夜から3日目の朝
そうやって、やっとのことで話を終えて部屋へと帰って来た時には、もう9時ギリギリだった。
陽介の部屋にも行ったが、陽介は要を護衛して欲しいと言っても、心ここにあらずな状態だった。
何やら、やる気がない、といった様子だ。
だからといって、全くの放心状態というわけでもなく、どうやら投げやりになっているだけのようだった。
要はとりあえず陽介を鼓舞するように、まだもう一人の狩人の護衛が入るかも知れないのだからと言ったが、自分はどうせ出てしまったし襲撃されても良いと取り付く島もない。
早希と仲良くなった矢先に襲撃ではなく投票で吊られてしまったのが、かなりショックであったらしい。
要は息をついて、また明日には状況も変わるかもと思いながら、そこを後にしていた。
9時になって閂が刺さった後、忠司から通信があった。
一応部屋は訪ねたのだが、長く居座るとバレるかも知れないと、ザッと説明しただけでさっさと出てしまったのだ。
忠司は、言った。
『で、彰さんとステファンの事と陽介のやる気の無さはさっき聞いた。正希はどうだった?』
正希の方が後の番号なので、忠司は知らないのだ。
要は、答えた。
「正希は普通だった。姉ちゃん占いも、狼ではないかもだけど狐があるかも知れないとか言って、なんだか静かにやる気だった。博正はさっき言ったように、噛み合わせて来るかも知れないから呪殺できても…とか言ってました。自分が占いたいって言ったのにって思って。」
忠司は、答えた。
『まあ、もし博正が真なら噛み合わせて来る可能性もある。それで分からなくなるんだ。まあ、そこは追々分かって来るだろうし、明日どうなるかだな。占い師の相互占いも良いかも知れない。』
要は、頷いた。
「オレもそれは考えていて。全員にとりあえず色が付いたら、その後狐の処理に本腰を入れなければならないでしょう。本当に狩人に狐が出ているのかも、まだ分かってないですし。占い師達だって、全然真贋ついてないでしょう。呪殺に前向きな、博正が少し真っぽいぐらい。でも、真由さんが白ってのがいまいち信用できなくて。信じて良いのか分かったら、楽なんですけどね。」
忠司は、頷いた。
『仮に真なら噛み合わせより、陽介の真贋問わず、今夜は博正襲撃だろうとオレは思ってる。仮に呪殺を出されても、そこまでの白しか落ちてないから狼にはまだ有利だからな。陽介を噛み合わせて明日博正を襲撃するのでは、一手遅いと思うのだ。護衛が入って噛めなくなるかも知れないからな。もし司令塔が彰さんやステファンなら、そんなぬるい事はしないと思うんだがね。』
要は、顔をしかめた。
「え、ということは、噛み合わせて来ないと?」
忠司は、うーんと唸った。
『いや、狼がどう考えるかだな。私が狼ならば、確定しそうな真占い師を必ず今夜襲撃する。今言ったように明日からでは噛めなくなるかもだからだ。つまりはステファンや彰さんも同じ考えだろう。陽介を噛み合わせても、村は博正が真かも知れないと考えるだろう?だから、逆に明日陽介を噛み合わせて来た方が、私からは博正が怪しく見える。真を取って生き残ろうとしている狼なのではと考えるかな。それを逆手に取って来る可能性もあるし、確定とは言えないがね。』
要は、またややこしいと頭を抱えた。
だったらなんと解釈したら良いんだろう。
「…難しいですね。また明日白黒出た後に教えてください。」
忠司は、頷いたようだった。
『分かった。私も分からないのだよ。私より頭の切れる人が狼だったらお手上げだと、考えなくても良いことまで考えてしまうから。』
忠司も、悩んでいるのだ。
要は、頷いた。
「おやすみなさい。」
『ああ、おやすみ要。また明日な。』
通信は、切れた。
要は、ため息をついて持って来ていたサンドイッチに手を伸ばしたのだった。
次の日の朝、すっかり寝入っていた要は、ガツンという閂が抜ける音で目が覚めた。
金時計は、6時を指している。
…大変だ、朝!
要は飛び起きて、今日も生きていたと思う暇もなく扉へと走った。
そして扉を開くと、もう久美子、洋子、陽介、正希、莉子は廊下に出ていた。
「…あれ。」要は、陽介を見た。生きてる…ということは、呪殺も襲撃もなかったのだ。「…みんな居る?」
要が言うと、正希が言った。
「いや、忠司さんがまだ。」
そうだ、隣りだから。
要は、急いで隣りの部屋の扉を開いた。
「…忠司さん?」
返事はない。
要は、まさかと急いで中へと足を踏み入れて、ベッドを見た。
忠司は、青い顔をしてベッドに横になっていた。
その顔には生気はなく、確認するまでもなく、忠司が襲撃されたことが分かった。
…ということは…!
