#3 俺の精神を侵食
「う、うーん」
目覚ましの音に目を擦り、腕を伸ばして、アラームを止める。
あくびをしながら、部屋をでて洗面所へ行く。
歯と顔を洗い、鏡の前でニコッと笑う。
ん、大丈夫。輝く白さだ。
ふとそこでキッチンの方から、パンの焼けるいい匂いが漂ってきた。
(あれ、誰だ? そういえば昨日から、カレンが家に住むことになったんだっけ)
今の時刻は午前5時過ぎ、こんな朝早くに起きるなんて、カレンも朝に勉強してるのか?
そんなことを思いながら、キッチンの方に足を向ける。
「おっはよーございます! サムライマスター」
「……」
ドアを開けてキッチンに入ると、テーブルに食器を並べるカレンと目が合い、俺は入ることなくドアを閉めた。
「どうしたデス? もう、朝食できるですよ?」
ドアの向こうから不思議そうに、カレンが声をかけてくる。
俺は、恐る恐る隙間から中を覗く。
やっぱり、俺の見間違えではなかった。
カレンの服装がどうみても、裸の上からエプロンを着けているだけなのだ。
今は横を向いているが、後ろから見れば、丸見えの可能性が高い。
「カレン、何で服を着ていない?」
意を決して、俺はドアの隙間からカレンに声をかける。
「サムライマスターが、気に入ると思ったのデス」
そりゃ、男なら嬉しいだろうよ? ましてや、金髪の色白ハーフの裸エプロンなんて、一生かけても拝めないだろう。
「火傷をしたら、大変だろ? 服着ろよ?」
俺はドアを開けて、なるべく落ち着いた口調でそうさとす。
「そうデスね~。なら、着替えます! でもその前に――」
納得しました、という顔をした後に、俺の前に早足でやって来たので、「どうした?」と聞いた。
「ほら~、上がって見えそうデスよ? どうデスか? どうデス?」
エプロンを少しずつ自分の手で、上げていく。
生足が、太ももが――
あれ、目がそらせない。 ザ、◯ールドの仕業か!? く、カレンがこんな痴女になっていようとは。
「な、何が目的だ?」
「認めるデス。あの頃と同じ、サムライ魂をもっていると!」
カレンは、俺の弱点を見つけたと言わんばかりに、ギリギリまでたくしあげて、俺に強要してくる。
「く、俺は……もう、中2病じゃないんだ! 見せたければ、見せてみろ!?」
分けも分からず、そう言い返す。
「サムライマスターもやっぱり、男ですね! 見たくないなら、目を閉じれば良いだけのはずデス!」
その言葉に、はっとした。
確かにそうだ。目を閉じれば良い、だけどそれで良いのか? 俺の中の欲望がせめぎあっているのを感じる。
「樹君? 朝から騒がしいけど、どうしたの?」
中庭に繋がる窓が開き、和花が顔を覗かせる。
たまに庭から入ってくるので、窓の鍵は開けていたのが、仇となった。
まずい、この状況を見られたら、二度と話すことができなくなる。
幼なじみが冷い態度になれば、学校での俺の地位も危うい。
考えろ、考えろ。
てか、後ろからカレンを見たら……
背筋が冷たくなる。
「えっと……何で? 昨日の子が朝から、そんな格好でいるのかな?」
カレンから俺に視線を移し、顔こそ笑っているものの、眉間をピクピクさせながら、そう聞いてきた。
「おぉ、昨日の変な人でデス!! 窓から入ってくるとは、これまた不信デス」
カレンが後ろに目を向けて、そう声をだす。
「ふ、不信って――貴女の方が、不信でしょ? だって、樹君の家で水着姿なんて、おかしいでしょ?」
え、水着着てはるん?
