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表の顔裏の顔

「また依頼? ちょっと間隔が短いんじゃないかしら」


 フィナシェは封筒を受け取ると、疑問を口にしていた。少し前にも依頼を受けて解決したばかりだった。


「さあな。こちらの仕事は依頼の手紙を届けるだけだからな。詳しいことはわからんよ」

「それもそうね。でも、ある程度均等に回さないと、不満に思う人もいるんじゃないかしら」

「それを考えるのは上の仕事だ。俺のような下っ端じゃない。あえて理由を上げるのなら、近場かつ急を要する案件ではないか、ということくらいだな」

「まあ、考えられるのはそれくらいね。引き留めて悪かったわね」

「構わんよ。これも仕事のうちだからな」


 神父はそう言うと、フィナシェに背を向けた。


「簡単に死んでくれるなよ。俺としても、顔見知りが死ぬのは気分が良いものではない」

「それが難しいことは、あなたも良く分かっているとは思うけど」

「それでも、な」

「善処するわ」


 フィナシェもまた、神父に背を向けた。二人はほぼ同時に歩き出す。

 フィナシェはその足で、司祭がいる部屋へと向かった。

 そして、司祭の部屋の前で足を止めた。扉を軽くノックする。


「フィナシェかしら、入りなさい」


 フィナシェが来るのをわかっていたのか、司祭はそう言った。


「失礼します」

「あなたも随分と慕われるようになったものね。ここを出ていく子は、ほとんどあなたに挨拶してから出ていくのだから」


 入ってきたフィナシェを見るなり、司祭は微笑みながら言った。


「それは、素直に喜ぶべきこと、なのでしょうね」

「ここの子は、みんなあなたのことを姉ちゃんと呼ぶわね。あなたも昔のように、私のことをソフィア姉さん、と呼んでも構わないけど」


 ソフィアはからかうように言う。


「少し前ならともかく、司祭になった人にそんな呼び方はできませんから」


 フィナシェがこの教会に来た時、ソフィアはまだ一介のシスターだった。それから短い期間で司祭まで上り詰めるのだから、ソフィアの手腕は相当なものだった。


「寂しいことを言うのね。二人きりの時くらいはいいと思うわよ」

「誰が聞いているのか、わかりませんから」

「それもそうね。それで、用件は例の件かしら」


 そこで、ソフィアの表情が真剣なものへと変わっていた。


「はい」


 フィナシェもまた真剣な顔で、受け取った封筒をソフィアに見せた。


「内容は?」

「これから確認します」


 フィナシェは封筒を開いて中身を確認する。


「場所は、隣村のようですね。悪魔の数は確認できているのは一体。その上で、至急、付け加えられています」


 その内容を読み上げて、神父の言ったことがほぼ当たっていたな、とフィナシェは思っていた。


「至急ね。なら、すぐに出立した方がいいんじゃない。準備はできているの」

「今すぐ、というわけにはいきませんね。明日か明後日くらいには出立できるかと思います」

「そう。なら、今日は教会の仕事はいいわ。準備を急ぎなさい」

「はい、ありがとうございます」


 フィナシェは一礼すると、ソフィアの部屋を出た。

 そのまま自分の部屋に向かうと、先程まで手入れをしていたナイフを机の引き出しから取り出した。


「今日ちょっと遅くまでやれば、明日出れるかしらね」


 五年前にユヴァハに助けられてから、フィナシェはずっと指導を受けていた。それから悪魔退治になれたのが二年前の事。そういった経緯もあって、フィナシェは表向きはこの教会のシスターとして働き、裏では教会直属の悪魔退治として活動するようになっていた。

 このナイフは、フィナシェが悪魔退治として戦うための武器だった。最初はユヴァハと同じようにレイピアを使っていたのだが、フィナシェの体格ではそれを使いこなすことが難しかった。もっと軽い武器となると、それこそナイフくらいしかなかった。

 もっと、体が大きければ違ったのかな。お父さんもお母さんも、そこまで大きくはなかったけど、こんなに小さくはなかったよね。

 フィナシェはふとそんなことを考える。

 先程少年に背丈のことを言われて、八つ当たり気味に言ってしまったのも自分の体格の小ささを気にしていたからだった。


「あんな惨劇を目の当たりにしたんだ。もしかしたら、精神的ショックで体の成長が阻害されたのかもしれないな」


 成長期を過ぎても一般的な女性の体格に届かなかったフィナシェに、ユヴァハはそう言っていた。


「その体つきだと、悪魔退治になるのは難しいかもしれない。いくら他の人にはない能力があるとはいえ、それだけでやれるほど甘い世界ではないからな」


 そして、そんなことも言っていた。

 それでもフィナシェは、自分にできることとできないことを考えて、自分の能力を最大限に生かすにはどうしたらいいのか、色々と試行錯誤した上でどうにか悪魔退治になることができた。


「ないものねだりをしても、仕方ないわね」


 フィナシェは小さく息を吐くと、一本のナイフを手に取った。


「浄化の力よ、このナイフに宿れ」


 フィナシェがそう呟くと、一瞬ナイフが淡く光った。


「あと九本、ちょっと時間がかかりそうね」


 フィナシェの作業は夜遅くまで続いた。


「よく眠れて……は、いなさそうね。そんな状態で大丈夫かしら」


 翌日、出発する旨を伝えたフィナシェの顔を見て、ソフィアは心配そうに言う。


「思ったよりも、準備に時間がかかりましたので。それに、いつでも万全な状態で戦えるわけではありません。そういった時の立ち回りも、悪魔退治としては必要ですから」

「馬車を用意できれば良いのだけど、あなたにもこの教会にもそんなお金はないわよね」

「わたしの戦い方が、相当金食い虫な部分もありますから」


 そこで、フィナシェは苦笑いしてしまう。フィナシェは毎回大量のナイフを消費するから、悪魔退治としての報酬の三割から四割くらいがそれだけで吹き飛んでしまう。その上で、残った報酬に半分以上を教会に入れているからほとんど手元に残らなかった。


「だから、悪魔退治としての報酬はあなたの懐に入れなさい、といつも言っているのに」

「いえ、身寄りがなくなったわたしを育ててくれた教会に、少しでも恩返しがしたいので。それに、この教会も孤児が増えて経済的に大変でしょう」

「それを言われると、否定できないのが辛いところね」


 フィナシェにそう言われて、ソフィアは苦い顔をする。何かしらの職を見つけて教会を巣立っていく孤児がいる一方で、同じくらいの孤児がこの教会に入ってきているの事実だった。


「そういうことですので。では、行ってきます」

「ええ、今回もあなたの無事を祈っているわ」


 ソフィアに見送られて、フィナシェは隣村へと向かって歩き出した。

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