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『うたかたボーダー/さくらパーセンテージ0』

12月の、寒い日。

ひょんな事から、カップルの夕飯に同席する事になった櫻子さん。

酒の肴の話題はいつしか、彼女のとある、悩みへと。


登場人物

櫻子(さくらこ)

(まだら) 櫻子(さくらこ)」。24歳。

ハウスキーパー。性対象:女性


(すぐる)

霧谷(きりたに) (すぐる)」。31歳。

商社勤務。性対象:男性


友基(ゆうき)

淡路(あわじ) 友基(ゆうき)」。39歳。

輸入会社経営。性対象:男性



―黎和3年12月中旬―

櫻子:【M】気まぐれな季節風もやっとこさ腰を据えて、

櫻子:【M】くっそ寒い冬が来た。

櫻子:【M】季節の変わり目も無くなって来たねェ、とか言われて久しいけれど。

櫻子:【M】元から境目なんて、あったのか、どーなのか。

櫻子:【M】物事の、線引き、とか。

櫻子:【M】ここまでは夏で、こっからは秋で、こーなったら、冬。

櫻子:【M】もしくは。

櫻子:【M】女は、男が好きで。

櫻子:【M】男は、女が好きで。

櫻子:【M】もしそうじゃなかったらソレはドーセーアイで、とかとか。

櫻子:【M】ギリシャとか、ローマとかぐらいの大昔は案外そうでも無くてェ、とか、前に誰かに聞いたなー、

櫻子:【M】ていうか、そもそも、どーたら、こーたら。

櫻子:【M】学生時代以来ひさびさに、どーしよーも無い事をボンヤリ、考えてたら。

櫻子:【M】……焦がした。

櫻子:【M】よーやく仕上がりかけた、渾身の、煮込みハンバーグを。

櫻子:【M】不覚、過ぎて。勿体なさ、過ぎて。

櫻子:【M】泣いた、っス。若干。

―タイトルコール。

秀:『うたかたボーダー』、

櫻子:『さくらパーセンテージ0(ゼロ)』。

―【間】

―マンションの一室。午後8時。

秀:たっだいまぁー。

秀:おっ姫サマのお帰りだっちゃよぉー、っと。

秀:(鼻歌)

秀:……ってアレ、櫻子(さくらこ)さん?

櫻子:……、おかえりなさいマセ。

友基:おかえり、(すぐる)

秀:あ、ただいまぁ、友基(ゆうき)

秀:寒かったぁー。

―挨拶に伴う軽いキス。(リップ音はご自由に。)

友基:おつかれさま。

秀:うっふふ、癒やしてぇ。

秀:あ、ていうか櫻子さん、何か手間取った?

秀:昨日そんな散らかしちゃってたかなぁ、

櫻子:あ、違いまーす……、

櫻子:くっそドジな家政婦が、手際ウンコなんでハンバーグ焦がして作り直してるだけでェーす……。

秀:あらァー……。

秀:ていうかヤダっ、煮込みハンバーグかき混ぜながらウンコとか言わないでよぉーっリアルリアルっ。

櫻子:あ、じゃ「ゲロ不器用」で。

秀:ひゃだーーっ。リゾット系じゃ無くて良かったっ。

友基:勘弁して……。

秀:アハハハハハっ。

―通勤鞄を置き、秀はネクタイを緩める。

櫻子:すみません、ちょい1回焦げちゃって……。

櫻子:もうじき出来上がるんで、配膳だけしたら退散します。

秀:あーっ、全然イイ全然イイ。着替えるし顔洗うから。

友基:いつももう少し、遅い時もあるしね。

櫻子:貴重な二人のお時間ジャマしちゃって、

秀:あっはは。まっ、3日ぶりではあるけどぉ。

秀:友基今日飲むんでしょ? 終電で……、

友基:あ、それなんだけど、

秀:んー?

秀:てかめっちゃイイ匂いー。

友基:今日、帰らなくて良い。

友基:会社に泊まる、でいけた。

―喜色を浮かべる秀。

秀:うっそっ、マジでっ!?

秀:ぃやったっ!!

櫻子:(調理の手を進めながら)

櫻子:おおー。サップラーイズ。

友基:DVD観る? 来週にしよっかって言ってたやつ。

秀:見る見る見るっ。

秀:うわテンション上がってきた、疲れぶっ飛ぶわァーっ。

友基:まずご飯、ね。

友基:スーツ、着替えといで。

秀:はいなりーーっ。

秀:今日ハンバーグと何?

