指定先
2人は、三階の要の部屋で落ち着いた。
ここに入る前に隣りの忠司の部屋から見てみたが、忠司はまだ朝、要が見たのと同じ状態でそこに居た。
だが、硬直している様子もなくて、彰が言っていたような変化は全くなかった。
…また明日って言ったのに。
要は、急に悲しくなって来て涙を浮かべた。
また明日と言って会えなかったのは、とても重く感じたのだ。
何しろ、あの時は陽介を疑っていて、健の護衛指定先に入っている忠司が、生き残れないなど考えてもいなかった。
健が真だとしたら、不満がありそうな健に念押ししていなかった自分が悪いと要は思っていた。
納得していない様子だったのに、時間がないからと早々に切り上げたのは要なのだ。
とはいえ、健は確かに怪しかった。
この状況で、指定先以外を勝手に守るのは真なら利敵行為で自殺行為なのだ。
とはいえ、理由を聞くと、昨日の様子も合わせてあり得ない事ではなかった。
狩人の真贋が分からない…。
要は、とにかく今夜は敦なんだとため息をついて、そして真司と共に部屋へ入ったのだ。
真司が、暗い顔の要に言った。
「…忠司の事は、君のせいじゃない。健は恐らく偽物だ。だから落ち込まずに、今は占い指定先から考えよう。」
要は、頷いた。
「はい。それで、誰に誰を占わせたら良いでしょう。話を聞いていたら、正希と博正は靖が相方かも知れないと言っていて、妙さんだけ浮いてましたよね。この場合、疑ってる所を占わせたら、偽物なら黒を打って来るかもしれないから、靖に妙さんって形で良いでしょうか。」
真司は、首を傾げた。
「いや、逆に疑っている所に白を打って来たら信じられるかも知れないけどな。考え方だろう。要はどこを真っぽく感じてる?」
要は、顔をしかめた。
「どこって…分からないって言うのが現状ですよね。博正は最初から積極的だし呪殺を出したい意欲を感じてたから、真っぽく思ってましたけど、陽介で呪殺も出なかったし昨日噛まれなかったから…彰さんはそれで疑ってるようだった。正希は落ち着いててそれが真だからなのか狼だからなのかわからない。靖は明日の結果次第かなと思うし、妙さんは…もっともな意見を出していたけど、確かに敦を庇ってるように見えた。だからそれも明日の霊媒結果次第かな。」
真司は、息をついた。
「博正は確かに怪しく思ったが、狼が真占い師をなんとか貶めようとしていると考えたらまあ、おかしくはないと思うがな。何しろ、博正が狼ならば、狐だろうがなんだろうが、とりあえず陽介を噛めたらラッキーぐらいで噛んでおけば良かったんだ。まあ…じゃあ、もう並び順に指定したらどうだ?妙さんは博正、博正は靖、正希は妙さん、って感じで。」
要は、うーんと唸った。
「それじゃ村に何も考えてないって反発食らいそう。せめて逆にしたらどうでしょう。正希が靖、靖が博正、博正が妙さん。」
真司は、顔をしかめた。
「同じじゃないか?もっとランダムにしないと考えた感が出ないと思うがな。」
要は、唸りながら考えた。
別に、どこでも良いんじゃないか。
「…別にどこでも良いですよね。じゃあもう、適当にします。正希は博正、靖は妙さん、博正は正希、妙さんは靖で。博正と正希がお互い占い、妙さんと靖がお互い占いって感じです。」
真司は、苦笑した。
「ま、じゃあそれでいい。敦の色でまた分かって来る事もあるだろうしな。護衛先は?」
要は、答えた。
「昨夜彰さんに真司さんを守ってもらったので、今夜は陽介か健のどっちかになります。でも、オレまだ狩人の真贋が分かってないんですよね。狼からはどうでしょう。」
真司は、考え込む顔をした。
