和花父来る――イメージを侵食
ついに和花パパ登場です
「ただいま」
「ただいま、お帰りデス」
カレンと二人で帰宅する。
夕方を過ぎていたので、二人で夕飯の材料を買って帰ってきたのだ。
「とりあえず、生物は冷蔵庫いれるな」
「はい、お願いしますデス」
カレンはそう言って、洗面所に入っていく。
俺はそれを見届けて、荷物をリビングに運びシンクで手を洗う。
今日買ったものをみながら冷蔵庫に直していく。
何で、カレンは後をつけたりしたんだろう?
そんな疑問が、頭をよぎる。
いや、以前ならまだしも、今は告白された後だ。
誰かとデートしてると、本気で思ったのか?
「サムライマスター。和花がきましたデス」
冷蔵庫を閉めると同時に、カレンがリビングに入ってきて、そう声をあげる。
「和花? どうしたんだ?」
少し遅れて入ってきた和花に、そう聞く。
「あ、その……今日は泊まっても良い?」
どこか陰りを帯びた表情で、そうお願いしてきた。
「それは構わないが、何があったか教えてくれるか?」
「うん……」
「とりあえず、お茶をいれますデス~」
俺達の様子に、カレンがそう気遣ってくれる。
「そうだな。とりあえず座るか」
俺はうつむいたままの和花の肩を押して、椅子に座らせた。
・・・・・・・・・・
「では、私は部屋にいますから、何かあればお呼びくださいデス」
お茶を運び終わったカレンはそう言い残して、リビングから出で行く。
とりあえず湯呑を手に取って、お茶をすする。
「あのね、樹君――」
しばしの沈黙が続き、それをやぶったのは和花だった。
「実は今、お父さんが帰って来てるの」
「そうだったのか。なら、家に帰ったほうが良いんじゃないか?」
和花のお父さんはカレンの事を知らないはずだし、変な勘違いをされそうで怖い。
「うん、でも、喧嘩しちゃったの……」
「え?」
我ながら間の抜けた声を、出してしまった。
厳しい人だが、和花が喧嘩するなんて、思わなかったのだ。
「えっとね。ほら、この間の樹君が言ったことを聞いたの」
この間と言えば、特待生制度の事か?
「ああ、それで何で喧嘩に?」
「そしたら、『あんなちゃらんぽらん奴が特待生に選ばれるなんて、一ミリも思ってないがなって』笑ったから、言い返して、出できちゃった」
なるほど……ちゃらんぽらんか~。
言い返せないな。
「怒ってくれて、ありがとな。でも、仲直りしないと。ちゃらんぽらんなのは事実だしな」
そう言って笑う。
「もう、樹君はちゃらんぽらんなんかじゃないよ! まじめに勉強してるし、期末テストはきっと一番だよ」
普段のおとなし喋り方ではなく、少し興奮したような口調でそう言い返された。
「そうだといいんだがな……がんばるよ」
「うん。でも、泊まるのは、やっぱり迷惑だよね?」
「気にすんなって、別に何も問題ないよ。カレンも喜ぶだろうし」
「そうかな?」
どうして自信が無さげなんだ?
