和花とお出かけ カレン以外にも侵食されていた?
和花と映画に行くことになった樹は、自ら修羅場をつくっていく――
果たして、樹は無事生還できるのか!?
自室にて勉強をしていると――
コン、コン。
控えめなノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
俺はそういいながらも、数学の問題集から目を離さない。
昨日は少し勉強の時間を削ることになった分、今日は追い込みをかけて勉強をしておきたいと思っている。
「お邪魔します。い、樹君。あの、その、えっと……いい天気だね」
「曇ってるはずだぞ?」
確か今日の天気予報の降水確率は、90%だったはずだ。
「あ~、そうだね」
どうにも様子が変だな。
「どうした? 何か困りごとか何かか?」
俺はそういいながら振り返り、息を飲んだ。
予想通り後ろに立っていたのは和花だったのだが、普段より露出の多い格好をしていた。
胸元が少し開いた紺色のVネックのシャツに、膝見えるかどうかのグレーの色のスカート。
いやらしい感じはなく、少し大人っぽいコーディネートといったところだろうか。
「あのね、今日……映画行かない?」
俺の様子に気がつく様子もなく、少し目をそらしながら、そう聞いてくる。
「……ああ、いいぞ。行くか」
本当は勉強に時間を割きたいのだが、和花の頼みを断りたくはなかった。
・・・・・・・・・・
「映画に行くなら、関沢さんを誘えばよかったんじゃないか? 確か、あの映画を見たがっていたはずだし。」
家を出て、向かう道すがらそう聞く。
「あ~、もう見たみたいだよ? それで樹君誘えばって……」
何故か斜め上を向きながら、そう返してくる。
「そうなんだ……そう言えば、カレンはどこ行ったんだ?」
朝は、「遊びに行きましょう」なんて、言ってきてたんだが、姿が見えなかった。
「さぁ? 私が来たときには、もういなかったと思うよ?」
「そうか……」
一人で遊びに行ったのか? まあ、いいか。
「樹君、教えてくれてありがとうね! 映画楽しみだったんだ」
笑みを浮かべて、そう言ってきた。
「別になにもしてないよ。それで、そんなに気合いをいれた格好なんだな」
「え? 変かな?」
和花は自分の服を見ながら、立ち止まって、キョロキョロと確認する。
「変じゃないよ。大人っぽい感じで、可愛いぞ」
立ち止まって、つい、素の返事をしてしまう。
「ひゃむ か、可愛いんだ」
和花は湯気が出そうなほど顔を赤らめて、うつむいてしまった。
「悪い、つい素で返事してしまった。キモチ悪かったか?」
「ううん、嬉しい。行こ」
和花は満面の笑みを浮かべて、俺の手を掴んで引っ張ってくる。
「お、おう」
和花の笑顔に、俺の方が照れてしまうのだった。
・・・・・・・・・・
和花が見たがっている映画は、洋画の恋愛映画だ。
俺は全く知らないんだが、和花の話では原作の小説がすごく良かったとの事。
昨日も来た映画館の、チケット売り場に二人で並ぶ。
「いらっしゃいませ? 本日は違う女性をお連れなんですね」
化粧をバッチ決めた、女性のスタッフがそう言ってくる。
「え? ああ、えっと。トバリの奇跡のチケットが欲しいんですけど」
少し驚いたが無視して、チケットを頼む。
「はい、今はやりの恋愛物ですね。昨日は外人の女の子をアニメで釣って、よくやりますね? あ、カップル席何てどうですか?」
なんだろう、素と接客が混ざっている。
「カップル……あの、普通の席で見やすい所は開いてますか?」
和花がおずおずとそう声を出す。
やっぱり、カップルなんて思われたくないよな……
「ちっ。どうせ裏では、股を――」
「早よ、チケット出せよ」
俺は声を張り上げて、声をさえぎる。
何を言い出すんだ、このスタッフは。
「あの、すみません。お客様……あ、佳代さん裏に行ってて」
突然、スタッフの後ろから来た白髪の男性のスタッフに声をかけられる。
「え? オーナー? あ、あの……」
「早く行きなさい」
オーナーと言われた白髪の男性の声は落ち着いたものだったが、凄みがあった。
「はい」
