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懇談

「思ったよりも、深く眠っていたみたいね」


 朝の陽射しが目に入って、フィナシェは目を覚ました。普段なら朝陽が差す前に目を覚ますことが多いのだが、それまで起きれなかったことを鑑みるに、かなり疲労していたようだ。

 ボロボロになった修道服を折り畳むと、昨晩用意された服に着替える。あり合わせの服だったにも関わらず、服の大きさが自分の体と合っていたことに驚かされた。


「あの元執事、大した眼力ね」


 フィナシェがそんなことを呟いていると、部屋のドアがノックされた。


「フィナシェ様、お目覚めですか」


 自分よりも年下のフィナシェに対しても丁寧に接する辺り、ガルアの執事振りは徹底しているといえた。


「わたしのような小娘に、そこまで丁寧に接しなくてもいいわよ」


 必要以上に丁寧にされることに慣れていないこともあって、フィナシェはそう言った。


「いえ、サニア様を助けて頂いた相手に、そんな失礼はできません」

「はぁ、わかったわ」


 ガルアが全く引かない様子だったので、フィナシェは小さく息を吐いた。


「それで、何か用かしら」

「サニア様が、昨日のお礼をしたいと仰せです」

「わかったわ」


 フィナシェは折り畳んだ修道服を抱えると、ドアを開けた。すると、ガルアが恭しく一礼する。


「この服だけど、処分してもらえないかしら。もうまともに着れないし、下手に証拠になっても厄介だから」


 フィナシェは修道服の処分をガルアに依頼する。ボロボロになってまともに着れる状態ではなかったし、迂闊に残して足跡を掴まれるのは避けたかった。


「承知しました」


 ガルアはおおよそを察したのか、特に何も言わずに修道服を受け取った。


「では、ご案内致します」


 ガルアに案内されて大広間に通される。既にサニアを始めとした主要な面々は揃っていたようで、その場の全員の視線がフィナシェに集中した。


「フィナシェ、よく眠れた?」


 昨日とは打って変わって穏やかな表情で、サニアがそう聞いてきた。


「お陰様で」

「空いている席にかけて頂戴」


 サニアに座るよう促されて、フィナシェは空いている席に座った。


「こんなに良い服を用意してもらって、ありがたいと思っているわ」


 フィナシェは軽く胸元を撫でて、サニアに礼を述べた。


「ガルアの目利きが良かったのよ」


 それを受けて、サニアはガルアの方に目線をやった。


「いえ、たまたま良い大きさの服があったものですから」


 ガルアは謙遜するように一礼する。


「今朝食の準備をさせているけど、しばらく時間がかかりそうね。それまでの間、あなたの素性を聞かせてもらえるかしら」


 サニアがフィナシェの方を真っ直ぐに見据えた。


「昨日も話したけど、わたしは悪魔退治よ」

「この街に悪魔がいるっている話は、聞いたことがないわ」


 フィナシェの答えに、サニアは納得できていないようだった。だが、フィナシェが悪魔退治だということは疑ってはいなかった。


「……どこまで話していいものかしらね」


 フィナシェは顎に手を当てて考え込んだ。今回の任務はかなり特殊性が高いもので、迂闊に他人に漏らしていいものではない。だが、ここまで巻き込んでしまった以上、全てを隠し通すのは無理だろう。