「何かあったのか?」
「いや、ほら……」
凄く言いづらそうだ。
「喧嘩でもしたのか?」
「してないよ……でも、好きな人との時間を邪魔するなんて……」
「ごふぅっ」
思いっきり、お茶を吹き出してしまった。
「大丈夫?」
和花はそう言いながら、テーブルを拭いてくれる。
「悪い、そんなふうに考えるのか?」
「そりゃそうだよ? 好きな人と邪魔が入らないでいれるのって、家くらいだもん」
「それを言えば、和花だって……」
そこまで言って、しまったっと思った。
「ふぇぇぇ~。確かに好きだけど、じゃなくって、そのあの、ふにゅぅぅっぅ」
みるみる顔を赤くして、煙を吹き出してしまう。
「大丈夫か? なんかごめん」
「ふにゃ~」
ダメだ、壊れてらっしゃる。
その時、インターホンが部屋に響く。
これは救いだと、急いで玄関に行ったのがまずかった。
玄関のドアを開くと、眼鏡を光らせたスーツ姿のヤクザが立っていたのだ。
いや、ヤクザじゃなくて、和花のお父さん。
「あ、こんばんは」
「うむ、夜分に悪いね? 娘が来てないか?」
そう言いながらも、目線は和花の靴をとらえていた。
「あの……」
俺が答えるよりも先に、玄関に上がられてしまう。
「娘を連れて帰らせてもらうよ」
そう言いながら靴を脱いで、リビングの方に歩いて行く。
「あ、ちょっと待ってください」
俺はその後ろを追いかけて、リビングに戻るのだった。
・・・・・・・・・・
「はぇ? パパ!?」
和花が突然の侵入者に、驚いた声を出す。
「さぁ、帰るぞ」
お父さんは和花の腕を掴んで、無理やり立ち上がらせる。
「あの、せめて話し合ってくれませんか?」
「そんなもの、家でする。そこを退きなさい!」
立ちふさがり、そう提案するも拒否されてしまった。
「やい、やい、やいデス。そこのヤクザさん。和花をどこに連れていくデス?」
玄関に続く廊下から、カレンがそう声を上げる。
騒がしくて、様子を見に来たのか?
「なんだね? 君は?」
「私はこの家に住む、カレンです。あなたこそ、何物デス」
腕を組んで和花の父の前に、カレンは立つ。
「私はこの子の父だ。この家に住んでいる? どういう事かね?」
俺の方を睨んでくる。
「えっと? 色々ありまして……」
説明しづらいので、言い淀んでしまう。
「ふん、不純だな」
「そんなことないデス! サムライマスターは、ヘタレなので、起きてるときには何もしてこないのデス」
カレン、少し黙っていてくれ。
「ほう、寝ているときはするという事か……私が思っている以上の、クズのようだね?」
ヤバい、俺の評価が下がりまくっていく。
「冗談だよな? カレン」
「? どうでもいいですけど、何で和花に自由を与えないデス?」
キョトンとした表情を俺に向けた後、和花の父にそう質問をぶつける。
「和花のためだ」
「どうして、決めつけるデス?」
「はぁ、時間の無駄だ! 退きなさい」
カレンの質問攻めにため息をついて、歩き出す。
「和花は良いデス? サムライマスターとお泊りしたいデスよね?」
「それは……」
「他人が、家族の問題に口出しをするな!! 失礼する」
「おい、お父さん」
俺は先回りして、前に立ちふさがる。
「貴様にお父さんと呼ばれる筋合いはない」
「ここは俺の家だ。勝手なことをしないでください」
敬語と素が入り混じって、変な話し方になってしまう。
「ふん、娘をどうするかは、私の自由だ」
そんなの間違っている……もうダメだ、我慢の限界だ……
俺のエゴかもしれない。でも、和花の声は聴くべきだと思う。
その時、乾いた音が響いた。
和花がお父さんを平手打ちしたのだ。
「わぉ! デス」
「何の真似だ?」
和花の父が叩かれた頬を触りながら、和花に聞く。
「もう、かまわないで……ッ私、帰らない。今日は泊まるって約束したから」
和花が父を睨み、そう声を上げた。
「そういう事なんで、帰ってくれませんか?」
俺は握っていた拳を解いて、そういう。
「……ふん、節度のある行動を心がけてくれ」
和花の父は分が悪いと思ったのか、俺にそう言って一人で玄関から出ていった。
「やっちゃった……」
「かっこよかったデス」
座り込んだ和花に、カレンが声をかける。
「ああ、びっくりしたけど。和花の言葉が聞けて良かった」
俺も側に行って、そう声をかけた。
はらはらしたが、とりあえずは無事に済んでよかったな。
和花が落ち着くのを待って、三人でリビングに移動する。
その後は仲良く夕飯の支度をする二人を、見て安心するのだった。
いや~、長かった笑 シナリオの勉強してたら、書く時間無くなってました。生かせるよう頑張っていきます。
それではまた次回もお会いしましょう




