3日目の夕方に
要は、部屋に入ってすぐに言った。
「真司さん、彰さんとステファンは忠司さんがオレの相方だって気取ってた。言わなかっただけで。それに、ステファンは耳がいいから一昨日彰さんに護衛指定しに行った時の事を知ってたんだ。囁くように話してたから内容までは聴こえてないみたいだったけど、つまりはステファンには少なくとも初日に彰さんが狩人に出てるって透けてたんだ。」
真司は、眉を寄せた。
「…そうか。そうかも知れないな。あいつらなら気取るだろう。何しろお前はグレーの忠司に話を振り過ぎてた。忠司も発言し過ぎだった。おまけにトドメが昨日の護衛指定だ。あいつは雄吾を吊りに行ったとはいえ、まだグレーだったからな。」
要は、彰と同じ事を言う、と落ち込んだ顔をした。
「…オレが忠司さんを殺したようなもんだ。もっと注意してたら良かった。」
真司は、慌てて言った。
「違う、お前は護衛を入れてたじゃないか。健が悪いんだ、あいつが真ならマジで利敵行為だからな。とりあえず健のことはまた明日だ。それより、倫子さんをどう思う?敦が言うのはもっともだが、オレは違うと思う。」
要は、顔を上げた。
「…あの、靖を庇ってるってことですか?」
真司は、頷いた。
「倫子さんは確かに靖を庇うような意見を出したが、その前に最初、靖が狼に陥れられてると主張した時には、それならなぜ靖噛みしなかったと疑う意見を出していた。それに縄消費に使いたいからではないかと反論したのは久美子さんだ。その後いろいろ意見が出て、最終的に庇う意見を出した。思考している村人に見える。人外なら一貫して靖を庇い続けるだろう。久美子さんのようにな。」
要は、確かにそうだ、と真司を見た。
「…じゃあ、もし靖が人外なら久美子さんも人外?」
真司は、頷いた。
「恐らくは。その久美子さんを敦がやり玉に上げているし、敦が白ならまとめて吊れると思ってる。だが逆に黒だったら、狐か…だが狐は狩人に出ている予想なのだし、真と村人かとなるかな。もちろん、狩人に狐ではなく人狼陣営から出ていたらこの限りではないがな。」
要は、頷く。
段々に色が見えて来ているように思う。
「…でも、博正の意見は?敦が黒で明日それが発覚するから、逆を言ってるっていう。」
真司は、顔を合わせるしかめた。
「それなら狼が狼に黒出しはしないだろうし、狂信者でもだ。初日に雄吾を失ってるのに、更に身内切りってそれはないだろう。靖は狐か真になるし、久美子さんは狐か村人。狐の場合は今も言ったように狩人には別の誰かが出ていることになるな。いずれにしろ、狩人はいつか破綻する。問題は、その破綻した狩人の色をオレが見られるかどうかだ。つまりは、恐らく健だがな。まあ、また明日考えたら良いだろう。いろいろ見えて来る。今考えても仕方がない。」
要は、頷いた。
仮に真司が健の色を見ることができても、白だったら真か狂信者か狐なのかがわからない。
今朝破綻したことから、これ以上仲間を無駄に減らしたくない狼には、どう考えても見えない…。
真司は、考え込む要に、言った。
「…とりあえず、敦は結構情報を落としてくれているぞ。オレも気になっていたが、久美子さんや倫子さんがよく発言するようになって、そちらに目が行っているが初日から怪しまれていた真由さんや、発言が少ない莉子さんの事が話題に上らない。博正とのやり合いで、敦はその白先の真由さんや彰にも言及した。真由さんは一言も発言せず存在感を消したい風で、オレにはまだ怪しいと思わせているのだが、そこをわざわざ出して来ているのが白く見えた。仮に真由さん狼で敦と仲間なら、それを思い出させるような意見は出さないだろう。」
要は、考えながら言った。
「…ということは、真司さんは敦が白で博正が偽、真由さんが狼だと?」
真司は、ため息をついた。
「分からない。誰も言及しない真由さんを怪しいという考えが拭えないからそうなるだけで。敦が黒ならそれは覆る。博正は真由さんに白を出すまで真だと思われていたのは確かなんだ。狼の噛みも、そんな博正を陥れようとしているように見える。そうしたらその白先も怪しまれて、縄消費に使えるだろう。だから本当に分からないんだ。」
要は、遠い目をした。