櫻子:オニオンマリネと、ザワークラウト入りのポテサラ、あと茸バターのオムレットですゥー。

秀:ひゃっひゃーっ。

秀:ワインワインっとーーっ。

友基:靴下、放っぽったら駄目よ。

櫻子:あ、てても大丈夫ですヨ。

―一旦自室、及びバスルームの洗面台へ向かう秀。

櫻子:すみませんス……、もうあとちょっとで、

友基:大丈夫大丈夫。

友基:……ハンバーグ結構多いのね?

櫻子:あー、1回目無事だった子たちも編入してるんで……。

櫻子:余ったら夜のおつまみか、置いといて貰ったら明日にでも処理しとくんで、

友基:食べてく? 良かったら。

櫻子:おっ……、

櫻子:あ、えっ?

友基:久々に。勿論プライベートで。

櫻子:え、え、私この……、牛100パーのブリブリのハンバーグと、野菜その他概ね国産のおハイソお料理たちを……、ご相伴に与ってってイイって事っスかね、

友基:自分で作った、しかも僕らの好みに合わせてくれてる料理を、食べる気しないかもだけど、

櫻子:やっ、や、私は全然、自分で作りながらでも涎垂らせる方の女なんでっ。

櫻子:あ、垂らしてはナイです実際は。ハイ。

友基:ふふ。じゃ、そうしよう。

友基:飲む? 何か。

櫻子:あ、お酒……、は、

櫻子:ええーーと、ですね……、

秀:(リビングに戻りつつ)はァーっ1日でお肌ガッサガサっ。

秀:櫻子さん飲まないのぉーー?

秀:俺らは飲むよ? ガンガン。

友基:僕はチビチビ、ね。

櫻子:あのーー……、

櫻子:あ、おっとっと、

―鍋の火を止める。

櫻子:出来ました出来ました。

櫻子:とりま、テーブル準備しまァす。

秀:ワイン出そーっと。

―【間】

―食卓。食器は3人分。冷えた缶を持って戻る友基。

友基:はい、ノンアルコールビール。

櫻子:うっひゃァ、スミマセンっ。

―白地に緑の缶デザイン。

―「クラウスターラー」、アルコール度数0%。

櫻子:うあー、頂いちゃいますイイのかなァーコレっ。

秀:偶にはねーっ、ちょっとゆっくり。

秀:ゲイの友達呼ぶとウルサくなるから結局。

友基:嫌じゃ無いけどね。

秀:嘘ばっかりっ。

秀:途中から煙草吸いにベランダ出っぱなしになるじゃん。

友基:結構冷えるんだよね、この時期。

秀:根暗オヤジがっ。

秀:イイけどさーっ。

友基:取り敢えず、乾杯しましょ。

櫻子:ざっす、あざっす、頂きますっ。

―プシュ、と開缶の音。男性2人の手には、ワイングラス。液の色は赤。

秀:はい、ンじゃ、もーカジュアルに。

友基:乾杯。

秀:かんぱぁーい。

櫻子:乾杯っ!

―軽く各自の飲み物を触れ合わせ、一口。

秀:んっ、コレ当たりだぁ、チリワイン。

友基:ちゃんと風味あるね。全然遜色無い。

櫻子:チリワイン……、アルパカぐらいしか知らないですわ。あのやっすいヤツ。

秀:アルパカは良いよねー、気楽で。

秀:コレは結構するヤツだけど、お試しで買ってみた。

友基:当たり、だね本当。持ち寄りのパーティーとかに便利そう。

友基:さ、頂きます。

―すいすいと飲み進めつつ、食事開始。

秀:頂きまぁーす。

秀:ん、でぇ、今日飲めないのは何で?

櫻子:あー、えっとね、実は今一緒に、

秀:(意図なく遮り)うんまっ。

秀:ねぇ待ってコレうんまっ。

友基:美味しい。いつもながら。

櫻子:あ、良かったっスー。

秀:ごめんごめん、で?

櫻子:今、一緒に……、まあ一応、住んでる相手と、

櫻子:夜に飲む、約束してて、

友基:どこか出るの?

櫻子:いや、寒いし家で。言って晩酌みたいなもんなんで。

秀:相方? 一緒に住んでんだ?

櫻子:えうー、そこがね、実はそーいう感じでも無くて……、

秀:え、じゃまさか男?

櫻子:いや、女、女。

櫻子:男はなァーー……、多分ルームシェアでも、

櫻子:あルームシェアなんスけど、

櫻子:無理かなー……、多分。

秀:だってビアンだもんね?

