怪しいのは
真由は、皆の視線を受けて明らかに緊張している風で、言った。
「あの…私は、忠司さんの意見が凄いと思うより怖いなって思った。ちょっと話しただけで、その上げ足を取って怪しいって理由を付けられるってこういう事なの。自分より頭の良い人なら、そんなつもりで言ったわけじゃなくてもそうだって、それらしい理由を付けて言われたら、こうしてみんなに怪しまれちゃうわけでしょ?彰さんだってそう。忠司さんと彰さんが仲間で、ステファンさんと雄吾さんがその矢面になってるようにも見えるし。だからと言って、どっちが正しいとか分からないけど。ただ、私は忠司さんが怖いって思った。それだけかな。」
誘導されてるように思うと、それを信じるよりも怖いと感じる。
要は、その理屈も分かった。
なので、頷いた。
「はい。これで、ほんとに全員の意見が聞けた。もちろん、その中には隠れてる霊媒師とオレの相方の共有者、狩人も含まれていたわけだけど、オレも目線から見たら、それが見えていないのに恐れずにグレーの怪しい位置を言えた人は白く思えたかな。つまり、忠司さん、早希さん、浩平、莉子さん、彰さん。他は占い師の怪しい位置がどうのとか、そっちの方だったしね。このうちのグレーは忠司さん、早希さん、浩平だから、この三人は今日のところは吊り位置から外していいかなと思う。残りのグレーは敦、真由さん、真司さん、健、姉ちゃん、陽介、雄吾の7人。この中から指定しようかなって思ってるから、この7人に話してもらって2人指定するって決めた。」
真由が、驚いた顔をした。
「え、私はきちんと忠司さんが怪しいと発言したと思うけど。」
彰が、言った。
「いいや。君は私と忠司が仲間で、ステファンと雄吾は攻撃されているように見えると言った。君の中では私達とステファン達をそうして分けているが、どちらが怪しいか分からないという言い方だった。ただ忠司が怖いと言っただけ。怪しいとは言及していない。」
要は、頷いた。
「その通りです。」と、真由を見た。「それが、オレから見たら敵を作りたくない人外にも見えたんだ。だから誰かを怪しんだとはみなさなかった。」
真由は、顔を青くした。
「そんな…共有者まで私を陥れようとするの?そんな…もう誰も信じられない!」
「待て。」忠司が、それに割り込んだ。「その子は多分、村人だったとしてもそんな感じだ。投票対象に入れるのは止めないが、それ以上責めても人外じゃなかった時、人外達も寄って集って吊ろうとして結局白を吊ることにもなりかねない。占い位置にした方がいい。パニックになるタイプは、一番どちらかわからないのだ。真由さんを吊っても情報は少ないが、雄吾、もしくは私を吊れば、村にはその色で今争っているように見える二組の色分けがしやすくなるだろう。二択にするなら最適なのは恐らく私と雄吾。村目線ではそうなのではないのか。」
初日から共有者を吊り先指定に?
要は、真顔だったが内心悩んだ。
何より二択なのだから、本当に吊られかねないのだ。
要は、言った。
「でも…その意見を聞いても忠司さんは白く見えるのに、二択に入れるんですか?両方白だったら?」
忠司は、答えた。
「その時はその時だろう。初日は白でも良いのだ、とにかく情報を求めて吊る。一番多く情報が落ちそうな二択にするのが一番だと私は思う。それに、雄吾白ならステファンを怪しむ声も一旦落ち着く。私は白だから、吊られても彰さんの白がより確定的になるだけだ。」
要は、苦悶の顔をした。
雄吾の発言はパッと見白いし、忠司の言葉がなければ怪しまれる事はなかった。
彰が言及したかもしれないが、それでも要が二択に選んだかと言われたら、分からなかった。
できたら真由と誰かをと考えていたのだが、それでは情報が確かにそう落ちない。
忠司が言う事は分かったが、何しろ忠司が白なのを要は知っているのだ。
「…ちょっと、考えさせて欲しい。」要は、言った。「雄吾だって意見だけを見たらそう黒くはなかったし、忠司さんだって積極的に意見を落としていて白く見えてる。確かに初日だから白でも良いかもだけど、まだ迷うんだ。真由さんの方が遥かに黒く見えてるしね。とにかく…情報吊りなのは分かってるけど、考えて来る。夕方までに…ええっと7時から投票だから、6時にもう一度ここに集まって欲しい。それまで個別に話を聞いて回って、決めるよ。」
倫子が、言った。
「要一人に決めろっていうのがかわいそうなのよ。まだ14なのよ?相方の共有者はなんで自分が出るって言ってくれなかったんだろ。」
要は、言った。
「…オレが出るって言ったから。」と、立ち上がった。「ごめん、相方とも話し合わないといけないし。ちょっと部屋に籠もる。あちこち訪ねるかもしれないけど、そしたら話を聞かせて欲しい。」
皆は、頷く。
そうして、要はフラフラとリビングも出て行った。
洋子と倫子は、その背中を心配そうに見送っていた。
要は、部屋に帰ってノートにさっきの話し合いの結果をまとめた。
全部頭にあるので、そのまま書いて行けば済む。
書き終えて、それを見返しながら、役職者の所をじっと睨んだ。
