残して来た者
ハスハはタケルの元で幸せな生活を手に入れるが、安心すると今度はイトナの事が気になるようになった。
イトナがミワクに殺される夢を見て、早朝すぐにタケルに相談に行く。
そこには丁度ギンコも居た。
「……話は分かった。ギンコ、留守。助けに行く」
タケルは思う。
手間取ればくまどりの呪いが進行する。
だが、それでいい。
後数年、数年持てばいい。
ギンコは天才だ。
数年でギンコは皆を守り、他の者も導いてくれるようになるだろう。
それよりも、ハスハを安心させたい。
俺のくまどりの呪いが心臓の位置に達すれば俺は死ぬ。
力を使えば呪いが進行するがそれでいい。
ハスハに言う必要もない。
もう少ししたら、クスシとサクラの元に行こう。
死後の世界に。
ハスハへの思いは、死が決まる時に言おう。
そう思った。
「任せてよ!」
「ハスハ、すぐに立つ」
「タケル、ありがとう。でも、何度もこのお城を離れて大丈夫?」
「問題無い。野菜の生産と料理の手間が減って、周りの魔物を大量に狩ることが出来た」
「もうこの近くに魔物は居ないよ。それに魚や肉の干物をたくさん作ってくれたから、今は肉も魚も野菜もいっぱいあるよ」
「そう、良かったわ」
私とタケルはすぐに旅支度を整え、イトナの救出に向かった。
「ハスハ、走って移動したい。おんぶする」
「分かったわ」
タケルにおんぶしてもらうのは、ドキドキする。
前よりタケルのことが好きになっている。
タケルにおんぶされると、タケルのマントが変形して私を包んで固定する。
タケルは風を切るように走り、川を飛び越え、山を越え、走る。
◇
タケルのお城に着くまでは10日以上かかった道のりをわずか2日で走り抜け、私が前いた村の近くにたどり着いた。
「村の近くまで来たが、イトナの顔が分からない」
「丁度夜中だわ。このまま忍び込みましょう。私をおんぶして連れて行って欲しいの」
「分かった。案内を頼む」
イトナの寝床の近くに行くと、鬼族の男2人が見張っているが、のんびり話をしている。
「だからミワク様の元を女衆が離れてるぜ」
「野菜の収穫がうまくいかず、子供の世話も出来ず、傘下の部下が離れて行ったら、ミワク様の立場が弱くなるな」
「男衆も強くなるとミワク様の魅了は効かなくなる。ここにいるのは俺達みたいな強くない男衆と子供だけになっちまうな」
「逃げ出すか?」
「だが、魅了をかけられると、癖になる」
「確かに、あれは酒よりも効く」
見張りがいる!
前より警備が厳重になっている!
見張りはちょうどイトナの寝床の前にいる。
「ハスハ、見張りの奥にある建物にイトナが居るんだな?」
「そうね」
「2人を気絶させる。ここで待っていてくれ」
「え?ちょ!」
タケルは一瞬で見張りに近づくと、2人の見張りがばたりと倒れた。
タケルはやっぱり強い。
「こっちよ!この部屋の中にいるわ!」
タケルを部屋に案内してイトナを起こす。
「イトナ、起きて」
イトナはびっくりして叫び声をあげようとする。
タケルはイトナの口を押えたまま担いで外に走る。
「ん~~~~~~!」
「イトナ!静かにして!」
イトナは村の外まで走った所でようやく冷静さを取り戻す。
「イトナ!助けに来たのよ!」
「す、すいません。思いっきり手を噛んでしまいました」
「問題無い。すぐに帰る」
「ま、待ってください!もう一人連れ出したいです!」
「だが、見つかる可能性がある」
「私と同じようにいじめられている子が居るんです!」
「それは男の子?女の子?」
男の子の場合厄介だ。周りで寝ている大人の男、鬼の戦士が居るのだ。
「男の子のハッコウです」
「3人となると、厳しくなる。一旦帰って体勢を立て直した方がいい」
「駄目です!次はもっと見張りが厳しくなると思います!ハッコウも一緒じゃないと私は行きません!」
「その子供の体格はどのくらいだ?」
「私と同じ10才で、私とほとんど背は変わりません」
「すぐ行ってくる。ハスハはここで隠れていてくれ」
「わ、分かったわ」
◇
私が待っていると、村の方から叫び声が聞こえる。
「鬼殺しだ!」
「げっへっへっへ!俺は鬼殺し!ガキは奴隷として頂く!げっへっへっへ!」
タケルはいかにも悪者という演技をしつつ、近くにある樽や鬼族を蹴とばしながら走ってくる。
タケルは2人を両手で抱えて走ってくると私の前に止まる。
私をおんぶしてイトナとハッコウを両手で抱え、全力で駆けだした。
◇
無事に追っ手から逃げ出すと、タケルは地面に寝転がって呼吸を荒くする。
「はあ、はあ!もう、走れん」
ハッコウは腹を殴られ気絶していたが目を覚ましてイトナに起きた事の説明を受けていた。
「ねえ、どうして悪い人のふりをしたの?」
「俺が攫った事にすれば、俺に何かあってもイトナとハッコウは元の居場所に戻れる。俺は、鬼殺しで元々嫌われている。もうどんなに嫌われても変わらない」
タケルは本当に鬼族を殺したの?
こんな考えをする人が鬼族を殺すとは思えない。
「ねえ、タケルは本当に鬼族を殺したの?」
「殺した。その事は後で話そう。ハスハの両親の話と関係してくる」
「分かったわ。今はタケルのお城に戻りましょう」
私はハッコウとイトナにお城の説明をしつつ、歩いて帰路についた。
私はタケルのことが気になっている。
今はすぐにここから離れる方が大事なのに、私はタケルのことを今すぐ知りたいと思っている。
私は、きっとタケルのことを好きになっている。
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