野菜を育てて料理を作ったらとても感謝された
「長旅で疲れただろう?ゆっくり休め」
この旅で気づいたのは、タケルの言葉遣いはぶっきらぼうだけど、本当は優しい人間だという事。
そして、私は大切にされて、タケルの事を意識し始めている。
「お城!ここはお城でしょ?」
塀の中はお城のようだった。
「作っていたらこうなった」
「タケルが作ったの?」
「そうだ。鍛冶錬金のスキルで鍛冶や大工は出来る」
「凄いわ!まるで領主のお城ね」
「今帰った!門を開けてくれ!」
タケルの声に子供が上から様子を伺い、その後扉が開いていく。
「たける、かえってきたよー!」
小さい子供が叫んで走っていく。
中に入ると、みんながタケルに声をかけてくるが、全員子供だ。
「ここは、子供が多いの?」
「子供しか居ない。俺以外で一番年上が13才だ」
「どうして子供しか居ないの?」
「孤児を拾って育てていたらこうなった」
素早い身のこなしで男の子が近づいてくる。
銀髪と銀の瞳。
忍者装束を身にまとい、頭から狐の耳と後ろに尻尾が生えている。
きつね族だろう。
「その人がハスハなの?フーン、思ったより背が低いね。僕と背が変わらないんじゃない?」
素早い動きで私の後ろを取る。
「ギンコ、急に後ろに回り込むな。女性に失礼だぞ」
ギンコは「そっかー」と言って私の前に立つ。
「この子はきつね族のギンコだ。さっき言っていた13才で兵士隊長をしている」
「それより、猪を狩って来たんだ!今日は猪鍋だよ!」
そう言って走って他の人に知らせに行く。
「ギンコは落ち着きは無いが、並みの兵士より腕が立つ。熊の魔物も1人で倒せるほどだ」
「そうなのね。猪鍋は、誰が作るの?」
「俺か他の者が作る」
「私が作ってもいい?」
「料理はお願いするが、解体だけは俺がやろう」
「吊るしてもらえれば解体も出来るよ」
「それは助かる!お願いしよう」
「任せて!」
こうして猪を解体する事になったが、5人の子供がじっとこっちを見ている。
私は気にせず猪をさばいて、鍋にしていくが、野菜が少ない。
野菜は根菜類が少しあるだけで葉物が全くないのだ。
「ねえ、野菜が少ないけど、もう無いのかな?」
「やさい、ない」
「やさい、つくるのむずかしい」
そこにタケルがやってくる。
「野菜は、うまく作れる者がいない。俺も作る知識が無いから教えられない」
「そうなのね。お塩はあるから、今日はお肉多めで作るわね」
「それで頼む」
ここは、建物は立派でお肉も手に入るのにみんなが着ている服はボロボロだったり、野菜を作れなかったり、バランスがおかしいのよね。
きっとタケルが無理してみんなを助けて来たんだわ。
「ここは人がどのくらいいるの?」
「俺とハスハも合わせて62人だ」
「大鍋で作るわね」
「頼む。本当はハスハを休ませたかったが、働かせてしまった。痩せて力が出ないだろうに」
「旅で大分おなかが膨れたわ。それにたっぷり寝ていつもより調子がいいくらいよ」
「もっと早く様子を見に行けばよかった。こんなに痩せるまで放置してすまない」
タケルが私の頬を撫でる。
私は顔が赤くなる。
「だ、大丈夫よ。それよりも集中して料理を作りたいわ。タケルはゆっくりしてて」
そう言ってタケルを台所から押して追い出した。
ドキドキしちゃう。
深呼吸して気持ちを切り替えた。
きっとタケルはここの子を守る為、ここから動くことが出来ない。
今の生活も完璧にこなせていない中私の様子を見に来てくれたんだ。
今は料理を作ろう。
料理が出来ると、みんなを呼んだ。
猪鍋をよそって子供に配っていく。
全員が凄い勢いで食べだし、おかわりを求めてくる。
子供が各々騒ぎ出して何を言っているか分からないほど騒がしくなる。
「す、凄い食欲だ!おいしく作るとここまで食いつきが良いのか!」
タケルが驚愕する。
「普通に作っただけよ。それにお味噌やお野菜があればもっとおいしくなるわ」
「これより旨くなる、だと!」
「お野菜なんだけど、私は植物魔術を使えるから成長促進でもう少し多く作れるようになるわ」
「成長促進か!この城に欲しいスキルだ!ぜひ明日からお願いしたい!」
タケルが両手で私の手を握った。
「ぜひおねがいしたい!」
「ぜひお願いしたい!」
小さい子供たちがタケルのマネをして私に握手してくる。
こうして猪鍋作りは大成功のまま終わった。
◇
【次の日の朝】
