夕方まで
要は、真司を連れて部屋へと戻った。
博正には遠慮してもらい、二人で話したいと言ったのだ。
そこに、隣りの忠司を呼んで、三人で向かい合った。
「…忠司も良いのか?昨日雄吾を吊ってるから、どこまでも白いがまだ分からないぞ。」
要は、答えた。
「真司さんには言っておこうと思って。」と、忠司を見た。「忠司さんがオレの相方。共有者なんだよ。」
真司が、え、と目を丸くした。
「え、相方なのに昨日二択にしたのか?だったらかなり危ない橋を渡ったぞ。あと少しで吊られていたかも知れないのに。」
忠司は、頷いた。
「その通りだが、そのお陰でしばらくは出なくて済みそうだ。雄吾が黒だったから白くなってしまったので、襲撃は来そうだけどな。」
要は頷いた。
「今夜はオレじゃなく忠司さんに護衛入れておきます。」と、真司を見た。「それで狩人なんだけど。オレが噛まれたら忠司さんが相方だって証明して欲しいのと、二人で協力して欲しいから言うんだけど、陽介の他には彰さんと健が出てるんだ。」
真司は、じっと考える顔をした。
「健か。陽介も大概だが、健も昨日忠司に入れてるし白は打たれてるけど怪しい位置だな。だが、彰は自分でハッキリ自分が狼なら仲間を切るって言ってたし、雄吾に入れてるからって安心はできなさそうだ。そうか、だったら要目線じゃ誰が偽なのか分からなくなるはずだよ。」
要は、ため息をついた。
「そうなんだよね。でも、彰さんが狼だったら博正も偽になるし、真かなとは思ってる。博正はステファンの発言を拾って怪しいと情報をくれただろう。」
忠司が、眉を上げた。
「博正がステファンの何の発言を拾ったのだ?」
真司が答えた。
「ステファンが、黙っていたのに陽介を噛まれ懸念がないとわざわざ村に落としただろう。無駄を嫌うはずなのに、明日で良い事をわざわざ今日言うなんておかしくないか。博正から聞いて、確かになと思った。」
それだけで内容まで通じるのだろうか。
要は思ったが、忠司は、考え込む顔をしながら、あっさり頷いて言った。
「…確かに。噛まれ懸念がない、つまり狐じゃないかってことか?狂信者なら狼と繋がってて襲撃はなくてもあっさり利用されて吊り縄消費に使われそうだしな。つまり狂信者の位置を知っている人狼だから、狐が居るぞと暗に思わせようとしていると。」
1を言ったら10分かる。
要は、なんて楽なんだと思った。
真司は、そんなことには慣れているのか頷いた。
「そう。だから今夜はステファンを占いたいと博正は言ってた。」
しかし、それには忠司は眉を寄せた。
「ステファンを?なぜだ。黒が出ても博正の真は証明されないだろう。そこは陽介を占いたいではないのか。」
要は、あ、とそれに気付いた。
言われてみたらそうだ。
「…確かにそうですね。でもそれだと博正真が確定するのが分かるから、人狼から襲撃されると思ったのかも。何しろ、真司さんは鉄板守りだし、残りはオレに入ると思ってるだろうから。オレはそう発言しましたしね。」
真司は、頷いた。
「そうだな。陽介占い、博正守りがセットになるから、さすがにそれは厚かましいから言えなかったのかも知れない。」
要は、考えながら言った。
「でも…オレは完全グレーをまず失くしたいと思っているので、今夜は指定を完全グレー一択にしたいんですよ。それこそ、どこに黒を出すのか、結局みんな白なら確実に囲いが発生しているわけなので、ラインも見える。襲撃されてもそこは白なので良いでしょう。トチ狂って忠司さんに黒を打つ人も居るかも知れない。とにかく、一旦全員色を付けてフラットにしたいと言うか。」
忠司は、言った。
「それでも良いが、それをしたら恐らく騙りの占い師は白しか打てない。何しろ役職は全部伏せてるから、まだ狩人と共有者が混じってるのを知ってる。人外はまだ破綻するわけにはいかないからな。黒を打って来たら、真かも知れない。私はそう考える。」
要は、頷く。