「お待たせしました。お客様、お詫びと言っては何ですがこちら……チケットでございます」
オーナーは端末を操作して、チケット差し出してくれる。
「あ、いえ、お代は払います」
「そうです。いただけません」
和花も同調してくれた。
「お願いします、受け取ってください。でないと……」
また謎の凄みだ。
「分かりました。ありがとうございます」
頭を下げて、チケットを受け取る。
「い、樹君?」
和花が驚く。
もしかしたら、この凄みに気が付いていないのかもしれない。
「では、楽しんできてくださいね」
そう言い残して、オーナーは去っていった。
「良かったのかな?」
「良いんじゃないか? それより映画は昼過ぎだし、お昼食べに行くか?」
チケットに書かれた上映時刻まで三時間ほどあったので、そう提案する。
「そうだね、せっかくだし食べよっか」
俺達はレストランフロアーを目指して、歩き出した。
四階まで上がると、料理の良い匂いが漂っている。
早速、近くにあった案内板の前に行く。
「さて、何を食べようか?」
「そうだね……」
和花も真剣な表情で、料理の写真を見ている。
「そんなにお腹がすいていたのか?」
あまりにも真剣な表情だったので、笑いながら聞く。
「ち、違うよ。カロリーが気になっただけだよ!」
ムッとして、そう返されてしまった。
「悪い、悪い。でもそんなに気にする必要な良いんじゃないか?」
マジマジと、和花を見つめる。
栄養が全部胸にいってるんじゃないかって思ってしまうデカさの胸だ。
「樹君のエッチ……」
和花は小さな声でそう言って、俺に背中を向けてしまった。
もしかして声に出てたのか? いや、そんなはずは……
『視線です、女子は視線に敏感なのデス』
何処からかカレンの声が聞こえてくる。
しまった……そうだった、何か挽回の策を……
和花の機嫌を取るために、辺りに視線をめぐらせていく。
あ、あれだ!
「和花、こっちに行こうか?」
「え? ひゃ」
俺は和花の手を取って、歩き出した。
・・・・・・・・・・
「どうだ和花? こういうの好きだよな?」
「う、うん。でもどうして?」
向かいの席に座った和花が、不思議そうな声を出す。
「いや、不快な思いさせたからさ……」
「へ~、それで機嫌とろうって思ったんだ」
水槽を見ながら和花は笑って聞いてきた。
「まあ、そうだ」
俺が連れてきたのは、店の壁が水槽になっている洋食のお店だ。
「まあ、いいけど。気をつけてね、樹君。女子は気が付くものなんだよ」
「はい。すみません。カレンにも言われたのに……」
「へ~、カレンちゃんにも言われたんだ~」
俺の方を見て、凄く怖い笑みを浮かべる。
「ああ、不可抗力だけどな」
「ねえ? 樹君。ここの会計は出してくれるんだよね?」
ああ、あんなに奥ゆかしかった和花が、映画館のオーナーよりも凄みを出している。
スタ○ド使いに目覚めたのか?
「も、もちろん出させてもらいます」
俺は深々と頭を下げて、メニューを差し出す。
和花はメニューをパラパラとめくって、呼び鈴を鳴らした。
「すみません。このステーキセットをパンのでお願いします」
「あ、日替わりパスタで」
「かしこまりました。ごいっしょにドリンクはいかがですか?」
「あ、食後に紅茶をアイスでお願いします」
「俺はいりません」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員さんはそう言って、奥に姿を消す。
俺の財布はからは諭吉さんが一枚、消え去ったのだった。
お読みいただきありがとうございます。Twitterやってない人にも宣伝笑何と推理ジャンルの日間ランキングに短編がのりました~パチパチパチパチ(笑)皆様応援ありがとうございます! まだ読んでない人はぜひ読んでみてください。さて、後書きに戻ります(笑)今回も二部構成になっていますがここが違うよポイント! 次回で話が進む予定です! どう進むかは……次回を確認してください。
本当に皆様のおかげで、元気に書けてます。感謝!!!!!! 次回も是非、遊びに来てくださいませ、狸は日々進化していきますよ~(笑)




