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プルプルみかんゼリーの勇者

作者: 郁章
掲載日:2023/10/07


 ユウタは、幼稚園の給食がとっても苦手な男の子です。

 給食の時間になりました。ユウタが机にナフキンを敷き、コップを出していると、隣の席のあゆみちゃんがユウタに言いました。

「うわー、電車のナフキンだ!素敵だねえ」

ユウタが、

「ママが作ってくれたの。」

と、言うと、あゆみちゃんは笑顔で言いました。

「ユウタ君のママって、すごいんだね!」

あゆみちゃんにママのことを褒められて、ユウタは自分が褒められたみたいに嬉しくなりました。

 ナフキンは、ユウタの大好きな、電車と踏切、線路の絵が刺繍された布でできています。ママがチクチクと縫ってくれたのです。

給食は苦手だけど、新しい給食セットを使うのが楽しみで、今日の給食の時間はいつもより待ち遠しかったユウタでした。


給食のお皿が配られました。

お皿の上には、魚の味噌煮とブロッコリーのごまあえがのっていました。すっぱそうなニンジンとダイコンのなますもあります。

(うわー、魚の味噌煮。茶色っぽくてドロドロしていて、あんまり食べたくないなあ。ブロッコリーにニンジン、僕の苦手な野菜ばっかりだよ)

ユウタの口が、とんがりました。苦手な食べ物ばかりで涙が出そうです。

その時、ナフキンのオレンジ色の電車がちょっと動いたように見えました。目を凝らして見てみると、貨車に魚とニンジン、ブロッコリーやダイコンを載せて、少しずつ進んでいます。

「動いたように見えたけど、気のせいかな?」

ユウタがもっとよく見ようと目を近づけると、電車の前に線路が少しずつ伸びてきました。その線路の先を目で追ってゆくと、砂浜と海がありました。

 砂浜には駅がありました。貨車の魚がぴょんと飛び跳ねて、駅に降りました。線路はぐんぐん伸びて、電車はどんどん進みます。


 つぎの駅は、畑の中。ブロッコリーとニンジンとダイコンが降りて行きました。

(ぼくの苦手なお魚や野菜がみんな電車を降りて行くよ)

そう思ったユウタは、顔を上げて給食のお皿を見ました。すると、いつの間にかお皿の中のお魚もブロッコリーもニンジンもダイコンもなくなっていました。

「やった。ぼくの苦手な給食がみんななくなった」

ユウタが喜んでいると、そこにワカメとたまねぎの味噌汁のおわんと、みかんゼリーが配られました。みかんゼリーはプルンプルンと笑っているようです。

「やった!みかんゼリーだ!」

みかんゼリーはユウタの大好物でした。

そのとき、またナフキンの中の電車が走り出しました。貨車にはワカメと玉ねぎとみかんゼリーらしきものが乗っています。

(あれ?このままだと、ワカメや玉ねぎと一緒に大好きなみかんゼリーまで駅で降りて消えてしまうかもしれない。なんとかして、引き止めなくちゃ)

ユウタが決心すると、なんと、みかんゼリーが光り出しました。

「うわー!眩しい!」

ユウタは思わず目をつぶりました。


 ユウタがそっと目を開けると、あたりの景色はすっかり変わっていました。幼稚園のひよこ組の部屋にいたはずなのに、どこかの駅にいました。目の前には赤い電車が停まっています。しかも、体がなんだか変です。電車の窓に映った自分の姿を見ると、手も足もなくなって、オレンジ色でゼリーみたいに透けています。そのうえ、少し動いただけでゼリーみたいに体がプルプル揺れました。ユウタはハッとして呟きました。

「ぼく、みかんゼリーになっちゃった。」

ユウタは困ってしまいました。みかんゼリーは大好きだけど、自分がみかんゼリーになるとは思いもしませんでした。

「どうしよう。これじゃ、みかんゼリーを食べられないよ。困ったな」

ユウタが悩んでいると、

「間もなく電車が発車します」

電車の車掌さんが窓から顔を出して言いました。

 ワカメと玉ネギが電車に乗り込みました。ユウタはとっさにワカメと玉ネギのあとについて、ぴょんっと電車に乗り込みました。赤い電車は発車しました。


 しばらく進むと、電車は海辺の駅で停まりました。ワカメが降りようとするので、ユウタは電車のドアに目をやりました。すると、ロープでぐるぐる巻きにしばられた魚を連れて、海賊姿のサメが立っていました。