櫻子:男で喋る人も、全然、居るは居ますけど……、

友基:一緒に住む、とかになるとね。

友基:ビアンだって知っても、その気になっちゃうんじゃないの、ノンケなら。

櫻子:ソレね、あるあるっちゃあるあるなんでねェ。

秀:ふーん。

秀:ま、言って俺もがっつりノンケだった事ナイから、ホントの意味じゃワカンナイけどぉ。

櫻子:無い、っスか、秀さん。

友基:ノンケ時代ね。

櫻子:んー、ま、学生の頃とか、

秀:あー。まー、さー、定義がそもそも、って感じよねノンケの。

秀:俺の場合、女のコと付き合ってた事もあるけどさぁ、

友基:モテたんだよね、高校、大学と。

櫻子:ぽいぽいー。

秀:話聞いてたら親身になっちゃうから。

秀:後輩の子の、失恋の相談とか乗ってたらさぁ、

櫻子:ああー。そりゃグラっと来ますね。お互いノンケ想定なら。

櫻子:イケメンの先輩が、

友基:親身になって相談に乗ってくれたら、ね。

秀:でェ、高校の時とかは周りにゲイとか、ま、確かめよう無かっただけで多分居たんだろうけど、

秀:居ると思っても無かったしさぁ、

友基:アプリとかも無い時代だし、ね。

櫻子:あー。

秀:や、ギリ前よっ? 大学の時にはあったからっ。

友基:僕の時は掲示板が精々だしね。いい世代。

秀:出た、親父発言っ。

秀:あ、んでさー、

秀:高校生とかガキだからさ、自分なんか無視して、周りに合わせよーとすんじゃん。

櫻子:あーーー…………。

櫻子:んんんーーー。ソレなァーーー。

友基:そこは変わらないかな、時代に限らず。

秀:カムアウトとか頭にも無かったし、普通にノンケ面して生きててさァ、そりゃ彼女、いないよりは居た方が楽じゃん? 色々。

友基:作れるならね。

櫻子:周りのね、扱いも見る目も違いますしね。

櫻子:……あのーー、こんなん聞いてイイかわかんないスけど、

秀:んーー?

櫻子:彼女さん居て、ぶっちゃけその……、

櫻子:いけました?

櫻子:セ、ックスとか。

友基:そこね。

秀:あーー。えっとねぇ……、

秀:結局高校の頃はさぁ、自分がはっきりゲイだぁー、とかも、思ってたかってーと微妙だしぃ、

櫻子:あー。

秀:ずっとそうかどうかもわかんなかったしさ。

秀:だからまぁ……、頑張ってた、よね。基本ずっと。

櫻子:ほァーーー。

友基:そうなるよね、そりゃ。

櫻子:いけますか、最後まで。

秀:若いしサルだしね、高校生とか。

秀:刺激だけに集中してた。

友基:生々しい。この子は。

秀:濁す事でもないでしょ、真面目な話題じゃぁん。

櫻子:そォっかァーーー…………、

櫻子:や、もちろん男と女じゃ違うでしょーけど、

櫻子:……私は無理だったなァーー……、

友基:そりゃあ、ね。

友基:何から何まで違うしね。

秀:付き合ってた事とかあんの?

櫻子:んー。

櫻子:それこそ世間体ってか、お試し的に若干……、

櫻子:1週間、でしたけど。

友基:ゲイ同士ならザラだけどね、1週間で終わる恋。

秀:それでこの世の終わりみたいに泣いたり歌ったりすんのよね店でっ。あははははっ。

友基:みんなね。一回はね。

櫻子:ビアンもねー……。

櫻子:長いカップルは長いスけど、ね。

櫻子:相手が地雷とかだとマジ3日とか……、

秀:え、で、で、さぁっ。

秀:話グルっと戻してぇ、その、

秀:相方でも無いけど一緒に住んでるオンナってのは何関係なの?

友基:会社の寮、とか。

櫻子:あー。んっと、仕事関係、っちゃそうとも言えるんですが……、

櫻子:まー、その……、元々は、仕事先のお宅の、娘さんだったんですけど、

秀:え、てことは若い?

櫻子:二十歳(はたち)、っス今年で。

友基:おお……、

秀:わっっかっ! え、ソレ良いのっ!?

秀:その子もビアン???