「…狩人が噛まれないのは、多分狼が狩人に狐が出ていると知っているからじゃないかと思い始めたんです。今露出しているのは陽介と健ですけど、昨日は陽介が限りなく偽っぽかったし、今朝の健破綻で狼がどう動くのか…もしやっぱり狩人が噛まれなかったら、更に狩人には狐だって確信すると思います。もう噛み位置ってなくなって来ますよね。オレと真司さんには必ず護衛が入るし、ワンチャン賭けたくても縄の事があるから護衛成功は出したくない。狐噛みもしたくないはずです。仲間の騙り占い師はギリギリまで残したいだろうから、真占い師でも変な所は噛めないし。」
真司は、頷いた。
「そうだな。オレなら健が破綻しているから、偽に賭けて今夜は陽介を噛んでみるかも知れないな。」
要は、ため息をついた。
「靖が偽なら健に白なんで狼からは陽介が真に見えますよね。博正が偽なら陽介白だから健が真に…いや、見えないか。」
真司は、頷く。
「偽なら適当に白を打ったら狩人だったということも考えられるからな。安易に囲っているとは思えないだろう。たまたまこうなっているのかも知れない。皆は知らないが、博正目線では狩人に狐だと言うのなら、もう健で決まっているんだよ。彰と陽介に白が出てる時点で、どっちかが狂信者ででもない限り、健が偽物だ。」
要は、頷く。
「そうですね。まあ…明日の噛みで決めるしかないか。もう考えが煮詰まっちゃって正直つらいです。」
真司は、苦笑した。
「何もかも明日だ。今夜は敦吊り。狼がどこかを襲撃して、それで情報が落ちる。もしかしたら占い師に呪殺が出るかも知れないしな。」
要は頷いて、もう今日は悩まないことにした。
このままでは、心が持たないと思ったからだ。
時間は刻々と過ぎて行っていた。
6時半の集合なので、要は6時前に一階へと降りて、食事をしておこうとキッチンに入って行った。
そこには同じ考えの人達が思いの外多く居て、要が入って行くと皆が振り返った。
倫子が、言った。
「あら要。部屋で考えてるみたいだったから、誘わなかったのよ。あなたも先にご飯?」
要は、頷いた。
「うん。」と、同じ大きなテーブルの端で、食事をしている彰を見た。「彰さんもですか?」
彰とステファン、博正、真司の前にはあの、朝に彰が印を付けていた重箱が並んでいた。
彰は、頷いた。
「…私の好物ばかりが入っているのでね。量が多いので、一人で食べる物ではないだろうと博正が言うので、4人で分け合っていたのだ。」
そう言いながらも、どこか不満気だ。
博正が言った。
「あのな、エビだって5尾入ってたし、他も5つずつってことは、これは5人で食べるのを意図して作られてるんだっての。」と、要を見た。「だからお前もどうだ?ほら、ハンバーグだって5つもあるぞ。」
要は、先生達に混じって食べるのはさすがに気が退けたので、慌てて手を振った。
「え、オレはいいよ!彰さんの好物なんでしょう。」
彰は、ため息をついた。
「いい、君も座れ。」と、重箱を押しやった。「ほら、食べてみるといい。他とは比べ物にならないぞ。」
要は、仕方なくその前に座ると、博正から割り箸を受け取って、そこから煮物を一つ、口に運んだ。
…おいしい。
要は、思った。
普通の煮物だし、料亭で食べるものとはまた違う感じでどう考えても家庭料理なのだが、要は何やら懐かしいような、その昔の楽しい何かを思い出すような、そんな感覚がして胸が熱くなり、見る見る涙が浮かんで来るのを感じた。
…懐かしい。
要は、そう思いながらまた煮物を口に運んだ。
帰りたいどこか、自分が居るべき場所に、やっと帰って来たような想いが胸について、その感覚を貪るように、一心不乱に重箱の中の物を口へと運んだ。
「ちょ、ちょっと要!」ハッとすると、洋子が続けた。「あなた、食べ過ぎ!何なの、泣くほどおいしいの?」
言われて、要は気が付いた。
要は回りがドン引きするほど涙を流して食べていたのだ。
「え…」要は、戸惑いながら、言った。「オレ…。」
博正が、困ったように微笑みながら、要の頭をポンポンと叩いた。
「いいよ、彰だって自分の好きな物をそれだけうまそうに食べてたら、文句は言わねぇ。」
要は、下を向いた。
「…うん。なんだか、凄く懐かしくて。なんでだろ。なんだかやっと…帰って来たような気がして。」
黙って聞いていた、彰が言った。
「…いい。しっかり食べろ。育ち盛りだしな。」
要は頷いて、そうして涙を袖で拭うとまた、その懐かしい食事を続けたのだった。




