俺の気持ち侵食加速⑤後編
カレンを追いかけた樹君。 果たしてその結末は……
「カレン!」
俺はドアを壊す勢いで開けて、そう声を出す。
「ふしゃぁぁ」
柵の前に立ち、俺の方を見て、猫の威嚇のような声を出してくる。
「カレン、捕まえたぞ。俺の答えは伝えた。もし気持ちが変わっていないなら、付き合って欲しい」
俺は息を整えながら、カレンに近づきそう聞く。
「私は、私は一度たりとも、サムライマスターへの気持ちが変わったことはありません。私でいいんですか?」
不安そうに、そう聞いてくる。
「当たり前だ。俺はカレンが好きなんだ」
「でも、おっぱいはありませんよ?」
「俺は胸よりも、カレンそのものが好きなんだ」
何を聞いてくるんだ。
「ありがとうございますデス! サムライマスター」
カレンはタックルのように、俺に抱きついてくる。
満面の笑顔で、目を赤く腫らせて、可愛すぎだ。
俺は心底侵食されていたんだな。
カレンを強く強く、抱きしめる。
雲のすき間から漏れ出た、月光が俺達を祝福するように照らしてくれた。
・・・・・・・・・・
「それで、お前たちは授業をサボったうえに、こんな時間まで校舎にいたんだな」
俺達を正座させた菖蒲先生はそういって、睨んでくる。
校舎を出ようと階段を下りている途中で、菖蒲先生に見つかって進路指導室に連行されたのだ。
「すみません。凄く寝てしまったみたいで……」
「その後、話過ぎましたデス」
二人でそう言って、頭を下げる。
「この馬鹿どもが、罰を与える」
「罰ですか?」
もし、特待生制度の道を断つと言われたら、俺はどうすれば……
不安で胃がキリキリと、痛みだす。
「サムライマスター、大丈夫デスよ」
カレンが小声でそう言ってくれる。
「二人には課題を出す。絵日記だ」
ニヤリと口角を上げて、そう言ってきた。
予想外の内容だが、嫌な予感しかない。
「因みに内容は……」
「もちろん、二人が夏休みに何をしたかを書くんだ」
地獄だ、プライバシーポリシーもクソもない。
「簡単デス! 余裕だったデスね? サムライマスター」
笑いながら、カレンはそう言う。
「どうして、個別じゃないんですか?」
抵抗として、そう質問する。
「そりゃ、そのほうが面白そうだからだよ」
菖蒲先生は、俺達の関係を知っているのか?
何にしても厄介だ。
「分かりました。書きます」
だが、あきらめるしかないな。
機嫌を損ねたら、本当に進学が無くなりかねない。
俺は折れた。
「よし、それじゃあ解散。あ、二日に一度は出かけるようにな? 何もしない日記はつまらん」
最後まで最悪なことを言ってくれるな……
俺は重い足取りで、カレンは軽やかに学校を後にした。
・・・・・・・・・・
途中でお腹が減ったので、コンビニによることにする。
「いらっしゃいませー。あ、旦那じゃなかった。神藤君」
店に入ると関沢さんがそう言ってきた。
「おや、和花のお友達でデス」
カレンが興味深げに、そう声を出す。
「ヤッホー、神藤君の嫁ちゃん」
何だよその呼び方……
少し怒っているような気もするんだが? どうしたんだ?
「サムライマスター、お菓子見てくるデス。少し話すといいんじゃないデスか?」
カレンはそう言って、奥に歩いて行く。
何かを察して、逃げたな。
「なんか怒ってないか?」
「やだな~、怒ってないよ?」
そう言いながらレジまで、追いやってくる。
「えっと? そうだ、晩御飯にお勧めの弁当ってある?」
話題をそらそう、怖すぎる。
「そうね? 腹パンとか? あ、裏に来てね? 他のお客さんに迷惑だから」
いや、俺達以外に客なんていないじゃないか!
そう言ってやりたいが、言う勇気がない。
「分かった。案内頼む」
俺は連行されるかたちで、バックヤードに押し込まれていった。
・・・・・・・・・・
「で、何で和花をフッたの?」
「カレンが好きだからです」
本日二度目の正座をしながら、素直に答える。
「うん、二股よりはいいね? でも、許せない」
「どうしてそこまで怒るんだよ?」
不思議に思ってそう聞く。
「そ、それは……」
顔を赤らめて、目をそらされてしまった。
どうしたんだ?
「顔赤いけど、大丈夫か?」
怒りすぎて、熱でも出たのかと心配になてくる。
「う~、ズルい。そういうところに惚れたんだろうな、和花は」
小声で言ったので、よく聞き取れなかった。
「まあ、とにかく。怒られる理由はないんじゃないか? 誠意は見せたはずだし」
「ごめん。そうだよね……他人の私が口だすことじゃなかった」
関沢さんはそう言って、しゅんっとする。
「いや、和花を思ってくれてるんだろうから、いいよ」
「本当に、旦那は優しいな」
また旦那に戻った……
「そうかな? あ、そろそろ行くな?」
バックヤードの扉に歩いて行く。
「よし、ゴムはちゃんとしなよ!」
後ろから大きな声で、そう言われた。
「何言ってんだよ!」
俺も大きな声でそうツッコんで、バックヤードから出ていく。
・・・・・・・・・・
「色々買いましたデスね?」
お菓子の入った袋をリビングに運んだカレンが、嬉しそうに笑ってそう聞いてきた。
「お腹すいてたしな」
ダイニングテーブルに、弁当を置きながらそう返す。
「確かにそうデスね」
「早いとこ食べて、勉強しないとな」
二人で椅子に座って、手を合わせてから弁当のフタを開ける。
ハンバーグにかかったデミグラスソースの香りが、食欲を刺激した。
「勉強……」
カレンは幕の内弁当の鮭をほぐしながら、嫌そうな声を出す。
「分からないところは教えるから、一緒に頑張ろうぜ」
「一緒に……はい、頑張るデス」
やる気が少しは出てくれたようで良かった。
恋人になって初めての夜が始まる。
お読みいただきありがとうございますです。
これで完結じゃないのかって? もう少し続きます笑
二人のイチャイチャをもう少しお楽しみくださいです。
それではまた次回もお会いしましょうです