私は畑に案内されたが、タケルとギンコの他にたくさんの子供がついて来た。
子供の種族はばらばらで、人族・きつね族・たぬき族の3種族が居た。
「ハスハ、早速使ってみて欲しい」
「子供にじっと見られていてやりにくいわ」
「気にせず頼む」
緊張する。
でも、いつも通りにスキルを使おう。
「成長促進!」
畑に植えてあった玉ねぎ・ネギ・じゃがいも・さつまいも・人参に成長促進を使う。
どれも育てやすい野菜ばかりだ。
きっと農作業をする時間があまり無いのだろう。
私の半径10メートル以内にある野菜がすべて収穫できるサイズにまで実った。
「凄すぎる!小さな芽から一気に収穫出来る所まで実った!どんな修行をしてきたんだ!」
「私は毎日スキルを使って来ただけよ?」
「ハスハ、普通の成長促進は3か月で収穫できる野菜を1か月で収穫出来るようになるのが普通だ。優秀な者でも精々数週間までしか短縮できない。だが、ハスハは芽の状態から一気に収穫できる状態まで成長させた。しかも広範囲の野菜すべてをだ!これは凄い事なんだ」
「でも、私の成長促進は遅いとかのろまとか言われていたわ」
「それが間違いだ。鬼族は戦闘スキル持ちが多く、植物魔術の事をよく分かっていないのだろう。だが、普通にスキルを使うだけでここまで伸びるとは思えない。何をしてきたんだ?」
「う~ん、毎日スキルを使って、何回も魔力が切れて倒れていたら、ある時苦しくなくなったのよ。それからどんどん成長促進の効果が上がっていった気がするわ」
「それだ!気絶するほど苦しくなる状況で更にスキルを使う事で能力は急速に開花していく。まともな環境なら何度も気絶するまでスキルを使うことは無い。苦しい思いをしてきたんだろう。そして睡眠時間が足りず、頬が痩せこけるまで追い詰められつつスキルを使う事でさらにスキルの力は増す。ハスハは苦行を毎日こなしてきた!」
「そ、そうなのかな?」
「ハスハ、もっと自分に自信を持ってほしい。これだけ出来れば、野菜不足は解消していくだろう」
「まだまだ成長促進を使えるわ」
「無理をしていないか?助かるが、苦しくなるまで使わないでくれ」
「大丈夫よ。無理はしないわ」
「無理のない範囲で頼む」
「任せて」
ハスハが来てから野菜不足は解消し、葉物の野菜や栗の木・柿なども植えられ、食生活はさらに豊かになった。
更にハスハが料理を作る事で、料理の質は大きく上昇した。
私がタケルの元に来て3日が立つと、タケルが私にお礼を言ってきた。
「ハスハを助けるつもりで連れてきたが、ハスハに助けられている。本当に助かっているんだ。ありがとう」
「私は普通の事をしただけよ」
タケルはハスハの事を思う。
ハスハの顔はハスハの母に似ていた。
特に最近よく眠り、食事を取っているせいか血色がよくなりさらに似てきている。
俺が愛して結ばれなかった相手。
俺はハスハに魅かれていた。
だが、ハスハの父と母の最期の顔がすぐに脳裏によぎる。
ハスハと結ばれるわけにはいかない。
この思いは秘めていよう。
俺はハスハの両親を失い、ハスハのそばに居られない罪滅ぼしの思いもあったのかもしれない。
餓死しかけた子供や、山に捨てられようとする子供を引き取った。
だが、子供を育てるのは難しく、誰一人満足に育てられた気がしない。
今俺の力が足りず、ハスハに助けられている。
だが、これでいいのかもしれない。
ハスハの居場所がここになればいいのだ。
役割があれば不安も無くなる。
「そんなことは無い。ハスハが来てから子供たちが野菜をたくさん食べられるようになった。そのおかげで、子供が風邪を引きにくくなるだろう。それに料理がおいしくなった。子供たちが料理を楽しみにするようになって、元気になった。それと、俺とギンコが前より魔物狩りに出かけられるようになった。ハスハが来る前は、料理や野菜作りで思うように時間を取れなかった。ハスハが来てくれたおかげで今まで欠けていた部分が満たされている」
タケルの話を聞いてハスハは確信した。
今までタケルは出来ない中で頑張って子供達を育てようとしてきたんだ。
人が足りず、時間も足りず、それでも苦手な事を頑張って何とかやってきたんだろう。
タケルの力になれて嬉しい。
それと同時に私は残してきたイトナの事が気になっていた。
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