「そうだな、狐が狩人に出ているとして、博正が真で靖が偽だと狼から見えていたら、健が偽かと考えているだろうな。何しろ陽介には博正から白が出ているから。逆も然りだ。靖が真、博正が偽だと見えていたら、陽介が偽だと思っているだろう。両方偽なら、全く分かっていないし、両方真なら、残りの一人が狐だと思っているだろう。彰のことだがな。」
要は、顔を曇らせた。
「…確かに。占い師の真贋が狼から透けていたら、そうなりますよね。でも、両方真なら彰さんは博正から白が出てるから、狐ではあり得ません。もし偽だったら、狂信者しかないでしょう。」
真司は、頷く。
「そうだな。まだ誰にも彰が狩人COしている事を気取られていないようだから、狼も困っているだろう。彰は口を開いたらかなり強い意見を出すから、狼からしても面倒な位置だし、襲撃される恐れもあるが、黒塗りされる位置でもある。明日からどうなるのか気になるところだ。」と、真司は息を付く。「…まあ、不安は残るが、真だとしても勝手に行動する健より、陽介に守ってもらう方が良いかな。まだ信じて良いかも知れない。」
要は、頷く。
「分かりました。じゃあ今夜は陽介が真司さん守り、彰さんはオレ守り、健は…どこを守らせます?」
真司は、首を傾げた。
「どこでも良いけどな。占い師でも守らせたらどうだ?」
要は、眉を寄せた。
「…襲撃か呪殺か分からなくなりますよね。健は呪殺だと主張するだろうけど。」
真司は、言った。
「じゃあ適当に白い所を守らせろ。そうだな、ステファンか彰はどうだ?選ばせるんだ。発言が強い所を守れって言って。」
要は、頷いた。
「じゃあ彰さんにします。ステファンは黙ってる事が多いけど、彰さんはピンポイントで強い意見を落とすからって。」
真司は、頷いた。
「ではそれで。」と、真司は伸びをした。「夕方までは暇だが、君はあちこち話しに行くと皆に言った。もう指定先が決まったのだから、狩人達にも先に護衛先を言って来たらどうか。もちろん、耳の良い奴らには気を付けろ。それから、ほぼ皆を訪ねた方が良い。狩人だけとか占い師だけとか、そんな訪ね方はしないようにな。」
要は頷いて、立ち上がった。
「行って来ます。真司さんはオレの部屋に居ます?」
真司は、首を振った。
「いや、リビングへ行く。」と立ち上がった。「また報告したいことがあったら言ってくれ。ここへ来る。」
そうして、2人は部屋を出た。
要は、一目散に彰の部屋を目指したのだった。
道中、ステファンが部屋から出て来るのに出くわした。
ステファンも、耳が良い人の一人だ。
要が思わず緊張すると、ステファンは言った。
「…なんだ、またいろいろな人に話を聞いて回っているのか?」
要は、頷いた。
「はい。ステファンは、どこかに行くんですか?」
ステファンは、少し考えてから、頷いた。
「彰に話を聞こうと思っていたのだ。だが、君は私か彰に話を聞こうとここへ来たのではないのか。それとも博正か真司か?」
二階の端は、1号室と2号室、そして向かい側は7号室と8号室だ。
2号室はステファン、7号室は真司、8号室は博正という並びになっている。
要は、答えた。
「真司さんはリビングに降りて行きました。オレは端から順にまた話を聞こうと思って、彰さんの所へ来たんですけど、だったらステファンも一緒に来ますか?」
ステファンは、眉を上げた。
「私が居ても良いのならそうしよう。」と、彰の部屋の扉を開いた。「彰?要が話したいそうだ。」
彰の声と答えた。
「入ると良い。」
ステファンは頷いて、扉を大きく開いた。
部屋の中では、彰が窓際の椅子に座って手を前で組み、こちらを見ていた。
要は、ステファンと共に彰の部屋へと入って行って、扉を閉じた。