要は、脱兎の如く部屋を飛び出す。
外に居た全員が目を丸くするのに、要は正希を見た。
「正希、姉ちゃんの色は?!」
鬼気迫る勢いに、正希はドン引きしながらも答えた。
「白。君のお姉さんは白だったし生きてるから村人だ。」
要は頷いて、陽介を見た。
「オレ守りだな?!」
陽介は、呆気に取られながら何度も頷く。
「言われた通りにした。」
要は、階段へと走った。
「そこに居て!」
皆が階段の上で呆然としていると、階段を上がって来ようとしていた二階の人達と階段の踊り場で行き合った。
上からは、三階の人達がこちらを見ている。
彰が言う。
「どうした?護衛成功か?こっちは誰も犠牲になってないが。」
要はイライラと言った。
「それは後で!占い師、結果を!」
妙が、階段の途中で叫んだ。
「白!忠司さんは白よ!」
博正が言う。
「陽介は白!」
靖が、思い切ったように言った。
「黒!敦は黒だった!」
皆が、え、と息を飲む。
要は、真司を見た。
「真司さん?」
真司は、答えた。
「白。早希さんは白だった。狐か村人かは分からないがな。」
要は、呆然とした。
ということは、やっぱり…。
博正が、言った。
「なんでぇ、誰が犠牲になった?陽介は?」
陽介が、上から顔を出した。
「オレは生きてる。昨日は要を守った。要は生きてるが、オレを吊るのか?」
彰が言う。
「…忠司がいない。」と、要を見た。「昨日は忠司襲撃なのか?それとも誰も犠牲になっていないのか。」
要は、呆然と立っていたが、言った。
「…昨日は、忠司さん襲撃です。白くなってたから、健に守らせていた。」
全員の視線が健を向く。
健は、え、と慌ててこちらを見上げて、階段下を覗き込んでいる陽介を見て言った。
「え、オレは確かに昨日忠司さんを指定されていたが、忠司さんは白くなったとはいえ噛まれる位置じゃないと思って!陽介を守った!」
彰が、健を睨んだ。
「護衛指定は絶対だ。こうして襲撃された時に自分の真が証明できなくなるからだ。それが真実なのだとしたら、君がやったことは君と靖の命を縮めた事になる。」
健は、驚いた顔をした。
「え、なんで靖まで?!」
要が答えた。
「君が靖の白先だからだ。もちろん、靖が真でも君が狂信者ならばあり得るけど…狐なら呪殺されてないし、狼なら黒が出るはずだ。彰さんはそれでそう言ったんだよ。」
真司が、言った。
「とりあえず、忠司が襲撃されて今16人。早希さんが白だったことから、一応村人と置いて残り6人外7縄だ。敦に黒が出たが、靖からだから健のことも合わせてまだ分からない。話し合う必要があるぞ。どうする、要?」
要は、皆を見回した。
後7縄…。
「…一旦解散しましょう。狩人の内訳の色を知りたいのか、真司さんが生きてるうちに敦を吊って色を見てもらって靖の真贋を見たいのか、決めなきゃならない。」
敦が言った。
「靖は偽物だ!オレを吊ったら縄余裕がなくなる!健を囲っていた狼か狐なんじゃないのか!」
彰が言う。
「確かに健が狂信者だとしたら狼は健を捨ててでも忠司を噛みたかったという事になる。が、忠司は今朝妙さんから白が出たが、昨日まではグレーだったしいくらでも黒塗りできそうな位置なのだから、狼を一人失っているのにわざわざ狩人に出ている狂信者を切り捨ててまで、噛みたかった位置とは思えない。なので結論、健は愚かな真狩人か、靖に囲われた狐か狼という事になる。前者の場合は靖はまだ真の可能性はあるが、後者の場合は靖は騙りの占い師だ。よって、靖の色次第では、敦は狼ではないかも知れない。が、狐であったら狼に黒を打って来ている可能性もあるので、敦の色は見たいところではあるな。」
真司は、頷いた。
「それはそうだが、今狩人が三人居て健を偽で決め打てるなら、明日は陽介にオレを守ってもらってオレは残り、もう一人の狩人が次の日オレを守ってオレは生き残れる。恐らく陽介が明日襲撃されるだろうが、そこはもう一人の狩人が陽介を守るのか要を守るのか、どちらにしろオレは最低あと二日生き残れるはずだ。敦と健の二人をローラーする時間はあるぞ。」
博正が、ため息をついた。
「それは後でゆっくり話し合おう。立ち話じゃ頭が働かねぇ。オレだって、陽介が白だったし生き残ってるから戸惑ってる。健が真だったとしても、共有者の指示に従わなかったんだから吊る判断しかねぇだろうとはオレは思う。村を混乱させるような行動をしたのは間違いだったしよ。どうせ、真狩人が二人居る時点で真証明が難しい。残して護衛成功が出ても、それが健かどうかなんか狼にしか分からねぇしな。となると靖の真贋だが、会議でみんなで発言を聞いて判断するかねぇだろう。一旦解散しようや。」
要は、言った。
「7時半に、リビングで。それまでに、みんな今朝の情報を頭の中で整理して、考えて来て欲しい。じゃあ解散。」
全員が、階段から降りたり上がったりと自分の部屋へと向かって歩き出す。
要は、ここへ来てやっと、忠司を失ったのだと喪失感に襲われていた。