占い師は妙、博正、靖、正希の4人だ。
狩人は、彰、健、そして陽介の3人だった。
それぞれ思い思いのところを守っていたが、実は陽介と健は二人共に彰を守っていた。
つまりは、要は嘘を付いたのだ。
この二人は、決して彰を今夜守ることはできなかった。
彰は要を守っていたので、要は他の狩人の護衛先に入れば良いが、彰がノーガードになってしまう。
とはいえ、もし彰が人外ならば、守る必要はない。
が、村の意見を聞いていて、狼だって護衛成功を望んでいなかったので、彰を噛まなかったとしたら、要を狙って来たことになる。
それとも、狐噛みなのか。
護衛先を彰しか公表していないので、狼からも今は誰が狐なのかわかっていないはずだった。
仮に要を噛んだのなら、護衛成功だったのだとわかっていることだろう。
それにしても、ステファンと彰が対立していたのは焦った。
彰は、なぜかステファンが怪しいと即座に思ったようだった。
自分が洋子に対して直感のようなものが働くのと、似ている状況なのだろうか。
話し方を聞いていると、どうも親しい間柄のようなのだ。
だとしたら、彰に気取られて焦ったステファンが彰に言い返したということになるのだが、まだ全く分からなかった。
何より怪しく見えるのは、真由だった。
最初のテンパり具合からも人外のそれのように見えたし、最後に発言したことも敵を作りたくない感じがありありだった。
その上、要目線確定白の忠司を怖いと表現した。
忠司は庇っていたが、要からしたら吊りたい位置筆頭だった。
とはいえ、そんな感情のことではなく、明日からの情報が欲しいと言う意見も分かる。
明日はもっと白黒が出て来て、混乱すると思うからだ。
偽の占い師は、今日囲っているのかもしれないが、明日も囲う可能性がある。
枠が狭まって来て、村人ばかりになってもグレー吊りをしてしまっていたらどうしよう。
要は、ため息をついた。
そこへ、忠司、博正、彰が訪ねて来た。
「要?ちょっといいか。」
要は、驚いて立ち上がった。
「あれ。3人でウロウロしてたらラインがあるとか更に言われるんじゃないの?」
博正が、答えた。
「どうせ彰に白打ってラインどうのと言われてる。忠司は彰とラインとか言われてるしな。オレは人外じゃねぇし、明日からの占い結果でそれを証明したら良いのさ。」
忠司は、頷いた。
「そもそもコソコソしている方が怪しいだろう。ステファンは部屋に籠もってるし、雄吾も難しい顔をしていて真由さんはキッチンで女子達に涙ながらに話してたよ。」
要は、顔をしかめた。
「まずいな。女子は20人中7人だ。みんなが同情したら…。」
彰は、首を振った。
「今夜の投票先に指定しなければ良いだけだ。」要が顔をしかめると、彰は続けた。「要、その様子では真由さんに指定を入れるつもりだったな?あの子では情報があまり落ちない。あの子が吊れて例えば黑だったとして、それで何が分かる。私達とステファン達をどちらも怪しいとは言わなかった。忠司が怖いというのは感想であって考察ではない。あの子との繋がりが見えないのに、単独で吊ったところで投票していない人を洗うよりない。それも、身内切りしていたら役に立たない。忠司が言う通り、村のためにはハッキリと分かれた意見のところを吊ってみて、色を見るのだ。私は忠司を怪しいとは思っていない。なので入れるのなら雄吾になる。雄吾が白でも良いと思っている。なぜならステファンを怪しむ気持ちが少し和らぐからだ。」
要は、疑問に思っていた事を聞いた。
「それなんですけど、彰さん。ステファンと雄吾の繋がりってなんですか?いまいち分からなくて。」
彰は、少しムッとした顔をしたが、辛抱強く言った。
「…だから先程も言った。ステファンでないと他にああいった事を指示できる司令塔になるような考察の持ち主から居ない。無能なふりをしているのなら大したものだが、そんな頭の良い者は混じっていない。そもそもそれなら、あのテストであんな所を間違えてあんな点数にはならない。何よりステファンは、自分の情報は隠そうとした。私も人外ならばあのようにしたい。が、私の場合はこのゲームをよく知っているので、適当な事をそれらしく言ってお茶を濁すし、君らに気取らせはしないが、ステファンは合理的な人物だ。このゲームは初めてだと言っていたし、だからこそ私はステファンが怪しいと見ているのだ。よって妙さんは、偽物だと思っている。」
彰がとても一生懸命話すので、恐らく本当にそう、確信しているのだろう事は分かった。
博正が、なだめるように言った。
「落ち着け。分かったから。だったらオレが明日占おうか?色見たら落ち着くだろうが。」
彰は、博正を睨んだ。
「私はステファンが人外だと確信しているからこそ、他を占って欲しい。ステファンは、いつでも吊れる。潜伏している位置の色を見たい。君が真占い師だったらだがな。」
博正は、肩を竦めた。
「相変わらず信じてねぇなあ。だからオレは真占い師だっての。もう呪殺目指すわ。」
要は、困惑しながらそれを聞いていた。
彰が真狩人なら良いが、違ったらどうしたら良いんだろう。
もう、ため息しか出なかった。