「そうですね。とはいえ、明日は陽介がもし生き残っていたら、その対応をどうするのか考えなければならないでしょう。もちろん、真司さんが襲撃されたら指定してた狩人を吊りますけど。狼は、難しい選択を迫られるんじゃないですか。まだ陽介が偽とは分かっていないし、他に居るかも知れない。そっちが偽だと分かったら、陽介を人外置きしたステファンや博正は怪しくなって来るかも。オレなら白くなってる忠司さんを襲撃したいかなあ。」
忠司は、頷いた。
「狼はかなり難しいな。真以外は真司が生きてる限り怖くて黒が打てない。一番逃れられる初日に一人失って三人しかいないのに、黒打ちして真を取るのも難しい。ただ、占い師に狂信者が出ていたら、縄を消費するのに使うかも知れない。」
要は、またため息を付いた。
「…守り先、今夜は真司さんと忠司さんにするつもりですけど、どっちにどっちを守らせます?陽介にはオレを守らせます。彰さんと健に、どっちを守らせるのかなんですけど。昨日、彰さんには博正を守ってもらってます。健はオレ。だからどちらも守れるはずです。ちなみに陽介には妙さんを守ってもらってます。」
真司は、考える顔をした。
「…彰にオレを守ってもらうか。もし彰が狐ならオレは噛まれるだろうが、狂信者か狼ならば、まだ破綻するわけにはいかないので噛まないだろう。彰は狐ではないと思うのだ…あくまでも感覚だがね。」
忠司は、頷く。
「では私は健に。君は陽介だ。それで様子を見よう。まだ縄は増えないとはいえ、狼は村人の数を減らしたいはずだ。確実に噛めそうな位置を狙って来るだろう。それで行こう。」
要は、頷いた。
忠司が部屋を出ようと立ち上がった時、真司が言った。
「待て。」え、と見送ろうと立ち上がっていた要も振り返る。真司は声を落として続けた。「オレは耳が良いんだ。声を出すな。廊下に人が居る…階段の辺り。ここは階段が目の前だからな。多分これは、博正と敦とステファン、彰。ここへ来ようとしてるのか…?いや、彰が下で話そうと引っ張って行った。よし、今なら大丈夫だ。」
何も聴こえない。
要は、目を丸くした。
…耳が良いって本当だったんだ。
忠司は、息をついた。
「…聞かれてないか?」
真司は、首を振った。
「それはない。ずっと警戒していたからな。忠司が立ち上がった時に上がって来たんだ。」と、立ち上がった。「オレと要は先に行く。後から来い、忠司。」
忠司は頷いて、そこに残った。
要は、言われた通りに真司について部屋を出た。
確かに、階段にも廊下にも今は誰も居なかった。
階段を降りて、そこをリビングの方向へと折れると、リビングの扉の前に人影が見えた。
真司が言った通り、そこには博正とステファン、敦、彰が立っていて、扉を開いてこちらの気配を感じて振り返った。
「あ、真司、要。」博正が言う。「今、要と話そうとそっちへ行こうとしてたんだ。でも、彰が真司と話してると聞いてるのに出て来るまで待て、下に居るやつらと話そうって言うから。」
真司が、歩いて皆に近付きながら、頷いた。
「それはそうだろ。大体、オレと一緒に居たのに要に遠慮してくれって言われて部屋へ帰されたのはお前だろうが、博正。それなのに逆になんで来ようと思ったんだ?」
博正は、顔をしかめた。
「それはもちろん、占い先のことを考え直したからだ。よく考えたらオレ、お前らに狐を疑ってる位置があるって言っただろうが。そこを占わせてもらった方が、真占い師の証明になるかなって思って。他を占いたいとか言ってしまってたから、指定先を決めて来られたらまずいと思ってな。」
要は、息をつきながらリビングへと皆と一緒に歩いて入りながら、言った。
「もし本当にそこが狐で、狼から透けてて尚且つ博正が真占い師だったら、間違いなく襲撃されるだろ?だから、そこはまた明日かな。何しろ今夜の護衛は真司さんは絶対、他はオレと白い所、って決めてるから。博正だって、襲撃されたくないだろ?それとも襲撃されないって思ってる何か?」
博正は、歩いて窓際へと進みながら、要を軽く睨んだ。
「まあ、オレを守ってくれるなんざ思ってなかったけど、護衛先は公表してないんだからもしかしたら密かに守ってもらえるかもって期待するじゃねぇか。ただそれだけだ。だったらいい。」
博正は、拗ねたようにソファへと歩いて行く。
要は、真司と顔を見合わせてため息をついた。
時刻は、5時45分だった。




