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情報収集

「わからないことが多すぎるわね」


 教会であてがわれた部屋で、フィナシェは考え込んでいた。部屋に来る前に出された夕食は豪華とはまではいかないにしろ、ノリマの教会で普段食べている物よりはずっと良い物だった。

 この部屋も一人で過ごすには少々広く、ノリマでの狭い部屋に慣れていたフィナシェは落ち着かない気分にもなっていた。

 この街の酷すぎる格差には驚かされたが、それと悪魔が裏で関わっていることが関係しているとは思えない。柄の悪い男達に何回も絡まれたことからしても、治安が悪いことも容易に推測できた。


「それに、どうしてわたしが選ばれたのかしらね。ヴァンドアの教会に所属している悪魔退治なら、相当の腕があるでしょうし、一人でも何とかできるような気がするのよね」


 当初から今回の依頼に疑念は抱いていたが、アサラと出会ってその素性を知ったことでますますその疑念は深まっていた。悪魔退治は死亡率の高い仕事ではあるから、二年近く続けて生き残っているフィナシェは中堅くらいの扱いだった。

 ただ、中堅程度の悪魔退治ならいくらでもいるだろうし、その中からわざわざ自分を選ぶ理由がわからない。


「考えていても、仕方ないわね」


 フィナシェは修道服を脱ぐと、ベッドに横になった。予想以上にベッドが柔らかく、これも自分がいた教会の物とは大違いだった。そのまま意識が遠のいていくまで、そう時間はかからなかった。


「あら、おはようございます」


 フィナシェが部屋から出ると、司祭とばったりと出くわした。


「おはようございます」


 フィナシェは頭を下げた。


「それにしても、その若さでヴァンドアの教会で仕事をしているなんて、とても優秀な方のようですね」

「少々、過大評価されているような気もしますが、ありがたいことです」


 司祭の言葉に若干の棘があったが、フィナシェは気付かない振りをして返した。そもそも、ヴァンドアに勤めているわけではないのだが、それを一々説明するのは面倒だった。


「おや、お二人ともおはようございます」


 そこにアサラがひょっこりと顔を出した。


「これは神父様、おはようございます」


 司祭はアサラに向き直った。明らかにフィナシェとは態度が違っている。整った顔立ちのアサラと、小娘のフィナシェでは態度が違うのも仕方ないかもしれないが。


「思ったよりも、良いベッドでしたよ。おかげでよく眠れました」


 アサラは皮肉なのか、それとも心底からそう思っているのか、そんなことを言った。


「それは良かったです。そろそろ朝食の時間になりますので」

「はい、ありがとうございます。行きましょうか、フィナシェさん」

「はい」


 食堂へと向かうと、やはりノリマよりも上等な朝食が用意されていた。

 これって、ノリマが酷くてこれが普通なのか、それともこっちが豪華なのかわからないわね。

 フィナシェは白いパンを口にしながら、そんなことを考えていた。

 ノリマは孤児院も兼ねているから、その分やりくりが厳しくなっていた。白いパンなんか、それこと何かしらの行事でもない限り口にはできなかった。


「私は用事がありますので、今日はしばらく空けますが構いませんか」


 アサラは食事を終えると、司祭に向かってそう言った。


「ええ、特にこちらでもお願いしたいような仕事もありませんので」

「そうですか、なら、彼女も連れて行っても構いませんか」

「はい」


 アサラが勝手に話を進めるが、状況がわからないフィナシェは流れに任せるままだった。


「それでは、行きましょうか」


 アサラは立ち上がると、フィナシェについてくるように目で促した。

 フィナシェは慌てて立ち上がった。


「今日は別行動しましょう。私は用事がありますので、あなたはこの街で怪しいことがないか調べてみてください」


 教会の外に出ると、アサラはそう言った。


「わたしが独自で、ですか」


 フィナシェはアサラに懐疑的な目を向けていた。自分に何ができるとも思えなかったし、そもそも何を調べればいいかわからなかった。


「まあ、できる範囲で構いませんから。では、お願いしますね」


 アサラはそれだけ言うと、足早に先に行ってしまった。

 一人残されたフィナシェは、どうしたものかと思案する。


「まあ、色々と見回ってみるかしら」


 フィナシェは商店街へと足を運んだ。仕事で他の街に行く度に、こういった商店街を訪れるようにしていた。見聞を広める目的もあったし、何か悪魔退治の役に立つ物はないかと調べていた。

 商店街を見る限りでは活気に溢れていて、栄えているようにも見える。だが、路地裏に目をやればボロボロの身なりの子供が座り込んでいたりして、改めて酷い格差を見せつけられた。


「あら、鍛冶屋もあるのね」


 フィナシェは鍛冶屋の前で足を止めた。

 何気なく懐のナイフに触れる。もちろん自分用に作られた物ではなく、量産品だから手に馴染むということもない。


「ちょっと、見てみようかしら」


 フィナシェは鍛冶屋の扉を開けた。ノリマの鍛冶屋に比べるとかなり規模が大きく、品揃えも豊富だった。

 日用品から始まって、武器らしき物まで大量に並んでいる。武器の種類も豊富で、ここまで需要があるとは思えなかった。

 何気なく武器を見渡して、ナイフの前で目が留まった。その内の一本を手に取ってみる。普段使っている物よりも幾らか軽く、取り回しも良さそうな感じだった。

 値段を見ると、ノリマの物より五割増しくらいの価格だった。

 さすがにこれを使い捨てにするのは気が引けると思いつつ、フィナシェはナイフを元に戻した。


「シスター、ナイフに興味があるのかい」


 そんなフィナシェに、店主が声をかけてきた。


「え、ええ」


 不意に声をかけられて、フィナシェは振り返った。


「シスターがナイフを欲しがるなんて、どういう風の吹き回しだい」

「護身用、といったところかしら」


 興味深々、といった店主にフィナシェはそう答える。


「ああ、この街も物騒だからね。護身用の武器も欲しくなるか」

「わたしは外から来たんだけど、そんなに物騒なのかしら」

「シスターは外から来たのかい。この街は物騒だからな、気を付けた方がいいぜ」


 店主が忠告するように言う。街の人間がわざわざ言うくらいだから、相当に物騒なのだろう。


「そうなの、どうしてそんなに物騒なのかしら」


 フィナシェはさりげなく聞いてみた。


「前まではそんなんでもなかったけどな。ここ最近、柄の悪い連中が集まるようになってきてな。外の街から、変な奴が来るようにもなってきたし、どうなってるんだか」

「そう、ありがとう」

「なんだい、買っていかないのかい」

「物は良いんだけど、値段がね。わたしには、ちょっと手が届かないわ」

「そりゃ残念だ」

「また、機会があったらお邪魔するわ」


 フィナシェは軽く会釈すると、鍛冶屋を後にした。

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