3月29日 コミュニケーション能力
後3日で社会人生活がスタートする。俺がこの結果を待っていたのかはわからない。それでも、一歩踏み出したことによって何かは変わったんじゃないかと思った。俺の配属先は、営業第四課というところらしい。営業でも全部で四つあるらしく、なかなか上を目指すのは大変だ。ただし、同じ新入社員がいるのは、まだ救いだった。
ソイツの名前は、髙橋逸平だ。髙橋は、大学を卒業して入社してしてくるから、俺より4つ上だ。中村は、高身長で前髪も流していた。少し話した時のイメージは、チャラい感じだ。その場に合わせてコミュニケーションしているという印象だった。小、中、高、大とずっとサッカーをしてきたそうだ。バリバリの体育会系だ。そういう奴は、営業に向いている気がしていた。中村は、言っていた。営業に必要なスキルは3つだと。そのスキルがあれば、頭は関係ないと。俺は、本当かどうか少し疑問だった。
コミュニケーション能力、問題解決能力、行動力の三つだった。この三つは、簡単に揃うものではない。ほとんど生きてきた中で身につくものなので、昨日、今日で取得できるものではないということが辛いものがある。俺は、コミュニケーション能力だけは、そこそこあると思っていた。高校時代から、先輩、後輩、同期と猛者たちの中で生き抜いてきたから自信はある。俺が高校1年生の時は、相当先輩の相手をさせられたものだ。
一番嫌だったのが、先輩の荷物持ちと肩パンだ。荷物持ちは、先輩が移動するたびに、荷物を待たされるのだ。野球バックは、スパイクやグローブなどが入っており、肩に背負うととても痛くなるのだ。そんな中、先輩が縦横無尽に動きまわり、遅ければキレられるという理不尽極まりなかった。そして、もう一つが肩パンだ。これは、先輩の機嫌が悪い時に肩にパンチをされるというものだ。俺は、ありがたいことに先輩が助けてくれたからあまり喰らうことは少なかった。しかし、あまり話さない先輩からはめちゃくちゃされたのを覚えている。試合にも出れない俺たちにとっては、とても鬱陶しかった。特に、活気盛んな健太郎や橘たちは何度かやり返そうと試みたくらい凄かった。
そんな猛者たちが集う野球部の中で、コミュニケーション能力を磨き続けていたのだ。歳内などの女性とも話す術も身につけたし、東京に引っ越してからも、人見知りもなくみんなとコミュニケーションがとれた。この時ばかりは、野球をやっていてよかったと心から思っていた。