1日目の投票と追放
彰が、モニターを見上げて言った。
「…とにかく、投票だ。声の指示に従って行動せねば、何が起こるのか私達にも分からない。今は勝てば戻って来られるという言葉を信じて進めるしかない。私達は籠の鳥なのだ。ここは絶海の孤島なのだぞ?生きて帰りたければ、落ち着いて自分の行動には自分で責任を持て。意思をもって投票するんだ。」
雄吾は、このままでは自分が不利だと思ったのか、必死に言った。
「オレは村人なんだよ!多分忠司さんが狼だ!オレを黒塗りして吊らせようとしてる!みんなよく考えろ、今日はオレだが明日はお前らかもしれないんだぞ?!同じように黒塗りされて吊られる!真由さんは分かるだろう、みんな強い意見に流されるんだよ!狼は、このゲームで慣れてるオレが邪魔だから難癖付けて追放しようとしてるんだ!後悔するぞ!」
真由は、言われて胸を押さえた。
どうやら、その言葉が刺さったらしい。
『投票5分前です。』
隣り同士の久美子と洋子が顔を見合わせて困惑した雰囲気を醸し出していた。
それがどうやら女子の中に蔓延しているようにも見える。
「…分からないわ。どっちに入れたらいいの?」
莉子が言う。
早希が答えた。
「確かに…誘導されてると言われたらそう見えるのよ。だって、忠司さんって先生だから話し方に説得力があるから。」
ヤバい。
要は、緊張した。
女子が全員忠司に入れるとは思わないが、それでもその票は大きい。
『投票、3分前です。』
久美子が、泣きそうな顔をした。
「雄吾さんが村人だったら…明日は私達が黒塗りされるかもしれないの?でも忠司さんだって白かもしれないんでしょ?どっちに入れたら良いのよ?」
博正が、言った。
「とにかく信じられる方を残してヤバいと思う方に投票するんだ!」
『投票1分前です。投票は腕輪から、投票したい人の番号を入力してから、最後に0を3回押してください。』
全員が、慌てて腕輪を開く。
ホワイトボードには、名簿があった。
『投票してください。』
忠司は13、雄吾は16。
要は、迷わず16と押して0を3回入力した。
『投票を受け付けました。』
腕輪から音声が流れた。
しかし回りでは、『もう一度入力してください』という音声と、『投票を受け付けました』という音声が入り混じって聴こえて来る。
「真由さん、落ち着け。ゆっくり押すんだ。」
真司が、隣りの真由をなだめて入力させている。
あちこちでそんな光景があった。
姉ちゃんは…?
ふと洋子を見ると、洋子は緊張のあまり青い顔をしていた。
が、投票は終わっているようだった。
ホッとしていると、声が言った。
『投票が終わりました。結果を表示します。』
1 神原 彰→16
2 多田 勝喜→16
3 牧野 妙→16
4 安村 倫子→16
5 郷田 敦→16
6 増田 真由→13
7 大井 真司→16
8 田代 博正→16
9 藤井 健→13
10 田辺 靖→16
11 塚本 久美子→13
12 立原 洋子→13
13 岡田 忠司→16
14 立原 要→16
15 青木 陽介→16
16 田中 雄吾→13
17 吉田 早希→13
18 町村 浩平→16
19 田村 正希→16
20 志田 莉子→13
結構割れた…!
要は、冷や汗が背中を伝うのを感じた。
声は言った。
『No.16が追放されます。』
「オレ?!」雄吾が、立ち上がって叫んだ。「オレは村人なのに!なんでだよ、みんな誘導されてる!」
要は、内心ホッとしていた。
やはり多くの女子票が忠司に入っていて、男子も明日は我が身という雄吾の言葉が響いたのか、忠司に入れている者も居た。
だが、この割れ方はもしかしたらどちらも白だったからなのだろうか。
雄吾は、本当に村人?
要が思っていると、雄吾が椅子の円の真ん中でまだ何か言おうとした瞬間、グニャリとその場に変な形で倒れた。
「え…、」
要が絶句していると、声が言った。
『No.16は追放されました。夜時間に備えてください。』
…追放…。
要は、その意味が頭に浸透して来た。
これが、追放なのだ。
「雄吾!」
皆の声が叫ぶ。
彰と忠司が立ち上がって雄吾に近寄り、仰向けにして変な方向に曲がった足などを整え寝かせると、雄吾はまだ目を開いたまま、しかしピクリとも動かなかった。
忠司が、その脈を調べて瞳孔を確認したりしている。
彰が、言った。
「…どうだ?」
忠司は、首を振った。
「…死んでいますね。少なくとも計器がないので触診だけですが、心肺機能は停止しています。」
ほんとに死んでる…!!
