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夜会話と朝

要は、その夜自分から忠司に通信した。

忠司は、すぐに出てくれた。

『要?』

要は、答えた。

「忠司さん。」と、その声を聞いて急にホッとした。「オレ…忠司さんが吊られるかもってびくびくしてた。」

忠司は、なだめるように言った。

『思ったより僅差だったが、何とか生き残った。とりあえずこれで、少しは私が共有者だとは思われないだろう。とはいえ、相手がもしステファンや彰さんであったら、手強いがな。』

要は、答えた。

「それなんですけど。彰さん、ここが完全防音だと知ってるのにめっちゃ警戒してて。廊下でも歩いてる音も呼吸も詰めろって言うんですよ。あんなに警戒しなきゃいけませんか?」

忠司は、少し黙ってから、答えた。

『…世の中には普通の人が聴けない音を聞く人も居るのだよ。それは二階でか?』

要は、頷く。

「はい。階段に着いたら良いからって。」

忠司は、また黙った。

今度の沈黙は長く、要は心配になって言った。

「もしもし?忠司さん?」

忠司は、ハッとしたように応えた。

『ああ、すまない。実は私達の仲間でも、博正とステファン、真司はとても耳が良くてね。まあ、薬の副作用みたいなもので、日常生活には支障はないが、防音であっても彼らには聴こえるかも知れない。それを、彰さんは知っているのだ。』

じゃあ、やっぱりステファンか。

要は、言った。

「彰さんは本気でステファンが狼だって思っているってことですか?なんか、ちょっとトーンダウンしてたから、もうフラットに戻したのかと思っていたけど。」

忠司は、答えた。

『どうだろうな。明日無事なら聞いておきたいところだ。誰を警戒しているのか…ステファンならば予測通り、だが博正ならば理由を知りたいし、真司ならば霊媒師なのだから黒塗りしたいと思っている狼ということも…分からないが。』

そう、真司は確定霊媒師の一人だ。

要は、言った。

「でも、霊媒師守りにした方が良いって言ったのは彰さんだけでした。一人位置が透けてるって。今日の会議でそんな会話ありました?オレ、なかったと思うんですけど。自分が狼なら、確定霊媒は面倒だからすぐに噛むって。誰も気付いてないなら良いけどって。」

忠司は、軽く舌打ちした。

『そうか、彰さんもやっぱり気付いたか。オレも実は要に聞く前にもしかしたらと思っていた位置があってね。そこが霊媒師だったから、まずいなとは思っていた。が、君も気付いていないということは、他の子も大多数は大丈夫か。護衛先は今からは変えられないしな。』

要は、顔をしかめた。

「真司さんですか?真司さんは個別に聞いた時以外発言してなかったけど。」

忠司は、ため息をついた。

『違う、浩平の方だ。霊媒師について二度言及している。君が霊媒師が確定したと言った時と、もう一度。無意識に自分が霊媒師なので、色を見られるからこそ発言したと思われても仕方がない。』

まじか。

要は、気付かなかった、と思った。

だが、要が気付いて慌てて止めていたら、もっと怪しかっただろう。

そう、霊媒師は真司と浩平なのだ。

「気付かなかった。オレ、普通に議論を進めてて。」

忠司は、ホッとした声で言った。

『ならば良かった。という事は、他の人達はもっと気付いていないということだ。少なくとも彰さんは気付いていたがな。名前を言っていたか?』

要は、見えないのを承知で首を振った。

「いいえ、何も。名前を聞き出したかったんでしょうか?確信を持つために。」

忠司は、答えた。

『私はそうは思わないな。敢えて怪しまれるような事を言う人ではないから。とはいえ足音を立てるなと言ったり、狩人であることを他から隠そうという意思を感じるので、本当に狩人なのかも知れない。狼ならば襲撃されることはないし、狐は襲撃を怖がらない。狂信者なら彰さんなら恐らくもう、狼と繋がっているだろう。だからこそ、その彰さんが足音が聴こえるだろう位置を疑っているのかと思うと…』忠司は、そこで息をついた。『ま、今考えても答えは出ない。明日の結果を待とう。呪殺が出るかも知れないだろう。確定白を増やす事を考えて行こう。』