いや、ガッカリはしてないよ? 本当だよ? はぁー。
「あ、ネタばらし良くないデス! サムライマスター、ガッカリしてます!」
「ちょっと、樹君?」
ムッとした顔を、向けられてしまう。
「ちょ、してない。まあ、な? 落ち着けよ? こいつは、カレン。叔母さんの友人の娘さんだ」
俺は慎重に言葉を選び、カレンを指差して、そう説明をする。
「でも、どうしてこんな朝早くに?」
「それは、簡単デス! 一緒に暮らしているからデスよ!」
はい、アウト。
サヨナラ、俺の平穏。
俺は諦めの境地で、和花の反応を待つ。
「そうなんだ……樹君のスケベ~!」
俺のそばまで走ってきて、ボディーブローをきめる。
「あがぁ?」
和花はそのまま、窓から出ていってしまった。
おっとりしていると思っていたが、意外といいパンチを放てる活発さを持っているようだ。
でも、何で、俺は殴られたんだ?
ダメージをうけた体では、検討がつかなかった。
・・・・・・・・・・・・
時間があまりなかったので、カレンが作ったバターののったトースト、ミネストローネを掻き込むように食べて、カレンより先に出る。
一緒にいたら怪しまれるからだ。
まあ、カレンは不服そうだったが……
「おはよう、樹」
教室にはいると、芳が声をかけてきた。
「おはよ、どうした?」
朝から、声をかけてくるのが珍しかったので、訳を聞こうとする。
「どうしたって? それは、僕の台詞だよ!?」
いつもの落ち着いた雰囲気とは違い、珍しく声を高くして、そう言われた。
「何の事だ?」
「熊谷さん泣いてたよ。何かあったんじゃないの?」
声を落として、耳元でささやかれる。
その様子に、一部のクラスの女子が、俺たちの方を見てきた。
「近い、近い。そうか…… 少し、行ってくる!」
芳の顔をてで押して、そう言い残して教室を後にする。
芳は安心した表情で、見送ってくれた。
・・・・・・・・・・・・
「和花、大丈夫か!」
1年3組のクラスの横開きのドアを開け、声をかける。
教室にいた、生徒達の視線が俺に集まるが、それどころではない。
和花に何かあったのか、それが気がかりで仕方がなかった。
「あら、旦那。和花ならトイレだよ?」
教室にいた和花の友達の、関沢さんが、そう教えてくれる。
「そうなのか、ありがとう。てか、旦那じゃない。幼なじみだ」
そこは大切なので、訂正をいれておく。
「はぁー。じゃあ何で、そんなに心配して、走ってきたの」
「幼なじみとして当然だろ?」
俺の言葉に、さらにため息を重ねる。
「そうですか、そうですか。もういいです、ご馳走さまです」
なげやりに、そう言われてしまう。
「あ……樹君……」
教室の入り口で話していると、和花が戻ってきて、後ろから声をかけられた。
「和花、大丈夫なのか?」
「えっ? 何の事?」
口元に手を当てて、驚いた表情になる。
「泣いていたって、聞いたんだけど?」
「あ、あー。何でか分からないの?」
頬を少し赤らめ、上目使いで、そう俺に聞いてきた。
もちろん俺には、検討もつかない。
「悪い、俺のせいなのか? あ、もしかして、朝ごはん用意してなかったからか?」
頭を下げて謝り、その後に閃きが降りてきて、確認する。
「本気で言ってるの?」
凄く冷めた声になり、ジトッと俺をにらんできた。
「いや、恥ずかしいことじゃないぞ!? ご飯は大切だろ!」
「樹君の――バカァァァーーー!!!」
強力な右ストレートが、腹に直撃する。
「ぐぇばぁらぁ」
よく分からない声を洩らして、後ろ向きに倒れ込む。
「南無、南無」
関沢さんが、拝んでくる。
そこに立つとパンツ見えてるぞ!
「沢ちゃん、行こ」
「あ、うん」
二人揃って、教室の奥に入っていく。
うん、ダイエット中だったんだろうな。
俺はそう結論付けて、痛みが引いてから立ち上がり、自分のクラスに戻った。
お読みいただきありがとうございますです!後書き書くことなくなってきたです笑カレンは可愛いと思ってもらえてますか?では後ほど……