「なら、こちらから聞くから、答えられることにだけ答えてくれるかしら」


 フィナシェが悩んでいるのを見て、サニアがそう提案する。特に断る理由もなかったので、フィナシェは小さく頷いた。


「まず、あなたはこの街の人間じゃないわね。どこから来たのかしら」

「ヴァンドア……いえ、あなたに隠しても仕方ないわね。ノリマから来たわ」


 フィナシェは便宜上ヴァンドアから来たことになっているが、それをサニア達に隠しても意味がないと思い直して事実を話した。


「ノリマ、ね。随分遠くから来たのね。最初ヴァンドアって言いかけたのは何故かしら」

「仕事の都合上、ヴァンドアから来たことにしていたの。でも、あなた達にそれを隠しても仕方ないから」

「なるほど、そういうことね。かなり極秘性の高い任務で来た、ということかしら」

「ええ」


 サニアに聞かれて、フィナシェは頷いた。


「なら、話せるところまで話して……っと、わたしが質問をして、あなたが答えるって話だったわね」


 サニアはそう言いかけて、自分が質問をしてフィナシェがそれに答える、という形にしていたことを思い出した。


「あなたは悪魔退治みたいだけど、この街に悪魔がいるっていう話は聞いたことがないわ。正直、悪魔退治が来る理由が思い当たらないけど」


 そして、自分の疑問を口にする。


「わたしが悪魔退治だってことは、もう疑わないのね」

「さすがに、ね。あなたの体型を見ると、本当に悪魔退治なのか疑わしくなるけど。でも、あなたの実力は間近で見ているわけだしね」


 サニアは小さく首を振った。


「ヴェガが悪魔と関わっている可能性がある、としたらどうかしら」


 さすがに隠し通すのは無理だと思い、フィナシェは自分がこの街に来た理由を説明することにした。

 フィナシェがそう言うと、サニアは驚いたように大きく目を見開いた。ガルアもさすがに驚きを隠せなかったのか、普段の落ち着いた表情が崩れていた。

 他の面々も驚きを隠せなかったのか、ざわつき出していた。


「あくまで可能性、よ。わたしがこの街に来た理由、理解してもらえたかしら」


 フィナシェもヴェガが完全に悪魔と繋がっている、とは確信できていなかった。だが、状況からしてその可能性は高いといえた。


「仮にそうだとしたら、ヴェガが急に反旗を翻したのも理解できなくはないわ。特に準備をしていたようにも見えなかったのに、手際が鮮やか過ぎたのも納得できる」


 サニアは一つ一つ、確認するように口にした。


「確かに、そうですね。ヴェガはそこまで頭が回るような男ではありませんでした。綿密に計画を立てて実行するような人間でもありませんし。一応、筋が通る話ではありますね」


 それを受けて、ガルアも納得するように頷く。


「しかし、ヴェガの奴が悪魔と繋がっているとなると、当主の座から引きずり落ろすのは難しいのでは」

「今後の計画も大きく練り直す必要があるのでは」


 周囲の人間が口々にそう言いだした。


「朝食の準備ができました」


 騒がしくなったところで、数人が食事を持ってやってくる。


「丁度いいわね。食事をして、少し落ち着きましょうか」

「そうね」


 このまま騒ぎが大きくなれば、収集がつきそうになかったので、フィナシェもそれに同意する。


「思ったよりも、上質な物ね。わざわざ気を使ってくれたのかしら」


 出された料理が思っていたよりも上質だったこともあり、フィナシェはそう言った。


「昨晩のお礼も兼ねていますので、お気になさらず」


 フィナシェが遠慮すると思ったのか、ガルアが遠慮しないように言う。


「そう、なら遠慮しないことにするわ」


 こういう時に、下手に遠慮してもあまりいいことはない。フィナシェはサニア達の行為を素直に受け入れることにした。


「それで、今後はどうしたらいいと思うかしら」


 食事を口にしながら、サニアが今後のことをどうするかと聞いてきた。


「とりあえず、わたしの協力者と連絡を取りましょう。もっとも、教会もヴェガと繋がっている可能性があるから、わたしは教会に戻れないわ」


 フィナシェはどうにかしてアサラと連絡が取れないかと考えていた。だが、教会がヴェガと繋がっている可能性がある以上、迂闊に教会にも戻れなかった。


「その協力者は、どんな人なのかしら」

「他の人よりもかなり背が高くて、銀髪の神父様よ」


 サニアに聞かれて、フィナシェはアサラの特徴を簡単に説明する。


「なら、わたしの方でその方に連絡を取るようにするわ」

「これを渡せば、わたしの関係者だってわかってくれると思うわ」


 フィナシェは懐から依頼の封筒を取り出した。本来なら外部の人間に見せていいものではないが、今は非常事態だからそうも言っていられなかった。

 ボロボロになった修道服の懐に入れていたこともあって封筒もかなり痛んでいたが、それでもフィナシェの関係者だと証明するには十分だろう。


「いいの? それって本当なら……」

「構わないわ。この際そんなことは言っていられないし」


 サニアが何を言いたいのかを察して、フィナシェは首を振った。


「では、私の方で手配致します」

「お願いするわ」


 ガルアがフィナシェの方に歩み寄ってきたので、フィナシェは封筒をガルアに手渡した。


「悪いんだけど、しばらくここで匿ってくれないかしら。さっきも言ったけど、もう教会には戻れないし。幸い、修道服を着ていなければシスターだってばれることもないでしょう。もちろん、わたしにできることは協力するつもりよ」


 そして、今後のことをサニアにお願いする。教会に戻ることができない以上、身を隠す所はここしかなかった。


「わかったわ。わたし達も状況が打開したいし、あなたに協力してもらえるのなら助かるわ」


 サニアはさして迷うこともなく、フィナシェの頼みを受け入れた。


「ありがとう」


 サニアの言葉に嘘偽りがないとわかって、フィナシェは感謝の言葉を口にした。

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