櫻子:いやァ……、

櫻子:違う、と思いますね、多分。

櫻子:てか、だいぶ、かなァーりの箱入りでェ、

秀:二十歳で多分ノンケの、箱入りオジョーサマの女の子と一緒に住んでんのぉっ?

秀:イケるソレっ? 犯罪じゃナイ?

櫻子:やっ、や、全然そーいう感じじゃ無い、ってか、ビアンとも何とも言ってないですし、

秀:ノンケの振りして狙ってんのぉっ? 虎視眈々とぉっ!

櫻子:ねらっっ、ては、ナイ、ナイ、っス今はっ!

櫻子:成り行きでっ、成り行きでそーなったんでっ。

友基:イケる感じじゃないの? 櫻子さん的には。

―絶句。

櫻子:……。…………。

―グビリっ、と缶を呷る櫻子。

秀:黙った。イケんだ、コレ。

櫻子:…………。

櫻子:むちゃくちゃ可愛いっス。

櫻子:しょーじき。

友基:あらあらあら。

秀:メス狼がいるわよ、ワタシらのマンションにっ。

櫻子:や。や。

櫻子:そんな、そんな。

櫻子:……ぶっちゃけ狼になりたい、っスけども。

櫻子:多分、ノンケ、なんで。向こう。

秀:どーなの、ソコ実際。

友基:全くケは無さそうなの? その子は。

秀:二十歳でしょー? そこら辺詳しくナイけど、染めちゃったりとか無理なの?

秀:箱入りだったら寧ろ色付いてないとか、

櫻子:あのーーーー、自分トラウマあるんで。

櫻子:昔それやろうとして。

友基:失敗しちゃった?

櫻子:そんな重くも無いスけど。

櫻子:当時の自分を殺したいっスね。

櫻子:マジで悪手しか打って無いんで。

秀:あのねぇ、ソレやりたがるゲイも多いけどさァ、

友基:ノンケ引っ張りこむ、みたいなのね。

秀:そーとー相手選んでやんなきゃ駄目よ。

秀:上手く行ってるトコ見てもそう。マジの、ホントのノンケは無理だから、どーやっても。

櫻子:ホントのノンケ……?

友基:全然、何にも、疑問も不自由もなさそうな、って感じかな。男でも、女でも。

櫻子:んんーーーーー…………、

友基:友人として理解を示してくれたり、もしかしたら最初のうちは、体的にもイケるかもしれないけど。

秀:テンション上がるんでしょーね、ノンケ的にも。

友基:ソコは相手も人間だから……、

友基:心底から受け入れて、自分はもうノンケじゃ無いモノになるんだ、なったんだ、って、思えるようでなかったら、

秀:思えたらノンケじゃナイのよ、最初から。

友基:ちょっとしたストレスとか、溜まってく物とかを……、

友基:セクシャリティのせいにしちゃう、とかは、あるかもね。

櫻子:んむゥーー…………、

―それぞれ、グラスと缶を傾け。

―会話を挟みつつ、食事は意欲的に進んでいる。

櫻子:…………、

秀:はァー。マジうまっ。

秀:やっぱね、ハウスキーパーさん入れて良かったわぁ。

友基:本当にね。いつでも綺麗に片付いてるし。

櫻子:キョーシュクっス。

櫻子:仕事なんで。精一杯やらして貰ってマス。

友基:僕らの事も、隠さなくていいしね。

秀:ソコはデカいね。

秀:まー、別に、殆ど顔合わさないからイイんだけどさー、

櫻子:偶々ね、そこは……。

櫻子:「ビアンだらけの家政婦事務所」じゃナイんで。

秀:何それコンセプト風俗ぅ?

櫻子:イイっスねソレ、結構。うへへ……。

―グビ、と呷る。

櫻子:やば……、普通にご飯食べてるわ……。

友基:どうぞ、どうぞ。

秀:てか友基、今日ホントに良かったの?

秀:冬休みでしょ、真理央(まりお)くんも家に、

友基:こないだね、連れてったから。

友基:天文台パーク。

櫻子:あ、澄ヶ(すみがや)ハーバーの。ライトアップ中の。

友基:綺麗だったよ。目玉のプラネタリウムもちゃんとしてた。

秀:家族サービスで帳尻合ってんの?

秀:奥方もそー思ってくれてたらイイけど。

友基:まあ、まあ、ね……。

友基:バランスは考えてるから。

友基:(ようや)く持てた、この暮らしだし……。

友基:無碍(むげ)に手放すような真似はしない、よ。

櫻子:……かっけ。

秀:…………、まあ、さ?