「ぐふふふふ。待っていたぞ。おまえも捕まえて、お昼ご飯の味噌汁に入れてやる!」

そういって、サメはワカメに襲い掛かろうとしました。ワカメは怯えて、フルフルと震えています。

「大変だ!」

ユウタの正義感がメラメラと燃え立ちました。ユウタは給食と弱い者いじめが嫌いなのです。ユウタはワカメを守るために、サメに立ち向かうことにしました。

「ワカメはぼくが守る!」

ユウタは叫びながらわかめの前に飛び出しました。すると、サメは、

「なんだあ?みかんゼリーじゃないか。おまえなんか、ひとくちでツルツルツルンと食べてやるー。」

そう言って、魚をしばっているロープを手放すと、ユウタに突進してきました。サメがユウタに抱きつきました。ぱっくりと開いた口がユウタの方に近づいてきます。牙がたくさんあります。

(かじりつかれる!)

と、思った瞬間、ユウタの体はサメのヒレの間を抜けて、上の方にツルンと飛び出してしまいました。

「なんだ?捕まえたと思ったのに!」

サメは悔しそうに言うとまた、ユウタに抱きつこうとしてきましたが、今度はツルツルンとユウタの体がサメをよけました。サメはつんのめって転びました。でも、すぐに立ち上がるとまたユウタに向かってきました。こりないサメです。

「こうなったらこちらから攻撃だ!」

ユウタは、お尻を海賊の方に向けると、力いっぱい押し出しました。すると、突進してきたサメは、ユウタのお尻にポヨンとぶつかって、ポーンと跳ね飛ばされました。そして、そのまま海まで飛んで行ってしまいました。

ボチャン!

遠くで水音がしました。

「いまのうちに逃げるんだ!」

ユウタが叫ぶと、ロープでしばられたままの魚が電車の中にかけ込みました。そして、ちょうどユウタが電車に乗り込んだところで、電車が動き出しました。


 ユウタとワカメが魚のロープを解いているうちに電車は、畑の中を走っていました。電車の中では、ユウタの勇気ある行動を乗客たちがほめていました。でも、みんなユウタの苦手な食べ物ばかりです。ユウタは、みんなからそっと離れてポツンと一人で席に座りなおしました。

突然、玉ネギが叫びました。

「あそこにブロッコリーとダイコンとニンジンがいるよ。でも、なんだか様子がおかしいみたい。ブロッコリーもダイコンもニンジンも、走り回っているよ。」

(運動会でもしてるんじゃないのかな?)

そう思ってユウタが窓の外を見てみると、地面に穴がたくさんあいています。

(なんだか変な畑だなあ)

と、ユウタは思いました。

 駅についたユウタたち待ち構えていたのは、ウサギのギャングたちでした。二十匹くらいいます。ウサギたちは、ブロッコリーとダイコンとニンジンを食べようと、追い回していたのです。穴は、ウサギ達が掘ったものでした。

ウサギ達は、電車から降りてきた玉ネギとみかんゼリーのユウタを見ると、

「お前たちもかじってやるー!」

そう叫んで、いっせいに飛び掛かってきました。数が多すぎます。ユウタも玉ネギも、ブロッコリーもダイコンもニンジンも、みんな取り囲まれてしまいました。ピンチです。

その時、玉ネギがユウタにそっと囁きました。

「おいらにいい考えがあるから、ウサギ達がおいらのところに集まるように気を引いて」

ユウタは玉ねぎの作戦を聞いて、ためらいました。なんせ、苦手な玉ネギが言うことです。信用できるのかわかりません。

そんなユウタの気持ちに気づいたのか、

「大丈夫。きっとうまくいくから信じて」

と、玉ネギが真剣な目をして言いました。ユウタは玉ネギを信じることにしました。

(でも、どうやってウサギ達の気を引き付けようか)

ユウタは考えました。そして、フルフルと踊り出しました。


フルフル

プルプル

ツルンツルン

フルフル

プルプル

ツルンツルン


ユウタが歌いながら踊ると、みかんゼリーの良い香りがあたり一面に漂いました。

「なんだー。とってもおいしそうないい匂い。」

ウサギたちはみんな、みかんゼリーに気を惹かれています。

「あいつ、美味しそうだ!まずはあいつから食べるぞー!」

ウサギのギャングの親分が言いました。ウサギ達がじわじわとユウタを囲むようにして集まってきます。

(ぼく、狙われてる。大ピンチだ!)

