テストに向けて――もう俺は侵食を受け入れていた
テストがスタートです
カレンと過ごすようになって、一日一日が凄い速さで進んでいく。
和花との関係も少し変わり、恋愛とは無縁に過ごそうとしてた時のようにはいかなくなってしまった。
他人から見ればリア充爆発しろって言われそうだけど、そうなってしまったら本当にしんどいんだぞ。
もちろん、二人と付き合わないという選択肢があるのは知っているが、断るにしてもちゃんとしたい。
こんなことを悩んでいる場合じゃないんだが、常に心にひっかかっていた。
「――明日からは期末テストだ。部活は禁止とする。もちろん、寄り道も控えろよ。それでは解散」
そんな事を考えていると、解散の合図が出される。
菖蒲先生の話聞きそびれたな……
「サムライマスター、お菓子買って帰るデス」
荷物をまとめていると、カレンが机の側に来てそう提案してきた。
「ああ、って、遊びに行くのは禁止だ」
危ない、俺達が一緒に暮らしているのは秘密だ。
「はぁ! そうデスね。途中まで、一緒に帰るデス」
カレンも気が付いたのか、そう言い直してくれる。
最近緩んでいる気がするな。
・・・・・・・・・・
「あ、おはよう。樹君」
「おう、和花」
次の日の朝、玄関を出ると和花も同じタイミングで出てきて、声をかけてきた。
久しぶりに一緒に登校することにする。
「今日からテストだね」
「そうだな。和花は大丈夫そうか?」
「現代文が少し不安かな?」
「俺は、数学だな」
各々苦手科目を言い合って、道を歩く。
話して歩いたおかげか、すぐに学校についた。
「じゃあ、またね」
「待ってくれ、和花」
立ち去ろうとした和花を呼び止める。
「どうしたの?」
「少し気が早いんだけど、今日の放課後時間を空けておいてくれ」
「? うん。分かった」
不思議そうにだが、了承してくれた。
それからテストに臨む。
今日の教科は数学、国語、社会だ。
この期末テストは俺を含めて、特退進学制度を狙っている者からすれば高得点を狙はなければならない。
詳しくは説明されていないが、各学年上位五名が特別な優遇があるそうだ。
この問題は楽勝だな……
順調に問題を解いていく。
・・・・・・・・・・
放課後、テストから解放された者達が各々に行動を始める。
「サムライマスター、どうだったデス?」
カレンが俺の机の前にやって来た。
「ぼちぼちだな」
「約束、忘れてないデスよね?」
「もちろん」
約束というのは、カレンがテストの総合点で俺に勝てたら何でも言う事を聞くと約束したのだ。
「これは、勝てそうデス」
自信があるようだな。まぁ、負けるはずはないだろうが。
どうして約束したかというと、テスト勉強中に周りでで騒がれるのも嫌なので、黙らせるために約束したのだ。
「そうだ、カレン。この後和花と約束あるから、先に帰っていてくれ」
声を押さえて、耳打ちする。
「ひゃう、了解デス」
こそばかったのか、小さく悲鳴を上げられた。
そのせいでクラスの女子の一部が、睨んでくる。
男子からも怨嗟の念が聞こえるような……
「じゃ、また」
俺はそう言って、クラスから速足で離脱する。
向かうのは和花の教室だ。
・・・・・・・・・・
「お、旦那。和花をお探しで?」
教室の前に行くと窓から顔を出していた関沢さんに声をかけられた。
「そうだけど? いる」
「ちょいまち。和花~、旦那来たよ」
「もう、そんなふうに呼ばないでよ」
教室から和花の声が聞こえる。
「今年もだよね! 頑張んなよ」
関沢さんは俺にだけ聞こえるように、そう言ってきた。
「え? ああ、ありがとう」
関沢さんは知っているのか? 和花に去年とかの事を聞いてるとか……
「樹君、お待たせ」
そこまで考えていると、和花が鞄を持って出てきてくれた。
「じゃ、帰るか」
「うん」
和花を連れて、下校する。
和花を案内する形で少し前を歩き、人気の少ない小さな公園にやって来た。
「悪いな、つきあわせて」
「いいよ。こんな場所に公園あったんだ」
入口に咲いた紫陽花を見ながら、和花がそう返事を返してくれる。
「ベンチに座るか」
公園といっても滑り台と砂場くらいしか遊具はない。そのせいか、子供が一人もいない。
公園の端に設置されたベンチに二人で腰掛ける。
「今日はどうしたの?」
和花はやっぱり、気が付いていないようだ。
「今日は何の日だ?」
「え? えっと、六月二十七日……演説の日だよね確か」
うん、雑学はすごいな。
「言い方が悪かったな。正確には今日から三日後だ」
「リンパの日?」
「え? そんなのあるの」
「うん。そうじゃないの? あ、もしかして、テスト明けのパーティーの相談?」
確かにテスト後にやる約束はしてるけど、そうじゃないんだよな。
「和花の誕生日だろ」
「あ! 本当だ」
本当に忘れていたようで、目を真ん丸に見開く。
「パーティーがあるからさ、先に渡しておきたくて……」
俺は鞄から包み紙を取り出し、それを和花に渡す。
「わぁ、ありがとう。開けてもいい?」
すごく嬉しそうだ。
「もちろん。いいぞ」
紙をやぶらないように丁寧に開けて、中から四つ葉のクローバーのデザインがあしらわれたネックレスを取り出す。
「可愛い~。さっそくつけるね」
和花は嬉しそうに首に掛けようとするが、ホックがうまくつかないようだ。
「つけるぞ」
俺は立ち上がり和花の後ろに回って、つけてあげる。
「ありがと……似合ってるかな?」
和花も立ち上がって、そう感想を聞いてきた。
「おう、思った以上に似合ってる。可愛い」
素直にべた褒めする。
「ひゃう、樹君のそういうところ、卑怯だよ~」
何が卑怯なんだろ?
「少し早いけど、お誕生日おめでとう」
当日にも言うつもりだが、せっかくなので言っておく。
「うん、ありがとう。大切にするね」
和花は数歩進み、ステップを踏んで振り返り笑顔を見せてくれた。
本当にどうしてこんな可愛い和花が、俺なんかを好きになってくれたんだろ。
世の中は不思議なものである。
どうだったでしょうか? 今回はこの後にもう一話投稿します! よろしくお願いします。
では次回もお会いしましょうです