秀:俺は週3回、ちゃんと帰って来て。

秀:嫁ちゃんと旦那ちゃんやってくれたら、ソレで満足、だけどさ。

友基:善処出来てる、かな。今は。

秀:どーかなぁ?

秀:……ふ、ふ、

友基:ふっふふ。ははは。

―笑い合う二人の様子を、羨ましげに見ている櫻子。

櫻子:ソレってェ、どっちが旦那で、どっちが嫁なんスかね。

秀:そりゃあんたっ、タチが旦那でネコが嫁に決まってんじゃなァーいっ。

櫻子:どっちがどうなんスか。

友基:リバ。二人共。

櫻子:あ、両者どっちもイケると?

秀:今はねーっ。ていうか長くなると。どっちがどうって言えなくなってくし。

友基:その日のその時、お互いが1番イイやり方、みたいなね。

櫻子:はあーー。

櫻子:でも結局最終、ソコ考えますよね、

友基:結果として、ねえ。

櫻子:言って自分は……、そんな長く続いた事無いっスけど。

秀:櫻子さんは?

櫻子:ぅえ?

秀:タチネコ。

櫻子:あーーー。

櫻子:……、ビアンはねーー、ぶっちゃけ線引き、もっと曖昧なんスけど……、

友基:って、聞くね。

櫻子:私はまー……、タチ、寄りのリバ、かなァ強いて言えば。

櫻子:ウケれなきゃヤダって感じでも無いんで。

友基:タチ出来たらモテるんじゃないの? そこが同じか、わからないけど。

秀:タチって判った瞬間の扱いの変わり方エグいもんね。ゲイは。

櫻子:あのー、基本はそーなんですけど。

櫻子:私はなァーーー……、なんかそもそも、最近店とかも行けて無いんでね……、

秀:駄目よ、活動サボったらノンケと変わんなくなるわよっ。

櫻子:や、や、そーなんスよもうマジでェっ、

櫻子:ノンケですわ最早っ。

櫻子:仕事して、生活して、偶に趣味とかでグルグルしてるだけで……、

友基:でも家に帰れば可愛いお姫様が待ってるんでしょ?

櫻子:おぐっ、

秀:なんにも知らないピチピチのノンケが、でしょぉ?

秀:あんたそれゲイ的に置き換えたらむっちゃくちゃドえろい状況だかんねっ?

櫻子:ビっ、ビアン的にもそうっス!

櫻子:生殺しキツ過ぎっスっ!

友基:ビアンバー連れてってみる、とか。

秀:い、き、な、りっ、でしょ?

友基:ギャンブラーだね。

櫻子:イヤ無理無理ムリムリっ!

櫻子:その子、店で飲む、とかも最近初めて体験したみたいな感じなんでっ。

櫻子:賭けには極力出たくナイっス!

秀:え、ていうかさぁ、一緒に住んでて、自分の好み的にも可愛いって思っててさぁ、そんで実際、進めて行きたいと思ってるワケ?

友基:櫻子さん自身は、ね。

秀:ま、そもそもノンケのその子に。

櫻子:…………っ、…………っ、

櫻子:ン、ン、ン、ンおおおおおおーーーーん……っ? ……っ?

秀:すーごい唸るじゃん。

櫻子:……、……、

友基:ま……、だって、下心で始めたんでも無いハウスシェアなら。

友基:進めるも何もないか。

秀:ま、ねーー。

秀:俺もいざ、年下のノンケと二人暮らしってなったら、別に普通に生活するだけだしね。

秀:例えめちゃめちゃイケても。

友基:自分が5歳若かったら?

秀:イってた。

友基:こォら。

秀:アッハハハハハハっ。

秀:茸バターも美味しいーーっ。

―ワイングラスに赤が注がれ。

櫻子:…………。

櫻子:…………、

秀:あれ。

櫻子:下心……、

櫻子:あり、ました。ぶっちゃけ。

友基:へぇ。

櫻子:40パー、ぐらい。

秀:多いな、結構。

友基:同居する流れの時?

櫻子:……あのーーー、

櫻子:その、個人情報なんで色々ハショりマスけど、

友基:勿論。

櫻子:私が行ってた、あ今はもう更新無かったんで行って無いんスけど、

櫻子:ソコがまあ、何つーか大概な感じの……、

友基:ふんふん、

櫻子:もーお客様じゃ無いんで言っちゃうと、かなり、大分な感じの毒親でね……、

秀:虐待? ネグレクト? 過干渉?