ユウタは後ずさりしました。ユウタの背中が玉ネギにぶつかりました。ユウタは思わず振り返りました。

すると、玉ネギがうなずき、

「ありがとう。後はおいらに任せて!」

と、小さな声で言いました。玉ネギが

「フン!」

と、掛け声を出すと、

パーン

と、玉ネギの皮が一皮剥けました。茶色い皮が飛び散り、玉ネギはかがやくような白い姿になりました。玉ネギが白い皮をペリリっとむくと、白いしぶきが飛び散って、ツーンとする匂いがしました。ウサギたち目に涙がにじんできました。

「目に染みるー!目が痛い!涙が止まらないよー」

ウサギ達は、泣きながら逃げて行きました。ユウタの目からは涙が出ませんでした。みかんゼリーだからかもしれません。

 ウサギ達がいなくなると、ニンジンとダイコンとブロッコリーと魚とワカメがユウタ達のところにかけ寄って来ました。

「ありがとう、ユウタ君、玉ネギ君!」

ニンジン達にいわれて、ユウタは照れ臭いけど、嬉しくなりました。

でも、本当にウサギ達を追い払ったのは玉ネギです。

「玉ネギ君のおかげだよ。玉ネギ君がツーンとする匂いでウサギ達を追い払ってくれたんだ。玉ネギ君はすごいんだ!」

ユウタは両手を大きく広げて言いました。

玉ネギは真っ赤になりました。

「ユウタ君がウサギ達をおびき寄せてくれたからできたんだよ。そんな風にほめられると恥ずかしくなっちゃうよ」

玉ネギは照れています。あんまり照れて真っ赤になったので、頭から湯気が出ているくらいです。ふと、ユウタは玉ネギから良い香りがしていることに気が付きました。

「玉ネギってこんなにおいしそうな香りだったんだ」

と、ユウタは思いました。


 苦手な食べ物達だけど、守ったり守られたりして、もうすっかりユウタの仲間です。

「みんな、ぼくと一緒にお皿に帰ろうよ。」

ユウタはみんなを誘いました。

みんなは喜んで電車に乗りました。

 電車はどんどん線路を走ります。カーブになったとき、前の方に大きなトンネルがあるのが見えました。ユウタには、それがまるで、口のように見えました。

「このまま、お口のトンネルに入っちゃうのかな。」

ユウタは心配になりました。なんだかもぐもぐと食べられちゃうような気がするのです。電車はどんどんトンネルに近づいていきます。

「もうだめだー。食べられちゃう。」

 そう思ったとき、ユウタは、はっと目が覚めました。眠っていたみたいです。

「ユウタ君、だいじょうぶ?」

「さっき、たくさん遊んだから疲れちゃったのかな?」

あゆみちゃんが心配そうに、トントンとユウタの肩をたたいてくれました。

「ぼく、眠ってたんだ。よかったー。」

ほっとしたら、ユウタのお腹がグウッと鳴りました。お腹がすいていたみたいです。


「いただきます。」

教室に、みんなの声が響きました。

今日の給食では、ユウタは頑張りました。せっかく取り戻した食べ物の仲間達ですから、みかんゼリーだけではなく、苦手な玉ネギも魚もワカメもブロッコリーも、ニンジンも、全部残さずきれいに食べました。特に、玉ネギはいつもより甘くてとても美味しく感じたのでした。



お読みいただき、ありがとうございます。


みかんゼリーのカップを帽子にしてユウタに着けようかと思いましたが、やめました。

もしかしたら、改稿して着けるかもしれません。妙なところで悩んでおります。

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