夕方に
リビングへ降りて行くと、そこには真司、博正、彰、ステファン、そして陽介、敦が居た。
要と洋子と倫子がそこへ入って行くと、博正が振り返った。
「おう、要。あっちこっち話を聞いて回ってるみてぇだな。もう部屋に居る奴らには話を聞いて来たのか?」
要は、首を振った。
「ううん、まだ。とりあえず二階の人達を回ってたんだけど、居ない人が多かったから。ここに来たら居るかなって。」
真司が、答えた。
「敦の話を聞いていたんだ。敦が白なら見えてる事は聞いておかないとと思ってな。黒だったら黒だったで、情報が落ちる。だからここに居たんだ。」
要は、頷いてソファに座る。
倫子と洋子も、黙って離れた位置に座った。
「…とにかくオレは、靖に黒を打たれた村人だよ。あいつは偽物。オレ目線じゃ、だから残りの占い師の中に2人真占い師が居る。それでまあ、オレなりに考えたことを話してたわけだ。」
要は、先を促した。
「怪しいと思う所はどこ?」
敦は、答えた。
「それは靖の白先の久美子さんと健だ。とはいえまだ健はとんでもなく怪しいが真狩人の可能性も無くはないから、オレからしたら靖は久美子さんを囲ったんだなと思ってる。そうでなければ今日になって、久美子さんの目線で強くオレを吊れとか言えないだろう。村人からは、まだオレが白の可能性だってあるわけだからな。それなのに、もう黒だと決めつけてるような口ぶりだった。」
要は、頷いた。
「君目線だとそれなら狼は、雄吾、靖、久美子さんってことになるのか。あと一人は?」
敦は言った。
「いや、まだ靖と久美子さんが狼なのか狐なのかは分かってない。分かってるのは、人外だってことだけだ。だから、靖が狐で久美子さんが狼でたまたま囲われたとか、靖が狼で久美子さんが狐でたまたま囲われたとか、そんな線もあるかと思ってる。他はというと、妙さんの白先の倫子さんか。」
倫子が、え、と顔を上げた。
「私?私のどこが怪しいって言うの?」
敦は、答えた。
「さっきの会議で靖が白いと言った。まだ役職が潜伏している中で黒を打ったからと。その後皆に昨日要がオレに投票していたから黒を打ちやすいと言われて撤回したが、あわよくばという意思がオレには透けて見えた。だからそう考えると、妙さんも信用ならなくなるから、オレ目線じゃ正希と博正が真占い師なのかなと思うかな。後は、あまり意見が聞けない莉子さんと洋子さんだが、その2人は正希の白先だしそこまでじゃない。やっぱりオレから見たら、今のところ倫子さんかな。」
倫子は、敦を睨んだ。
「私は狼じゃないわ。久美子さんが今日になって頑張ってるのは確かだし、あなたの意見に共感して白いかもって思い始めてたけど、やっぱり黒かしらね。そう思うと、久美子さんも白く見えて来るわ。」
洋子が、言った。
「疑うのは自由だもの、倫子が靖さんを白いかもって言ったのは事実だし、敦さんからしたら黒く見えても仕方ないわよ。敦さんは、じゃあ妙さんと靖さんが占い師の中では怪しいと思うのね?」
敦は、頷いた。
「そうだな。妙さんは意見もそう出ないし、昨日忠司さんを占って白だろ?なんかそこを噛み合わせて自分の占いを無駄にして、破綻を先延ばしにしてるような意思を感じるから、狼っぽく見えるかな。」
博正は、眉を寄せて言った。
「…だが、妙さんはお前を吊るのに同意できないと最初言ったぞ?」皆が博正を見る。博正は続けた。「やっぱり敦が狼で、妙さんは仲間なんじゃないか。」
敦は、怒ったように言った。
「だからその妙さんを怪しいとオレは言ってるんだぞ?オレが狼で妙さんが仲間なら、お前でなくて妙さんを白いと言えば良いじゃないか!」
博正は答えた。
「だからだ。お前は今夜吊られる。狩人は全員生きていて必ず真司から色が見られる。その結果が黒なら、お前の意見はそのまま裏返しになる。それが分かってるから、わざと妙さんを偽だと言ってオレと正希を真だと言ってるんじゃねぇのか。明日、疑わせるために。昨日の噛みといい、なんかオレを偽置きさせたい動きに見えるんだよな。吊られる狼として、できる限りのことをして逝こうとしてるようにオレには見える。違うか?」