櫻子:んーー……、

櫻子:過干渉、かなその中だと。

櫻子:教育がかなり独特で……、禁欲イキスギっつーか、俗なもんオールNG的な、

秀:ああーー。

秀:ふゥーーーん。

櫻子:代々そうとかじゃなくて、ご主人が何か、入れ知恵されてそーなった系の。

友基:ああ……、セミナー系、かな。

櫻子:ライフ、『ライフステージコーディネート・、何たらターミナル』、だったかな……、

櫻子:何かそーいう、マジやばい雰囲気の冊子が毎月届くんスけど。

秀:うはっ。白地でしょ、その冊子。

櫻子:あ、そーですそーです。紙質だけ上等の。

秀:文字の色はっ? 白地に?

櫻子:(ブルー)

秀:アハハハっ。

秀:はいアウトぉーーっ。

秀:文字の色でアウトォーーーっ。

友基:コテコテだ。

櫻子:ね。マジでマジで。うわヤバいトコ来たわと思いましたもん。

友基:珍しくも無いみたいだけど、ね。

友基:現代の……まあ、(まじな)い、みたいなものかな。

櫻子:で、まー、旦那さんそんなだから順当に奥サマが病んで、体に来ちゃって入院もして、いよいよ家回んなくなってェ……、みたいなタイミングでウチに、

友基:依頼が来て。偶々あなたが、

櫻子:そっス、行くことになって……、

秀:ソコで出会った、と。

秀:愛しのお姫サマちゃんと。

櫻子:いっ、愛しとかソコまで、

秀:つーか二十歳とかさー、ヤバいんじないの、プリプリじゃんっ?

秀:一緒に住んでてさぁ、

櫻子:っ、そっ! そっっ、そーなんスそれがマジでプリプリのムチムチでぇっ!

櫻子:本人あんま自覚ナイだけにソレがまた目に毒でェっ!!!!

秀:おっと、

櫻子:つっ……、

櫻子:つっ、付き合いてェーーーー……っ!!!

友基:あはは。

秀:落ち着きな、メス。

秀:夕飯時のゲイ夫婦の部屋で何をしみじみ叫んでんのさ。

櫻子:すっ、すんません(ほとばし)りました……っ。

櫻子:ええーー、と。

櫻子:なので……、

友基:環境の良くない家庭に父親と……、二人?

櫻子:あ、です一人っ子で、

友基:って所に、仕事で入った訳ね、櫻子さんは。

櫻子:そ、っスね……、

櫻子:で、で、まあ、案の定、ってか、旦那サマ本人も情緒ガタガタで、今まで奥サマに行ってた色々がその、娘さんに向くようになったり、とかで色々、散々になって……、

櫻子:ちょっと、見てらんない感じになってって、

秀:下り坂コロコロコローっ、って感じだ。

友基:うん、うん……、難儀だね。

友基:でも仕事場だもんね? あくまで。

櫻子:うんまあ……、本来はね、仕事の領域では無い感じ、なんスけど正直、その、色々と間に入ったり、悩み聞いたり……、

櫻子:素で気の毒でもあり、ただまあ完全に、

秀:下心ぉ? お嬢サマ可愛かったから?

櫻子:あのォーーーー、

櫻子:まあハイっ、

櫻子:……そうっスね正直……。

友基:悪くない悪くない。

櫻子:で……、まあ、本人ももう二十歳だし、入院中のお母さんの方とも関係悪くなさそうだったり、あとまあ幾らか、気持ち的なキッカケもあったりとかで、

友基:紆余曲折ありまして?

櫻子:実家出て。

櫻子:一人暮らし、するっていう流れになって。上手いこと。

秀:良かったじゃんね?

櫻子:と、思いますねー……、なんだかんだで、そこは。

櫻子:…………でェ、

友基:はい。

秀:ソコよ。

秀:涎垂らした狼が、まんまと滑り込んだのはどーゆーワケ?

櫻子:うへへ、いやあ、まあ……、

櫻子:あのまあ、ホントに自分も、会社の寮の部屋、二年過ぎたから家賃上がるし、来年度から部屋探そーとかとは、思ってて……、

友基:ふんふん。

櫻子:本人も何か、自由になるとはいえ一人暮らし初めてで不安とかって聞いてて……、

秀:渡りに船だぁ、タテマエとしちゃ。

櫻子:ぶっちゃけ、そっスね……、

櫻子:あとそんで……、本人がっ、

櫻子:そんなつもり無いんでしょーけど色々とっ、ノンケ特有の殺し文句を言って来るワケですわ!