要は、身を震わせた。
「いやあああ!」いきなり、真由が叫んだ。「死んでる!雄吾さんが死んでる!村人だったらどうするの?!あんなに言ってたのに!明日は私も怪しまれて殺されるんだわ、みんなに!そんなのイヤ!」
真由のパニックに引きずられるように、洋子も泣き出した。
隣りの久美子がその肩を抱いて自分も涙を堪えるように顔を歪めている。
倫子が、言った。
「こんなのフェアじゃない!本当に死んでしまって、どうやって生き返るって言うの?!勝ってもそれまでに追放されてたら生き残れないのよ!雄吾さんがもし村人だったら、誰が責任を取るの?!要は子供だもの、忠司さん?!」
忠司は、倫子を見た。
「私に責任を取れというのならそれでも良いだろう。だが、多くの票が雄吾を追放した。誰か一人にその責任があるとは思っていない。誰かに責任を問うのなら、こんな事をさせている者になるのではないか?私達は等しく同じ立場だ。人狼だって、夜になれば誰かを襲撃するだろう。それとも、これを終わらせようと襲撃先を入力しないのか?それでも良いが、仮に雄吾が狐であったとしても、狐はまだ残っているし、今それをしてもルール違反で狼が全滅し、狐勝ちになるだけ。そして村人が全て追放になるだけだ。」
生き残るためには投票し、そして襲撃しなければならない。
なぜなら、ルール違反となるからだ。
彰が、言った。
「とにかく…雄吾を部屋に運んでやろう。このままここに転がしておくのは不憫だ。」
忠司が頷いて、そして博正やステファン、その他男子達が手伝って三階へと雄吾を運んで行った。
要はその間に、ホワイトボードに向き合って、残された女子達のすすり泣きと慰め合う声を背に、黙々と今夜の占い指定先を書いて行ったのだった。
占い指定は、グレーを番号が若い順から二人ずつ振り分けて行く形を取った。
妙には倫子と敦、博正には真由と真司、靖には健と洋子、そして正希には浩平と忠司だ。
正希がもし人外だったなら、黒を打ちやすい位置を入れた…あまり、正希の意見を聞けていないからだ。
そして、狩人には個々に護衛先を言いに行った。
彰は一番真占い師だと思われている博正、健には要、そして陽介には迷ったが、妙を守らせていた。
というのも、もし彰とステファンが本当に対抗であった場合、妙がステファンに白を打っているからだ。
博正は彰に白を打っていて、その両方を守らせることでどちらかが襲撃されても守れるように考えた。
が、彰に話に行った時に、彰は要にも声を落とすように言い、自分も声を落として囁くように言った。
「…霊媒師の方が良いのではないか?もし私が狼ならば、間違いなく霊媒師を狙う。二人居るのは厄介だ。しかも確定している。」
要は、顔をしかめた。
「…狩人に今夜、霊媒師の位置を知らせる勇気がないんです。というのも、狼が出ていたら透けるでしょう。狂信者でも狼と繋がっていて知らせるかもしれない。そうなった時、確実に霊媒師は噛まれます。狼なら犠牲にするのは怖いかもですが、狂信者なら狼はやるでしょう。狼からも、今ならまだ霊媒師の位置は透けていないはずです。だから、今夜は占い師の方を守ります。」
彰は、ため息をついて頷いた。
「…そうか。だが私には何となく一人、透けた気がしている。とはいえ、狼は気付いていないかもしれない。それに賭けよう。では、博正を守る。だが、ソッと出て行くのだ。廊下に出ても足音は決して立てるな。幸い絨毯敷きであるから可能だろう。できれば息も詰めて行け。階段を過ぎたらもういい。」
あの議論で、霊媒位置が透ける?
要は怪訝な顔をしたが、彰が嘘を言っているようには見えない。
要は、少し不安になりながらも、言われた通りにソッと足音を忍ばせて、部屋へと戻って行ったのだった。




