3月7日 師匠
思ったよりも、大学進学を断念してからは清々しい気持ちになっていた。今日は、朝から受験勉強で使っていた参考書やノートを整理整頓していた。
昨日、恵太から見せられた写真の人は、まったく知らない人だった。おそらく、30代の男性だった。30代には、とても見えずに驚いたのを覚えていた。恵太曰く、"師匠"と呼んでいるらしく、ここから歩いて30分ほど行ったところに住んでるらしい。
俺は、よくわからないが、こまったらその人を頼ることに決めた。なんで、恵太がその人を紹介してくれたかはわからないが、気持ちはとても嬉しかった。でも、まずは、自分でなんとかしたい。人に頼るのも大事だけど、人に全て助けてもらうのはどこか違う気がしていた。
でも、肝心のスタートをどうすればいいかわからないでいた。迷ってても何も変わらないと思い、外を散歩することに決めた。まずは、考える材料が欲しい。
そんなことを考えていると、ちょうどスマホから大きな音が鳴った。俺は、なんだかよくない気がした。普段、こんな朝から連絡がくるなんて珍しかった。俺は、慌てて、スマホを手にとると、2コール目が。画面には"菜緒"の文字が見えた。俺は、画面を2度見した。なんで、菜緒から連絡が来たのだろう?スマホからは、3コール目が流れた。
出るべきか、出ないべきか。俺は、スマホを持ったまま悩んでしまった。出たらなんだ?出なかったらなんだ?そうこうしてる間に4コール目がなった。
出た場合を想定してみよう。もしもし。私だよ、菜緒。どうした?急に会いたくて連絡してみちゃった?わけのわからない妄想が頭の中をかけめぐった。出た場合を想定していると5コール目が。じゃあ、出なかったら?おそらく、後悔するだろう。その後も、なぜ、俺に電話がかかってきたのか気になって、他のことが手につかなくなる。総合的に考えて出た方がいいだろう。
6コール目がなって、さらに焦りを感じた。菜緒がどんな声で話してくるか考えると落ち着かなかった。心臓の音が聞こえる。高鳴りを抑えて、俺は、スマホを握りしめた。7コール目がなったのとともに、思い切って、スマホ画面をタップしようとした瞬間、スマホ画面が変わった。まさかの切れてしまったのだ。考えていたら、あっという間に時間が過ぎていく。
この電話に出ていれば、この後の展開が大きく変わるなんて思いもしなかった。