友基:殺し文句?

櫻子:「付き合いは短いけどお姉さんみたいに慕ってる」、とかっ!

櫻子:「いっそサクラコさんと一緒に暮らせたら良いのに」、とかとかっ!

櫻子:ちょっと困ったような、それでいてあどけない笑顔で言ってくるんスわっ!

櫻子:髪サラぁっ……!

櫻子:いい匂いフワぁっ……!

秀:知らんけど。

秀:……普通じゃんね? 相談乗ってくれた人に対して。

友基:でも凄くイケる相手から言われるんだよ?

秀:ま、だからイくよねソコは。全然。

秀:櫻子さん25?

櫻子:あ、来年25っス。今、4。

秀:ゴリゴリ行くわぁー。

秀:寧ろ染めるわぁー。

櫻子:や、まあ、まあっ!

櫻子:行きたいス、ソコはもう正直っ!

櫻子:てか行きましたっ!

櫻子:「しょーがないなァ」みたいな雰囲気出してまんまと二人暮らしに持ち込みましたっっっ!!!

友基:本気でやるのが凄いよね。

秀:10歳上だったらヒイてたわー。

櫻子:あのーーーー、

櫻子:正直、手ェ出して無いからギリセーフぐらいの行動かなとは思いマスはい。

秀:ま、でもあんたがビアンって点を除けば美談なんじゃないのぉ、世間的には。

友基:除かなくても。

友基:60%は、善意なり何なりだったんでしょ。

櫻子:や……、まあ、ソコはね。

櫻子:何か……、ホントは1人で出来る事あるのに、出来ないって思い込んじゃってるのは、シンプルに可哀想、だったんで。

秀:イイんじゃなーい。

秀:ちょーどいいバランスだと思うけどね。

秀:善意と下心でロクヨン。

櫻子:んー……、

友基:結果で判断する、っていう方法もあるしね。

友基:シェアしだしてどのぐらい?

櫻子:1、ヶ月半ぐらいですね。

櫻子:……結果?

友基:今、って言ってもいいけど。

友基:あなたと、その人が、

友基:結果として、前よりも、幸せに近いなら。

櫻子:しあわ、せ……、

秀:友基っぽい言い方ぁ。

秀:俺だったら……、狙い目通りかどうか、で判断するわね。

櫻子:狙い目。

秀:ワタシらみたいな日陰者はさぁ。

秀:何となく、で生きてても幸せにはなれないじゃん。

櫻子:……、

秀:ゲイもビアンも、行くとこ行かなきゃ繋がれないし。

秀:アプリとかで便利になったんだろーけど、それでも出会おうと思わなきゃ出会えないし。

友基:恋愛、って部分なら、ね。

友基:結婚、しなくちゃでするなら、現実的なやり方を取るだけだけど。

秀:でも結局、何につけ、そーじゃんね。

秀:こういう風になれーって思って、

秀:具体的に行動して。

秀:思った通りになったら勝ち。

秀:理屈はチープでイージー。

秀:んで、シンプル。

櫻子:……、……、

友基:そういう風に、自分でお膳立てしてかないと……、

友基:世の中は僕らの為のレールを、用意してはくれてないから、ね。

秀:自分から外れてってんだもん当たり前よねーっ。アハハハっ。

友基:そういう事。ふふ。

―息の合ったテンポで2人、グラスを傾ける。

秀:んで。

秀:ちょっとは思った通りになってんの?

櫻子:…………、

―数秒、内省。黙考。

櫻子:……元々……、

秀:うん。

櫻子:見て、らんなくて。

櫻子:この子かわいーのに。

櫻子:死んだ、みたいな、水を抜かれたみたいなカオ、してて……、

―す、と宙に眼が浮き。

櫻子:アンニュイ顔も正直イイ、けど。

櫻子:……ふやけて笑ったらこの子、どんな顔になんのかなーー、って……、

櫻子:思ったのが最初、っスかね。

秀:……、

櫻子:食った事も無いよーな、ジャンキーなモン食べて。

櫻子:あと自分、食べ歩き、趣味なんで、付き合ってもらったり、とか……。

櫻子:どーしよーもないお笑いとか、一緒に見て、

櫻子:酒、が1番タブーだったんスけど、……やっすいチューハイとかで、ベロンベロンになった時に……、どんな顔して、どんな事、喋んのかな、とか、とか。

櫻子:ソレ見て自分は、もっと好きになんのかな、どーなんかなー、みたいな、モヤモヤっとした……、

秀:…………、ふうーん。

櫻子:ま……、ぶっちゃけそんな程度の、

秀:思ったより本気じゃんね、結構。

秀:……イジり甲斐なぁい。

櫻子:あ…………、

櫻子:そー、スかね……?

