芳とデート? 侵食前の日常
デート回です?
日曜日、俺は一人で駅に向かっていた。
カレンもついていくと絡んできたが、今日はダメだと言って逃げてきたのだ。
走ったせいで少し汗をかいてしまった。
今日は俺にとって大切な日。人生が変わるって言っても過言じゃないはず。
「あ、樹。お待たせ」
そんな事を考えていると、待ち合わせをしていた芳が声を弾ませてやって来た。
服装は青色のチェック柄のシャツに、紺色ジーンズとシンプルだが、顔立ちのおかげでカッコよく見える。
「おう、悪いな休みの日に」
「いいよ、全然。もうすぐあの日だしね」
「毎年、助かってるよ」
「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいよ」
そう言って笑みを浮かべる芳を見て、この間の事はそんなに気にしなくていいのかなって? 思えた。
「じゃ、早速行くか」
俺は先に買っておいた切符を芳に手渡す。
「あ、お金。払うね」
「いいって、早く行こうぜ」
ポケットから財布を出そうとした芳にそう言って歩きだした。
「あ、待ってよ」
「…………」
・・・・・・・・・・
電車に揺られ一時間ほど移動して、目的の駅にたどり着く。
若い人が多く闊歩する、若者の街というやつだ。
「さて、何処から行こうか」
「今年はどんな感じにする?」
「そうだな……アクセサリー系とかって、重いか?」
「そんなことないと思うよ? 指輪はちょっとあれだけどね」
そういうものなのか……
「分かった。アクセサリーショップ巡るか」
「うん」
手始めに駅の側にあった、三百円均一の店に入る。
「けっこうあるな……」
店自体はそこまで広くないが、所狭しとアクセサリーが並んでいた。
「あ、樹。これ良くない?」
芳がそう言って、クローバーモチーフのヘアピンを見せてくる。
「うーん、芳には似合うけど、ちょっとイメージわかないな」
「え? 僕に似合うの?」
驚いたような表情だ。
「ああ、女子だったら買ってあげたんだけどな」
「もう、でもそっか似合うんだ……」
ヘアピンを嬉しそうに見つめている。
もしかして、欲しいのか? でもなー。
男子にヘアピンって、なんか違う気がするんだが……
「買うか?」
「ううん、僕はヘアピンしないし」
「そっか」
「…………」
そこからいくつかの店をめぐり、ようやく気に入った物を買うことができた。
「ありがとな。おかげで良い物が買えたよ」
「全然いいよ。それより、お昼どうする? 時間あるなら、食べて帰らない?」
確かに、お昼にはいい時間だな。
「ああ、食べていこうか」
「良かった、行ってみたい店があるんだ~。言ってもいい?」
嬉しそうに、そう言ってくる。
なるほど、それで誘ってきたのか。
「じゃあ、案内を頼む」
・・・・・・・・・・
芳に連れられてやって来たのは、カップルの多いイタリアンカフェ店だった。
何処の席も、カップル。もうそれは、場違いな空間。
「いらしゃいませ。こちら、メニューです」
スラったとしたボーイ風の格好の女性の店員さんが、メニューを置いて、立ち去っていく。
「ふふ、やっとこれたよ」
「なあ、芳よ」
「どうしたの?」
声を落として声をかけると、首をかしげて聞いてきた。
「場違いじゃね?」
「そうだね。だから誰かと来たかったんだ」
笑いながら言われる。
いや、男だけで来るのも変だろ。
「まあ、いいや。どうして来たかったんだ?」
「えっとね、これが食べたかったんだ」
そう言ってメニューを指さして、見せてくれる。
「ハートのふわふわパンケーキ? えっと、お昼食べに来たんだよな?」
「そうだよ? 変かな?」
めっさ不安そうな顔だ。
そうか、芳はただ、このパンケーキが食べたいだけでこの店に来たんだもんな。
「いや、いいんじゃないか? 俺は日替わりパスタにしとこうかな」
ランチで一番安いメニューに視線がいく。
「うん。あ、すみません。」
芳が手早く、注文してくれる。
何か、手慣れてるな。
「おまたせしました」
しばらくして、料理が運ばれてくる。
芳の前にはベリーソースと生クリームで彩られたパンケーキ、俺の前にはカルボナーラが置かれた。
「うぁ~、美味しそう」
芳が無邪気に声を弾ませる。
「そうだな」
俺達は手を合わせて、食事を始めた。
「ふあっふあだ~」
「そんなにうまいのか?」
あまりにも幸せそうなので、そう聞く。
「うん! あ、一口食べる?」
芳が一口分をフォークで突き刺して、差し出してくる。
「悪いな……本当だ! うまいな!」
「だよね、だよね。パスタはどう?」
「お、一口食べるか? うまいぞ」
俺も一口分巻き取って、差し出す。
「ありがと……うん、これもおいひぃね」
芳の笑顔を見て、急に恥ずかしくなってきた。
俺達って、周りからどう思われてるんだ?
冷静に分析しよう……
カップルだらけの空間、食べさせあいっこ……あ、俺でも分かる。
これはホモと思われるな……いや、ワンチャン。芳は顔立ちがいいし、普通のカップルと思われてるかも……それはそれで恥ずかしいけど。
「どうしたの」
急に黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、目をぱちくりさせて、聞いてきた。
「いや、何でもない。美味しい店を教えてくれてありがとう」
「僕の方こそ、ついてきてくれてありがとう」
深く考えないで、今はこの時間を楽しむ事に決める。
・・・・・・・・・・
「ありがとうございました~」
店を後にし、駅に向かう。
「今日はありがとな」
「僕の方こそ、パンケーキ食べれてよかったよ」
他愛のない雑談をしながら歩く。
「では、行きましょうデス」
聞き覚えのある声に視線を向けると、カレンが知らない金髪の男と歩いていた。
「あれって、秋篠さんだよね?」
芳も気が付いたのか、そう聞いてくる。
「こんなところで何をやってるんだ?」
「何か嫌な予感がするし、後を追うよ」
芳はそう言って、カレンの方に走っていく。
「ちょっと待ってくれ」
俺もその後を、追いかける。
カレンは路地裏入り、ビルの地下に降りていく。
その後ろに立っていた金髪の男が周りを確認してから、降りていく。
「何だか怪しいね……」
「だな……俺が様子を見てくるから、帰りが遅かったら、警察を呼んでくれ」
「分かった。でも、無茶はダメだよ?」
芳が心配そうにそう言ってくる。
「分かった、気をつけるよ」
俺はそう言って、カレンが消えたビルに潜入するのだった。
おまたせしました。まさかの芳殿のヒロイン無双(笑)そして、カレンの運命やいかに……
最近は色々書いてましたですね、この作品ももちろん書いてますのでファンの方がいらしましたらご安心ください。エタらせることのないのが、狸の自慢(笑)のんびり投稿ですが、これからもよろしくお願いします。
それでまた次回もお願いします