敦は、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「違う!オレは村人だ!思ったことを言ってるだけだ!だったらお前は偽物だ!靖とお前が偽物で、妙さんと正希が真なんだ!ってことは、真由さんとか彰さんを囲ってるんじゃないのか!お前の白先が怪しい!」
シンと静まり返る。
敦と博正は、睨み合っていた。
博正の瞳は何やら薄っすらと光っているように見えて、横で見ている要でも怯んで声が出なかった。
が、彰が言った。
「…落ち着け。」皆が、ハッとする。彰は続けた。「どちらしろ明日、真司が敦の色を見たら分かることだ。どちらも自分が村人視点なら、間違った事は言っていない。敦の考えは聞いた。こうなったからには、余計に今夜は敦吊り固定だ。明日になれば、多くの情報が落ちることになる。感情的になるならこれ以上君達の意見は要らない。」
敦は、そう言われて博正から視線を反らすと、足をリビングの扉へ向けた。
「じゃあ、オレは邪魔者だな。部屋に帰る。」
敦は、そこを出て行った。
ステファンが、ため息をついた。
「今言い合っても仕方がないではないか。必要なことだけ言えば良いのだ。筋道など、幾通りもある。思い浮かんだことをその都度発言していたらきりがない。重要なことだけを言えば良いのだ。そうでないと村が混乱するだろう。」
博正が、苦々しい声で言った。
「…重要なことだから言ったんでぇ。お前こそ、何を考えてるのか分からねぇから村から見たら得体が知れねぇし、黒でも打たれたら優先的に吊られるぞ。そろそろその、筋道とやらを開示して行った方が良いんじゃねぇか?」
ステファンは、眉を上げた。
「私は人外に情報を与えてやることはないと思っている。発言するのは、自分に関わり出した時でいい。心の中で私が敷いた罠に、人外を引っ掛けるのにどこに罠があるのか教えるなど愚かな行為だ。私は、待っているのだよ。」
罠…?
要は、その言葉に眉を寄せた。
その罠が、本当に人外に向けてのことなのか、それとも村人に対してなのか、訊ねる勇気は、要には今、なかった。
ステファンは忠司が共有者だと知っていた。
そして彰が狩人に出ている事も…。
「…真司さん。」要は、言った。「少し、部屋で話しませんか。」
真司は、微妙な空気になった場に困っているようだったが、立ち上がった。
「そうだな。話そう。」
二人は、扉に向かった。
皆は、その背を黙って見送っていた。
要と真司が三階へと上がっていると、陽介が降りて来た。
「あれ。みんな部屋に居ないみたいだから、話を聞こうと思って降りてくところだったんだ。部屋に帰るのか?」
要は、頷いた。
「うん。ちょっと敦と博正が言い合って険悪な雰囲気になったんだ。」
陽介は、顔をしかめた。
「ああ、さっき凄い勢いで敦が走ってったのを見たよ。でも、今夜は敦吊りなんだろ?」
要は、また頷いた。
「そう。」と、小声で言った。「…今夜は真司さん護衛で。重要だから、必ず守って。」
陽介は、急に真剣な顔になると、頷いた。
「分かった。俺は真狩人だから。安心してくれ。間違えないよ。」
要は頷き返して、階段を登り始めた。
「じゃあ、また何か思う事があったらオレの部屋に来てくれ。リビングには彰さんとかステファンが居たよ。他にも、倫子とか姉ちゃんも。博正も居た。」
陽介は、階段を降り始めた。
「分かった。要…」と、陽介は振り返ってまた真面目な顔をした。「勝手に出てごめんな。お前を信じなくて。オレに重要な護衛を任せてくれて感謝するよ。」
選んだのは真司さんだけどね。
要は思ったが頷いて、そして真司と共に自分の部屋へと帰って行ったのだった。




