鬼娘は鬼殺しに拾われる
私が奴隷?
私があの人族の奴隷になるの?
私は人族の男をじっと見た。
黒目黒髪、年は20才ほどに見える。
服は着物ではなく、異国の正装のように見え、マントがうねうねと動いている。
ものすごい量の魔力を感じ、威圧感を覚えた。
周りの鬼族が遠くから様子を伺いつつ話す。
「あれが裏切者の鬼殺しか?」
「間違いない、魔装の錬金術師だ」
「それにあの手を見ろよ。【くまどり】だぜ。あんなひどい呪いは初めて見たぜ」
男の手には赤と黒の線が浮かんでいた。
くまどりと呼ばれ、呪いを受けている者の証でもある。
「あの魔力の多さはおかしい。人とは思えねーぜ!あんな化け物とやりあったら一瞬で殺されちまう」
更にミワクを見ると大量の汗をかき、後ずさりする。
人族の男は私と目が合うと驚くような表情を見せて、マントが感情に合わせるように動いたが、すぐに能面のような表情に戻る。
「ほお、その奇形の混ざり者を奴隷として差し出すという事か。所で鬼族の王はどうした?挨拶をしに来たのだが?」
「す、数年前に死んだ」
ミワクが震えながら答える。
「そうか、死んだか。ふ、怯えるな。お前らを皆殺しにする為に来たわけではない」
皆殺しという言葉でミワクが「ひいい!」と奇声を上げた。
「この娘は鬼と人のハーフで、角はこぶのようだが、見た目は良いのだわ。人族の夜伽にも家事にも使えるのだわ」
「その娘1人を差し出すから帰れという事か?」
「ほ、他に何が目的なのだわよ!」
「ふむ、いいだろう、その娘一人を貰って帰るとしよう」
私はミワクに突き飛ばされるように男の元に押され、ミワクはすぐに下がった。
男は私を肩で担いで飛ぶように跳ねて遠くへと走る。
私は水場で降ろされると、震えながら言った。
「わ、私は奇形の混ざり者です。夜伽には適しませんが、家事なら出来ます!」
犯されるのだけは嫌!
男の手が私に伸びる。
「ひ!」
私は目をつぶって固まった。
私は頭を撫でられる。
「大丈夫だ。安心してくれ」
そして、私の頬を撫でた。
「クマが酷いのと、痩せすぎだ。ちゃんと食べて寝ているのか?」
「い、一日1食と、夜は3時間くらい寝ています」
「飯にしよう。ゆっくりしていてくれ」
そう言って袋に入った米と水を小さい鍋に入れて薪を集め始めた。
「あ、あの、よろしければ私が料理を作ります」
「そうか、頼む」
「所で、そのお名前は何とお呼びすればいいでしょう?」
「名前はタケルだ。お前の名前はハスハだな?」
あれ?私名前言ったかな?
どうして名前を知ってるんだろ?
私が居ない間に話をしてたのな。
それより今は雑炊を作ろう。
私は薪に火をつけて鍋をかける。
その間に野草を取ってくる。
私が戻ると、枝に刺さった魚が3匹火にかけられていた。
「野草を取ってきてくれたか。雑炊はそろそろ出来る」
「野草を入れます。待っていてくださいね」
私は野草を水場で洗ってちぎって鍋に入れた。
器に雑炊をよそい、タケル様に渡そうとした。
「ハスハ、お前が食べてくれ」
「ですが、私は奴隷です」
「違う。奴隷ではない。いいから食べながら聞いてくれ」
「はい」
私は雑炊を食べながら、タケル様の話を聞いた。
「まず、鬼族との交渉で、こちらの弱みを見せるのは良くない。俺の目的はハスハの様子を見に来る事だったが、鬼の王が死に、お前がやつれた顔をしていた。だからハスハを欲しい素振りは見せずにお前を保護した。普通に話をしてくれ」
交渉じゃなく脅しにしか見えなかったけど。
交渉のつもりだったのね。
タケルの顔をよく見ると、怒りではなく苦しみの表情にも見える。
「どうして私を助けてくれるの?」
私を助ける意味が分からない。
この人は何の得にもならないのに。
「ハスハの父と母は俺の知り合いだ。ハスハを守ると約束した」
「お母さんとお父さんの話を聞きたいわ!」
タケルは私の顔を見て悲しそうな顔をした。
「話すと、父と母の死を思い出してしまう。ハスハの顔色がもっと良くなったら話す」
私の事を気遣うような顔をしたタケルを見て思った。
この人は本当に裏切者の鬼殺しなの?
それにそのくまどりの呪いは、なぜ呪われたんだろう?
タケルが私の視線に気づいた。
「これか?これは戦って力を使うほど、くまどりの呪いが進行する。俺のスキルはそういうものだ。呪いを他の者から受けたわけではなく、自業自得で呪いを受けている」
くまどりの呪い。
自身の力を高める代償として呪いを受ける。
呪いのスキルを使う者の精神は異常な者が多いと聞く。
呪いのスキルを使えるようになるには、呪われてでも力が欲しいと望む渇望が必要で、そのような者はロクな生き方をしてこない為だ。
呪いが蓄積すれば死に至ると言われている。
「ハスハ、魚も焼けた。たくさん食べて元気になってくれ」
私は3本ある魚を全部食べた。
魚を食べたのはいつ以来だろう?
おいしい。
私はおなかが膨れるまで食べ続けた。
「ハスハ、今から向かうのは俺の住処だ」
◇
こうしてタケルと私は、数日旅をしてタケルの住処に向かうが、私が眠くなるとタケルが私をおんぶして移動した。
「集落が見えるわ」
「ここが俺達の住処だ」
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