友基:……なるほど、ね。

櫻子:ま……、ま、ね。

櫻子:こっちの都合ばっか並べても、ね。はは。

櫻子:向こうがどう受け取るか、だし……、

秀:昔の二の舞いはヤだぁ、って感じぃ?

櫻子:ていうか……、ね、

櫻子:ちょっとは大人、なんで今、

秀:臆病の言い訳に「大人」を使わなぁい。

櫻子:(濁音ぎみに)ちょっとでもヒかれたり嫌われたりすんのヤだァっっっ!!!

秀:本音吐くの早っっ。

友基:…………。

友基:その子の過去も、

友基:あなたの、過去も、

櫻子:あ……、はい、

友基:これからどうなって行くのかも、判らないし。

友基:どこで折れ目が付くのかも、わからない、よね。

櫻子:……折れ、目。

友基:前までそうだった物が、

友基:未来までそうとは限らない。

友基:悪い事も、良い事も。

櫻子:…………、

友基:変化の境目って、その瞬間には曖昧で。

友基:後からしかわからなかったりもするし。

友基:だから……、見るべきは、結果。

櫻子:え、っと……、

友基:今は?

櫻子:……っ、い、ま。

友基:見れてる?

友基:その、ふやけた、幸せそうな顔は。

櫻子:……、

秀:下心の狼ちゃんが、狙ったヤツね。

櫻子:…………、

―あの、籠から出つつある、小鳥のような笑顔を、思い出す。

櫻子:…………。

櫻子:……比較的?

櫻子:まだ色々、ぎこちない、スけど……。

友基:……じゃ……、

友基:ま。

―柔らかく笑み、

友基:良いんじゃなぁい? 今の所は。

友基:うっふふふ。

―【間】

櫻子:【M】下心か、善意か、とか。

櫻子:【M】ノンケか、ビアンか、とか。

櫻子:【M】男と、女、マトモと、異常、とか、とかとか。

櫻子:【M】線引きも境目も、考え出したらグルグルしてきて、酔っ払う。

櫻子:【M】だから大昔の賢い人らは、割合、とか、パーセント、とか、考え出したのかなー、とか、ボンヤリ考えてたら。

櫻子:【M】ペロっと完食してた。

櫻子:【M】牛100%の煮込みハンバーグ3個+付け合せ&米。

櫻子:【M】1個だけ。かっくじつに、言える事、としては。

櫻子:【M】私の捏ねたハンバーグはソコソコ美味い、って事だ。

櫻子:【M】……材料のおかげかも、だけど。

―【間】

―玄関先。櫻子の退勤。

秀:おっつー。今度は飲もーねぇー。

櫻子:はいっスーーっ。

櫻子:ほんっとに、お邪魔しましたァーっ。

友基:気を付けてね。

―バタン、とドア。オートロックの作動音。

秀:……ふぅーーっ。

秀:やっぱ、男に興味ない女って楽だわぁ。

友基:お互い探り合わないしね。

秀:悩みはしょーもないけど。

友基:ふふ、まあ、これから、って感じ。

秀:なるようにしかなんないしねぇー。

秀:こればっかは。

友基:うち、みたいに?

秀:んーー?

―細められた、滋味ある眼差しの友基。

友基:相当に。選びに選んで……、

友基:悩みに悩んで、パートナーに決めた元・ノンケは。

友基:ちゃんとお勤め、出来てるかな。

友基:旦那様として。

秀:…………、

―試すような笑み。

秀:聞く辺りがおっさぁん。

秀:……旦那サマのつもりなんだぁ。ていうか。

友基:今日、はね。

友基:……秀は?

秀:…………。

秀:お嫁気分に。

秀:させてくれるなら?

友基:部屋、行こうか。

秀:ふふ……、DVD観ないのぉ?

友基:後で、ね。

友基:中年には優先順位が大切なの。

秀:あっはははっ。

秀:発言ノンケっぽぉ。

秀:あは、ははは。

友基:ふ、ふふふ……、

―二人の寝室へと、笑い合う声が遠ざかり。

―暗転。

―【終】

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