要は頷いて、通信を切った。

間違えたら死ぬ、ということは、考えないようにしていた。


次の日の朝、6時を待ち侘びて閂が抜ける音と共に要は外へと飛び出した。

全員同じ気持ちなのか、洋子ですら少し遅れて廊下へと出て来る。

見たところ、みんな居るようだった。

が、忠司が言った。

「…浩平が出て来てない。」要が驚くと、忠司は浩平の18の部屋へと足を進めた。「浩平、入るぞ。」

その声掛けが無意味なのはみんな知っている。

が、忠司はそのまま遠慮なく扉を開いて、中へと入って言った。

「浩平?」

中から声がする。

要は急いで忠司を追い掛けて中へと入った。

そこは、要の部屋と全く同じ造りの部屋だった。

違うのは、窓から見える景色が中庭らしき所と、向こうにある別棟の建物だ。

忠司は、右手にあるベッドの所に居て、寝ている浩平の脇に近寄っていた。

他の人達も、入り口付近に集まって来ている。

「浩平?」忠司は、もう一度話し掛けた。そしてその手を掴んだ。「…そうか、襲撃されたようだ。」

要は、驚いて目を見開いた。

「え…浩平は死んでるんですか?」

忠司は、頷く。

「そうだな。昨日の雄吾と同じで、心肺機能は停止している。ただ…」と、布団をめくった。「彰さんを呼んで来てくれないか。気になる事があるんだ。」

要は、頷いて入り口を見た。

多くの三階の人達に紛れて、洋子が青い顔をしながらこちらを見ている。

早希と久美子がその隣りで居て、莉子は最後尾で耳を塞いで聞かないようにしているようだった。

「姉ちゃん、大丈夫だから。村人なんだろ?」

洋子は、気丈に見せようと少し笑って頷いた。

「うん。分かってる、あんたが賢いことぐらい。」

その信頼が、逆にきつかった。

要がその間を縫って二階へ行こうと足を踏み出すと、階段から彰が登って来た。

「…浩平か?」

要は、頷いて答えた。

「はい。忠司さんが気になる事があるようで。見てくれませんか。」

彰は頷いて、こちらへ来た。

その後ろからは、ぞろぞろと二階の人達が登って来るのが見えた。

要は彰についてまた浩平の所へと戻って、忠司に言った。

「忠司さん、彰さんが来ました。」

後ろは、人数が増えて多くの人達が押されて中へと入って来ている。

「どうした?」

彰が言うと、忠司は言った。

「見て欲しいんです。心肺機能は停止していて雄吾と変わりません。が、手は冷たくなっていますし、背中に触れてみましたがそちらも冷え切っています。が、どこにも死斑は出ておりません。綺麗なままです。」

彰は、眉を上げた。

「ほう?」

そうして、彰も腕やら脚やらを忠司と共に確認するが、どうやら思っているのとは違うようで、どんどんと眉を寄せて行く。

要も皆も、それを見ながらハラハラとしていた。

「…何かおかしいんですか?オレ達には分からないんですけど。」

すると、ステファンが後ろから言った。

「…忠司が言っている事が事実なら、死後人体に起こるはずの事が浩平には一切起こっていないことになる。つまり、今死んだばかりか、死んでいるように見えるが死んでいないかのどちらかだ。」

要は、え、とびっくりした顔をした。

「死んだばかりって、でも冷えてるんですよね?」

夏真っ盛りとはいえ、空調が効いていて涼しい。

が、背中まで冷えるのだろうか。

「…この環境で空調が効いていても、死んだ直後でここまで遺体が冷え切ることはない。よって恐らくは、数時間前に死んでいた事になるが、しかしまたこの温度で遺体に何時間も変化がないのはあり得ない。冷凍でもしないとここまで何も無いなど有りえないのだ。つまり、浩平は一見死んでいるが、死んでいないかも知れないという事になる。」

彰が言うと、倫子がパアッと明るい顔をした。

「え、じゃあ本当に生き返るかも知れないの?!」

彰は、答えた。

「分からないが、その可能性はあるということだ。計器がないので私達に分かるのはここまでだ。」と、要を見た。「では、要、今日はどうするのだ?」

要は、今知った事実に呆然としていたが、ハッとして彰を見た。

「あ、ああそうでした。」と、博正を見た。「昨日の結果は?」

博正は答えた。

「オレは真由さんを占って白。」

要は、妙を見た。

「妙さんは?」

妙は、浩平の様子に目を丸くしていたが、答えた。

「私は、倫子ちゃん白。」

靖が、聞かれる前に答えた。

「オレは健白。」

正希も、言った。

「オレは浩平白。もう一つの指定先の忠司さんを占うか迷ったんだが、狐を狙えと言ってただろう。あんなに目立つ狐も居ないと思って。まさか真霊媒師で、今朝噛まれるなんて思ってもいなかった。」

要は、頷く。

そして、真司を見た。

「真司さん、雄吾はどうでしたか?」

真司は、答えた。

「黒。」え、と皆が真司を見る。真司は続けた。「雄吾は黒だった。だからオレ目線、忠司は真っ白だ。オレは確定霊媒師の一人なんだ。もう一人は誰だ?」

要は、答えた。

「…浩平でした。」また皆が目を見開く。要は言った。「霊媒師が一人抜かれた。昨日の会話で霊媒師が微かに透けたのはオレも計算外だった。だから、きっとこのゲームを良く知ってる誰かが狼の中に居る。僅かな油断で浩平を見抜いていた人物ということだから。とりあえず、こんな所で議論もできないから、みんな準備して朝食を摂って、7時半にリビングに集まってください。」

全員が、複雑な表情で頷く。

何しろ生存の希望が見えたような気がした後、狼も一人処理できたのだと知って、そして霊媒師を一人失った事実を知ったのだ。

要自身も自分の感情をどうしたら良いのか分からないまま、部屋へと戻ったのだった。

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