰って来るって希望を持ちたいんだ。」
よく見ると、敦は小刻みに震えている。
追放されるのを、もう何回も見て来たのだから、それは怖いだろうと要は敦に同情した。
「…大丈夫、きっと帰って来られる。忠司さんを見て来たけど、彰さんが言ってた通りに全く硬直とかしてなくて、綺麗なままだったよ。だから心配ない。絶対にホントに死ぬなんてないから。」
敦は頷いたが、震えは止まらなかった。
そんな中で、モニターがパッとついた。
『投票10分前です。』
全員が緊張するのを感じながら、要は黙ってその時を待ったのだった。
投票は、終わった。
満場一致で敦が吊られ、敦は靖に投票していた。
覚悟の上だったので、敦は目を固く閉じてその時を待ち、そして脱力して行った。
なんとも言えない後味の悪さを感じながら、今日は占い指定ももう済んでいたので、全員で敦を二階の部屋へと運んだ。
要は、部屋に入る前にもう一度忠司の部屋へと様子を見に入ったが、忠司はやはり、朝と同じようにそこに横たわり、変わった様子はなかった。
やはり、忠司は死んでいないのだ。
何やら暗い要のために、真司は部屋までついて来てくれていた。
二人で部屋へと入ると、真司は言った。
「必要なことだったんだ。そんなに落ち込むな。時間ギリギリまで話をしよう。もう夜時間に通話ができないだろ?」
そうだ、もう忠司さんは居ない…。
要は、更に落ち込んだ顔をした。
「…ありがとうございます。わかってるんですけど、やっぱり今になって忠司さんを守りきれなかったことが堪えて来て。敦のことは明日で良いかなって。色が黒なら、必要だったと思えるから。健がホントに真なら…オレ、許せない気持ちです。」
真司は、ため息をついた。
「気持ちは分かる。忠司は少なくとも今日は生きてると思うよな。それなのに朝になったら居なくて。精神的支柱を失うとつらいもんだ。でも、気持ちを切り替えないと。」と、真司は、尻のポケットに手を突っ込んだ。「さて、今日のみんなの投票先をメモっておくか。」
要は、驚いてそれを見た。
「メモしてるんですか?」
真司は、頷いて苦笑した。
「どうせお前は覚えてるんだろ?全部。だが、オレはあいにくそこまで頭が良くないからな。書き置いてるわけだ。」
そうか、みんな覚えられないのだ。
要は、少し驚いた。
彰は誰に投票したと聞けば、誰と誰がどこに投票していると普通に答えるので、みんなそんなものだと思っていたのだ。
だが、恐らく一部の人しかそれができないのだろう。
要はそれができる人の方なのだ。
「…思ってもいませんでした。そうか、後で見るために。」
真司は、要の前でせっせと投票先を書いた。
「そう。お前達は特殊なんだよ。みんなそんなことまで覚えてないんだって。」
要は、初日と2日目の投票の数字を見つめた。
初日は、忠司と雄吾が接戦で、ハラハラしたものだった。
雄吾が16で、忠司が13…。
要は、ハッとした。
そう、雄吾は黒、人狼だった。
これまでグレーばかりを考えていたが、役職は…?
「ちょっと見て。」要は、言った。「真司さん、グレーのことばっかり気にしてたけど、役職達。占い師は、全員雄吾に入れてる!」
え、と真司は自分の目の前のメモを見た。
確かに、妙、博正、靖、正希は全員雄吾に入れている。
狂信者は、狼を知っているはずだった。
なので仮に狂信者が占い師を騙っていても、雄吾が狼だと知っていたはずだ。
それでも、全員雄吾に入れているのだ。
「…確かに。ということは、必ず身内切りが発生しているな。」と、他の投票も見る。「…こうして見ると、健が狩人の中では唯一雄吾に入れてないし、敦が怪しんでた久美子さんも入れていない。当の敦は、雄吾に入れているよな。」
要は、頷いた。
「それで2日目の吊りを免れたみたいなものでしたしね。でも、敦は今日はそれを使わなかった。黒を打たれたから、もう吊られるって覚悟するしかなかったのかな。」
真司は、眉を寄せた。
「…占い師の投票からも、絶対に身内切りは発生しているから、あてにはならないけどな。何しろあの日は霊媒師は出していなくて、一人を噛めてももう一人は絶対に残る状態だった。つまり、色は必ず見える日だった。次の日から生き残ろうと思ったら、雄吾に入れているのは結構白を見られる可能性があるので、怪しまれないためにも多くの狼が雄吾に入れただろう。まあ、個々人のスキルもあるし、わかっていなかった狼が雄吾に入れなかった可能性はあるが。」
必ず身内切りが発生している…。
要は、狼がかなり用意周到にしているのが透けて見えて、冷や汗が出た。
この日、雄吾が吊れてしまったが、仮に忠司が吊れて雄吾が生き残っていたなら、身内切りした狼達は、雄吾に投票したという実績を残しておける。
後々雄吾が黒だと知れた時に、白位置に入る事もできて、有利になるはずだったのだ。
結果、雄吾が吊れたので狼からしたら仲間を失うことになってしまったが、それでも次の日から、その実績を皆に言える。
雄吾を吊り殺したと言えば、後になればなるほどそこに投票していない村人に対しての武器になるだろう。
敦は、黒打ちされたので逃れる術はなかったが…。
もしかしたら、本当に敦は村人だったのかも知れない。
要は、もっと考えたら良かったのかと、更に悩むことになってしまったのだった。




